プランナーはたったふたり。『ダンガンロンパ』の音楽は、なぜ高田氏に託されたのか
小高氏:
高田さんとはじめて一緒に仕事をしたのは2010年に発売された『ダンガンロンパ』ですよね。
じつはこのゲーム、プランナーが僕と菅原さんという方のふたりしかいなかったんです。僕は自分でシナリオのほとんどを書いていて、菅原さんは「ノンストップ議論」などのアクション部分の仕様やバランスの調整をしていました。

そこで「この作品の音楽を誰にやってもらおうか」という話になったときに、もちろん「あのゲームの音楽すごいな」「素敵だな」と思う楽曲はたくさん思い浮かびました。でも、僕がゲームサウンドクリエイターとして名前を知っていたのは、高田さんと目黒将司さん【※】しかいなかったんです。
※目黒将司氏……『ペルソナ』シリーズの音楽などで知られる、アトラスの作曲家。
だから、プロデューサーから「音楽どうするの」と聞かれたときに、「高田さんとか目黒さんしか知らない」と言ったら、「高田くんだったらちょっと知り合いだ」という流れで決まっていきましたね。
一緒にやっていた菅原さんもグラスホッパーのゲームをやっていたので、「それはいいんじゃないか」ということで話を振ったら、ちょうど高田さんもグラスホッパーをやめて、タンゴゲームワークス【※】という会社に入っていたんですよね。
※タンゴゲームワークス
『バイオハザード』の三上真司氏が設立したゲーム開発会社。
『ダンガンロンパ』のプロデューサーは、高田さんがグラスホッパーをやめたのを知っていたから声をかけたという経緯だったと思います。でも、「タンゴにいるから難しいかな」という考えもありました。
高田氏:
そうですね。ただ、タンゴゲームワークスでは「外注を受けてもいい」という契約だったので、フリーで抜けさせてもらえたんですね。
小高氏:
高田さんは当初、この『ダンガンロンパ』というゲームにはどういう印象を持ちましたか。

高田氏:
最初はまだプロトタイプを見せてもらっていなくて、1、2枚の企画書をもらいましたね。普通のストーリーがあるゲームなんだなと思ってました。
それで、僕はファミ通にプレゼンに行った記憶があります。
小高氏:
そのころ、もう『ダンガンロンパ』の音楽は作っていたんですか。
高田氏:
いや、作っていませんでした。だけど、ファミ通にプレゼンに行くときに「どんな人が作っているか」を伝えなきゃいけなかったんです。当時はまだ無名の企画だったので、一応「ちゃんと作ってますよ」と示すための人員として駆り出されました。
小高氏:
そんな詐欺師みたいな感じだったんですね(笑)。
初期に作った曲を振り返る──「悪ふざけで殺したい」オシオキ曲が作品の振り幅を決めた
小高氏:
今回は、作中の曲について実際に曲を流しながらお話しできたらと思っています。まずは『ダンガンロンパ』でいちばん最初に作った曲についてお願いします。
高田氏:
『議論 -MIX-』という曲ですね。最初は「学級裁判」というものがどんなふうに進行するのか、よくわからなかったんです。だから、全体をメドレーのように構成して作ったのが、この曲です。
高田氏:
この曲のように、ノリノリで「学級裁判」をやったらおもしろいんじゃないかと思って作りました。「ノリノリの感じで」みたいな一行ぐらいの発注をいただいて、この曲を出したんですよね。
小高氏:
僕は当時から打ち込みの音楽がすごく好きなんです。大学のときにも、テクノでDJをやったりしていました。
だから、高田さんの音楽の好きなところは、打ち込みサウンドなところなんです。『killer7』などもそうでした。レイブっぽいところや、プロレスの入場曲っぽさもありますよね。だから、この曲を最初に聞いたときは本当にすごくテンションが上がりました。
高田氏:
そうですね。僕はプロレスっぽい曲が、どんなゲームにも合うと思っているんです。グラスホッパーに所属していたときも、そう考えて作っていましたね。
この曲を出した後ぐらいに小高さんからプロットをもらって「これはおもしろいな」と思ったんですよ。

