“推しメン休暇“のジークレストは産休育休復帰率が100パーセント──ゲーム業界で働く女性クリエイターのいま

 女性向けアプリゲームの市場規模はじつに数百億~1千億円とも言われています。ゲーム業界には男性のクリエイターが多い印象ですが、女性の“キュン心”をゲットするためには、乙女心を華麗に紡ぎ出す女性クリエイターの存在が必要不可欠です。

 とはいえ“ゲーム業界”といえば、納期に追われ泊まり込み、寝る間もなくヘアサロンにすら行けないほど、グロッキーになりながら仕事に追われている……。そんな勝手なイメージを抱いてしまうほど、ハードな仕事という印象がある方も多いのではないでしょうか?

 そこで今回は、女性クリエイターが数多く在籍し、福利厚生がかなり充実しているという噂ジークレスト「女性向けゲーム業界で働く女性たちのいま」について伺いました。
 ジークレストは、全世界で1000万ダウンロードを突破した『夢王国と眠れる100人の王子様』(以下、『夢100』)や『茜さすセカイでキミと詠う』(以下、『アカセカ』)など、人気ゲームを手がける企業。

 代表取締役社長である大辻純平氏と、『アカセカ』のコンテンツプロデューサーを務める西山葉月氏がお相手です。

文/渡邉千智
構成/かなぺん


“インプット”の時間を大切にするように整えられた社員制度

──女性向けゲームが多数リリースされるなかで、クリエイターにも女性が増えてきたように感じています。そこで、“女性が働くゲーム業界の現場”について、いろいろお伺いしにきたのですが……。
 まず、御社のエントランスに足を踏み入れた瞬間にとてもいい香りが漂ってきて驚きました。

東京都渋谷にあるジークレストのエントランス風景。心落ち着く香りが漂っている。

大辻純平氏(以下、大辻氏):
 エントランスはアロマを焚いているんですよ。外部のお客様や、面接を受ける方など沢山の人が利用する場所なので、少しでもリラックスしてくれると良いなと思い導入しました。エントランスだけでなく、お手洗いには香りの良いSABONやTHANN【※】のハンドソープを置いています。

※SABONやTHANN
SABONはイスラエルのボディケアブランド。2008年の日本上陸以来、香りやパッケージの可愛さが話題となり女性たちに大人気。THANNはタイ生まれのナチュラルスキンケアブランド。男女兼用なデザインでグッドデザイン賞にも輝いている。

──会社のハンドソープがSABONやTHANN! どちらも女性に大人気のスキンケアブランドですね。お手洗いはホッとする場所でもあるので、そこで気分転換ができるのはいいですね!

大辻氏
 ハンドソープは飽きないように定期的に種類を入れ替えています。その他には、ハンドクリームや化粧水ミスト、ヘアオイルなどを設置しています。最初は女子トイレだけに設置していたのですが、「SABONのハンドソープを入荷しました」といった告知をしたら、「男子トイレにも設置してほしい!」という意見をもらって、いまはどちらのトイレにも同じものを置くようにしています。
 「女性が働きやすい会社にしなきゃいけない」と考える一方で、「男性が働きづらくてもいい」というわけではありませんから、女性のために取り入れた福利厚生は、男性も受けられるようにしています。

──オフィスもとても清潔感にあふれていますね。こちらに移転されたのは2017年の8月と伺いました。移転のときも社内で「オフィスプロジェクトチーム」が発足し、新オフィス作りには社員の声が反映されているとか。

大辻氏
 そうですね、社内のデザイナー、エンジニア、プランナーなど様々な職種の社員を交えてオフィスプロジェクトチームをつくり、カフェのデザインや、本棚に設置する本など一緒に考えていきました。移転のタイミングで福利厚生も見直そうということになったので、事前に「オフィス移転と福利厚生についてのアンケート」を取り、社員の声を反映して仕事のしやすい環境づくりを整えていきました。

──勝手なイメージなのですが、ゲーム業界といえば、“本当に忙しくて、ヘアサロンもネイルも行けない!”という状況なのかと思っていたので、失礼ながら驚きが隠せません。

大辻氏
 そんなに過酷なイメージですか? と言いたいところですが……そういうイメージは確かにあるかもしれませんね。

──そうなんです。ところが西山さんを含め、すれ違う女性の方々が可愛らしいネイルをされていたり、凝ったヘアアレンジをされていたりで、「あれ? ゲーム業界の会社に来たんだよな?」と二度見してしまいました。

