電ファミの母体のドワンゴが主催している「リアルダービースタリオン」プロジェクト。「『ダビスタ』をリアル世界で再現する」という前代未聞の試みが話題を呼ぶ最中、2月にその母馬を手に入れる「繁殖牝馬セール」【※】の生中継イベントが催されました。
今回、そのセリの現場を、ビジネス・テクノロジーまわりで活躍する若手ライター、長谷川リョーさんにレポートしていただきました。大の競馬好きだという彼が、北海道の現場でみた、数千万円をかけた手に汗握る駆け引きとは…!
※繁殖牝馬(ひんば)セール
子馬を産むためのメス馬を買い付けるセリのこと。
取材・文/長谷川リョー
どうもはじめまして。普段はごりっとしたビジネスやテクノロジーの記事を書くことの多いライターの、長谷川リョーといいます(たとえばこんな記事やこんな記事……)。
人並みに『FF』や『ドラクエ』、はたまた『ウイイレ』や『パワプロ』を嗜みながら育ってはきましたが、ありていに言ってゲームに関しては完全なる一般人、いや素人でしょう。
そんな僕が「ゲーム」という言葉を冠する「電ファミニコゲーマー」という媒体に、なぜか「原稿書かない?」と声をかけられ、「いやいや、書く資格がないのではないか…!?」と苦悩し葛藤しました(といえば言い過ぎなのですが……)。
そして呼ばれた、歌舞伎座タワーの会議室。
編集部の人たちに「そもそも何が好きなの?」と尋ねられ、「いやもう、そりゃ圧倒的に馬っすよ! 馬主になるのが夢なんで」と空気を読まない返答をしたのですが、すると……。
副編集長「馬かぁ……あ、あるよ! “リアルダビスタ”!」
自分「え、え、最高じゃないっすかー!」
それを受けて僕は狂喜乱舞しました。
『ダービースタリオン』――そう、競馬ファンなら誰しもが必ずプレイしたことがある名作ゲームです。むしろ「ダビスタ」をきっかけに競馬ファンになった人も少なくないでしょう。特に僕は、『ダービースタリオン99』と『ダービースタリオンアドバンス』をやり込みました。「ダビスタ」を通じて生産、調教、出走という競馬の一連の流れを学んだことはもちろん、特に血統の奥深さを教えてくれたのも『ダビスタ』でした。
とにもかくにも。そんなこんなで「ドワンゴが“リアルダビスタ”プロジェクトをやっているよ」と聞いた、その2日後……。
僕は雪が降りしきる北海道新ひだか町静内の、北海道市場【※】にいたのでした。
※北海道市場
ジェイエス繁殖馬セールの開催場所。ジェイエス繁殖馬セールとは、ジェイエスが主催して、毎年秋と冬の2回行われる競走馬を引退した繁殖牝馬のセリ市。日本で唯一繁殖牝馬の取引がなされ、出品馬の子孫から重賞級競走馬が数多く輩出されている。
「リアルダビスタ」プロジェクトとは?
これまでにも、馬をみるためだけに北海道の牧場に足を運ぶことは何度かありましたが、セリ(冬季繁殖馬セール)に訪れるのは初めてのこと。このセリは、「リアルダビスタ」プロジェクトとしては放送第2回目となる「母馬を買いに行こう」の回でした。
ここで「リアルダビスタ」とは何なのか、改めて説明をしておきます。
「リアルダービースタリオン」とは、1991年の発売以来、競馬ファンを中心に絶大な支持を集めてきた競馬育成シミュレーションゲーム『ダービースタリオン』を、リアル世界でやってみるという壮大な企画です。
繁殖牝馬の購入、種付け馬の選定、出産、育成・調教、レースデビューまでの競走馬育成を、『ダビスタ』開発者の薗部博之氏をはじめ、先輩馬主や調教師の方にアドバイスをもらいつつも、ユーザーの意見を取り入れながら進めていきます。つまり、その誕生前から引退までの競走馬のすべての物語がニコニコを通じてユーザーに届けられるのです。
順調にいけば、2020年5〜7月頃に、大井競馬場でのデビュー戦がニコニコ動画で生中継されます。この企画を初めて聞いたとき、正直にいうと「え? ドワンゴどうした? 大丈夫か?」とあまりのクレイジーさに笑うしかありませんでした。競馬に全く関心のない人からすれば「バッカじゃねーのか」なんて声も聞こえてきそうですが……競馬ファンからすれば垂涎の企画。企画を決めたことに、僕は大きな拍手を送りたい。ありがとう!
以下が、そこまでの予定スケジュールです。
今回お届けする「繁殖牝馬のセール」はこの一番最初のイベントにあたります。逆にここで落札に成功しないと、最悪来年まで企画が持ち越しになってしまう恐れもあり、この壮大なプロジェクトの成否を占う超重要イベントなのです。
さて、ユーザー主導でイベントが進行していく「リアルダビスタ」の醍醐味は、なんといっても擬似的に馬主の活動を追体験できるということでしょう。
JRA(日本中央競馬会)の規定によれば、個人馬主になるためには……
1. 年間所得額が2年連続1700万円以上
2. 資産額が7500万円以上
という、一般人には厳しい基準が設けられています(地方競馬の馬主であれば、もう少し緩い資格基準となりますが)。
それもそのはず、競走馬の育成には相当な資金が必要なのです。競走馬そのものの価格は血統の良し悪しによりピンからキリまで(安くて数10万円、高くて2億円ほど)ありますが、厩舎預託料【※】や餌代、保険などを諸々含めると、一頭あたり年間700万円前後の維持費がかかってくるのです。
※厩舎預託料(きゅうしゃよたくりょう)
競走馬を、調教師が在籍する施設・組織で管理してもらうための料金。
一方で、40〜500口程度に分割された競走馬の権利を少額から出資できる「一口馬主」のような擬似馬主システムもあります。それでも、生産から引退までの各イベントを本当の馬主として体験できるかというと、必ずしもそうではないのが実情……。
その意味では、繁殖牝馬のセリから(本当の意味で0から100まですべて)体験できる「リアルダビスタ」は、より馬主の実態をリアルタイムで経験できる貴重な企画でもあるのです。それでは、ゲームの『ダビスタ』では決して描かれることのない、競馬の裏の裏を追体験していきましょう!