よく知っている場所だ。
朽ち果てて久しい不気味な洋館でもなければ、怪しげな噂のつきまとう山間の廃病院でもない。
デパートの従業員通路のようなまっすぐな通路、光源としては少し心もとないネオン灯、つけっぱなしのテレビ、妙に──本当に妙に──ほの暗い階段の踊り場。なんとなく見覚えがあり、そしてそれゆえに小さな違和感が拭えない場所。
そうしたよく知っているはずの場所の「怖さ」を演出した、いわゆる「リミナルスペース」あるいは「バックルーム」的ジャンルのホラーゲームの新作『サブリミナル(Subliminal)』が先日リリースされた。

本作の舞台は、夢とも現実ともつかない不可思議な“子供の遊び場”。ウォータースライダーやプレイスペースなど、どこか懐かしさも漂う一方で、人の気配の感じられない空間の無機質さは、そこをさまようプレイヤーを常に緊張させつづける。
ドバっと一気に襲いくる悲鳴ではなく、じわじわ染み込んでくるようないや〜な脂汗が続く。それが、リミナルホラーの真骨頂だと筆者は感じている。そして本作はそんな「緩急」の付け方が見事な仕上がりなのだ。
出るぞ、出るぞ──と見せかけて、なかなか出ない。コップにめいっぱい水を入れると生まれる「表面張力」のように、いかにも出るぞ──!な雰囲気だけをギリギリまで引き伸ばしながら、こぼれそうでこぼれない。そんな、緊張感のせめぎ合いがたまらない『サブリミナル』の魅力をお届けする。

※この記事は『Subliminal』の魅力をもっと知ってもらいたいInfini Funさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
ちょっとした違和感の積み重ねが、こぼれそうでこぼれない緊張感を保ち続ける

本作『サブリミナル』は、夢とも現実ともつかない世界をウロつきながら外部への脱出を目指す、一人称視点のホラーゲームだ。
舞台となるのは、屋内ウォーターパークや子供向けのプレイルーム、地下室など……。郷愁と不気味さが同居するリミナルスペース。それが、超絶美麗なグラフィックでプレイヤーの目の前に〝でーん〟と立ちはだかる。
人の気配が感じられない人工物というのは、妙にうす気味が悪い。どこからか聞こえてくる謎の声に導かれて施設をさまよっていると、否が応でもステージの随所に仕込まれた“違和感”に気付かされることになる。

テレビのコンセントを繋ぐと、現れる赤ちゃんの影。
スイッチを押したらぎょろりと動くオブジェクトの“目”。
幽かな音とともにスーッと開く背後の扉。
ひとつひとつはどれも些細なもので、ぎょっとして叫び声を上げてしまうようなものではない。だけど、本作ではこれを定期的に、しかも、継続してプレイヤーに投げつけてくる。

常に緊張にさらされ、不安が募りまくる。背後に迫る「何か」への恐怖感が、知らぬ間にジェンガのように高く積み上がる。こうしてプレイヤーは、はじめてその不安定なバランスに気がついて、思うのだ。
「何かが起きるかもしれない……」と。
ギリギリの状態で保たれる、脂汗の滲むような緊張感こそが、本作の恐怖の正体だ。
いきなり「バーン!」で
すかさず「ぎゃああああああ」じゃないのが上手いところ。
いうなれば、大量の恐怖をテーブルにドサッと置いていくパーティースタイルじゃなくて、小出しの恐怖でワビサビを演出する「ホラー懐石」みたいなもんだと、筆者は思う。パーティーは心を躍らせる、でも懐石は、心に染みるのだ。

この張り詰めた緊張感を維持するために、本作はUnreal Engine 5を採用して、極限までフォトリアルなグラフィックを追求している。
各ステージは没入感が半端ないレベルで作り込まれている。例えば子ども部屋では、床に散らばる大量のオブジェクトを手に取ることができるし、ベッドの上を飛び跳ねることだってできる。ゲームプレイとは直接関係のない雰囲気作りが、実は超大切な要素なのだ。
パズルは息抜き?いいえ違います。恐怖の始まりです

なんでもない空間の“ちょっとした違和感”が、プレイヤーを安心させてくれない。
「押すなよ!絶対押すなよ!」と言われているような、何かが起こりそうで起こらない緊張状態が、けれど一瞬ほどける瞬間がある。それが本作の謎解き要素、パズルだ。

謎の声に導かれ、リミナル空間をずんずん突き進むプレイヤーの行く手を阻むのがパズルだ。厄介なのは、肝心の“声”の説明が、断片的すぎてまったく足りないってこと。そもそも、筆者は、自分の行く手を阻んでいるのが「パズルだと気づく」のすら、数分かかったくらいだ。
閉まっている扉の前に来るたびに「ピコーン!ミッション1:このパズルを解け」なんて懇切丁寧なアナウンスが流れたりはしない。なんでもない空間の一部として、パズルもまたなんでもない──それでいて脳の認知領域をくすぐるような違和感を漂わせる──モノとして散らばっている。

パズルのバリエーションは超豊富。特定の角度から見た時だけ正解がわかるギミックや、ドアを使ったトリックなど、プレイヤーを飽きさせない。
その中でも、本作ならではの仕掛けが「光」を使ったパズル。本作では、光は照明ではなくプレイヤー自身が手に取って持ち運ぶことができる「物質」として表現されている。そのため、光を持っているときはフラッシュライトとして使うことも可能だ。
天井の照明から光を取り出して別の場所の照明を光らせたり、光の角度を変えることで影に隠された扉や見えない道を発見したり、プレイヤーの知的好奇心をガンガン刺激してくれるユニークなアイデアも数多い。

