チキショ~~~~~~!!!!
と、高らかに叫びたくなるような、熱中の後に訪れる死。
その「散り際」が美しいほど、あるいは面白いほど、その記憶は強くプレイヤーの記憶に刻まれ、唯一無二の体験となる。
『SYNDUALITY Echo of Ada』は、そんなふうに散ったときに思わず叫びたくなって、「聞いてくれよ、こんな死に方をしたんだ!」と友人に自慢したくなる……そんな作品に仕上がっている。
本作は、バンダイナムコグループによるメディアミックス型のSFプロジェクト『SYNDUALITY』のゲームだ。
新規IPを題材にしていることはもちろん、ジャンルに関しては『Escape from Tarkov』をはじめとするハードコアなエクストラクション【※】シューターで、クレイドルコフィンと呼ばれるメカに乗り戦う‟ロボゲー”となっている。
※エクストラクション(Extraction)
PvEvP(Player vs. Enemy vs. Player)、つまり対人要素に加えモンスターなど共通の敵が存在し、フィールドやダンジョンを探索しながらリソースを収集、生存して戦利品を持ち帰り、装備やキャラを強化してまた次の冒険に繰り出す……というサイクルを楽しむゲームジャンル。日本語では「脱出」と訳されることが多い。この手のジャンルの代表的な作品としては『Escape from Tarkov』や『Dark and Darker』などが挙げられる。
さらに、チームゲーが人気を博す昨今だが、プレイヤーの行動や好みを学習するAI・メイガスと共にソロで戦う形式を採用。
昨今の大規模な国産ゲームにおいては、なかなかチャレンジ精神に満ちた作品だと言えるのではないだろうか。
そうなれば、なぜ本作のようにソリッドな作品が誕生したのかが、非常に気になるところ。
このたび、『SAO』の家庭用ゲーム機向け作品を手掛け『SYNDUALITY』プロジェクトのプロデューサーを務めた二見鷹介氏、そして『TOKYO JUNGLE』や『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』を手掛け、本作ではディレクターを務めた片岡陽平氏にインタビューをする機会を得た。
『SYNDUALITY Echo of Ada』が誕生した経緯や、トガッた仕様を採用する理由、そして開発陣が影響を受けた作品などに関心がある方は、ぜひ本記事を楽しんで頂ければ幸いだ。
※この記事は『SYNDUALITY Echo of Ada』の魅力をもっと知ってもらいたいバンダイナムコエンターテインメントさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
『鉄騎』から引き継いだ死に際の美学
──私は、死に方を人に自慢したくなるゲームは名作だと思っていて、本作はまさに「こんな死に方したんだよ。聞いてくれよ!」と言いたくなる作品だと思うんです。
メディア向け体験会に参加させて頂いた時には、最強装備の状態で出撃し、脱出直前に他社メディアの方に撃破され、そのことを伝えたい思いが記事を書くモチベーションになりました。
片岡陽平氏(以下、片岡氏):
おっしゃっていただいた「散り際の美学」には、僕も大賛成というか、大好物です。
というのも、僕がコフィンから脱出してメイガスを守る「ベイルアウト」のシステムを作ったルーツには『鉄騎』というゲームでの忘れられない体験があります。
『鉄騎』は本作のように重厚なメカに乗って戦う作品ですが、倒される前に専用コントローラーの「脱出ボタン」を押さないと、セーブデータが消えてしまうんです。そしてオンラインに対応した『鉄騎大戦』のオンライン版では、アカウントまで抹消されてしまう。もうとにかく脱出して生きて帰る事が大事なゲームになっているんです。
ただし、本当に極まれに、コックピットを弾丸が貫通してしまうと、脱出時間の猶予もなく即死してしまいます。
僕がある時遊んでいたとき、弾丸が当たった瞬間に目の前のモニターに血がバーっと広がって、何が起きた分からないまま、即死しました。
それでアカウントが消えて、それまでの進捗からユーザーネームまでも消えてしまう。それを体験して「このゲーム、マジでカッケー。」と。
もはや現実と虚構の境界線が凄く曖昧になっていて、だからこそ熱中できる。それが記憶に焼き付いているので、そういったエッセンスを本作にも反映させたいと考えました。
──『SYNDUALITY Echo of Ada』(以下、SYNDUALITY)ではアカウントは消えないものの、似たような体験ができると。
片岡氏:
いろいろな散り際があり、それがドラマや思い出になってくれる。僕としては、それを一番大事にしています。
それを求めていくうえで、いろいろな調整を行いました。僕は途中からこのプロジェクトに参加したのですが、当初はわりと『Apex Ledgends』くらいのバトルスピードだったんです。
──現在の重みがある操作性からすると、かなりプレイフィールが違いそうですね。
片岡氏:
そうですね。結果として、プレイヤーのスキルが無いと敵を仕留められない設計になっていました。
ただ、「クレイドルコフィンって、ロボットというよりメカ、重機だよね」というイメージが僕の中にあったことと、初心者がソロでも遊んでも楽しめるオンラインシューターにしたいというプロデュースサイドからの要望があったので、バトルスピードを落として重厚感を出していく形にしました。結果として重厚感のあるリアリティとメイガスの発話を聞きながら立ち回る遊びが合致していって、今のスタイルが確立しています。
その際に参考にしたのは、やはり『鉄騎』を死ぬほど遊んだ経験です。
──ちなみに、片岡さんは今でも『鉄騎』の専用コントローラーをお持ちでいらっしゃるんでしょうか。
片岡氏:
もちろん、まだ持っています。
──じつは私は結婚をするときに手放してしまって……。いまではメチャメチャ後悔しています。
片岡氏:
いや、そんなことしたらダメですよ。僕はそんなことをしたら一生後悔すると分かってます。だから今も大事に大事に取っておいていますよ。
──かさばりませんか。
片岡氏:
かさばらないですよ。専用コントローラーを3つに分けてしまえば、ダンボールひと箱分くらいにはなりますよね。ダンボール一個分くらいの置き場所は、どんな家にもあるでしょう。
捨ててはいけません、大事なものは。
一同:
(笑)。
──失礼いたしました。
ちなみに、本作をマウスとキーボードでプレイすると、普段はWASDキーで操縦をするのに、ベイルアウトは数字の123キーの同時押しをする必要があります。つまりは、普段は一切指を配置していないキーをいきなり使用しないといけません。
そういった「表現としての意義がある仕様」などから『鉄騎』のDNAを感じました。
片岡氏:
『鉄騎』の専用コントローラーには脱出ボタンがついていて、蓋を開けないと押せないんです。
その開け方にも作法がありまして、素早く開けるには親指を蓋の下からすり抜けるように擦り、ボタンを入力しないといけないんです。パチンと開けてたら間に合いませんし、なんなら蓋をずっと開けていれば良いのですが、それはちょっとダサい。
二見鷹介氏(以下、二見氏):
ロールプレイ的な意味で、ですよね。
片岡氏:
そうです。少し話がそれましたが、そういった『鉄騎』の強烈な思い出もあり、ベイルアウトのボタン配置は‟あえて”普段は使わないキーに設定しています。
ただ、こういったことを言うと、やはり「作ってる人の頭がおかしいと思われるんじゃないか」と、ヒヨっている自分もいますね。
開発中にもとくに若いスタッフの方などからは、メイガスが行方不明になること、ベイルアウトなどは、「ゲーム的に無駄過ぎる要素でストレスにしかならない」と反対されました。
──プレイヤーにとってストレス要素となるのはたしかに事実でしょうけど、それが面白さや手応えにもつながりますし、難しいところですよね。
片岡氏:
確かに合理性はないんです。でも、少し心に棘が残る、傷つけるような表現の質感を、僕は大事にしたかったんです。
だから、そういった議題が挙がるたびに、納得してもらえるように努めました。
──とはいえ、昨今ではインディーのゲームが手軽に楽しめるようになった時代でもあります。合理性だけでは測れない作家性を楽しんでくれるプレイヤーさんは、決して少なくないと思います。
片岡氏:
そうですね。とはいえ、アニメ『SYNDUALITY』から来た人たちにとっては、ちょっと訳が分からないものになっているかもしれないです。そこは流石に悩みましたね。
──たしかに、アニメはかなりキャッチ―な作風で、作風においてはかなりゲームとは異なる印象でした。
二見氏:
『SYNDUALITY』はメディアミックスのプロジェクトで、どれも違う作品として作っているんです。
当然ゲームがちょっと苦手な方もいるだろうし、文字が読みづらいから小説が苦手な人もいる。なので僕としては、それぞれ好きなものを楽しんで頂ければ問題ないかなと考えていますね。
片岡氏の手腕、二見氏の覚悟と情熱がつないだ『SYNDUALITY』の命
──改めまして、どのような経緯で企画が始まったのかをお聞かせください。
二見氏:
まず前提として、片岡さんはこの2年半でジョインして頂きまして。 企画の方はそれ以前にもプリプロだったり、テスト版の開発は進んでいました。
いっぽうで、かなり作品としてバラついていて、開発が難航していたんです。そこで片岡さんにまとめて頂き、ゲームが完成したかたちですね。
そのような制約がある中で、“片岡さん節”を見つけていただきました。
──ちなみに、二見さんと片岡さんは以前から面識がありましたか。
二見氏:
もちろん片岡さんが『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』や『TOKYO JUNGLE』を作っていたのは知っていましたが、お会いしたのはこれが初めてです。こういう形でお仕事をしていくことは、あまり想像していませんでした。
──では、どういった経緯で片岡さんがディレクターを務めることになったのでしょうか。
二見氏:
もともとは、開発会社のゲームスタジオさんのディレクターと一緒に作っていたのですが、トライエースの社長の五反田さんが「困っているんだったら良い子いるよ」と、片岡さんを紹介してくれました。
──まさかのトライエースさん。
二見氏:
そうです。今ゲームスタジオさんって、エヌジェイホールディングスさんのグループにいらっしゃって。同じグループにトライエースさんがいて、それぞれが情報交換をできる体制があるんです。
そこで『SYNDUALITY』ほどの大きなプロジェクトのディレクターを出来る人はいないかね、という相談をして、片岡さんの名前を挙げていただいたそうです。
──片岡さんとしては、どういった経緯で依頼を受けたのでしょうか。
片岡氏:
僕がこのプロジェクトのディレクターになったのは、2022年の3月ごろなんです。2021年の年末ごろに、「ちょっと困っているプロジェクトがある」というお話を受けました。
そこで、企画のコンセプトやその時点での成果物を見せてもらったんです。
その段階では、世界設定やストーリーモードのシナリオ、エクストラクションシューターというジャンルなどは決まっていたものの、ゲームを設計に落とし込めていませんでした。僕からすると、ほとんどゲームができていませんでした。
そこで、開発の経過や打合せの内容を聞いているだけの期間が3か月ほどありました。その期間を通じて「このプロジェクトを立て直せるか」を判断したかたちです。
──発売時期の延期などがありましたが、そういった事情もあったとは。
片岡氏:
プロジェクトとしては行き詰まっていたものの、二見さんや現場のスタッフたちは全然諦めていなくて。
その熱意が伝わってきたので「時間かかるかもしれないけど、この人たちとだったらちゃんと面白いものにできるかな」と思い、ディレクターをお受けすることにしました。
──この規模のゲームのディレクターをやることについては、どのような思いでしたか。
片岡氏:
正直に言えば、「とんでもないプロジェクトだな」という印象でした(笑)。
最初は、半年くらいで全てマスターアップさせて欲しいという依頼だったので「それは無理です。」と断りました。
