『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』(以下、『PUBG』)の開発と運営を手がけるPUBG Corporation(以下、PUBG Corp.)は、今後3ヵ月間のゲームの改善を告知する特設サイト「FIX PUBG」を立ち上げた。
同社はバグやパフォーマンスの問題、そしてゲームプレイの快適さ(Quality of Life)の問題が『PUBG』の真のポテンシャル発揮の足枷になっていることを認め、対応を発表した形となる。立ち上げの発表と同時にリリースされたSteam Newsではさらに踏み込んで、これまでプレイヤーの不満に対して期待に応えることができなかったことも認めている。
『PUBG』は現在のバトルロイヤル系シューター人気の火付け役となったタイトルだ。100人のプレイヤーが同じマップの中で武器を集めて殺し合い、最後のひとりになるまで戦うルールが人気を博し、さまざまなフォロワーを生んだことでも知られている。今なお月間ピークプレイヤー数は130万人を超えているが、もっとも多かった今年2月のピークプレイヤー数320万人の記録を堺に、プレイヤー数は減少し続けている。Steamレビューも現在では全体で賛否両論。直近のレビューではほぼ不評と、プレイヤー数と比べると評価はけっして高いものではない。
今回の「FIX PUGB」キャンペーンでは、減り続けるプレイヤー数と落ち続ける評価を改善し、バトルロイヤル系シューターの王者として再びジャンルのトップへと返り咲くことが真の目標といえるだろう。
もちろんPUBG Corp.がこれまでまったくバグやパフォーマンス問題への対応をしてこなかったわけではない。今までもPubg Corp.は、プレイヤーからのバグ報告を公式フォーラムだけではなく、DMM GAMESの公式サイトでは日本語でも受け付けている。
しかしTwitterのハッシュタグ「#pubgバグ」では今なお1日数件のバグが報告され続けているように、早期アクセス開始から1年以上経った現在でも目立つバグが多いといえる。
「FIX PUGB」キャンペーンでは、これまではパッチノートの形でしか見えなかった自社の『PUBG』改善への取り組みをプレイヤーに広く周知していくことも、Pubg Corp.の狙いのひとつなのだろう。
クライアント改善でfpsを安定化、マップロードもさらに早く
「FIX PUBG」でのロードマップには8月から10月までの3ヵ月間の修正目標が掲げられている。修正項目は大きく分けて5種類ある。クライアントパフォーマンス、サーバーパフォーマンス、アンチチート、マッチメイキング、そしてバグの修正とゲームプレイの快適さの改善だ。
まず最初に挙げられているのは、クライアントのパフォーマンス。これまでの実績として、2018年第一四半期では最小システム構成で平均58.5だったフレームレートは第三四半期では平均61fpsに、推奨システム構成では平均79.8fpsから平均81.2fpsに改善されたことを発表している。しかし現在平均して10秒ごとにパフォーマンスが大きく落ち込み、フレームレートが60fpsを下回ることを認め、これを改善点として挙げている。
クライアントパフォーマンスの改善にて3ヵ月をかけて修正が予定されているのがキャラクターの最適化だ。よりスムーズなプレイを実現するためにレプリケーションコードの改善、非アクティブの武器モデルの最適化、キャラクター移動時のパフォーマンスコストの低減があげられている。
レプリケーションコードに関してはクライアントのみの問題ではないので、下記のサーバーパフォーマンスの改善の項目にて詳しく解説する。
エフェクトの最適化と修正は、2ヵ月を目標にしている。すでにパフォーマンスの低下を引き起こす環境エフェクト、車両破壊エフェクト、スモークエフェクトは修正が完了していると報告されており、今後は地面に弾丸が着弾した時のエフェクトなど、銃撃関連のエフェクトの最適化を行うとされている。
修正に1ヵ月が必要とされるゲーム中のマップのローディングは、すでにマップ全体のデータロードの最適化を完了しており、14.4秒から5.6秒へと大幅に短縮されている。今後はテクスチャや物理演算の最適化が行われる。