大辻氏
 そうしたゆとりを持ってもらうために、いまは社員が早く帰れるような取り組みを会社全体で行っています。もちろん、リリース前やイベントの時期によっては仕事が忙しくなったり、ときにはイレギュラーが発生してしまったりということはありますが……それはゲーム業界以外でもあることだと思います。

西山葉月氏(以下、西山氏):
 ガラケー(ガラパゴスケータイ)のモバイルゲームが主流だったときは、ひとりでやる仕事も多く、制作体制が整っていなかったからかもしれません。でも、スマホのアプリゲームが主流となると、数十人規模のチームでお互いに協力しながら開発を進める必要があるので、いまではどの会社もやり方が確立してきていて、業界全体が「ゆとりをもって仕事をする」という方向になっている印象です。ですので、私も遅くまで会社にいると指摘されてしまいうのですが……。

大辻氏
 僕から「この時間には帰ってね」って言うんですけど……。

西山氏
 「え!? もっと仕事をやりたいんです!」って(笑)。

大辻氏
 このあたりは、ゲーム業界に限らず、経営者たちからすると複雑な問題ですね。
 会社としては社員に「安心して長く働いてほしい」と思っているので、環境を整えることに力を入れています。また、ひとりに負荷がかかりすぎないよう業務内容を把握・改善して、仕事量を適切に保つように努めています。

「全メンバーがワンフロアに常駐できる環境がいい」という社員の声が採用され、コミュニケーションがとりやすいフロアになっている。

──それは、いわゆる“働きかた改革”の一環ということですか?

大辻氏
 それもありますが、仕事を終えた後の時間をインプットのために使ってもらいたいんです。

西山氏
 新しいインプットがないとアウトプットものもどんどん偏ってしまいますからね。

──創造するためには引き出しが必要で、それが出来るのは、机の上ではないと……。

西山氏
 私は、わりと仕事で自分を追い込んでしまうタイプなんですけれど(笑)、休みの日はインプットに繋がる時間を作ろうと意識しています。流行っているアニメやゲーム、漫画などはもちろんよく見ているのですが、幅広くいろいろなものに触れたいと思っていて、最近だと、メンタリストDaiGoさんの動画をよく観ています。

 仕事や恋愛など興味を惹くテーマが多いのですが、DaiGoさんは根拠を示しながらすごいスピードで話を進めていくので、とても効率よく勉強をしている気分です。心理学の分野の話は、キャラクターを作る際に活かせそうな発見をすることもあって面白いですね。

──西山さんが携わっている『アカセカ』には“ツクヨミ男子”と呼ばれるカレが60名以上……。たとえば、“オレ様系”といっても、いろんなオレ様が存在しているように感じています。
 そういったキャラクターの魅力を引き出し、違いを明確にするためには、日々のインプットが重要ということなんですね。

西山氏
 そうですね。『アカセカ』のシナリオチームでは月に一度みんなで集まって何かするようにしています。
 たとえば、テレビで見るような足ツボマッサージやビアガーデン。新しい場所に行って、いろいろな人に出会うことで「シナリオに活かせそう!」という発見が山ほどあります。
 当たり前かもしれませんが、インプットというのは本を読んで勉強するだけでなく、そうした新たな”体験”からも得られるんだと思います。

 弊社には「推しメン休暇」という制度があって、インプットの機会として社員から好評なんですよ。

──「推しメン休暇」? 聞き慣れない単語ですが、その名前のとおり推しのキャラクターのために休暇がもらえるということですか?

大辻氏
 そうです。自分のイチオシメンバーの記念日に休暇が取得できるという福利厚生です。アニメや漫画のキャラクター、声優やアイドルなど自分の推しメンであれば利用できます。
 これも目的は、インプットの時間をちゃんと取ってほしいということ。「インプットの時間を取るために、会社を休んでもいいですよ」というメッセージを込めています。

──愛する推しのために休暇がもらえるなんて羨ましいです……。とはいえ、制度はあっても使う人がいないと成り立たないと思うのですが、堂々と休みが取れる環境なのでしょうか?

