あの『クレイジータクシー』が、およそ四半世紀ぶりに帰ってくる。その舞台を世界中に広げた『クレイジータクシー:ワールドツアー』として。
今作ではその舞台のひとつに、なんと日本をモデルにしたマップも登場。東京ゲームショウでの公開にさきがけ、電ファミ編集部でもひとあし先にそのマップを体験してきた。
が、その日本マップ、渋谷のスクランブル交差点にセンター街、東京タワーに東京スカイツリー、浅草の仲見世通りに富士山まで、「見たい日本は全部詰め込んだ」と言わんばかりの豪華さで、さらにマップ中に登場する「くら寿司」はなぜか七色に輝くゲーミング仕様。
日本製なのに、一歩引いてみるとなぜか微妙にズレた感じの日本マップ、なのに細かいところはかなりきめこまやかで、日本らしい雰囲気は抜群に出ている。妙なアンバランスさにどうして……?と思いきや、実はこれ、数あるマップのうちで「日本のマップだけを高解像度にしすぎない」ためにわざとやっているものらしい。
電ファミでは今回、『クレイジータクシー:ワールドツアー』で新たに日本マップが公開されたことにあわせて本作のクリエイティブプロデューサーである菅野顕二氏、ディレクターの百渓曜氏らにインタビューを実施。
リアリティの延長線上にあるファンタジーを目指したという雰囲気づくりや、「日本マップが多分1番作りにくいと思った」というマップづくりへのこだわり、久々の新作のあれこれを伺ってきている。体験版の試遊レポートとあわせてお楽しみいただければ幸いだ。
聞き手・執筆/恵那
『クレイジータクシー』は唯一無二の存在。当時無理だった物語やマルチプレイを加えても、核は同じ
──今回、『クレイジータクシー』は約四半世紀ぶりの復活ですので、まずはその開発の経緯から簡単にお伺いできるでしょうか。
菅野顕二氏(以下、菅野氏):
このプロジェクトが立ち上がったのは、実はタイミングがすごく良かったなっていうところが1番かなと思っています。
僕はオリジナル版を制作した人間のひとりですが、改めて今の時代に『クレイジータクシー』をまた違う形で世に出したいなと思っていた。そのタイミングと、当時のボスが「『クレイジータクシー』をもう1回出すか」という話を持ちかけてくれたタイミング、そして会社が過去の作品をもう1度世に出していこうという方針を打ち立てたタイミング、これがちょうど重なったんですね。それがプロジェクト発足のきっかけなので、ほんとにベストタイミングだったんじゃないかなと思っております。
──あの頃の『クレイジータクシー』は、当時のロックシーンやファッションみたいな同時代的なものも多分に反映されていた作品だったと思います。それを改めて2027年に出すにあたって、いまの時代にあわせて変化させたりもしたのでしょうか?
菅野氏:
これを自分で言うのは恥ずかしいんですけど、やっぱり『クレイジータクシー』というのは何年経っても「唯一無二の存在」なんですね。
ファンの皆さんや社内からの声でも、他にはないユーザー体験を与えられるタイトルであることをすごく感じられています。自分で言うのも変ですが、古臭くならないというか、いつの時代でも受け入れられるような「テイスト」を持っているものなんだなというのを、改めて感じています。だから、これをもう1度、きちんとした形で皆さんに提供したいなと思っているんです。
──ゲームのコアな体験については当時からずっと変わっていないと。
菅野氏:
今のコンソール事情とか市場の流れも鑑みて、『クレイジータクシー』の世界観にもっと深く入ってもらって楽しんでもらうために、ちゃんとしたストーリー設定なり世界観なりはもう1度届けたいですね。アーケードで出していたときには、どうしてもお話を提供する隙間がなくて届けられなかった部分もあるので。
だから、家庭用としてきちんと世界観とかお話を提供するということが、まずひとつ本作で新しくチャレンジしたかったことですね。
──まずひとつ、ということは他にも?
