万札が飛び交う心理戦!? いよいよセリが始まった……!
今回の生放送に参加したのは、ドワンゴ企画担当の石崎崇大さん、放送作家で馬主の村上卓史さん、そしてタレントで競馬アイドルの天童なこさんの3名です。
繁殖牝馬のセールは秋と冬の2回行われますが、冬の方がセリに出される頭数が少ないため、一頭一頭の競り合いが激しくなる傾向にあります(今回は受胎馬11頭、空胎馬13頭、未供用馬14頭、合計38頭が売りに出されました:上場馬一覧)。
セリのルールはいたってシンプル。事前に購買者登録を済ませた参加者たちが10万円単位で入札を行っていきます。
中央の壇上にいる鑑定者が、現役時代の競争成績や兄弟などの近親馬情報などのセールスポイントを一頭一頭読み上げていきます。そんなふうにセリが進行していくのですが、鑑定士だけでは大量にいる購買者を見落としてしまうかもしれません。
そのため、席の区画ごとに「スポッター」と呼ばれる担当者が立っており、購買者の指のサインを見つけ次第、「ウェーイ!」という声を出すのです。鑑定者は、そのスポッターの動きを注視しながらセリを制御していきます。いわゆる魚市場のように、落札者間で怒号が飛び交うということはありません。スポッターの合図を拾いとった鑑定士が価格を淡々と読み上げていき、クライマックスに近づくと語気を強めた鑑定士が煽り気味に上積みの落札額を引き出していきます。
今回、ニコニコが狙う馬はユーザー投票の結果、上記の5頭に決まりました。どの馬もお腹に仔馬を受胎していない、かつ未供用の馬【※1】です。
最もユーザーの支持を受けた「アドマイヤビジン」【※2】は、現役時代はオープン馬で、桜花賞【※3】や秋華賞【※4】といった牝馬クラシック戦にも出走した実力馬。当然、高額での落札が予想されます。落札の価格は馬体、馬齢、血統、毛艶などなど、かなり多くの変数を考慮したうえで値付けがされるのです。
※1 未供用の馬
出走実績がない馬。
※2 アドマイヤビジン
2011年3月24日生まれ。新ひだか町を産地とし、中央獲得賞金は1995万円。通算成績26戦2勝。
※3 桜花賞
日本中央競馬会が阪神競馬場で施行する、中央競馬の重賞競走。牝馬三冠競走(桜花賞・優駿牝馬・秋華賞)のひとつ。
※4 秋華賞
日本中央競馬会が京都競馬場で施行する、中央競馬の重賞競走。牝馬三冠競走(桜花賞・優駿牝馬・秋華賞)のひとつ。
今回、僕ははじめてセリに訪れたのですが、鑑定者の一挙手一投足、発する言葉の一つ一つに迫力と、価格を上げていくためのテクニックを見つけました。推察するに、誰と誰が競り合っているのかを瞬時に見抜き、攻防の間に挟み込むタイミングや文言、語気の強弱でセリをコントロールしているように思われます。
「150万円……200万円…… 350万円ございませんか?」
「良血馬のオーナーになるチャンスですよ。もう一声ありませんか?」
「ラストコール、500万円いただきました!」
と、ギリギリまで価格が上がったら、ハンマーの「カーン」という乾いた音が会場にため息まじりに鳴り響きます。当然すべての馬が高額で落札されるわけではないですが、1000万円前後の熾烈な攻防を終えた直後は、見学者である僕も肩の力が抜けるような緊張感がありました。だとすれば、ニコニコチームとしてユーザーの想いを背負った企画者の石崎さんには推し量れぬプレッシャーがのしかかっていたことは言うまでもないでしょう……。
ニコニコが狙う馬たちはセリの後半での登場だったので、それまではセリの雰囲気や傾向を分析していきます。今回、はじめてセリにやってきたという競馬アイドルの天童なこさんは終始、「いま何が起こったんですか!」と興奮気味で、落札を担当するドワンゴ企画担当の石崎さんも、順番が迫るにつれせわしなく水を飲むなど落ち着かない様子。生放送のコメントでも、「緊張で吐きそう」「脇汗が…」と緊張感が増していきます。
さて、ニコニコチームは無事に、意中の馬を落札することができたのでしょうか……!?