西山氏
 堂々と休めます! 実際に「推しメン休暇」を使っている人はけっこういますよね。2.5次元ミュージカルに行ったり、声優やアイドルのライブやイベントに行ったり、推しキャラの誕生日にケーキを作ってお祝いしたり。もちろん、男性社員も使っています。

大辻氏
 あくまで「推しメン」に使ってほしいので、友達の誕生日などは普通の有給と変わらないのでNGですけどね(笑)。先日は「お笑い芸人のライブに行きたい」という人もいました。「それは推しメンに入るのか?」と思いましたが、許可しましたね。導入からまだ1年経っていない制度ですが、すでに27人がこの休暇を使っています。

西山氏
 年に一度の休暇なので、私はどの推しメンに使おうかまだ悩んでいます。「ここぞ!」というときに取っておこうと思っていて。

──推しがたくさんいると、誰に使うか悩んでしまいそうですね(笑)。

大辻氏
 ええ(笑)。ほかにも「ガールズイベント参加補助」という制度もあります。これは女性向けゲーム開発に役立ちそうなイベントの参加費用を会社が負担するものです。

西山氏
  私は先日、「ガールズイベント参加補助」でVRライブに行ってきました。
 この制度を使ったら、レポートを書いてほかの社員にフィードバックするルールなんです。自分が行かなかったイベントでも、ほかの社員のレポートを読むことで、いろいろな学びや発見がありますね。
 『夢100』も『アカセカ』も、声優さんに登壇していただくようなリアルイベントを開催することがあるので、いろいろなコンテンツのイベントに参加して、お客様の気持ちを理解することが重要だと考えています。

「女性向けゲーム」の制作現場で働くには、“ゲーム業界”出身じゃなくてもいい?

──そういうお話を伺うと、「私もゲーム業界で働けたら!」という方がもっと増えていく気がします。そもそも女性向けゲームに携わる人はどいう経歴の人が多いのでしょうか? たとえば西山さんはどのような経緯でジークレストに入社されたのですか?

西山氏
 私の場合、大学を卒業後、まず別のゲーム会社で3年間プランナーとしてモバイルゲームの運用をしていました。
 その後、ジークレストに転職したんです。最初はプランナーとして『夢100』の企画を作っていましたが、いまは『アカセカ』のコンテンツプロデューサーという形で、世界観設定やシナリオ、キャラクターに関するプロデュースを担当しています。

──前職もゲーム業界とのことですし、就学中に「将来はゲーム業界へ……」と決めていたのでしょうか。

西山氏
 いえいえ。もともと漫画は好きだったのですが、ゲームをやるタイプではなくて。ところが大学生のときに『幕末志士の恋愛事情』【※】というゲームにハマり、ゲーム業界を強く意識するようになりました。
 当時はあまりにキャラクターに感情移入しすぎて、電車に乗っているときも推しのことを考えて涙が出そうになるくらいでした。恋煩いのような感じで、何も手につかなくなってしまって(笑)。そのときに、「こんな風に人の心を動かすコンテンツを作りたい」と思うようになったんです。

※『幕末志士の恋愛事情』
2009年11月9日から2011年2月28日までStyleWalker、2011年3月1日からはタイトーが配信していた携帯端末・スマートフォン向けゲーム。幕末に活躍した維新志士たちと恋愛が楽しめる恋愛シミュレーションゲーム。小説化やドラマCD化などもされた。

──大学時代にゲームと出会ったということは、ゲームとはまったく関係ない学部だったのですか?

西山氏
 大学は経営学部でした。学生時代に女性向けゲームに出会い、ゲーム業界を目指す方向にシフトしたという感じです。

──「専門的にゲームを学んでいないとゲーム業界に就職できない」というわけではないんですね。

大辻氏
 そうですね。西山もですが、プランナーとして働いている社員たちは、必ずしもゲームの専門学校などの出身ではありません。
 ゲームを完成させるにはイラスト、シナリオ、3DCGなどを作る必要がありますが、全部をひとりで手がけるのは無理です。僕らはチームで作ることを大事にしているので、「何か必ず専門的な技術を持っていないといけない」ということはありません。もちろんイラストなどの専門職になると、経験がないと厳しいかもしれませんが……。

 「こういうものを作りたい」、「お客さんに楽しんでほしい」という気持ちのほうが大事だと思います。西山のようにプランナーからシナリオ制作に異動した社員もいるので、入社後の職種の転向も可能です。

──異業種からの転職だと、どういう職歴の方がいらっしゃるのでしょうか?

