甘くは無いが、かなり充実した「初心者ケア」。作りこまれたアメイジアの内部構造
──ちなみに、以前メディア向け体験会に参加した際に、二見さんとしては「もっとハードコアにしようと思った要素もあった」と仰られていたことが印象的でした。
実際に実装を取りやめた要素は、たとえば何がありますか?
二見氏:
もともとマーケットシステムという、メイガスを取引するシステムを考えていました。
そのシステムによって、強奪されたメイガスを取り戻さないといけない仕様になっていて、買おうと思ったら売られてしまうこともあるんです。
売られてしまったときには、また似たメイガスを作るのか、全然違うメイガスを作るのか、悩むようになる。そういったシステムを提案したら、開発陣に「本当にやめてください」と言われてしまいました。
過去にラジオでもユーザーさんに伝えたことがあるんですけど、今では本当にやめて良かったなと思いますね(笑)
──たしかに、陰鬱すぎるかもしれませんね(笑)
二見氏:
たとえば帰ってきたメイガスが「○○さん、ああいうカスタマイズが好きだったらしいんです。あなたもそのカスタムに変えますか?」みたいに、知らない人の好みの話をしたり、帰ってきたら髪型が変わっていたりしたら、純粋に嫌じゃないですか。
それは今の体験とは全く異なるストレスが生じてしまうので、実装していないです。
このほかにも難易度に関して「アイテムのロスト」そのものをなくすようなアイデアも検討していた時期がありますね。
──やはり「エクストラクションシューター」というハードなジャンルの形式だからこそ、難易度についても協議を重ねているわけですね。
二見氏:
そうですね。判断基準としては体験に関係のないストレスが生じるものだったり「ひとつの出来事のストレスで、ユーザーさんがバチっとゲームを辞めてしまう」ような要素は極力排除するように務めました。
いっぽうで、うちの現場の若い子からは「お風呂を早く作れるようにして欲しい」と言われます。
お風呂を作るのはさほど大変ではないと思っているのですが、みんなベイルアウトを忘れてしまうようです。
片岡氏:
僕としては、そういった体験もして欲しいですね。
というのも、ゲームが上手くなってしまえば「ベイルアウトに失敗して、髪がアフロになったメイガス」には会えなくなってしまうからです。
子供がおむつをしている時期が貴重なように、メイガスがアフロの時期も決して長くは無いんです。だから、今この瞬間を大事にして欲しいです(笑)
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──その時々は苦しいかもしれないけど、その苦しい時期こそが、貴重な思い出であると。
二見氏:
たとえば他のエクストラクションジャンルの作品では、PvEのマップに慣れてから、PvPvE形式で遊ぶ作品もあると思います。
でもそうなると「ここに敵がいたな」「ここに今度いってみようかな」というように少しずつ学習したり、思うままに旅をする感覚を、なかなか得られないと思っているんです。
だから「横にいる友達と、成長しながら遊んでいく」体験を重視した結果、今のかたちになっていますね。チュートリアル自体も用意しているので、導入で必要以上に苦労をすることも無いと思っています。
──製品版にはソロプレイ用の「アメイジア事故調査委員会」が用意されていますが、こちらも本編とはセパレートされていますし、歯ごたえのある仕上がりになっていると伺っています。
二見氏:
「アメイジア事故調査委員会」は、中級者向けのチュートリアルのような位置づけです。難しさの理由としては、プレイヤーが意識すべきことが増えているからです。
具体的には、道中で武器を切り替えて、グレネードといった様々な手段を活用しなければクリアできない仕様になっています。そういった理由から、少し難しい「中級者向け」の内容になっていると思いますね。
片岡氏:
難易度に関してですが、「アメイジア事故調査委員会」はオンラインレイドの序盤を体験しないとアクセス出来ないようになっています。なので、基本的には本作ならではの立ち回りを覚えていれば「難しくてクリアできない」ような詰まり方はしないと思います。
──まさに、ある程度ゲームプレイに慣れている方に向けて作られているから、少し難しい内容になっているんですね。
片岡氏:
そうですね。もともとアメイジア事故調査委員会はオンラインレイド上に実装する予定で、オンラインのマップ上で「監視ログ」と呼ばれる映像を集めていくコンテンツになる予定でした。
ただ、僕がチームを再編して開発を進めていく中で、開発スタッフがどんどん育っていったんです。そこでコンテンツの没入感をさらに高めるべく、現在のように「崩壊したアメイジアに潜入し、救助活動を行いながら、映像を回収する」という形式に発展していきました。
片岡氏:
ストーリーは「事故調査委員会を襲撃した盗賊の組織に潜入し、謎を解明する」ことからはじまり、崩壊が続くアメイジアの内部に潜り、何が起きたのかを突き止める様が描かれます。
設定上、ハードな依頼を実行することになるので、緊張感を大事にしています。体験会でのフィードバックをもとに更なる調整をおこなっていますので、僕としては良いバランスになっていると思います。
ねぇ二見さん?