ギリギリの攻防、そして……
いよいよ狙っていた最初の馬、「ソングオブプライズ」【※】が登場! しかし石崎さんは微動だにせず。一頭目ということもあってか、様子見です。
※ソングオブプライズ
2007年4月23日生まれ。アメリカを産地とし、通算成績は1戦0勝。
二頭目には、ダート【※1】では安定感抜群のアグネスデジタル【※2】産駒「ムーンシンフォニー」【※3】が登場。しかし、気性の荒さと熊癖(ゆうへき)【※4】を嫌って、ここもスルー。
※1 ダートコース
土や砂が細かく敷かれた走路。
※2 アグネスデジタル
1997年5月15日生まれ。アメリカを産地とし、中央獲得賞金は54562.5万円に及ぶ。通算成績は32戦12勝。主な勝鞍は124回天皇賞(秋)(G1)。
※3 ムーンシンフォニー
2005年5月16日生まれ。新内町を産地とし、中央市獲得賞金は235万円に及ぶ。通算成績は11戦0勝。
ちなみに、産駒というのは、ある種牡馬・種牝馬の子である馬のことを指す。「〜〜産駒」で、「〜〜という馬の子供」という意味で、この場合ムーンシンフォニーがアグネスデジタルの子供であることを表している。
※4 熊癖(ゆうへき)
身体を左右に間断なくゆする癖。他にも競走馬には空気を飲み込んでしまう「さく癖」など、悪癖とされる癖がいくつもある。
ここまで、ユーザー人気ランキング5位、3位の馬を回避していきました。このように、ゲームの「ダビスタ」ともっとも大きく違うのは、「セリに出てくる馬には順番がある」ということでしょう。だから今回の企画のように必ず一頭は確保したいという場合、どこで勝負をかけるのかが肝になっていきます。当日の駆け引きに加え、事前の戦略も不可欠なのです(この辺りの話は、企画者である石崎さんにインタビューを行いましたので、後半でご紹介します)。
そしていよいよ、事前下見でもユーザーからの反応が良好で、馬主の村上さんいち押しの馬「シュシュブリーズ」【※1】が登場(ユーザー人気2位)。
ちなみにその前の3頭では、いずれもディープインパクト【※2】産駒ということもあり、400〜500万円からスタートして100万円刻みで入札という、高額の流れが続いていました。とくに「パラダイスリッジ」【※3】は2200万円という驚きの価格。石崎さんも「あらためて、ディープ産駒は格が違うね」と嘆息していましたが、今回は大井競馬デビューが前提のため、芝での活躍が見込まれるディープ産駒は射程外でした。
そしてついに始まった「シュシュブリーズ」のセリ。まずは100万円からスタートです。
※1 シュシュブリーズ
2011年2月17日生まれ。白老町を産地とし、中央獲得賞金は1955万円に及ぶ。通算成績は15戦2勝。主な勝鞍は16’4歳以上500万円以下。
※2 ディープインパクト
2002年3月25日生まれ。早来町を産地とし、中央獲得賞金は145455万円に及ぶ。通算成績は14戦12勝。2005年に日本競馬史上6頭目の中央競馬クラシック三冠(無敗での達成は2頭目)を達成、2006年には日本調教馬としては初めて芝部門・長距離部門で世界ランキング1位となった。
※3 パラダイスリッジ
2012年1月27日生まれ。安平町を産地とし、中央獲得賞金は869万円に及ぶ。通算成績は9戦1勝。主な勝鞍としては15’3歳未勝利。
ついに石崎さんも動きます。積極的にセリに参加していくと、瞬く間に額は500万円に。そこからジリジリと攻防が進み、いよいよ800万円に到達。息を飲む展開の中、我々の入札に「ラストコール、ございませんか?」との鑑定士の声が響く。「決まった!」っと思ったその瞬間、さらに入札が入ってくる。すかさず石崎さんも腕を上げて応戦。
「850万円!」……誰からも声が上がらない。
その瞬間、「リアルダビスタ」の主繁殖牝馬が、晴れて「シュシュブリーズ」に確定しました。
この時点で、庭先取引【※】は免れました。落札後はすぐさま係りの人が席にやってきて、確認の署名サインを書きました。「手が震えてサインが超汚くなっちゃった」と言いながらも、石崎さんは安堵の表情を浮かべました。そのあとしばらく、石崎さんが武者震いされていた様子をみると、かなりのプレッシャーを背負われていたのだな、と。
※庭先取引
セリを介さずに、生産者と馬主の間で行われる直接取引のこと。国産の競走馬のうち、およそ8割が庭先取引されるとされる。
ユーザーの一番人気だったクロフネ【※】産駒「アドマイヤビジン」の顛末も付記しておくべきでしょう。
※クロフネ
1998年3月31日生まれ。アメリカを産地とし、中央獲得賞金は37023.5万円に及ぶ。通算成績は10戦6勝。主な勝鞍は01’ジャパンCダート(G1)。特にダートでは日本競馬史上の最強馬と評される1頭である。
今回、ユーザー投票で1番人気の「アドマイヤビジン」でしたが予算に上限があったらしく、それ以上の金額で取引されてくれれば、作戦勝ちということになります。
セリが開始されると、はたと250万円前後で動きが止まりました。「え…?」生放送のコメント群もにわかにざわつき始めます。天童なこさんも「頼むから上がってくれ」と、祈るような言葉を絞り出します。
しかし、一瞬静止しかけた入札額も、一声をきっかけにグングンと上がっていき、最終的には2000万円で落札されることになりました。
つまり、仮に「シュシュブリーズ」を落札しておらず、「アドマイヤビジン」に賭けていたら、「リアルダビスタ」は企画倒れになっていたかもしれないのです。すべての作戦がうまくハマったということですね。いやー、良かった!