「『桃鉄』のデータの中には、生の確率の数字が、そのまま入っている」(桝田氏)
桝田氏:
最初に「さくまさんがもしまた倒れたら、僕が代わりにやる」って言ったじゃん。でも実際にやってみて「これはムリだ」と思ったよ(笑)。
システム周りはまだ、さくまさんのクセとか趣味とかをコピーできるんだけど、文章だけは絶対にムリ。
『桃鉄』を1人で遊んでいると、さくまさんの話芸で引っ張っていってる部分があるんだよね。秘書が自分でボケて自分でツッコんで、1人で漫談をやってるから。さくま劇場というか、あの芸風はとてもマネできないよ。
さくま氏:
文章だけじゃなくて、音の指定も、1つ1つの数値もほとんど全部、僕が書いてるからね。
桝田氏:
『桃鉄』のデータを見たら、おもしろいよ。さくまさんの性格がよくわかるから。妙に細かく指定してあるところと、すっげぇおおざっぱなところがあるのよ(笑)。興味の持ち方が違うんだね。
――例えばどういうところでしょうか?
桝田氏:
カードをもらえる確率が、意外に細かく切ってあって。もらえるカードの種類が年数によって、微妙に細かく変えてあったりするんだ。そうかと思うと、とても重要であるはずの目的地の決め方は、“この7駅の中のどれか1つランダム”とか、すんげぇおおざっぱなんだもん(笑)。
――えっ!? 目的地を決めるロジックがそれなんですか? そこがキモぐらいに思っていたんですけど。
さくま氏:
7個じゃなくて16個だよ(笑)。何かを意図的に誘導するのって、あんまり好きじゃないんですよ。なるべくランダムにしたいの。
でもそれだから、自分で遊んでもおもしろいんですよ。RPGだと、どこのダンジョンにどのアイテムが置いてあるとか、全部自分で決めなきゃいけないじゃないですか。だから自分で遊ぶとつまんないんですよね。
桝田氏:
さくまさんが細かいのは、あることが人間のプレイヤーに起きる確率と、コンピュータのプレイヤーに起きる確率を、微妙に変えてあるのよ。いいことはプレイヤーに起きやすくて、悪いことはコンピュータに起きやすい。その違いは本当に微妙なものなんだけど。細かいことやってるなぁと思ったよ。
――そういった確率のさじ加減はどうやって決めているんですか?
さくま氏:
野球ですね。カードの出る確率が3割というと、そんなに出ないように思うかもしれないですけど、打率3割って言われたら、すごくよく打つバッターですよね。
桝田氏:
さくまさんは野球が大好きだから、確率の数字が現実に起こるのはどれぐらいなのか、野球を通じた感覚として持っているんだよね。
しかもそういう確率が、『桃鉄』には生のデータで入っていることが多いんだよ。僕だったら、後で調整することを前提に変数だらけの計算式にするようなところでも、これは1/128、これは3/64とかいった具合に、生の確率の数字が入っているんだ。
そんなふうに1個ずつ指定してあるということは、さくまさんはそれを全部覚えてるってことだからね。
――そうやって1個ずつ指定する数値というのは、全部で何個ぐらいあるんですか?
桝田氏:
めまいがするような数だよ。まず物件の値段と収益率が、物件の数だけあるでしょ。それからカードの出現率に、そのカードが失敗するしないの確率に……ホントにとんでもない数だよ。
さくま氏:
しかもキャラクターごとに、数字も変わりますから。
――そういう生の確率が積み重なった全体のバランス感というのは、さくまさんしか把握してないものですか?
桝田氏:
そのとおり。
さくま氏:
テストプレイの結果を見て、また数字を変えたりはしますけどね。
桝田氏:
開発の最後のほうで、さくまさんから「収益率が全体的に高すぎるから、1パーセントずつ削ったよ」って言われてさ、“1パーセントってどういうことか、この人ホントにわかってんのか!”って思いながらもう1回、100年プレイしたよ(笑)。久しぶりだよ、“かんべんしてくれ”って思ったのは(笑)。
さくま氏:
桝田くんなら平気だと思ったのに(笑)。
――そういう生の数値の集合体が、いわば『桃鉄』の秘伝のタレになるわけですか。
桝田氏:
それはさくまさんの頭の中にしかないものだけどね。だって、この数値が1パーセント変わると全体の結果がどうなるかってことをね、普通の人はイメージできないもの。
僕だったらテストプレイの様子を見て、市場にどれだけ資金が流通してるだとか、1位と4位の差はどれぐらいだとか、そういう要素を見ながらカードの出し入れとかを調節して、わりと接戦になるバランスを、全体を通して汎用的に使える計算式を作っていくんだけど。
さくまさんはとにかくプレイを回数やって、その中での個々の要素のバランスを調節してると思うんだ。だから生の確率の数字なんだよ。
――桝田さんはロジカルに決めていくのに対して、さくまさんは遊んだ時の手触りで決めていくんですね。同じゲームを開発していても、真逆とは言わないまでも、かなりタイプが違うものなんですね。
「Nintendo Switchと『桃鉄』の相性は、かなりいいと思うよ」(桝田氏)
――そろそろインタビューの時間も終わりに近づいてきたので、長い間『桃鉄』を楽しみに待っていたみなさんに、メッセージをお願いします。
さくま氏:
仲良く遊んでね。
桝田氏:
お釈迦様の言葉みたいだね(笑)。
――『桃鉄』で対戦した経験のある人にとっては、思わず笑っちゃうコメントですよね(笑)。
桝田氏:
コンピュータにどうしても勝てないっていう人は、7の倍数を意識するといいよ。
――マジメな攻略ですか!?