菅野氏:
もうひとつはマルチプレイです。1作目を出してから「マルチプレイをしたい」というところは、ずっと言われてきたんですね。お客さんからも言われましたし、社内からも「いつやるんだ」とよく言われていました。
でも当時は技術的にもなかなか難しいところがあり、ゲームデザイン的にもどういう風に組んだら1番『クレイジータクシー』らしいマルチプレイができるのかっていうところも、なかなか思いつかなかったんです。
ただそこも「なんとなくこんな形かな」というふわっとしたイメージを描いたときに、ここにいるディレクターの百渓がジョインしたいって言ってきてくれたので、僕は「しめしめ」と思いましたね(笑)。彼は元々『ボーダーブレイク』【※】をやっていた人間なので、マルチプレイはどんとこいなわけです。
※『ボーダーブレイク』
セガが2009年からアーケードなどで展開したチーム対戦型シューティング。ネットワークを介した多人数同時対戦を主軸に、長期運営でアップデートを重ねた。百渓氏がこのタイトルに携わっていたことが、本作で初のマルチプレイの実装に繋がっている。2023年にPS4版を含むすべての展開が終了している。
『ボーダーブレイク』に携わった百渓氏の参加で初のマルチが現実に
──百渓さんとしては、ご自身から積極的に「ぜひやらせてほしい」と入ってこられた感じだったのですか?
百渓曜氏(以下、百渓氏):
はい。自分も社内で『クレイジータクシー』を復活させるという動きがあることは認識していたので、当時の事業部でボスに「新しい挑戦をするプロジェクトがあると聞いて、ぜひ参画したいです」という話をしたら、ちょうどいい具合にタイミングが合ったんです。
それに自分もそもそもはアーケードゲーマーだったので、社内でアーケードの古参だった菅野は自分にとってはレジェンドのような存在でした。それで機会があればぜひ一緒に仕事したいなというところもありました。社内でも変化があったような段階で、その機会をもらったという感じです。
──百渓さんがジョインされた段階から、すでに「マルチを作ろう」と決められていたんですね。
百渓氏:
そうです、私が入った時には、もうそういうコンセプトがありましたね。元々はジョインするまでちゃんとは知らなかったんですけど、「そういうことをやろうとしてるんだ」ということで担当させてもらうことになった、というわけです。
──マルチについては昔から検討していたものの壁も高かったというお話しでしたが、1番難しかったところはどんなところだったんでしょうか? ゲームのプレイ体験的なところなのか、それとも技術的なところなのか。
百渓氏:
技術面は技術のある人たちに頼っているので、なるようになるだろうとは思っていたんですけど、『クレイジータクシー』はただの車ゲームではないので、レースを作ればいいわけではないんですよね。
一方で、やっぱり車ゲームではあるので、とにかく移動が速いのが前提です。人なら、ゆっくり戦略的な動きもさせられますし、接触機会も長くとれますから、対戦のデザインも比較的しやすいかなと思うんですけど……。
──車ゲームとして考えると、『クレイジータクシー』はすごくユニークですよね。
百渓氏:
そうですね。とても独自性のある特徴を持っているので、プレイヤー同士の接触をどういう風に作って、どういう風に楽しいところを作るかという点には、結構な難しさがあったかなとは思います。
やっぱり、ただ普通に走っているだけだと、対戦相手と出会わないコンテンツになってしまいますから。
──マルチについては、今日までに「ピックアップレース」と「ポリスチェイス」の2種類が発表されていますよね。

百渓氏:
9月12日から14日にかけてクローズドネットワークテストも実施しました。「ピックアップレース」は『クレイジータクシー』らしいというか、車ゲームなのだからレースゲームのようなものは絶対入れた方がいいだろうということで入れています。
目の前のお客さんを拾って、次の決まった目的地に降ろして、また次のお客さんを乗せて……というのを繰り返しながらコースを走りきって、最後のお客さんを届けるまでのスピードを競うタクシーレースみたいなものです。
もうひとつの「ポリスチェイス」は、タクシー対警察のチームが4対2で戦う、いわゆる非対称バトルですね。もともと菅野が原案を持っていたのですが、それを自分なりに想像を膨らまして、チームメンバーと一緒に作り上げていきました。
単体では警察の方が強くて、タクシーにクレイジーニトロでアタックするとヒットポイントを削ることができて、0にすると逮捕できる。でも、タクシーの方は人数が多くて、それをかわしながらお客さんを規定数届ければ勝利。で、捕まった味方をタクシーが救出することもできるというゲームですね。
──対戦のモードとしては、その2種類だけになるのでしょうか?