大辻氏
 不動産の営業から転職した社員は、プランナーをしています。最初は苦労すると思いますけど、未経験でも気持ちがあればできる仕事なんです。
 とくにいまは新規事業を展開していることもあり、採用にはかなり力を入れています。

──そういえば、8月4日には「女性向けゲーム制作のこだわり 女性の心を掴む世界観作りとは」というセミナーが開かれていましたね。

クリーク・アンド・リバー社と株式会社ジークレストの共催で女性向けゲームの開発秘話が聞けるセミナーが8月4日に開かれた。
(画像は女性向けゲーム制作のこだわり 女性の心を掴む世界観作りとはより)

大辻氏
 そうですね。セミナーもいろいろな種類を開催していますが、8月4日に開催したセミナーは採用を意識したものです。そのため、懇親会の時間には、希望者の面談を行いました。
 一方、定期的に開催している「Girls Game MEETS」【※】は、ジークレストという会社だけでなく、女性向けゲームを作る人たちが困ったときに相談し合えたり、いろいろなことを話合えるような場にしていきたいと開催しています。

9月19日に開催された「Girls Game MEETS 企画編 A3!&夢 100 女性向けゲームの世界観設計&運用秘話」
※Girls Game MEETS…ジークレストが開催する、女性向け作品に携わるクリエイターの交流をメインとしたセミナーイベント。
(画像は【セミナー情報】女性向け作品に携わる企画職向けに 「A3!」「夢王国と眠れる100人の王子様」の世界観設計や運用秘話を語る セミナーを2018年9月19日(水)に開催 | 株式会社ジークレストより)

──なるほど! 採用がメインのものからゲーム業界の交流会までさまざまなのですね。では、ジークレストにおいて「こういうものを作りたい」という思いの強さが大切ということでしょうか。

大辻氏
 一次面接では面接に来てくれた方と同じ職種の社員が出て、技術面をチェックすることが多いです。私が行う最終面接では、スキルの評価より、どういう思いを持っていて将来どうなっていきたいのか、ジークレストで働くことによってその人自身のやりたいことや成長につながるかどうか、会社に馴染んで一緒に働いてくれそうか、という部分を見ています。

 よりお互いのことを知るために選考段階でご飯にいくこともあります。転職は人生に大きく関わるものなので、ジークレストのことをよく知ってもらい、判断材料にしてもらえたらと思っています。
 入社後も、僕の人柄も理解してもらいたいと思っているので、飲みに行って話をしたりしますよ。

──えっ!? 社長と社員が飲むんですか?

大辻氏
 そうです。歓迎会や目標達成飲み会など、社員と飲みにいく機会が多くて、週に2~3回くらいは社員との飲み会ですね。

──女性向けゲームを作る会社ですから、やはり社員は女性のほうが多いのでしょうか?

大辻氏
 女性は6割です。シナリオとグラフィックのメンバーに女性が多く、企画とエンジニアは男性が多いです。

──それなりに仕事をこなせ、体力もある20代~30代の女性は、仕事に励む一方で、結婚、出産、子育てという人生の転機が訪れることもありますが、女性が多いとそのあたりはいかがでしょうか? 社会ニュースでも産休育休の復帰などがたびたび話題にあがったりしています。

大辻氏
 じつは、ジークレストは産休育休復帰率100パーセントなんです。

──ひゃ……100パーセント!?

大辻氏
 そうです。デザイナーやエンジニア、マネジメント職に就いているママ社員などさまざまな職種や立場の社員がいます。復帰後は時短勤務が可能です。

2016年に内閣府より発表された「「第1子出産前後の女性の継続就業率」によると2010年~2014年の第一子出産後の職場復帰率は約40パーセント。約33パーセントの女性が出産に伴い職場を退職している。
(画像は「第1子出産前後の女性の継続就業率」の動向関連データ集|仕事と生活の調和連携推進・評価部会(第39回) 仕事と生活の調和関係省庁連携推進会議 合同会議 – 「仕事と生活の調和」推進サイト – 内閣府男女共同参画局より)

──何か特別なことをされているのでしょうか?

