社員ひとりにつき1億円の「馬鹿な投資」──初の自社IP『ハンドレッドライン』が「100エンド」になった理由
高田氏:
そして、会社としていちばん無茶をしたタイトルが──。
小高氏:
『HUNDRED LINE -最終防衛学園-(ハンドレッドライン)』ですね。

この作品に至るまでの『レインコード』も『ダンガンロンパ』も、IP、つまり「原作権」はパブリッシャーが持っています。だから、たとえば『ダンガンロンパ』が今いくら売れても、僕らに印税が入ってくるわけではないんです。
僕は元からそういうスタイルでスタートしているので「自由に好きなものが作れればそれでいいな」と思っていたんです。でも、一回ぐらいは、やっぱりIPを持ってみたいという思いもありました。
そういったことを考えているタイミングで、ちょうどTooKyo Gamesが出資を受けたんです。そこで、出資金を全部このゲームにつぎ込みました。そのときは「だいたい5億円ぐらいで作ろうね」とスタートしましたね。
でもゲームってやっぱり予算がどんどん膨らんで、スケジュールも後ろに倒れていくんです。そうすると、さらにお金を追加しなくちゃいけなくなる。僕らが最終的に出した金額は、その倍ぐらいになります。
僕らは10人ぐらいしかいない会社なんですよ。だから、簡単に言うと「ひとり1億」ですよね。
高田氏:
とんでもないよね(笑)。
小高氏:
そんな馬鹿な投資をする会社は普通ないんですけど、もう後に引けなかったんです。
僕もプロデューサーみたいな立場でお金を見ていましたけど、それまでずっと、自由にものを作ってきた人間なので、もう「アクセルを踏む」しか知らないんです。「この予算をかけないために、ここは諦めましょう」という判断が、もうほとんどありませんでした。

高田氏:
ブレーキ踏んだら終わりですからね。5億マイナスからのスタートなので、ブレーキ踏んだら回収できないですから。
小高氏:
ゲームが完成したぐらいの時期は「300本ぐらいしか売れなかったらどうしよう」「どうやって10億も返すんだ」と、本当に、さすがにノイローゼになるかと思いましたよ。
それでも「初めて自分たちで自社IP作品を持つとしたら、何で勝負するか」と考えたら、それはやっぱり、自分たちのいちばんの武器で勝負するしかなかったんです。
サウンドやデザインはもちろんですが、僕らはシナリオライターがたくさんいる会社なので「もうシナリオで勝負しよう」と考えて「100エンド」もあるという前代未聞のゲームを作りました。

やりすぎだし、逆にユーザーさんが引いちゃうとも言われました。だけど、僕としては、そのぐらいのインパクトが必要だと思っていたんです。いまはIPが飽和している時代で、大作もたくさんあるし、インディーで尖った作品もたくさんある。その中で、「あのゲーム、頭おかしい」と思わせないと、注目すらされません。
それで思い切って勝負したら、やっぱりボリューム感がすごすぎて、お金がどんどん減っていったんですけどね。なんで誰も止めてくれなかったのかな(笑)。
でも、「Archipel(アルシペル)」【※】のドキュメンタリーでも、打越鋼太郎さん【※】が「小高は謎の自信があった」と言及していましたよね。
※「Archipel(アルシペル)」……日本のゲームクリエイターを中心に取材し、ドキュメンタリー映像を制作・配信しているメディア。本対談が行われた「The Tenth Mosaic」の主催者でもある。
※打越鋼太郎……『極限脱出』シリーズなどで知られるシナリオライター。『ハンドレッドライン』のシナリオに参加。
高田氏:
打越さんはどちらかというと、止めようとしていましたから。
小高氏:
もっとちゃんと止めればよかったんですよ。
一同:
(笑)。
小高氏:
本当は100エンド全部やってもらわなくてもいいんです。ユーザーさんが「やめておきたい」というときにやめればいいというコンセプトなんです。インタビューでも散々言っていたんですけど、やっぱり皆さん、すべてのルートでゲームを遊びたがるんですよね。
僕は『ハンドレッドライン』を「週刊少年ジャンプ」みたいにしたいなと思っていたんです。バラエティー豊かな作品が一冊の中にあって、「自分はこれ合わないな」と思ったら別のルートをやればいい。「自由に遊んでください」というスタンスで作っていました。
100エンドのすべてに耐えられる曲を。どこか切ないテーマソングに込められたもの
小高氏:
そんな『ハンドレッドライン』なんですけど、いちばん最初に作ったのは──。
高田氏:
まさしく『HUNDRED LINE』という曲です。これは公式サイトなどで流れたりもしています。
小高氏:
『ハンドレッドライン』は「戦争」をテーマにしているので、どこか切なさがあって、ノリノリではないんですよ。自分たちがなんで戦わされているかもわからないし、今やっていることが正義かもわからない。
しかも100エンドあるので、いろいろな状況が発生します。だから、そのどこにも耐えられるような曲ということで「青春の影」みたいな部分を表現したかったんです。
高田氏:
「今、自分が考えていることが正しいのか」と揺らいでいて、夜中にうじうじしているようなイメージで作っています。

小高氏:
『ハンドレッドライン』は「白虎隊」【※】をイメージしているんです。若者が戦争に巻き込まれる残酷さを表現したいと開発の初期段階から思っていたので、すごくぴったりの曲かなと思います。
※白虎隊……戊辰戦争で会津藩が編成した、10代の少年を中心とする部隊。
これで『ペルソナ』みたいな曲がかかっていたとしたら、おかしなことになってしまうので(笑)。
「オシャレに戦争を語っちゃいけない」という意識はありました。だから、こういう陰気な部分があります。
高田氏:
それは作るときからけっこう意識していました。アンニュイな感じのイメージで作りましたね。
でも、いちばん困ったのが、やっぱり戦闘曲の『侵攻 -invasion-』ですよね。
小高氏:
これは、明確に僕が「デジタルロックにしたい」とお願いした記憶があります。今の時代、デジタルロックってあまり聞かなくなりましたよね。当時の「ケミカル・ブラザーズ」や「The Qemists」などを参考曲として聴いてもらいました。
シミュレーションRPGの楽曲って『ファイアーエムブレム』のようにファンタジー風のものが多いですよね。だから、そこじゃない、ほかのシミュレーションRPGでは流れないような「少しアクションっぽい曲調」にしたいと考えていました。
高田氏:
バトルにも合っていますよね。
小高氏:
『ハンドレッドライン』の曲数って、全部で何曲くらいでしたか。
高田氏:
ムービーなども含めると400曲ほどありますが、メインは100曲ぐらいですね。
小高氏:
『ハンドレッドライン』って、シナリオ量がもう死ぬほど多いんです。
どのキャラクターが喋っていて、どの音楽を流して、どのSEを流して、どの表情をして──ということを組み立てる簡易的なプログラムを「スクリプト」というんです。うちの会社では、ライターが自分のシナリオのスクリプトを、自分で打つようにしていたんです。
この体制の良かったと思うところは、高田さんに直で「曲が足りない。こういう曲を足してくれ」と言えることでした。

高田氏:
だいたい、ライターのみんなが仕事を終えて「今日このスクリプトで当てる曲がないや」と思ったときに「高田さんに連絡しよう」となるんですよね。だから、ご飯食べた後ぐらいに「ここの曲が足りないんですけど」みたいな連絡が来るんです。
僕はそういうのが好きでしたね。そのライブ感というか、作っているなという感じがありました。