でも「やっぱりどうにもならないから、まず入って、ちょっと状況を確認するだけでもお願いできないか」というお話を受けたので、プロジェクトに参加したという事情もあります。
普通だったら受けられないような依頼だったと思うんですけど、二見さんを始め、開発スタッフにも、まだ情熱を持っている人たちがいた。だからこそ「やってみようかな」と思えましたし、今があると思います。
──ちなみに、片岡さんが参加してからは、どういった要素から改善を進めていったのでしょうか。
片岡氏:
まずスタッフを再編させて貰って、それまで作っていたゲームをほぼゼロに戻しました。
無かったことにしたわけではないのですが、実際に製品版に使われているのは、クレイドルコフィンやメイガスなどのモデルくらいだと思います。あとはほとんどイチから作りました。
厳しい言い方かもしれませんが、風呂敷が広がりすぎて、いろんな要素が取っ散らかっていたんです。
やはりいろんな人のやりたいこと、やりたい思い自体は尊いと感じます。ですが、点と点があるだけで、線になっていなかった。
正式にお引き受けしてから5か月くらいでプロトタイプを作りまして。そのプロトタイプを元に、SIEのState of Playで公開された映像を作りましたね。
──State of Playの映像が、5か月で作ったプロトタイプだったとは驚きです。
片岡氏:
つまり、5か月で作ったプロトタイプの時点で、今のゲームサイクルやシステムはほとんど作っていました。
逆に言えば、「半年でスタートできる内容」という制約の下で開発を行っています。そのプロトタイプをプレゼン材料に使って、協力してくれる人を少しずつ二見さんが増やしてくれて、今の規模やスケジュールが実現できました。
二見氏:
そうですね。当時はコロナ禍で、けっこう打合せもオンラインが多く、結果として僕も現場とのコミュ二ケーションがあまり上手くいってなかったんです。
コロナの中で「蓋を開けたら違うものが出来ている」こともありました。
──なるほど。
二見氏:
僕はもともと『機動警察パトレイバー』が好きで、せっかくメディアミックス企画ができるなら、好きな作品を目指してチャレンジしたいという思いがあったんです。
だから夢を追いつつ、片岡さんが入ってくれるまでは心が壊れそうになりながら取り組んでいましたね。本当に片岡さんが入るまでは4~5回くらい「辞めようかな」と思ったこともあって、アニメチームに土下座して全部辞めるか、と思った日もありました。
よく「ようやく出せましたね」という話になるのですが、やはり新規タイトルであるからこそ、本当にいろいろなことがありました。
──まさに片岡さんが参加したこと、二見さんが諦めなかったことで『SYNDUALITY』のゲームが発売するに至ったと。
片岡氏:
そうですね。やっぱり、二見さんの情熱に押されたところはあると思います。
というのも、二見さんが「メチャクチャ面白いプロデューサーだな」って思ったタイミングがあったんです。
先ほどお話にあったように、本作はプロジェクトが難航した末にようやくプロトタイプが完成しました。そこで我々としては「形になりそうだ」と感じていても、それだけでは会社としてプロジェクトを続けるという判断は下されていませんでした。
そこで二見さんが何をしたかと言うと、プロトタイプが完成した段階で、とあることをしてプロジェクトを無理やり存続させたんです(笑)
それをやったときに「この人スゲェな」といいますか、僕の好きなプロデューサーだと思いました。
──凄まじいエピソードですね(笑)
片岡氏:
僕がよく二見さんに言ってることとして「良いプロデューサーは、やはりお金を持ってきてくれる人だ」ということがあります。
でもそれ以上に、携わっているプロジェクトに存続の危機が訪れた時に、自分の立場やリスクを顧みずに戦ってくれるか否かが大事なんです。
二見さんはこのプロジェクトに自分の進退を賭けていた。自分がどうなっても良いから、このプロジェクトはどうにかやり遂げるんだっていう覚悟があった。要所要所でそういった姿勢をすごく目にしたので、僕もここまで頑張れたなって思っています。
──もちろん企業として堂々と語ることは難しいエピソードかもしれませんが、なぜ本作のようなチャレンジブルな作品が誕生したのか、その理由が窺えた気がします。
AIがプレイヤーに寄り添うということ
──今作はメディアミックスのプロジェクトですが、やはり真ん中にあるのはゲームという認識なのでしょうか。
二見氏:
作り方としては今回『SYNDUALITY』というプロジェクトそのものを作ってから、アニメとゲームを作っていくようなかたちでした。骨子としては根本にある「AIと人のすれ違い」というテーマで、それぞれ作風は違うものの、同一のテーマを描いています。
ゲームに関しては、そのテーマをもとに「どういうゲーム性にしていくべきか」「どういう形で遊ばせていくのか」を片岡さんにお話させて頂き、2年半の期間でゲームデザインを整えていただきまいた。
プロジェクトとして僕が最初にやっていたことは、世界観とシナリオの作成ですね。メイガスやコフィンが存在すること、この世界に起きた出来事をプロジェクトの初期に作らせて頂きました。
あとはゲームを作る前にパイロット版の映像も制作していて、その際にデザインを上げて頂いたメイガスのイメージで制作を進めていきました。
──予め共有したイメージや設定を元に、各コンテンツを制作していくと。
二見氏:
僕が良く使う言葉なのですが、『SYNDUALITY』プロジェクト自体は“クラウド型原作”として制作しているんです。
原案に関しては僕が担当しましたが、デザインに関してはキャラクターデザインをnecoさんが、メカデザインは形部一平さんが担当しています。シナリオは波多野大さん、SF考証は高島雄哉さんが担当し、それぞれが自身の要素に責任を持つかたちで制作を行うんです。
これによって「僕がアニメの制作に口出しするのは難しいから、代わりにnecoさんや形部さんが意見を出す」みたいなこともできますし、プロデューサーがダメな提案をしても皆でフォローアップをすることができます。
なにより、お互いに意見を出しやすい雰囲気が作れましたね。
