未知との遭遇と聞いて、思い浮かべるものはなんだろうか。やはり宇宙人との出会いだろうか。筆者はそれにくわえて「算数」を推したい。
何を言っているんだと思われるかもしれない。だが、エイリアンからの信号を翻訳するゲーム『The Message from Deep Space』をプレイした筆者は、未知の知性とコミュニケーションを図るロマンを感じると同時に、初めて算数を習ったあの頃を思い出していた。
本作の舞台は、地球に謎の隕石が飛来した1973年だ。隕石は一定の間隔で信号を発しており、どうやら地球外生命体からのものらしい。プレイヤーはその信号を翻訳するチームの一員となり、周波数だけを頼りにエイリアンの正体へ迫っていく。
いざ、ロマン溢れるエイリアンとの交流……と思いきや、そのスタートはエイリアンが”数字”をどう扱うかを知るところからだった。宇宙の彼方からのメッセージが、地道な計算問題からはじまるとは思ってもみなかった。
それでも、ともに翻訳作業にあたるチームメンバーが心強かった。個性豊かな面々が一緒に悩み、ほどよく助け舟を出してくれる。地道な計算問題を投げ出さずに済んだのは、彼らのおかげだ。
今回はそんな本作で、エイリアンの算数に打ちのめされた筆者が、翻訳チームの仲間に助け起こされるまでをお伝えしていく。
突きつけられる文化の違い。8進数ってなんですか?
エイリアンとの交信がスタート。未知の技術や宇宙の新事実を聞きだしていく……はずが、最初はエイリアンの「数字」の扱いかたを理解するところから。しかも、これがひと筋縄ではいかなかった。
本作では、隕石から発せられる信号に正しく応答すると、エイリアン側もこちらの反応を探るように信号の周波数を変えてくる。
初めのうちは、受信した周波数をそのままオウム返しさせるだけだ。つぎは下ひと桁をひとずつ大きくさせ、そのつぎは2、4、6とひとつ飛ばしに並べて続きを答えさせる。私たちが簡単な法則性を理解できるのかを試すような信号が続く。
あまりに簡素なやりとりだが、だからこそ、エイリアンも我々地球人と同じように、慎重にコミュニケーションを図っているのだと感じられる。
こうしたやりとりを通して、翻訳チームは信号を分析し、周波数を私たちが慣れ親しんだ”数字”に変換することに成功する。そして、そこでひとつの事実が明らかになる。
エイリアンはどうやら「8進数」を用いている……!
……なんですかそれは?
翻訳チームの仲間たちが言うには、エイリアンが扱う数字には8と9が存在しないという。1から7まで数えたら、8と9を飛ばして10を数えるのだとか。意味がわからない。指折り数えても頭がこんがらがってしまう。

数字を法則的に並べただけなのに、早速エイリアンとの文化の違いを突きつけられた。まだ十数回のやりとりでこれである。
コミュニケーション確立への道のりは長いが、確実な一歩にワクワクせずにはいられない。
ついに始まる「たし算」に絶望。「4+4」は8ではない
我々が数字を理解できるとわかると、エイリアンとの交信は次のステップに入った。信号のなかに数字以外の要素が追加され、いよいよ”計算”が始まる。そしてここでも筆者の前に立ちはだかったのは「8進数」だった。
受信した信号には、2と3の後に5、5と2の後に7、といった並びが続く。この並びから考えると、どうやら「たし算」らしい。エイリアンは、我々人類に計算ができるのかを確かめようとしているのだ。

あまり人類をナメてもらっては困る。簡単なたし算なんて余裕だ。次の問題は「4+4」。答えはもちろん8!
——不正解!
……わけがわからず手が止まる。みかねたチームメンバーが横から「エイリアンは8進数をつかっていたはずだよ」と教えてくれた。そうだ、8進数には8と9が存在しない。
8進数における「4+4」の答えは10なのだ。
ひと桁のたし算に頭を悩ませたのはいつぶりだろう。直感で出した答えを8進数に変換する作業に苦戦しながら解答を続けると、ふた桁のたし算になったり、ひき算が登場したりする。
だんだんと問題のバリエーションが増えていくこの感じに、小学生の頃、初めて算数を学んでいた日々を思い出してしまう。
それに、知らない記号の意味を理解するという点でも両者はよく似ている。「+」や「-」が何を意味するのかを知る過程と、エイリアンの信号のどれが計算記号なのかを突き止める過程は、やっていることがほとんど同じだ。
幼い頃の筆者にとって、算数とはエイリアンと同じくらい未知の存在だったのかもしれない。
翻訳チームのメンバーが、最高の先生すぎる
たし算のとき、筆者に8進数の存在を思い出させてくれたように、本作にはプレイヤーと協力してエイリアンの言語翻訳にのぞむ個性豊かな仲間たちがいる。セリフしか登場しない彼らだが、筆者にとってはとても大きな心の支えとなってくれた。
彼らは、それぞれの得意分野を活かしてエイリアンの正体に迫る考察を披露し、翻訳を助けるツールを開発してくれる。
さらに、プレイヤーの担当であるはずの翻訳についても、間違えた応答をしたときや、しばらく手が止まっているとヒントを出してくれる。

そしてこのヒントが絶妙にいい。直接答えに繋がる大ヒントではなく、プレイヤーが忘れていそうな要素を思い出させてくれたり、考えかたのポイントを教えてくれたりするだけなのだ。
プレイヤーが自分で考える余地を残してくれるから、正解したときの達成感がきちんと自分のものになる。
くわえて、彼らは最高のモチベーターでもある。たとえば、作中で追加される辞書機能には、信号の周波数ごとに意味を予測してメモを残せるのだが、仲間と同じ予測を書き込むと「それいいね」といった調子で褒めてくれるのだ。
仲間のひとりであるプログラマーは、一見無口で無愛想だが、正解するとPCの画面に紙吹雪が舞う演出を実装してくれたりもする。
このようにプレイヤーを支えてくれる仲間たちに、筆者は懐かしい感覚を覚えずにはいられなかった。考えかたとポイントだけを教え、できたらしっかり褒めてくれる。これはまさに、学校の先生のやりかたではないか。
計算問題が続く序盤、筆者は仲間に囲まれているというより、いい先生たちに囲まれている気分だった。算数が嫌いだった筆者も、彼らが先生だったら楽しく算数を学べていたのかもしれない。
筆者が体験したのは、簡単な計算問題のような交信までだ。本作の目的であるエイリアンとのコミュニケーション確立は、まだまだ遠い。Steamストアページには1000を超える交信が行われることが記載されており、本作の壮大さがうかがえる。
本稿でお伝えしたのは、『The Message from Deep Space』のほんの一部に過ぎない。ぜひともご自身の手で、驚きに満ちたエイリアンとのコミュニケーションに挑んでみていただきたい。