一同:
(笑)
二見氏:
僕としては特にマップの作り方に驚きました。
オンラインレイドでは流動的に状況が変化していく「一期一会」な印象が強いですが、アメイジア事故調査委員会は非常に「ゲームを遊んでいる感じ」が強いんです。
たとえばマップ上で暗いトンネルを通る時にワクワクしたり、アイテムの配置などにもドラマがあるんです。
たとえば「あ、あそこにアイテムが落ちている」と誘導され移動すると、それが罠だったりする。僕も片岡さんの罠にハマってしまい“チキショ~、ディレクターの顔が見てぇ”と思いました(笑)
そういった要素も含めて、オンラインレイドとは一味違う体験ができると思いますし、僕としてもレベルデザインやマップの設計を学ばせて頂きました。
片岡氏:
あと、スタッフが予想よりも頑張ってくれたことで、マップの作り込みは濃密になっていると思います。
たとえば「巨大な地下施設のインフラを支えるには、物資搬入のための巨大なエレベーターが必要だよね」「それを貯蔵する場所は・・・」といった想像を元にステージを構想し、世界観を肉付けしていったんです。だから、僕としても「アメイジアってこういう作りになっているんだ」ってことが、作ってみて分かりました(笑)
結果としてリアリティのある世界になったと思いますので、ぜひ注目して欲しいポイントです。
──ヒリついた戦闘以外の要素も楽しめる点は、まさに『SYNDUALITY』らしい魅力ですね。
片岡氏:
盗賊団の拠点やアメイジアの施設の作り込みは、今でもどんどん進んでいます。シーズンアップデートでステージが追加される予定もあるので、楽しみにしていただきたいです。
二見氏:
そうですね。ハイペースでコンテンツを追加することはできないですが、長い目で見て必要なアップデートは、定期的に続けていくと思います。
エクストラクションジャンルらしい“ヒリつき”のとりこになるプレイヤーも続出
──ちなみに、発売前に実施されたベータテストなどでは、プレイヤーさんの反響はいかがでしたか。
二見氏:
僕としては想定の範囲内というか、1回ハマってしまったら抜け出せない“病みつき感”をすでに提供できているのかなと思います。
ただ意外だったのは、皆PvPが好きじゃないとか、苦手っていう意見も散見されたことですかね。
──血みどろの戦いが巻き起こるかと思いきや、意外と“挨拶でおしまい”なパターンも多いように感じます。
二見氏:
そうですね。ただ、昨今ではさまざまなPvPのゲームが世の中に溢れているわけです。そういった中で『SYNDUALITY』だけ苦手なのか……とも感じました(笑)
ただ、PvPのハードルさえ乗り越えれば、本作ならではの「他人に出会って、撃たれるかも知れないし、良い経験になるかもしれない」という独特の緊張感を味わって頂けると思います。
出会うこと以外にも、他の人に倒された荷物が落ちていて「この辺にヤバい奴が待ち構えてるんじゃないか」と疑心暗鬼になったり、はたまた倒された人の荷物を拾った時の罪悪感だったり、悪いことをしているわけでなくても、いろいろな感情が呼び起こされるはずです。
一度そういった感情を味わうことで、抜け出せなくなっている方が多発している印象ですね。
──まさにエクストラクションジャンルらしい“ヒリつき”のとりこになっていると。
二見氏:
いっぽうで、CBTに参加してくれたユーザーさんの中にはプレイ人口がいないと遊べなくなるんじゃないか、と懸念している方も多いんです。
どう伝えれば良いのか悩んでいますが、本作は仕様上「過疎って遊べなくなる」状態にはかなり成りづらいんです。
──常に解放されているマップに出撃する形式であり、PvPがほとんど無くても成立するわけですよね。
二見氏:
そうですね。日本だけで24人のプレイヤーがいればゲームは全然成立しますし、現時点で24人よりはるかに多い予約数をいただいている状況です。
恐らく人が少なくなることでマッチング時間が伸びてしまった経験があるユーザーさんが多いと思うのですが、仕様上そのようにお待たせすることは起きないんです。