──「AIと人のすれ違い」というテーマをもう少し深堀りさせて頂きたいと思います。そもそもこのテーマは、どういった経緯で生まれたのでしょうか。
二見氏:
実は元ネタがありまして、入社3年目くらいに作った「フェアリーズリンク」という世には出なかった企画がありました。それはAIと一緒に旅をする企画で、今作の発想の元になっています。
あとは、音楽業界の知人から聞いた初音ミクの話があります。当時は第一次の「初音ミク」ブームだったと思うのですが「最近、初音ミクはライブで歌えない曲が増えている」ということを教えてもらったんです。
もとは人間と同じように歌うことを目指して作られた初音ミクに、なぜ人は“機械らしさ”を求めてしまうのか、と思ったんです。そういったすれ違いのギャップをもとにエンターテイメント作品を作ろうと考えました。
とはいえ、そういったテーマの企画を5~6個くらい作ったものの、シックリ来るものにならず泳がしていました。『ソードアート・オンライン』といった様々な企画を担当させて頂いたことで、時を経て『SYNDUALITY』ではテーマを実現できたように思います。
──本作ではオンラインの要素やメイガスと共闘する要素など、さまざまな特徴があります。そういった中で、二見さんとしてはどういった要素を一番大事にされていますか。
二見氏:
僕としては、やはりゲーム内でプレイヤーが経験する体験そのものを最も重んじています。
『SYNDUALITY Echo of Ada』には「I’m with you」というキャッチコピーがありまして、つまりは「如何にあなた(プレイヤー)に寄り添うか」というテーマもあるんです。
このゲームオンラインレイドで遊んでいただくと、マップ上でもガレージでも、メイガスとずっと一緒にいることになると思います。
二見氏:
よく「オンラインマルチで友達と遊びたい」というご意見もいただくんです。でも僕としてはメイガスはデュオの代わりではなくて「小中学生の時に、画面の横にいた友達のイメージ」なんです。
コントローラーを別に持っていないけど、遊んでいたら「あっちにアイテムあったよ」とか言ってくれる。そういった“ひとりではない感覚”を体験として作り出したかった。
だからゲームという世界からプレイヤーを見てくれているように思えることが、このゲームの良いところなのかなと思っています。
──片岡さんにはそのコンセプトを、どのように伝えていきましたか。
二見氏:
コンセプト部分に関して、とくに片岡さんにはずっと話していましたね。そういったコンセプトの資料に関しては、むしろ当時からあまり変えていないんです。
片岡さんからも当初はフレンドとふたりで遊ばせたい、というお話も頂きました。ですが、「AIが自分のパートナーになり、彼らにサポートされる体験を作りたいから、少なくともリリースの段階ではナシでお願いします」と伝えさせて頂きました。
片岡さんには本当に毎週、僕らが作ってきた『SYNDUALITY』の世界観やテーマなどをお話しましたね。
──もともとAIに対しての考え方やゲームの中での見せ方は、最初からあまり乖離がなかったのでしょうか。
二見氏:
いや、乖離はあったと思います。
以前『鉄拳』プロデューサーの原田勝弘と話をしているときに「『SYNDUALITY』のAIは、エンターテイメントAIだよね」と言われたんです。
もちろん、ちゃんとプレイヤーの行動などを学習するものですけど、学習や機能性に留まらず、ちゃんとお客さんにエンタメとして向き合うAIになっているんです。
だから「本当にAIをいれるべきなのか」「ちゃんとプレイヤーがAIとの関係を楽しめるのか」という要素は、初めに片岡さんとすり合わせを行いました。
──そういった段階では、メイガスのイメージもすでに出来上がっていましたか。
二見氏:
メイガスのイメージは、かなり早い段階で出来ていましたね。
いつもイラストレーターのnecoさんに「もうこれ6~7年前ですね」っていじられるくらい、結構前からできていました。
──ちなみに、片岡さんとしては、AIに関してはもともとご関心があったのでしょうか。
片岡氏:
いや、なかったですね。本タイトルを初出したState of Playが2022年の9月ごろで、ChatGPTが出てきたのが恐らく11月ごろ。そこで生成AIが脚光を浴び始めたので、話題になるころにはゲームのサイクルやメイガスのシステムなどは決まってしまっていたんです。だから、そういった動向からの影響は受けていないんです。
ただ凄く印象的だったのは、毎回ミーティングで二見さんが「とにかくメイガスがプレイヤーに寄り添ってくれるようにして欲しい!」とお決まりのフレーズのように言っていたことです。
だから「具体的に何をすれば、メイガスが寄り添ってくれていると思えるのか」を、一番時間をかけて考え、共有していきました。
──たとえば本作では他のエクストラクションシューターとは異なり、メイガスが出撃の記録をボイス付きで振り返ってくれますよね。
片岡氏:
まさにその機能は、二見さんに最初に伝えられた「メイガスがプレイヤーに寄り添う」ということを踏まえたものです。
プレイヤーとメイガスが一緒に思い出を積み重ね、それが関係性になっていくことを表現するために実装しました。この機能はメイガスを失えば無くなりますし、メイガスを失ったら誰も喋ってくれる人がいないガレージになってしまうんです。
そういった孤独な状況の表現も、ひとつのこだわりです。
──なるほど。全ての「おしゃべり」が消えるとなると、かなり孤独を感じてしまいそうです。
片岡氏:
けっこう寂しいですよ。ずんだもんボイスのラジオしか聞こえない。
二見氏:
とはいえ、メイガスが帰ってくるのは結構早く設定しています。その点は厳し過ぎない仕様なので、安心してください(笑)
片岡氏:
あと、少しだけ「メイガスがうるさい」というご意見も頂いたので、メイガスを連れていかなくても出撃できるようにしています。
二見氏:
でも、一回メイガスがいる世界に慣れてしまうと、やっぱり居なくなった時に寂しさを感じると思います。
片岡氏:
メイガスの居ない世界を思い知ってくれ、という気持ちではありますね(笑)
