-大丈夫、あとはご縁があるかどうかよ。
この言葉を聞いて、あなたは何を思いますか。
労いの言葉として安心感を覚える?少し突き放されたような感覚になる?
きっと受け取り方に正解はないのでしょう。私自身この言葉には、ライフイベントごとに様々な感情を抱いてきました。そして紆余曲折を経た今、思うことがあります。
この言葉は時空を超えたプレゼントだったのかもしれない、と。

学生時代。
私は近年稀に見る勤勉な生徒でした。
いきなり自慢話かよと思われた方、すみません。でも本当なのです。平成の二宮金次郎選手権があれば、是非とも立候補させていただきたい。学校や塾にいる時間はもちろん、登下校中も余すことなく勉学に努めておりました。歩きながら英単語帳を必死に読みすぎて、電柱と正面衝突した事もあります。あの時はびっくりしたなぁ。ダメージを負うと星が飛ぶ演出をアニメで時々見かけるけれど、あれは本当です。飛ぶよ、星は。
そんな私にとって大本命の日、つまり大学受験当日。参考書を読む暇なんてほとんど無いだろうに、ギリギリまで勉強しようと鞄にあれこれ詰め込む私を見て、母は言いました。
「大丈夫、あとはご縁があるかどうかよ。」
…ちがう。
咄嗟にそう思いました。
必要なのは学力。一定の学力がある者を見定めるのが試験です。運とか縁とか、そんな不確定なものに左右されては困るんだけど。
努力を続けた私は無事、第1志望の大学に合格しました。
時は流れて、今度は声優事務所の所属オーディションの日。
この時も私は、出来る限りの準備をして本番に臨みました。赤色のド派手なトップスに、下はピチピチのスキニー、頭の中には2週間毎日唱え続けた試験台詞がこびり付いています。準備は万端。
だけど…まだまだ芝居のしの字も分かっていない卵の私です。当日の出来は散々なもので、偶然同じ会場に居合わせた同期の子から、以降数年間はオーディション時のことをいじられました。黒歴史爆誕。頼むからもう忘れさせてくれ…。
ただ、それだけ印象には残ったということでしょうか。結果は合格。調子の良い私は”縁”に対して、華麗な手のひら返しを決めました。
“自分にはご縁がある。きっとこれから、この場所で輝かしい成功を手にするに違いない”

そこから数年後。現在。
声優としての活動は今年で9年目になります。受けたオーディションの数は軽く100…いや、もしかしたら数百を越えるかもしれません。その中で合格の知らせをいただけたのは、片手で数えられる程度。打率でいうと0割1分。私がもし野球選手なら、契約はとっくの昔に解除されているでしょう。
不合格不合格不合格不合格不合格不合格不合格
実力、個性、才能、努力、運。
私に足りていないのはどれなんだろう…?
台本を読み直そうと携帯を開くと、一件の通知がありました。
「緒方さん、この前受けたオーディションですが、今回は残念ながら、不合格だそうです。」
ため息をつきそうになって、慌てて口を閉じます。
何を、どうしたら良かったんだろうか…。
世界で起こっている出来事の多くは、様々な変数のもと成り立っています。バタフライエフェクトという言葉もあるくらいだし、何がどう影響するかは分かりません。合格・不合格も様々な変数の上、出される結果なのでしょう。
明確な答えが分からないまま突き付けられたNO。
それは優しいように見えて、緩やかに私の全てを否定していきます。あれも…これも…自分にはYESと言わせるだけの魅力がないんだ…私の武器って…あれ…私の良いところってどこだっけ…?
そんな時ふと浮かぶ、母の言葉。
-大丈夫、あとはご縁があるかどうかよ。
もしかしてこの言葉は、今の私のために贈られた言葉だったのかもしれません。
“良いとかダメとかそういう話ではなくて、互いが必要であるならば関係性は自ずと生まれるわ”
そんな風に言われている気がしました。
私は、多分…いや全然、ダメじゃない。ご縁がくる、その日まで。
言葉を反芻させながら、空を見上げます。眩しくて目を瞑りそうになるけれど凡人の私に下を向いている暇はないのです。空を見ないと彩雲は見つけられないのだから。
2026年某月。
そんな私のもとに、ご縁がやってきました。
“この”エッセイ連載のご縁です。驚きと嬉しさが込み上げました。何を隠そう、私は文字を書くのが大好きなのです。
その証拠に、幼い頃の将来の夢ランキング第3位はいつも作家でした。1位、2位じゃないんかいと突っ込まれそうですが、成長と共に1位、2位の夢がコロコロと変わる中で第3位だけは不動。執着度で見れば圧倒的一位です。
とにかく表現活動がしたい。声が叶わないのなら、文字で。お芝居が思うようにできない時、私は文章で気持ちを表現してきました。Web連載のブログやFCのコラム。書評。雑誌のインタビュー。自分で脚本を書いて演じるイベントもやりました。まさに手当り次第。そんな活動の一端が編集者の川野さんの目に留まり、この連載に至ります。世の中、何が繋がるかわかりませんね。沢山の種を巻いておいて良かった。
さて、ここまでは過去の私と縁について色々書いてきましたが、今、このエッセイを読んで下さっている”あなた”と出会えたのも、きっと何かのご縁です。私のことは知らないけれど、たまたまこの文章が流れてきたから読んでいるという方も多いんじゃないでしょうか。
きっかけは何だっていい。
私の文章を見つけてくれて、目を通してくれて、ありがとうございます。これからここでエッセイの連載をさせていただきます、声優の緒方佑奈と申します。
毎月一本、私なりに心を込めて皆さんに文章を届けます。
せっかく結ばれたご縁です。私は届けたい。私のこと。家族のこと。私の周りで起きたこと。この業界で曲がりなりにも数年やってきたから、エピソードには困りません。しぶとさも年々増しているような気がするし。思うようにいかなかった私だから分かる感情が、書ける文章が、きっとあると思っています。
声で、言葉で、一人でも多くの人を笑顔にする。それが今の私の夢です。
これを読んでいる”あなた”はどんな気持ちでいるのでしょうか?Happy?Unhappy?
もし何かに悩んだり、挫けそうな気持ちになっているのだとしたら…是非またこの場所に会いに来てくれたら嬉しいです。母のように気の利いた言葉をプレゼント…できるかは分かりませんが、ここには、どうにか上を向いて必死に生きる私がいると思うから。一緒に彩雲を探しましょう。
次回はそうですね…最近私の身に起きたアレについて書きたいけれど…さすがに事務所チェック案件かもしれません。確認しておきます。
ということで、長くなりましたが第1話はここまで。最後まで目を通して下さって、本当にありがとうございました。
…実はこの文章、3回ほどまるっと書き直していて、枕元にこんなメモを置いて寝るほど追い込まれていたのだけれど、頑張って書いてよかったです。
編集:川野優希
制作協力:ハナテンワークス株式会社