批判の多いサーバー問題は3ヵ月を要して改善
次に挙げられているのがサーバーパフォーマンスの改善だ。3ヵ月かけて修正する項目が、サーバーパフォーマンスプロファイリングをもとにした改善と、ネットワークコードの改善の2項目がある。ゲームプレイに影響を及ぼしSteamのレビューでも不満が多い部分だけあって、ほかの修正項目より慎重を期していることがわかる。
記載されているサーバーチックレートの改善についてだが、サーバーチックレートとは、サーバーが1秒間に何回処理するかを決定する設定である。チックレートはHz(ヘルツ)で指定され、たとえばチックレートが30Hzなら1秒間に30回、60Hzなら60回処理するという意味だ。ここでは1回の処理を1チックと呼ぶ。
現状ではゲームスタート時など多くのプレイヤーが近くにいる状況でチックレートが低下する傾向にあるという。それによってアイテムをピックアップするようなオブジェクトへのインタラクトや、ほかのプレイヤーの動きの遅延、プレイヤー移動時の巻き戻りなどが引き起こされる。チックレートの改善によってこれらの問題が解消されるという。
それにともないレプリケーションの改善も目指される。上記のクライアントパフォーマンスでも挙げられているが、これはクライアントとサーバー両者で改善すべき部分だからだ。このレプリケーションはサーバーのチックレートに依存している。レプリケーションとは簡単に説明すると、Unreal Engine 4においてサーバーとクライアント間で起きた出来事を同期するコードのことを指す。『PUBG』であれば武器の場所や状態、乗り物の位置、ドアの開閉などの情報をサーバーやほかのクライアントどうしで同期するコードだ。
プレイヤーの近い距離にあるオブジェクトはすべてのチックでレプリケーションを行い、遠くになるにしたがって2から4チックごとにレプリケーションすることでパフォーマンスの改善を行うという。サーバーの処理能力をより効率的にプレイヤーの周囲の環境への処理にまわす変更だといえる。8月上旬からテストを行い、チックレートを監視してさらなる改善を目指す。
チックレートの改善によりゲームスタート時の飛行機の挙動ならびに降下と着陸時の問題も改善されるという。パラシュートがマップにスタックしたり、降下時に地面をすり抜けて落ちてしまうなど、ゲームスタート時の飛行機からの降下関連のバグは『PUBG』でも頻繁に挙げられる問題のひとつだ。
理由はひとつだけではないが、地面や壁のすり抜けはチックレートが低下した場合に起きる一般的なバグとして知られている。サーバーの処理には物体どうしの衝突判定も含まれるからだ。チックレートの遅延が起きた場合、地面とプレイヤーモデルの衝突判定が行われず地面をすり抜けるというのが、このバグの原因のひとつだ。
次にあげられているのがDesync、いわゆる同期ずれの改善だ。『PUBG』ではプレイヤーの射撃の成否は攻撃者のクライアントで決定されている。よって、攻撃側から見て弾丸が命中したのであれば、ターゲットにも命中していると計算される。ただし攻撃側のpingが高かったりサーバーのチックレートが低下している場合、その瞬間本来なら撃たれた側が遮蔽物に隠れていたとしても、誤って命中したと判定される場合がある。これは同期ずれにより攻撃側には相手のモデルが表示されているため起こる問題だ。
上記のチックレートとレプリケーションの改善により、同期ずれも改善に向かうと説明されている。
また、低いpingのプレイヤーに高いpingのプレイヤーが混ざらないように、マッチングの改善も同時に行う。
140名もの逮捕者が出ているチート問題は対策をさらに強化
アンチチートに関しても改善される予定だ。これまでもPUBG Corp.は、BattleEyeを利用して1ヵ月にチーター100万アカウントをBANするなどの成果を上げてはいるが、Steamレビューではチーターの存在はゲームの評価を下げる大きな要因になっている。
We have banned over 1,044,000 PUBG cheaters in January alone, unfortunately things continue to escalate.