とはいえ、皆さんの好きなスタイルで遊んで貰えれば良いなと思っています。
『不思議のダンジョン』からの影響と『Escape from Tarkov』で生じた疑問。奪う者、奪われる者にドラマを与える
──片岡さんは途中からプロジェクトに参加したとのことですが、いわゆる作家としての“片岡節”みたいなものは、どれくらい本作に入っているのでしょうか。
片岡氏:
たとえば本作は、ボロボロのガレージを与えられた新米のドリフターとなり、底辺からトップまで成り上がっていく様が描かれます。その過程でガレージが発展し、メイガスとの生活が豊かになる。そういった、この時代に生きるドリフターのリアリティに繋がる要素は僕が作っていきました。
というのも、僕が入る前のゲームは「メチャクチャクールでシリアス、そして可愛いアンドロイド」みたいな作品だったんです。そこに対してほころびを作ることが、僕の仕事だった。
──生活感や泥臭さといいますか。
片岡氏:
そうですね。だから「その世界でドリフターが実際に暮らしていたら、こんなことが起こるよね」と考えていきました。
そういった意識に基づいて、ドリフター振興協会とかダークマーケットみたいな基本設定から、依頼文の内容、貧乏エピソードとしてメイガスが草鍋を食べさせてくること、ベイルアウトのシステム、脱出に失敗したときにメイガスの髪形がアフロになってしまい、お風呂に入らなければいけないことなどを用意していきました。
──では、既に決まっていることを踏まえつつ、片岡さんのアイデアを詰め込んでいったようなイメージでしょうか。
片岡氏:
凄くありがたいことに、ゲームの中で起こることは、ほとんど二見さんが僕に任せてくれたんです。
設定としてはアメイジアが崩壊すること、そして20年後の世界を描くアニメのシナリオはがっちり確定しているのですが、その間に何が起きたのかを埋めるのが僕の仕事でした。
──以前、本作のゲームプレイに関して『不思議のダンジョン』からの影響を語られていましたが、改めて本インタビューでもお聞きできればと思います。
二見氏:
やはり“ふたり旅”を描きたいという思いがあって開発がスタートしましたが、当初はエクストラクションシューターがまだ存在せず、実はPvPになる予定でした。
──そもそもジャンルが違ったわけですね。
二見氏:
そうです。プレイヤー自身が、自分で育てたAIと共に戦うようなスタイルの作品が、一番最初の企画として考えたものでした。そういった形式で5対5で戦う作品にすればかたちになると思っていましたが、それでは「AIではなく友達と遊べば良いじゃん」となってしまったんです。
かつ、たとえば『フォールアウト3』などに出てくるようなコンパニオン型のNPCにはしたくなかったんです。
──「自分に寄り添うゲーム内キャラクター」という点では、コンパニオンNPCは定番の手法であるように感じますが。
二見氏:
たとえばコンパニオンと一緒に遊んでいるときに、コンパニオンが勝手に戦って倒されてしまうようなことがありますよね。
ヤバい状況なのにコンパニオンが隠れずに戦ってしまって、気付いたら「やられた、ゴメン」みたいなことを言っている。そういった状況に、自分はストレスを感じてしまうんです。
二見氏:
邪魔せずにプレイヤーに寄り添うAIのパートナーをどのように実現するかを考えたときに、現在のメイガスのようなかたちになりました。
そしてゲームプレイに関しては、「オンラインの山登り」のような考え方をしました。
──というと?
二見氏:
たとえば『風来のシレン』とかではいろいろなアイテムを集めながらダンジョンに深く潜っていますが、道中で他の冒険者に出会うことがあります。
道中では色々なキャラクターが存在しますが、そこで出会ったキャラクターを仲間にしても、しなくても良い。
ではそれをオンラインに置き換えたときに、違う目的を持ったドリフターと出会ったら、どんなやりとりが起きるのかと考えたんです。たとえば黙って獲得したアイテムを眺めてきたら「アイツやばそうだな」と思うし、本当にただ会話をして終わるだけかもしれない。
元のふたり旅というアイデアにオンライン要素を組み込むことで、出会ったときの“一期一会感”やドラマが生まれるわけですね。
──なるほど。登山の山道で、だれかと出会い同行するのか、はたまた“その場限り”で別れるのか。そういったドラマが待ち受けていると。
二見氏:
あと、メイガスとの二人旅をちゃんとフィーチャーしつつ、「不思議のダンジョンをオンラインマルチプレイ化する」ことができれば、面白いんじゃないかなと、当時現場と話していました。
──「不思議のダンジョンをオンラインマルチプレイ化する」というのは、たしかにワクワクするキーワードですよね。
二見氏:
実はそういったルーツがあるので、もともとは自動生成マップだったんです。でも自動生成ではゲームバランスが取れないことなどで困惑し、現在では固定マップになっています(笑)
──ちなみに、恐らく片岡さんがプロジェクトに参加したタイミングでは『Escape from Tarkov』といった作品が台頭しつつあったと思います。本作がそういったエクストラクションシューターに近い形式であることに関しては、いかがでしょうか。
片岡氏:
このゲームの発端には「チームを組んで出撃するのは辞めたい」「ソロプレイにこだわりたい」という思想があるんです。
つまり、既存のオンラインシューターのチーム戦で嫌な思いをした人でも、気軽に楽しめるオンラインシューターを作りたいということが、二見さんの野望だったんです。
僕はそれを聞いて、素直に「すげぇ良いな」と思いました。
──チーム戦のオンラインシューターをプレイした方なら、誰もが心の荒む思いをしていると思います(笑)
片岡氏:
ただ、そこで選択しているジャンルがエクストラクションシューターなので、「組み合わせはあまり良くないな」と少し思ったんです。
だから、そういう人たちをターゲットにする以上、PvPが前提になり過ぎるシステムは少し抑制しないといけないと思いました。
──なるほど、エクストラクションシューター自体が、そもそも初心者には手厳しい形式ですよね。