究極的には、一つの地域で2~4人いれば充分に遊べる作品になっているので「過疎によりサービスが早期に終了してしまう」タイプの作品ではないことを、改めて伝えていきたいですね。
──CNTなどの反響やディスコードサーバーを拝見していても、発売前からハマっていた方の存在が印象的でした。
二見氏:
実はONTは、8時間から12時間ほどで遊べるコンテンツしか収録されていないんです。だから初期のCNTから参加して頂いている方は3〜4時間で終わってしまうはずなんですが、先ほどデータを確認したら48時間くらい遊んでくれている方がたくさんいて驚きました(笑)
アンケートを見ると、20〜30時間ほど遊んだ方が最も多くて。一週間でこんなに遊んでいただいたことが凄く嬉しかったです。
もちろん肌に合わなくてすぐにやめてしまった方もいるのですが、長くいる方はとことん遊んでいる。僕もそういった作品に出合うことは凄く少ないので、そういったポテンシャルを持った作品に仕上がっていると思います。
──おかげさまで弊誌のニュース記事なども、発売前からすごい反響をいただいています。
二見氏:
ありがとうございます。かなり本作に気づいてくれている方も増えてきている感覚がありますね。
一応本作は海外だと39ドル、日本だと少し円安で5000円くらいになっていて、いわゆるミドルプライスに設定しています。
というのもやはり「ちょっと触ってみて欲しい」という意図がありまして、払って頂いた金額に対してかなり長時間遊べて、いろいろな体験ができる、リーズナブルな作品になっていると思います。
重厚ロボット版『タルコフ』な新作PvPvEシューター『SYNDUALITY Echo of Ada』CBTの募集が開始https://t.co/616jWBtXT8
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) March 5, 2024
プレイヤーの好みを学習し助言してくれる相棒・メイガスなど緊張感のあるゲームプレイに独自要素を取り入れた期待作。募集は3月19日まで、CBTは3月28日に開幕 pic.twitter.com/0epnIvBOb0
▲過去のCBTに関するニュース記事
──最後に、すでに遊んでいるプレイヤーの方や、これから本作に触れる方へメッセージをお願い致します。
片岡氏:
最初から完成しているオンラインゲームはなかなか存在しないと思うんです。今や絶大な人気を誇る『Apex Legends』や『Fortnite』であっても、初めはどうしても粗削りな部分があったと思います。
オンラインゲームはプレイヤーと共に成長していくものだと考えて居ますので、応援して頂けると凄く嬉しいなと思っています。
なにより、日本で作られる大規模なオンラインシューターは、正直に言えば今後現れない可能性もあると思うんです。だからこそ、このタイトルを共に育てていきたいと本当に思っています。
二見氏:
『SYNDUALITY』は「人とAIのすれ違い」というテーマからスタートしたプロジェクトですが、とくにゲームで表現したいのは「ゲームのキャラクターがプレイヤーのことを見て、認識してくれている」という感覚です。
片岡さんをはじめ色々な人の力をたくさん借りることで、ようやく当初の目標を実現できる作品になりました。
皆で楽しく遊ぶ作品とは少し違うものの「ひとりで遊んでいるのに、だれかと遊んでいるような感覚が得られる」そして「一期一会の体験を得られる」ゲームは珍しく、新しい体験ができる作品になっていると思います。
興味がある人はぜひ一度、本作を触ってみていただきたいと思っていますので『SYNDUALITY Echo of Ada』をよろしくお願い致します。(了)
ふたりのお話を通じて感じるのは、まさに執念と強固な作家性だ。
作家性があるから「やりたいこと」があるし、だからこそプロジェクトは、時に軋む音を立てながらも前進していく。
そうして築き上げられた作品は、プロジェクト自体が辿った道筋にふさわしい固有の旅路を提供する。
記事を通じて本作に興味を持った方は、そんな開発陣の思いや「意味のある鋭利さ」の結晶とも言える世界に飛び込み、自分だけのふたり旅を楽しんでみて欲しい。