大辻氏
 会社としての制度もそうですが、なにより時短勤務の社員に対して「え、何でこの人早く帰るの?」という雰囲気になることがありませんね。

──ルールがあっても雰囲気がともなってない場合、なかなか難しいですもんね……。職場の空気というのは、明文化したところで簡単に変わらないので、とても大切なものだと思います。

大辻氏
 産後復帰が当たり前の職場だからこそ、子どもが産まれてからも「こういうふうに仕事をしたい」、「もっとキャリアアップしていきたい」という思いを強く持って自分のやりかたで働けるように、会社としてそういう環境を整えています。

──先輩方のそういう姿を見ていると、後輩が出産後のキャリアについて不安に感じることがなく、人生のプランニングが想像しやすいように感じます。

ゲーム制作においても“女性が感じる気持ち”に耳を傾ける

──ここまでは、ジークレストで働く環境について伺ってきましたが、それらを作り上げている大辻さんは、そもそもサイバーエージェントの本体にいらしたそうで。どういう経緯でジークレストの代表取締役社長に就任されたのでしょうか。

大辻氏
 サイバーエージェントでは、アメーバブログの収益を上げるためのマネタイズをする部署にいました。そんななか、毎週、頼まれてもいないのに社長の藤田(普)【※1】に新規事業を提案していて、その中のひとつにゲーム事業があったんです。そこからゲームに携わるようになり、『ガールフレンド(仮)』【※2】『ボーイフレンド(仮)』【※3】を作るようになりました。

 そのあと、『オルタナティブガールズ』【※4】を運営・開発しているグループ会社のQualiArts(クオリアーツ)の取締役になり、ちょうど『アカセカ』のリリース直後くらいにジークレストに異動して代表をしています。

(画像はAmeba(アメーバ)より)

※1 藤田 晋
サイバーエージェント代表取締役社長。日経ビジネスの「社長が選ぶベスト社長 2017」にも選任されている。

※ 2『ガールフレンド(仮)』
2012年10月29日にリリースされたスマートフォン向け学園恋愛ゲーム。学園を舞台に、さまざまなガール(キャラクター)との恋愛が楽しめる。2014年10月にはテレビアニメも放送された。

※3 『ボーイフレンド(仮)』
2013年12月13日にリリースされたスマートフォン向けゲーム。『ガールフレンド(仮)』の女性向け版でカレ(キャラクター)との恋愛が楽しめる。2016年11月には、リズムゲーム版の『ボーイフレンド(仮)きらめき☆ノート』が配信された。

※4 『オルタナティブガールズ』
2016年7月20日にリリースされたVRモード搭載のスマートフォン向けゲーム。美少女たちが夜獣(ナイトビースト)たちと戦うRPG。2018年7月アップデートが実装され、『オルタナティブガールズ2』へとリニューアルした。

──同じゲームとはいえ、美少女ゲームと女性向けゲームではプレイヤーが求めるものが違うように感じますが、女性向けゲームを作るにあたって、難しさや抵抗を感じることはありませんでしたか?

大辻氏
 サイバーエージェントでゲームを作っていたときに、ペットの育成ゲームや、料理ゲーム、ホストに通うゲームなど女性向けのサービスも作っていたので、抵抗を感じることはなかったです。

──では女性の心を掴むものを作るためのリサーチは、どのようにされていたのでしょうか?

大辻氏
 そういう意味では、西山もそうですが、ものを作る才能がありそうな人たちを見つけ、どう制作に集中してもらうかを考えていた部分が大きいので、自分では「女性が心惹かれるもの」の感覚が本当にわかるわけではないんですよね。

 もちろん、女性社員と話をするうえでの最低限の知識は入れていますが、感覚的に「それがいい」とわかるわけではないので、そこは割り切っています。
 そういうときは「このキャラクターって何がいいの?」とか「このコンテンツは何で人気なの?」とか、わからないことはスタッフによく聞きますね。

──職場環境のお話のときにも感じましたが、制作現場でも大辻さんは“耳を傾ける”ということを大切にされているのですね。

西山氏
 『アカセカ』についてもよく話しますよ。シナリオの魅力を考えていて「恋人状態でスタートするシナリオを新たに作っていきたい」と相談したときは、いろいろと説明をして「女性の心を掴めるのなら」という返事をもらいました。

『茜さすセカイでキミと詠う』の名台詞

(画像は【アカセカ】茜さすセカイでキミと詠うCM「俺のそばにいろって言ってんだろ」篇 – YouTubeより)

織田信長「天下もお前も、すべて俺のものだ!」
聖徳太子「お前と俺の十七条憲法聞きたいか?」
鑑真  「君の瞳に、合掌」

大辻氏
 例えば「(シナリオの)糖度を上げる」と言う意味が最初はわからなくて、「”糖度“って何? それはキャラクターとの距離が近いこと?」と聞いたり。
 「いやいや、こういうことです」と説明してもらい、「そういうことか」と納得する。僕も勉強しながらやっています。