片岡氏:
開発の当初はエクストラクションシューターが今ほど流行していなくて、当時は『Escape from Tarkov』と『The Cycle: Frontier』という作品くらいしかなかったと思います。
片岡氏:
そこで『Escape from Tarkov』をプレイしていた時に、ふと疑問に思ったことがあるんです。
『Escape from Tarkov』は、人からものを奪うことが正義のような作品ですが、角待ちされたりスナイパーに狙われる中で怯えながら行動するストレスはメチャクチャ高い。結果としてプレイヤーの実力差が如実に出てしまうし、初心者がどんどん置き去りになってしまう訳です。
自分も実際に辛い思いをしたし、現実世界では倫理的に問題のある襲い、奪う行為になぜペナルティが無いんだろうと思ったんです。
だから『SYNDUALITY』では、奪う側と奪われる側にちゃんとドラマを作りたいと思ったんです。
──『SYNDUALITY』でたくさんプレイヤーキルをすると、賞金首として認知されるのは、そういった理由からなんですね。
片岡氏:
くわえて、ドリフター復興協会とダークマーケットという利害が対立する勢力を作っていますし、仲良く協力して遊ぶことも、はたまた他プレイヤーから物資を奪うプレイングもプレイヤーの好みに応じて選択できます。
こうした仕様によりプレイヤーの立場と物語が流動的に変化する構造も、『Escape from Tarkov』をプレイした際の疑問や思い付きから生まれました。
──「奪う側のリスク」という課題を出発点に、ゲーム内の世界観、物語表現に関しても生み出したと。
片岡氏:
また、本作の秩序はプレイヤーが求めるものによって変化していくんです。
緊張感の強い世界を望む人が多ければ危険な世界になりますし、信頼できる隣人と共に遊ぶ人が多ければ、優しい世界になっていく。
僕らがそれを調整することが無いように作りました。だから、どちらも正解なんです。
──いっぽうで、本作では明確にゲームの世界のバックグラウンドが提示されていますよね。
片岡氏:
そうですね。本作では、アメイジア崩壊直後の混沌とした世界が描かれます。
つまりは無政府状態に近い世界で、皆が正解を探し求めている世界なんです。だから当然平和に生きていきたい人も、不慮の事故や事件に巻き込まれてしまいますよね。そういう気概でプレイして頂ければ、作品の世界に浸って楽しめるかと思います。
──なるほど。
片岡氏:
そういったバックグラウンドがあるので、依頼を進めて関連するテキストなどを読み解いたり、オフラインのストーリーモードであるアメイジア事故調査委員会をプレイして頂くことで、プレイヤーが置かれている状況への理解が深まっていくと思います。
これまでのCNTなどでは、世界観に没入するところまで楽しんで頂いている方は未だ少ないと思うんです。
だから製品版がリリースされた後に、ユーザーさんのプレイスタイルがどのように変化し、どのような世界が構築されていくのか、僕としては楽しみにしています(笑)
──私は昔からのゲーマータイプで、フレンドリーファイヤーが有効なオンラインゲームで「狙ってやったわけでは無いけど、傷つけ、倒してしまったこと」から生まれたドラマがすごく記憶に残っているんです。
本作はそのように、自分だからこそ生み出せた、筋書きの無い自由なドラマを感じられる作品なのかなと感じました。そういったPvPの感触に関しては開発陣として、どのように感じられていますか。
二見氏:
たとえばデザイナーの形部さんはゲームがすごく上手い方では無いんですけど、かなり『SYNDUALITY』を遊んでくれていて。
ある時、瀕死の状態でエレベーターから帰ろうとした時に、PvPをしないと手に入らないメイガスを装備したプレイヤーに遭遇したらしいんです。
──まさに「絶対に殺される」というシチュエーションですね。
二見氏:
さらには敵にも追われていたらしくて。
でもその時に出会ったプレイヤーさんは、なんと形部さんにエレベーターを譲ってくれたそうなんです。さらにはNPCも撃ち倒してくれて、どうにか生還できた……というエピソードを嬉しそうに語ってくれましたね。
もう「感謝感謝です!」みたいな(笑)
一同:
(笑)。
二見氏:
あと、裏切られた体験もすごく印象に残りますね。
本作を遊んでいると「同じチームですよ~」みたいな雰囲気になることが多いんです。僕は遊ぶときにPvPをするものの、やっぱり少しでも仲よくしたプレイヤーは撃ち辛いです。「やべぇ、良心が痛ぇ」っていう苦しみですね。
そうやってプレイスタイルによって感じることも変わりますし、おっしゃって頂いたように「何かをやられた」という体験や、逆に何かを達成したことが凄く記憶に残るゲームになっていると思います。
────別のゲームになりますが、『FF11』をプレイしていた時に、日本のユーザーはコンテンツを遊ぶために、わざわざ列を作って並んだりしていたんです。
「ゲームなんて自由にやるのが楽しいのに、なんで縛られているんだろう」という思いを感じていました。そうした意味では、本作はまさにユーザーの「自由に遊びたい」という気持ちに応えてくれる作品なんだと感じます。
二見氏:
それは僕も本当に昔から思っていたことで……。かつて「覇権アニメ」という言葉が流行りましたよね。
売れてる作品という意味合いで「今期の覇権アニメは」みたいな使われ方がしていましたよね。でもそれに対して自分も、なんらかのラインに皆が縛られているように感じたんです。
そういった状況があるいっぽうで、僕らは今まで遊ばれていた主流な作品とは少し違う、あえて違和感を作ったゲームを作っています。
だから従来の作品とは少し違うかもしれないですが、少しチャレンジして「気になったから触ってみるか」くらいの気持ちで遊んでみて欲しいと思っています。
甘くは無いが、かなり充実した「初心者ケア」。作りこまれたアメイジアの内部構造
──ちなみに、以前メディア向け体験会に参加した際に、二見さんとしては「もっとハードコアにしようと思った要素もあった」と仰られていたことが印象的でした。
実際に実装を取りやめた要素は、たとえば何がありますか?