— BattlEye (@TheBattlEye) February 4, 2018
現在は現行のBattleEyeに加えて、別のアンチチート技術を導入している最中だという。これは悪意あるプログラムのゲームメモリへのアクセスを遮断し、侵入しようとするユーザーの検出を行うものだという。機械学習も導入してチートのブロックサイクルの改善も行われる。
PUBG Corp.は、これまで行ってきたチート対策とプレイヤーのBANにより、チーターと疑わしきプレイヤーは2018年第一四半期より80%減少したとしている。今後もこの活動を続け、さらなるチーターの減少を目指す。チートプログラムの制作や販売での逮捕者はすでに140名を超え、チートプログラム利用者だけではなく、チートプログラム業界全体と戦うことも継続していくとのことだ。
これに加えて、チートプログラム使用者はこれまでアカウントへのBANだけだったが、ハードウェアベースのBANを行うためのポリシーも準備中だまた、チートだけではなく意図的なチームキル、不正な協力行為であるチーミング、不適切なニックネームなどを通報した際、対象が15日以内に罰せられた場合は通報したプレイヤーに通知が行くシステムも準備中だという。
マッチメイキングは現在も議論中
マッチメイキングに関してはより速く公正で、すべてのプレイヤーにとって適切なマッチメイキングロジックに改善することを目標としている。とはいえ、いまだ議論の途中であり、プレイヤーのping、言語、距離などを考慮してルールを策定している最中のようだ。MMR(Matchmaking Ratio)ロジックの改善、リーダーボードのリセット間隔を伸ばして、よりシステマチックなマッチメイキングシステムを構築することも検討しているという。
ただしマッチメイキングは非常に複雑なシステムで、この分野は作業が山積みであり性急な約束はできないとしている。マッチメイキングに関しての経過も随時公開していくという。
100項目におよぶバグとゲーム修正
最後のバグ修正とゲームプレイの快適さの改善は全部で100項目が挙げられており、そのうち37項目については8月9日現在ですでに解決済みとなっている。マップに点在するスタックポイントの修正のようなバグ対応に加え、色覚多様性への対応やチームメイトのボイスチャットを個別にミュートにするオプションなども追加されている。
これら大量な項目を改善する「FIX PUBG」は、現時点ではPC版のみで展開されるが、「Xbox Road to 1.0」と称してXbox One版についても改善することが予告されている。内容はクラッシュを最小限にするためにメモリリークを修正、メモリの使用量も低減させること、近い場所にプレイヤーが大量にいた場合のパフォーマンスの向上などがあげられている。
https://twitter.com/PLAYERUNKNOWN/status/1027066346931200001
『PUBG』の公式ツイッターでは「FIX PUBG」を開始するにあたり、ファンからのフィードバックを収集し、改善点の優先順を決めてロードマップを作成するために、これまで数ヵ月を費やしてきたと発表している。
『PUBG』はプレイヤー数の減少に歯止めをかけられるのか?
新要素の追加やDLCのリリースなどを、マルチプレイであればそれらをシーズンとして区切ってロードマップを公開することは多々あるが、早期アクセスでもない大人気タイトルがバグフィックスやパフォーマンス改善を約束するロードマップを公開することはあまり例がない。内部情報の大々的な公開からは、『PUBG』のプレイヤー数の急激な減少に対して、真摯に向き合おうとする姿勢が伝わる。
正式リリースから8ヵ月、早期アクセス開始から15ヵ月経った今、ピークプレイヤー数が300万人を超えていたゲームの没落を止めるため、PUBG Corp.はなりふり構わずに再建の道を示した。ライバルタイトルの台頭やチートとの戦い、訴訟問題。そして、何よりかつて自身が打ち立てた記録へと挑む王者は、ふたたび勝利の「ドン勝」を食すことができるのかもしれない。