──確かに、女性であればキャラクターと恋愛を楽しむときのキュンとする度合いが感覚的に判りますが、男性からすると、「糖度? 甘さって何だ?」と思うかもしれませんね(笑)。

大辻氏
 同じ恋愛を取っても、男性から見るものと女性から見るものって全然違うので。

西山氏
 違いますね。

大辻氏
 自分の感覚で解ったフリをするのがいちばん危険なんです。「こう思ったよ」という感想は伝えますが、「女性から見てどうか」というのは、西山やほかのメンバーからの意見を聞いたほうがいいなと。

(画像は【アカセカ】茜さすセカイでキミと詠うCM「俺のそばにいろって言ってんだろ」篇 – YouTubeより)

──意見を広く取り入れたうえで、ゲームを詰めていくと。具体的にはどういう部分に重要性を感じ、注力しているのでしょうか?

大辻氏
 世界観やキャラクターを守って大切にすることを心がけています。
 ただ、僕がプランナーや開発チームとよく話すのは、「キャラクターと世界観で勝負をしたいけれど、“ゲームが面白くなくてもいい”わけではない」ということ。よりキャラクターが魅力的に見えるようにゲームを作っているという意識は大事にしています。

(画像は【アカセカ】茜さすセカイでキミと詠うCM「恋の歴史をパズルで刻め」篇 – YouTubeより)

 『夢100』をリリースしたころ、多くのパズルゲームが配信されていましたが、“シナリオがついたパズルゲーム”はいまほど多くありませんでした。
 『夢100』と『アカセカ』のゲームのジャンルはRPGですが、「コマンドを入れてスキルを指定して」という複雑な作業が発生するものより、「パズルを消していくうちにRPGを体験できていた」というもののほうが気軽にプレイしやすいと思います。

西山氏
 そうですね。「ストーリーで感じた世界観への没入がパズルゲームで削がれないように」という点はプランナーとも密に話しています。
 例えば、ストーリーで雨が降っていたらマイページでも雨が降りはじめる……という風にすれば、ストーリーパートとゲームパートの体験に繋がりますよね。シナリオとゲームの一体感は、お客様により没入してもらうために意識して工夫するようにしています。

──“女性たちがプレイしやすく楽しいゲーム要素”という点に関しても女性クリエイターたちの意見が多く取り入れられているのですね。

──最後に会社の動向も伺わせてください。現在、『夢100』は中国、台湾、韓国、タイ、『アカセカ』は韓国、台湾と、海外でも配信されています。『夢100』は、2018年8月に世界1000万ダウンロード突破記念イベントが開催されたり。そういった海外意識も当初からあったのでしょうか?

大辻氏
 アジアで日本のコンテンツがウケるという傾向は、数年前からスマホゲーム業界の中ではありました。いまはとくに中国で日本の女性向けゲームが人気です。
 『A3!』『あんさんぶるスターズ!』『刀剣乱舞-ONLINE-』も配信されていますが、中国進出は『夢100』がかなり早かったんです。女性向けゲームが中国で伸びる前からリリースしていました。

中国配信3周年の特設サイト

──キャラクターを演じるのは日本の声優さんですね。

大辻氏
 テキストは翻訳していますが、基本的にボイスは日本語のままですね。アジアでは日本で人気なものが流行っていて、日本の声優さんは海外でも人気です。日本語でしゃべっている声がいい、というファンの方が多いんです。
  また、『夢100』には海外限定の王子を登場させているのですが、現地のパブリッシャーさんと「こういうキャラにしたら人気が出そう」と話し合いながら作っています。

西山氏
 『アカセカ』の場合は、和風の世界観や着物の豪華さ・綺麗さが魅力だと思っているので、現状はそのまま海外に展開しています。

大辻氏
 いろいろな国で愛されているというのは僕らとしても嬉しいことですし、今後もアピールしていきたいですね。

──先日発表された、2019年春配信予定の新作『星鳴エコーズ』【※】は、夢100』や『アカセカ』とは異なり、メインの要素が恋愛ではなく、友情や努力とのこと。
 ジークレストの女性向けゲームといえば“恋愛”というイメージだったので、新たな挑戦とも感じます。新作『星鳴エコーズ』に込めた思いを教えてください。