百渓氏:
基本的にはそうですね。提案自体は他にもあったんですが、消化していくにあたって、やっぱりその2つに絞って作り込もうということになったんです。
新しい曲についてはまだ何も言えない。でも「アッと驚くような情報」を発表するつもり
──さっきのお話でも、『クレイジータクシー』の核は変わっていないというお話がありましたが、私もさきほどプレイさせていただいて、お客さんを乗せてThe Offspringの「ヤーヤーヤーヤーヤー!」(「All I want」)が聞こえた瞬間に「やっぱりこれだ!」という感覚になりましたね。
菅野氏:
ありがとうございます。
──それで言うと、オリジナル版の当時ではThe Offspringの曲とかも同時代的な感覚のものだったと思うんですが、それから4半世紀経って、現代的な曲なんかも追加されるのか?というのはみなさん気になっていると思うのですが……?
菅野氏:
その点は皆さん、どの方も同じ質問をされますね(笑)。でも僕としては「ほんとに楽しみに待っててください」としかまだまだ言えないんです。ただ、皆さんがアッと驚くような情報を提供できると思うので、待っててほしいなって(笑)。珍しく僕、結構興奮してるんですよね。
──「なにかはある」みたいな(笑)。
菅野氏:
みたいな感じです(笑)。僕自身が結構すげえなと思ってるんで、みんなも多分驚いてくれると思います。うん、今日はここまでです。
──それだけいただければ十分です(笑)。正直まだお答えを頂くのは難しいかなと思いつつ、でも一応聞かないわけにはいかないよなと。
菅野氏:
みなさん漏れなく聞かれるので、漏れなく同じ答えをお伝えしてるんですよね。もう喉元まできてるんですけどね、すみません(笑)。
The Offspringについては、僕が直接聞いたわけではないんですが、先日のgamescomでも一般の方が遊んだ後に「ヤーヤーヤーヤー」って鼻歌を歌いながら出てくる人が結構多かったって聞いてます。
──めっちゃ分かります。プレイすると脳髄に染み付くというか(笑)
菅野氏:
やっぱり皆さんも、The OffspringもBad Religion【※】も、みんな愛してくれてるんだなっていうのをすごく強く感じましたよね。
※The Offspring/Bad Religion
どちらも1980年代に活動を始めたアメリカのパンク・ロックバンド。オリジナル版『クレイジータクシー』の楽曲を担当した。
──あの曲のビートも、単なるBGMというより世界観の一部ですよね。出てくるキャラクターも、陽気で景気の良いことしか言わないじゃないですか。
菅野氏:
はい(笑)。
──ああいったセリフやキャラクターがどう作られているのかは気になっています。ふつう、「車のゲーム」というとキャラクターが全面に出ることはあまりないと思いますが、『クレイジータクシー』には突飛で面白いNPCキャラがたくさん出てきますよね。
菅野氏:
元々のオリジナル版もそうなんですが、「人と街を感じる車ゲーム」なんですよね。車ゲームだと、どうしても車のスペックに寄りすぎて、人がなかなか出てこないタイトルも多いと思うんですけど。本作の場合は「人を感じる」「街を感じる」というところは、強くコンセプトとして持っています。
だから今回のタイトルでも、スタッフみんなが「人を感じる」ようには作ってくれたんじゃないかなっていうのは思います。「『クレイジータクシー』って名前をつけているからには、その名前に負けないぐらいのキャラクター作りとクレイジーさを提供しなくちゃ」と言って、スタッフたちがいろんなことを考えてくれたんですよ。
キャラクター1体にしろ、その遊びにしろ、本当に『クレイジータクシー』って名前を超える遊び、デザイン──そういったもの色々考えてくれた結果、笑ってもらえるものになってるんじゃないかなっていう風に思いますね。
ボツにしかけた「古紙回収」がgamescomで大絶賛。「おもろければいいよ」が生んだドライビング“アクション”ゲーム
──今回の体験版の範囲内だと、私はキャプテン・スカイがすごく好きで、はっきり言ってキャラクターも、彼が出してくるミッションもアホすぎるというか(笑)。
菅野氏:
そうですね。あれも「こんなおもろい遊び、考えちゃいました」ってゲームデザイナーだったかプログラマーだったかが持ってきたんですよ(笑)。
それを「おもろいじゃん」って言って、「じゃあ、こういうキャラクターにしたらいいんじゃない」みたいなことを、百渓以下スタッフでもみもみ調整してましたね。
──用意されてるミッションは、そういう感じで、ぱっとひらめいたアイディアみたいなものが多いんでしょうか?
菅野氏:
両方ありますね。しっかり考えたものと、「思いついちゃったんだけど」みたいなものと。僕も「これ、それはちょっと本当におもろいの?」とか思いながら、結果的に残ってるやつもありますしね(笑)。
──そうなんですか(笑)。ちなみにどれなんでしょう?