二見氏:
もともとマーケットシステムという、メイガスを取引するシステムを考えていました。
そのシステムによって、強奪されたメイガスを取り戻さないといけない仕様になっていて、買おうと思ったら売られてしまうこともあるんです。
売られてしまったときには、また似たメイガスを作るのか、全然違うメイガスを作るのか、悩むようになる。そういったシステムを提案したら、開発陣に「本当にやめてください」と言われてしまいました。
過去にラジオでもユーザーさんに伝えたことがあるんですけど、今では本当にやめて良かったなと思いますね(笑)
──たしかに、陰鬱すぎるかもしれませんね(笑)
二見氏:
たとえば帰ってきたメイガスが「○○さん、ああいうカスタマイズが好きだったらしいんです。あなたもそのカスタムに変えますか?」みたいに、知らない人の好みの話をしたり、帰ってきたら髪型が変わっていたりしたら、純粋に嫌じゃないですか。
それは今の体験とは全く異なるストレスが生じてしまうので、実装していないです。
このほかにも難易度に関して「アイテムのロスト」そのものをなくすようなアイデアも検討していた時期がありますね。
──やはり「エクストラクションシューター」というハードなジャンルの形式だからこそ、難易度についても協議を重ねているわけですね。
二見氏:
そうですね。判断基準としては体験に関係のないストレスが生じるものだったり「ひとつの出来事のストレスで、ユーザーさんがバチっとゲームを辞めてしまう」ような要素は極力排除するように務めました。
いっぽうで、うちの現場の若い子からは「お風呂を早く作れるようにして欲しい」と言われます。
お風呂を作るのはさほど大変ではないと思っているのですが、みんなベイルアウトを忘れてしまうようです。
片岡氏:
僕としては、そういった体験もして欲しいですね。
というのも、ゲームが上手くなってしまえば「ベイルアウトに失敗して、髪がアフロになったメイガス」には会えなくなってしまうからです。
子供がおむつをしている時期が貴重なように、メイガスがアフロの時期も決して長くは無いんです。だから、今この瞬間を大事にして欲しいです(笑)
──その時々は苦しいかもしれないけど、その苦しい時期こそが、貴重な思い出であると。
二見氏:
たとえば他のエクストラクションジャンルの作品では、PvEのマップに慣れてから、PvPvE形式で遊ぶ作品もあると思います。
でもそうなると「ここに敵がいたな」「ここに今度いってみようかな」というように少しずつ学習したり、思うままに旅をする感覚を、なかなか得られないと思っているんです。
だから「横にいる友達と、成長しながら遊んでいく」体験を重視した結果、今のかたちになっていますね。チュートリアル自体も用意しているので、導入で必要以上に苦労をすることも無いと思っています。
──製品版にはソロプレイ用の「アメイジア事故調査委員会」が用意されていますが、こちらも本編とはセパレートされていますし、歯ごたえのある仕上がりになっていると伺っています。
二見氏:
「アメイジア事故調査委員会」は、中級者向けのチュートリアルのような位置づけです。難しさの理由としては、プレイヤーが意識すべきことが増えているからです。
具体的には、道中で武器を切り替えて、グレネードといった様々な手段を活用しなければクリアできない仕様になっています。そういった理由から、少し難しい「中級者向け」の内容になっていると思いますね。
片岡氏:
難易度に関してですが、「アメイジア事故調査委員会」はオンラインレイドの序盤を体験しないとアクセス出来ないようになっています。なので、基本的には本作ならではの立ち回りを覚えていれば「難しくてクリアできない」ような詰まり方はしないと思います。
──まさに、ある程度ゲームプレイに慣れている方に向けて作られているから、少し難しい内容になっているんですね。
片岡氏:
そうですね。もともとアメイジア事故調査委員会はオンラインレイド上に実装する予定で、オンラインのマップ上で「監視ログ」と呼ばれる映像を集めていくコンテンツになる予定でした。
ただ、僕がチームを再編して開発を進めていく中で、開発スタッフがどんどん育っていったんです。そこでコンテンツの没入感をさらに高めるべく、現在のように「崩壊したアメイジアに潜入し、救助活動を行いながら、映像を回収する」という形式に発展していきました。
片岡氏:
ストーリーは「事故調査委員会を襲撃した盗賊の組織に潜入し、謎を解明する」ことからはじまり、崩壊が続くアメイジアの内部に潜り、何が起きたのかを突き止める様が描かれます。
設定上、ハードな依頼を実行することになるので、緊張感を大事にしています。体験会でのフィードバックをもとに更なる調整をおこなっていますので、僕としては良いバランスになっていると思います。
ねぇ二見さん?
一同:
(笑)
二見氏:
僕としては特にマップの作り方に驚きました。
オンラインレイドでは流動的に状況が変化していく「一期一会」な印象が強いですが、アメイジア事故調査委員会は非常に「ゲームを遊んでいる感じ」が強いんです。
たとえばマップ上で暗いトンネルを通る時にワクワクしたり、アイテムの配置などにもドラマがあるんです。
たとえば「あ、あそこにアイテムが落ちている」と誘導され移動すると、それが罠だったりする。僕も片岡さんの罠にハマってしまい“チキショ~、ディレクターの顔が見てぇ”と思いました(笑)
そういった要素も含めて、オンラインレイドとは一味違う体験ができると思いますし、僕としてもレベルデザインやマップの設計を学ばせて頂きました。
片岡氏:
あと、スタッフが予想よりも頑張ってくれたことで、マップの作り込みは濃密になっていると思います。
たとえば「巨大な地下施設のインフラを支えるには、物資搬入のための巨大なエレベーターが必要だよね」「それを貯蔵する場所は・・・」といった想像を元にステージを構想し、世界観を肉付けしていったんです。だから、僕としても「アメイジアってこういう作りになっているんだ」ってことが、作ってみて分かりました(笑)
結果としてリアリティのある世界になったと思いますので、ぜひ注目して欲しいポイントです。
──ヒリついた戦闘以外の要素も楽しめる点は、まさに『SYNDUALITY』らしい魅力ですね。
片岡氏:
盗賊団の拠点やアメイジアの施設の作り込みは、今でもどんどん進んでいます。シーズンアップデートでステージが追加される予定もあるので、楽しみにしていただきたいです。
二見氏:
そうですね。ハイペースでコンテンツを追加することはできないですが、長い目で見て必要なアップデートは、定期的に続けていくと思います。
エクストラクションジャンルらしい“ヒリつき”のとりこになるプレイヤーも続出
──ちなみに、発売前に実施されたベータテストなどでは、プレイヤーさんの反響はいかがでしたか。
二見氏:
僕としては想定の範囲内というか、1回ハマってしまったら抜け出せない“病みつき感”をすでに提供できているのかなと思います。
ただ意外だったのは、皆PvPが好きじゃないとか、苦手っていう意見も散見されたことですかね。
──血みどろの戦いが巻き起こるかと思いきや、意外と“挨拶でおしまい”なパターンも多いように感じます。
二見氏:
そうですね。ただ、昨今ではさまざまなPvPのゲームが世の中に溢れているわけです。そういった中で『SYNDUALITY』だけ苦手なのか……とも感じました(笑)
ただ、PvPのハードルさえ乗り越えれば、本作ならではの「他人に出会って、撃たれるかも知れないし、良い経験になるかもしれない」という独特の緊張感を味わって頂けると思います。
出会うこと以外にも、他の人に倒された荷物が落ちていて「この辺にヤバい奴が待ち構えてるんじゃないか」と疑心暗鬼になったり、はたまた倒された人の荷物を拾った時の罪悪感だったり、悪いことをしているわけでなくても、いろいろな感情が呼び起こされるはずです。
一度そういった感情を味わうことで、抜け出せなくなっている方が多発している印象ですね。
──まさにエクストラクションジャンルらしい“ヒリつき”のとりこになっていると。
二見氏:
いっぽうで、CBTに参加してくれたユーザーさんの中にはプレイ人口がいないと遊べなくなるんじゃないか、と懸念している方も多いんです。
どう伝えれば良いのか悩んでいますが、本作は仕様上「過疎って遊べなくなる」状態にはかなり成りづらいんです。
──常に解放されているマップに出撃する形式であり、PvPがほとんど無くても成立するわけですよね。
二見氏:
そうですね。日本だけで24人のプレイヤーがいればゲームは全然成立しますし、現時点で24人よりはるかに多い予約数をいただいている状況です。
恐らく人が少なくなることでマッチング時間が伸びてしまった経験があるユーザーさんが多いと思うのですが、仕様上そのようにお待たせすることは起きないんです。
究極的には、一つの地域で2~4人いれば充分に遊べる作品になっているので「過疎によりサービスが早期に終了してしまう」タイプの作品ではないことを、改めて伝えていきたいですね。
──CNTなどの反響やディスコードサーバーを拝見していても、発売前からハマっていた方の存在が印象的でした。
二見氏:
実はONTは、8時間から12時間ほどで遊べるコンテンツしか収録されていないんです。だから初期のCNTから参加して頂いている方は3〜4時間で終わってしまうはずなんですが、先ほどデータを確認したら48時間くらい遊んでくれている方がたくさんいて驚きました(笑)
アンケートを見ると、20〜30時間ほど遊んだ方が最も多くて。一週間でこんなに遊んでいただいたことが凄く嬉しかったです。
もちろん肌に合わなくてすぐにやめてしまった方もいるのですが、長くいる方はとことん遊んでいる。僕もそういった作品に出合うことは凄く少ないので、そういったポテンシャルを持った作品に仕上がっていると思います。
──おかげさまで弊誌のニュース記事なども、発売前からすごい反響をいただいています。
二見氏:
ありがとうございます。かなり本作に気づいてくれている方も増えてきている感覚がありますね。
一応本作は海外だと39ドル、日本だと少し円安で5000円くらいになっていて、いわゆるミドルプライスに設定しています。
というのもやはり「ちょっと触ってみて欲しい」という意図がありまして、払って頂いた金額に対してかなり長時間遊べて、いろいろな体験ができる、リーズナブルな作品になっていると思います。
重厚ロボット版『タルコフ』な新作PvPvEシューター『SYNDUALITY Echo of Ada』CBTの募集が開始https://t.co/616jWBtXT8
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) March 5, 2024
プレイヤーの好みを学習し助言してくれる相棒・メイガスなど緊張感のあるゲームプレイに独自要素を取り入れた期待作。募集は3月19日まで、CBTは3月28日に開幕 pic.twitter.com/0epnIvBOb0
▲過去のCBTに関するニュース記事
──最後に、すでに遊んでいるプレイヤーの方や、これから本作に触れる方へメッセージをお願い致します。
片岡氏:
最初から完成しているオンラインゲームはなかなか存在しないと思うんです。今や絶大な人気を誇る『Apex Legends』や『Fortnite』であっても、初めはどうしても粗削りな部分があったと思います。
オンラインゲームはプレイヤーと共に成長していくものだと考えて居ますので、応援して頂けると凄く嬉しいなと思っています。
なにより、日本で作られる大規模なオンラインシューターは、正直に言えば今後現れない可能性もあると思うんです。だからこそ、このタイトルを共に育てていきたいと本当に思っています。
二見氏:
『SYNDUALITY』は「人とAIのすれ違い」というテーマからスタートしたプロジェクトですが、とくにゲームで表現したいのは「ゲームのキャラクターがプレイヤーのことを見て、認識してくれている」という感覚です。
片岡さんをはじめ色々な人の力をたくさん借りることで、ようやく当初の目標を実現できる作品になりました。
皆で楽しく遊ぶ作品とは少し違うものの「ひとりで遊んでいるのに、だれかと遊んでいるような感覚が得られる」そして「一期一会の体験を得られる」ゲームは珍しく、新しい体験ができる作品になっていると思います。
興味がある人はぜひ一度、本作を触ってみていただきたいと思っていますので『SYNDUALITY Echo of Ada』をよろしくお願い致します。(了)
ふたりのお話を通じて感じるのは、まさに執念と強固な作家性だ。
作家性があるから「やりたいこと」があるし、だからこそプロジェクトは、時に軋む音を立てながらも前進していく。
そうして築き上げられた作品は、プロジェクト自体が辿った道筋にふさわしい固有の旅路を提供する。
記事を通じて本作に興味を持った方は、そんな開発陣の思いや「意味のある鋭利さ」の結晶とも言える世界に飛び込み、自分だけのふたり旅を楽しんでみて欲しい。