桝田氏:
一般論としてのサイコロの攻略だよ。普通は「目的地に行け」って言われたら、1マスでも近くに行きたくなるんだけど、そこであえて7マス手前とか、14マス手前で止まっておくの。
そうすると、サイコロを2個振るといちばん出る確率が多いのは7だから、その次に入りやすい確率が上がるよ、っていう話。だから、とにかく近くに行けばいいってもんじゃないよってこと。
――なるほど。
桝田氏:
それとね、今回このプロジェクトに呼んでもらって思ったのは、さくまさんの名前がついてる以上は“おもしろい”じゃダメなんだよ。“めちゃくちゃおもしろい”じゃなきゃ、僕の中の満足度が足りないんだ。
僕の名前が冠についてるゲームは“そこそこおもしろい”でわりと満足しちゃうんだけど(笑)、さくまさんの名前がついてる以上は“めちゃくちゃおもしろい”じゃなきゃいけないんだから。
――ハードルを上げますね。
桝田氏:
だって、さくまさんのゲームだから。
さくま氏:
僕としては次の『桃鉄』も、桝田くんにやってもらわないといけないですから。本当はもう桝田くんに全部任せたかったんですけど、「1人でやるのはイヤだ」って、本人に言われちゃったので。
桝田氏:
だから、さくまさんにしか書けない、あの味のあるメッセージは誰にも書けないんだってば。
さくま氏:
でも、次も手伝ってくれるとは、言ってくれたから。
――なんだかすでに次の話が出ていますけど……。今回はタイトルに『2017』とついていますけど、ということは『2018』も期待していいんですか?
桝田氏:
今回の評判次第だとは思うけどね。
――『桃鉄』といえば、毎年年末の定番タイトルだったわけですから、こうして復活したからには、今後も続いていってほしいですよね。
『桃鉄』のタイトルに年号がついているのは、今回のほかに『2010』【※】だけですよね?
桝田氏:
普通はつけないよね(笑)。
さくま氏:
『桃鉄』は毎年ちゃんと出たけど、ほかのゲームは遅れたりするからね。『HAPPY』【※】ってあったでしょ? あれは『HAPPY END』のつもりだったんですよ。その時はいろいろあって、もう『桃鉄』を止めるつもりで、そのタイトルをつけたの。だから今までにも、けっこう何度も止めようと思ってるんですよ。
※『HAPPY』
正式タイトルは『桃太郎電鉄HAPPY』。1996年12月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売された。
桝田氏:
そういえば、「Nintendo Switchで『桃鉄』は出さないんですか?」って質問しなくていいの?
――えっ!?……実際のところ、どうなんですか?
さくま氏:
じつは任天堂さんからは、「こういうハードを作っています」という説明を受けてはいたんです。でもその時は、ただ口で説明されただけだったので、このあいだの正式発表を見るまでは、ちっともわかんなかったんですよ(笑)。
桝田氏:
あのハードと『桃鉄』の相性は、かなりいいと思うよ。
――たしかに、TVの大画面を囲んで遊ぶこともできるし、外に持ち出して、画面を見ながらみんなで遊ぶこともできるので、『桃鉄』にはピッタリですよね。
さくま氏:
桝田くんが作りたがってるかどうかじゃないかな?
――……では、Nintendo Switchで『桃鉄』が出るかどうかは、桝田さんにかかっているということですか?
桝田氏:
あのハードと『桃鉄』は相性がいいから、絶対にやったほうがいいよね、って言ってるだけだよ、最近ほらプロデュース思考なもんだから(笑)。
――わかりました。それでは『桃鉄2017』を遊びながら、期待して待っていたいと思います。本日はありがとうございました。
今回お二人にお話を聞いてみて、やはり『桃鉄』というのは唯一無二のゲームで、もはや『桃鉄』というジャンルになっているんだなという気持ちを強くした。
「“『桃鉄』みたい”とか、“『桃鉄』じゃあるまいし”とか、『桃鉄』という言葉はもはや、日本語の形容詞の1つとして定着してるよね」と、桝田氏はそう語った。たしかに、『桃鉄』は単なるゲームの枠を超えて、すでに日本の文化の一部となっていると言ってもいいかもしれない。
全国の地名や名産品など、『桃鉄』でたくさんの知識を得たユーザーも多いだろう。新作『たちあがれ日本!!』をプレイすることで、被災地の復興についても考える瞬間があるかもしれない。『桃鉄』には“楽しさ”だけではなく、多くの人たちにいろんなことを伝えられるパワーがある。
であれば、やはり今後も新作が出続けていくことはゲーム業界的にも意義があることだと思う。取材時には、その行く末は桝田氏次第となっていたが、そのハードの特性がとても『桃鉄』に向いているNintendo Switchに新作が出るとしたら、それはとてもワクワクすることだ。なんにせよ、さくま氏自身も「新たな『桃鉄』の幕開け」を宣言しているのだから。
(C)さくまあきら (C)Konami Digital Entertainment (C)土居孝幸 (C)Valhalla Game Studios Developed by Valhalla Game Studios
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