菅野氏:
言っちゃうと、「この仕事向いてないかも…」という古紙を回収するミッションがあったじゃないですか。あれは正直、僕は「これはちょっと良くないんじゃないの」って百渓とかにも言ってたんです。でも「あれは絶対面白いです」ってずっと言い続けて、残してくれていて。
そしたらgamescomで、あれをプレイした記者さんたちから「あれ最高でした!」と散々言われましたね。ボツにしなくてよかったと思いました(笑)。

──百渓さんには確信があったんですね(笑)。
百渓氏:
そうですね。完成像を想像して、遊んでもらうことを想像した時に、ものにはちゃんとなるだろうなっていうものは描けていました。菅野からのちょっとしたつつきを回避しながら、完成にこぎつけたっていう感じです。
──悪い意味ではなくて、「くだらないもの」ほど面白いんですよね。「車のゲームでこんなことをさせる?」みたいなことをやらされると、つい笑ってしまうといいますか。
菅野氏:
「おもろければいいよ」っていう話は、多分スタッフも感じてくれたんじゃないかなと思ってますね。あとは、やっぱり他にはないユーザー体験っていうのは、みんなで意識したので、そこはやっぱり大きいんじゃないかな。
最初から車ゲームっていうよりも、アクションゲームを作る感覚をみんなで共有して動いていたからじゃないかなとは思うんですけどね。
だから公式のプレスリリースなんかにも、ジャンル名は「レースゲーム」じゃなくて「ドライビングアクションゲーム」って出すようにしているんですよ。そこは結構みんなでこだわってるところでもありますね。
変えたくなかったのは「ドライブの走行感」と、「ちょっと笑えるゲーム」であること
──本作のクレイジーなおもしろさは、スタッフさんたちの発想によるところも大きいと思うのですが、オリジナル版の開発から四半世紀も経っているわけですよね。 「これがかっこいいと思われていたのはもう昔のことじゃない?」といった、新旧のスタッフさんの間での時代的な感覚のズレみたいなものはなかったのでしょうか?
菅野氏:
それで言うと、実は『クレイジータクシー』のオリジナルメンバーは、僕と若干名しかいないんですよ。百渓とは近い世代ですけど、「新しい『クレイジータクシー』はどうあるべきか」って話は、20代そこそこの「入社何年目です」みたいな若手から30代の中堅とか、全員が同じ土俵で積み重ねてきました。

菅野氏:
なので、ちょっと汚い言葉ですけど「菅野さんわかってないな〜。それ格好悪いっす」みたいなことも平気で言われました。「でもこういうところを大切にしたいんだよね」「じゃあこういう方がいいんじゃないですか」とかいう話をそこから積み重ねていって、いまの形になっています。
昔の『クレイジータクシー』を作るんじゃなくて、みんなで作る新しい『クレイジータクシー』を作ろうとしていました。だから今作は、皆さんがすっと入り込める形になったんじゃないかなって思います。
──それで言うと「ここは変えたくなかった」っていうのはどんなところだったんでしょうか?
菅野氏:
変えたくなかったのは、ちょっと笑えるコンテンツにはしたいなってところですね。やっぱりポジティブであるところは変えたくなかったのと、あとは手段は変えてもいいけど、ドライブの走行感というか、ドリフトしてダッシュしてみたいな、その明確な走りのところは継承してほしいなって話はしていました。
そこは百渓がスタッフと喧々諤々しながらうまく組んでくれたんじゃないかなっていう風には思いますけど、百渓さんとしてはどうですか?
百渓氏:
そうですね。やっぱり対戦要素を含めても、人を殺したり傷つけたりするところは絶対このタイトルでは感じさせないんだっていうのは、菅野が最初からずっと強く言っていましたね。
海外の方とかにテストプレイしてもらったときとかも、それを言ってくれていました。それくらい『クレイジータクシー』っていうタイトルのアイデンティティだったんだなっていうのを、自分は後から感じたんですが、そこはもう絶対に守る、というのはひとつありました。
あとは、「ファンタジーに行き過ぎない」ってところもずっと話はしていましたね。現実的にあり得ないファンタジーではあるんだけど、どこかリアリティもあるというか、現実の延長線上のどこかにあるようなところを目指しました。このあたりもオリジナルからだったんだろうなとは思ってます。