※『星鳴エコーズ』(ほしなりえこーず)
2019年春配信予定のジークレストによる新作スマホアプリゲーム。ゲームのテーマは『共鳴』。少年少女の群像劇が描かれており、男性キャラクターだけでなく女性キャラクターも登場する。プレイヤーはセプター養成学校「星鳴学園」の教師となり、選抜クラスが集う「スピカ寮」の担当者に。生徒たちを見守りながら共にさまざまなハードルを越えていく『共鳴』育成シミュレーションゲーム。公式サイト:https://www.hoshinari.jp/ Twitter:https://twitter.com/hoshinari_pr

大辻氏
 『星鳴エコーズ』は約2年ぶりのジークレストの新作ゲームタイトルになります。『夢100』や『アカセカ』はキャラクターとの恋愛がメインのゲームでしたが、『星鳴エコーズ』はキャラクター同士の成長への共感や関わり合いがテーマと、今までのジークレストのタイトルとはまた違った面白さがあると思います。
 ぜひ公式サイトや、Twitterで情報をチェックしてみてください。(了)


 「ジークレスト」の名前は、女性向けゲームのプレイヤーであれば、必ず聴いたことがあると思います。
 今回のインタビューを通じて、「愛される作品を世に送り続けるため」の秘訣には、キモである“作品がユーザーに支持されるものであり続ける”という大前提のほかにも、作り手であるクリエイターたちが、心のゆとりをもって作品に携われる環境が大切であるということに改めて気付かされました。

 とはいえ、ジークレストのように産休育休復帰100パーセントという環境を整えるのは「言うは易く行うは難し」ではないでしょうか。働きかた改革や、「すべての人が活躍できるチャンスを創出」と一億総活躍社会が叫ばれる一方で、保育園の待機児童問題など、“整わない環境”があることも事実。

 女性向けゲーム制作には、ファンのキュン心を理解した女性クリエイターが多く携わっています。だからこそ、結婚や出産を経ても働くプランニングをイメージしやすい環境作りが今後ますます大切になるでしょう。

(C) GCREST, Inc.

【あわせて読みたい】

 

「好き」が高じて溢れんばかりのキャラクターグッズと生活する“堕落部屋”を女子はなぜ作るのか? 「好き」って何?

 この“堕落部屋”と名付けられたマニアックな部屋を紹介する理由は、堕落部屋の住人であるナナイ氏から、「これまでにも“堕落部屋”は各所で取り上げられてきましたが、“否定”から始まるものがほとんどでした。コンテンツに傾倒する女の子個人個人もまた魅力的で面白いので、クリエイターの皆さんから浴びた光を受けて芽生えた小さな芽を是非、紹介させてください」とのメールが電ファミ編集部に届いたからです。

 そこで、川本氏とナナイ氏のふたりに、“堕落部屋”とは何か、そして“好き”の情熱はどこにあるのかに迫ってみました。
 そして、“堕落部屋”に対する情熱のありかを探るうちに、インタビューが思いも寄らない方向に変化し……。後半では記者が自分の情熱(=堕落っぷり)を逆に訊ねられる顛末となりました……。

関連記事:

乙女ゲーム史に残る名作『薄桜鬼』シリーズ10周年! いまも愛され続けている魅力とは【プロデューサー藤澤経清インタビュー】

キャラクターコンテンツの仕掛け人“お義父さん”こと内田明理はなぜARに行き着いたのか──金髪でバンドを組んでいた青年時代の体験が原点

ライター
渡邉千智
アニメ、ゲーム、声優、舞台系などをメインにインタビュー、記事執筆などを行う編集・ライター。三度のメシと酒と女性向けゲームが好き。学生時代にネオロマンスに影響を受けて以降、気付けば女性向けゲームばかりやっている。
構成
かなぺん
コスプレ雑誌の編集部を経て、電ファミ初の女性スタッフとなった編集者。乙女ゲームと育成ゲームをこよなく愛し、BLゲームを嗜んでいる。2.5次元舞台の観劇とコスプレ撮影が趣味。アニメに影響されフィギュアスケートを習っている。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
電ファミのDiscordでこの記事について語ろう!

関連記事

SNSで話題の記事

新着記事

新着記事

連載・特集一覧

カテゴリ

ゲームマガジン

関連サイト

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