小高氏:
「モノクマ」の曲も最初のほうに作りましたよね。
『ダンガンロンパ』という作品は、シリアスでありながら、悪趣味であったり、ブラックジョークみたいなところがあったりするんです。
だから「どこまでふざけていいか」というさじ加減を決めるうえで「モノクマ」や「オシオキ」の曲は最初のほうに作りました。
残酷なシーンに「どれだけおちょくるような音楽を乗せるか」という基準が定まり、振り幅が決まってきた印象はありますね。
高田氏:
最初に僕が提出した曲は、もっとシリアスな感じでしたよね。
小高氏:
そうですね。でも、ここは逆に「悪ふざけで殺したい」と言って、いまの曲に変えてもらったんです。その代わり、最初に高田さんが作ってくれたシリアスな「オシオキ」の曲は「学級裁判」前のブリーフィングのときにかかる曲になっています。
モノクマのデザインは5分、テーマ曲は20分で作られた。企画のひらめきさえも一瞬だった
小高氏:
作っていた当初、『ダンガンロンパ』は新規オリジナルIPだったので「どういう雰囲気を作りたいか」「どういうところを目指しているのか」をスタッフ間でうまく共有できず、困っていました。僕自身の頭の中では見えてはいたんですけどね。
だから開発チームでは、シナリオを読んではじめて「何を目指しているのか」がわかったという人が多かったです。企画書の段階では「サイコポップ」と書いたりもしたんですが、そもそもサイコポップの意味も伝わりませんでした。
でも、みんなシナリオを読んだとき、2章の「ジェノサイダー翔」という連続殺人鬼が出てくるあたりで「この作品はここまでふざけていいんだ」「これがサイコポップってことなんだ」と、やっとわかってもらえました。
高田氏:
なるほど。モノクマは最初からあのイメージだったんですか。
小高氏:
モノクマは企画書でも「白と黒」というワードをよく使っていたので、キャラクターもモノクロにしたいと考え、キャラクターデザインの小松崎類さんに「半分白で、半分黒のクマで作ってください」とお願いしたんです。
さらに「片方はすごく可愛いクマで、片方はすごく残酷なクマで作って」と言ったら、その5分後に上がってきたのが、今のモノクマなんです。そこからいっさい直してないんです。本当に一瞬でしたね。

高田氏:
でも、そういうずっと残るものって、一瞬で出てくることが多いですよね。
小高氏:
そうですね。じつは『ダンガンロンパ』の企画自体も、その前までは全然違う企画書を考えていました。それは、全然うまくいかなかったんです。
企画を考えているのにうまくいかず、自宅の喫煙所で一服していると、バトルロワイヤルで高校生同士が殺し合う、推理もの、登場人物がみんな「超高校級」といった『ダンガンロンパ』につながる要素が一気に浮かんできたんです。

小高氏:
「これは絶対いける」と思って、それまで半年ぐらいかけていた企画書も捨てて、全部書き直しました。それで急いで次の日、上司に見せに行きましたね。
ただ、僕も小松崎さんも菅原さんも、当時はこれが売れるとは思っていなかったんです。
だから、本当に「10年後も残るカルトゲームを作ろう」みたいな気持ちでした。作った時点で俺たちの勝ちという感じで、楽しんで作っていましたね。
それで、高田さんにとっての『ダンガンロンパ』の思い出の曲があるんですよね。
高田氏:
『ダンガンロンパ』のテーマ曲ですね。この曲は、じつは締め切り当日まで1小節もできていなかったんです。
最初に決めていたのは、無名のIPだった『ダンガンロンパ』がみんなに覚えてもらえるように「ダンガンロンパ」という声を入れよう、ということだけでした。それだけで作り始めて、20分ぐらいで作りましたね。
高田氏:
「ダンガンロンパ」という声で自己紹介をするという感じですね。メロディーは何も考えていなくて、まずオケの部分だけを作って、録音するときに弾き始めて生まれたものなんです。
小高氏:
このメロディーは、すごく高田さんっぽいなと当時から思っていました。このテーマ曲を作ってほしいとお願いしたとき、僕の中では『ノーモア★ヒーローズ』【※】っぽい曲が上がってくるといいな、と思っていたんです。
※『ノーモア★ヒーローズ』……2007年に発売された、グラスホッパー・マニファクチュア開発のアクションゲーム。音楽は高田氏が担当。
ほの暗いマイナー進行の旋律がリピートされる、少し王道から外れた曲がくるといいなと思っていたら、まさにそういう曲が上がってきたんです。
高田氏:
まさかこの20分で作った『DANGANRONPA』が、16年経った今も流れて「いいな」と思ってもらえるとは、夢にも思っていなかったです。
小高氏:
そうですね。その後、シリーズ作品を3つ作って、外伝を1個作って、アニメを2つ作って、舞台もやりました。すごく濃密な時間でしたね。

高田氏:
IPとしては、近年稀に見る広がり方をしていますよね。海外にもすごく広がってくれました。
小高氏:
でも、最初からいきなり売れたわけじゃないんです。発売週の売り上げは3〜4万本ぐらいで、スパイク的にも「そこまで売れなかったね」という感じだったんです。
でも、そこから半年以上かけて、じわじわ売れていきました。だから、その後に出した廉価版のほうが、いちばん最初に出した『ダンガンロンパ』より売れるという珍しい現象が起きたんです。アニメ化が決まってからは、さらに世界中に広まってくれましたね。
本当に、『ダンガンロンパ』がワールドワイドで展開するゲームになるとは思ってもいませんでした。