パズルに取り組んでいる間は恐怖演出も控えめだ。少なくとも謎を問いている間は、妙なことは(そんなに)起こらない。そう聞くと、パズルはホラーにおける緩急の「緩」のようだが、実はこれ、開発陣が仕掛けた巧妙な罠なんじゃないかと、筆者は思う。
なぜなら、プレイヤーはパズルで行き詰まると、自然にヒントを求めてマップを彷徨いはじめることになって、自分から得体の知れない空間の奥底へと潜り込んでいくことになるからだ。
ヒントは隠されていない。ただ、気づかないだけ

パズルがパズルだとわからないように仕込まれているのなら、ヒントもまた、一見、ヒントだと気づかないようにマップに配置されている。それが実に巧妙なのだ──
テレビに映る、ノイズまみれの映像と音声の中から数字を聴き取る。
滑り台の色と、別の場所にあるホワイトボードの数字を組み合わせる。
靴箱にある靴の数と、廊下の色を組み合わせる……。
言われなければ、なかなか気づけ無いような「これってヒントだったの!?」というヒントばかりなのだ。

ポイントは、こうしたヒントは別に隠されているわけではないってこと。むしろ堂々と置いてあるのに「ヒントです」と提示されないから、まるで気がつかないのだ。
そもそもゲームの舞台が「よくある空間」なのだし、説明だって全然されないのだから、何も考えなければするりと見落としてしまう。
見落とさないように注意深く部屋を探索すれば、今度はいや〜な違和感が嫌でも目についてしまうし、むしろ本当になにもない場所にさえ「これって、変……かも?」と疑心暗鬼になる。木を隠すなら森の中、違和感を隠すなら違和感の中。このゲームの開発者は絶対性格が悪い。

3D迷路のような空間を自らの足で登り降りし、あえてライトを点けて裏側を覗き込むなど、能動的に世界を歩き回ることで初めて隠された要素を発見できる。おまけに、マップは広くもなく狭くもない、探索にちょうどいいサイズ感。
ゲームを進めていけば、主人公のトラウマを辿るストーリーも徐々に開示されていく。「ここはどこなのか」「なぜこんなところに?」「声の正体は何者なのか」と謎は尽きない。
探索の過程で壁の隙間を通り抜けると全く別の隠しエリアに繋がっていたり、行動によって複数のエンディングに辿り着いたりと、分岐の豊富さも侮れない。

しかし、こうした能動的な探索を続けることで、積み上がった緊張感はすでに臨界寸前だ。わずかな揺れで表面張力は決壊し、そして遂に、あいつが姿を現す……。
張りつめた緊張の糸をぶった切る謎の怪物「スマイル」

それ──「スマイル」は、なんの前触れもなく突然現れる謎の怪物だ。
子どもの描く落書きのように、大きく裂けた口から牙をのぞかせる巨大なモンスター。いや、リミナルスペースらしく呼ぶなら「エンティティ」が相応しい。
存在理由も、追いかけてくる目的も一切が不明だ。ただ、そこにいて、触れると死ぬ。
おめめはつぶらだし、お口も名前通りの「スマイル」なので、静止画でみるとちょっと可愛いかも? と思うかもしれないが、騙されてはいけない。だってゲーム中では、ギリギリまで緊張感が張り詰めている状態で出てくるのだ。そんなもの怖いに決まっている……!

スマイルはかなり俊敏なうえ、プレイヤーが逃げる迷路自体にも、落とし穴や、見つけにくい通路などがあって、かなり手ごわい。そういう意味でも絶叫は必至だ。
背後から迫り来る足音に肝を冷やしていると、いきなりUターンして前方から襲いかかってくるなど、「ま、待って」と、思わずつぶやいてしまう予測不能ムーブで絶望を押し付けてくる。
これまで緻密に積み上げられてきた不穏さをかなぐり捨て、ジャンプスケアから一気にサバイバルアクションへ畳みかける壮大なカタルシスは、本作最大の見どころだ。心の底から叫びながら、わき目も振らずに逃げましょう。なんといっても、追いつかれた瞬間が「死」なのだ。

じわじわ染み出す恐怖が売りのリミナルホラーにおいて、こうしたジャンプスケア&チェイス要素を敬遠する人がいるかもしれない。でも、筆者は純粋にありだと感じた。
なぜなら、本作最大の脅威は、プレイヤーの恐怖心を煽り続け、育て上げた、「緊張感」そのものだからだ。そして、開発陣は握り続けた手綱を、クライマックスでパッと離してしまうのだ。
それは、タイトルに刻まれていた……

タイトルである『サブリミナル(Subliminal)』という単語を分解すると、このゲームの本質がよく見えてくる。Subは「下に」を表す接頭辞、limenは「境界」を表すラテン語、そしてalは「〜の性質をもつ」という形容詞語尾だ。
それを裏付けるように、探索が進むにつれて空間の安定性が崩壊し、画面が歪む「追憶侵食(サブリミナル・エロージョン)」という演出がプレイヤーの焦燥感を煽りまくってくる。

本作は、パズルの「緩」と命がけの鬼ごっこの「急」、そして、リミナルスペースが作り出す違和感の数々が、匠の技で融合した作品だ。手応えのあるパズルと、キリキリするような心理ホラーを求めるゲーマーに強くおすすめできる。
極上のグラフィックで描かれたリミナルスペースの迷宮で、ぜひこの緊張を味わってみてほしい。
