「レベルを上げて物理で殴る」の素晴らしさをゲームデザイナー視点で語ろう。ドラクエで学ぶ「RPGメカニクス」の3大メリット【ゲームの話を言語化したい:第四回】

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 ゲームの話を言語化することに使命感を燃やす、岩崎氏の開発者ならではの視点とは? 長らく続いた「RPGメカニクス」の話も、ついに今回で完結します。初めての方は、ぜひ前2回の連載も併せて読んでみてください。
 当時のゲームの常識、「解けなくなったらオワリ」を解決する究極兵器として現れたRPGメカニクス。はたしてこのRPGメカニクスは、ゲームデザインにどんな影響を与えたのでしょうか?(編集部)

『ゼルダの伝説』はなぜRPGではないのか

 前回、RPGメカニクスを以下のように定義した。

【RPGメカニクスの定義】

 

1. プレイヤーの持つ回復可能なリソースと交換で、なんらかの成長のリソースを手に入れる。プレイヤーの持つ回復可能なリソースとは、具体的にはMPやHPということになるが、ここではHPやMPと表現せずに探索リソースと呼ぶ。そして成長するのに必要なリソース(たいていの場合には経験値)は成長リソースと呼んでおく。

 

2. 成長リソースが一定の閾値(いきち=限界値)を超えると、プレイヤーが強化される。パラメータ毎に成長リソースが設定されている場合や、スキルポイントを“1”投入することで小ジャンプが大ジャンプに変化するような、成長リソースをどこに振るかを自分で決められるスキル形式でも、プレイヤーが強化されることに変わりはない。

 この定義に当てはめると、「なぜファミコン版『ゼルダの伝説』がアクションアドベンチャーに分類されるのか?」が理解できる。

※ゼルダの伝説……1986年に任天堂が開発・発売した、ファミリーコンピュータディスクシステム用ソフト第一弾。プレイヤーは主人公のリンクを操作して、装備アイテムの効果を含むアクションによって敵を倒し、物語を進めていく。このとき経験値などの具体的な成長要素はない。ダンジョン内に隠された“ハートのかけら”というアイテムを集めて体力の最大値を増やすことと、装備アイテムを集めて行動範囲を広げること、そしてプレイヤー自身のゲームに対する習熟度アップによってリンクは強くなっていく。
(画像は任天堂公式サイトより)

 ファミコンディスクシステム版『ゼルダの伝説』がリリースされた1986年ごろ、つまり最初期のコンピュータRPG(以下、CRPG)の時代には、「何を以てRPG(メカニクス)とするのか?」という定義が日本では混乱していた。

 RPGとつけると目新しく、かつ売れたので、売り手はともかく何にでもRPGとつけたがったし、「経験値があればRPG」とか「レベルがあればRPG」といった、かなり粗雑な議論が当時はまかり通っていて、『ゼルダの伝説』は当時の雑誌などでは、かなりの確率でRPG扱いされていた。

 なぜならプレイによってキャラクターが成長し、なおかつ物語はファンタジー世界で繰り広げられる(当時のCRPGの世界観は、ほぼファンタジー一色)。そりゃあCRPG扱いされても仕方ない。

なお、RPGというジャンルのあいまいさは海外でもあまり変わらないが、当時海外にはシミュレーションRPGというジャンルがなく、アクションRPGというジャンルもほぼ存在してなかったことなどから、日本より混乱しにくい状況だった。『ドルアーガの塔』(1984/アーケード/ナムコ、画像左)を嚆矢として、『ハイドライド』(1984/PC/T&E SOFT、画像右)【※】で決定的なジャンルになったアクションRPG(特に2Dもの)は、日本発祥のジャンルであることを強く意識しておく必要がある。
(画像はそれぞれ公式サイトプロジェクトEGGより)

※ハイドライド
1984年にT&Eソフトが発売したPC-8801用のRPG。RPGとアクションゲームの両方の要素を取り入れた「アクティブロールプレイングゲーム」と銘打たれていた。これをファミコンにアレンジ移植したのが『ハイドライド・スペシャル』(1986)。

 そんなわけで、当時『ゼルダの伝説』は、一部ではRPG扱いされていたり、また別のところではアドベンチャー扱いされていたりしたのだけど、いまではアクションアドベンチャーと定義されている。

 なぜなら『ゼルダの伝説』には成長要素は存在するが、その成長は探索リソースとの交換ではなく、プレイヤーに与えられる謎や問題(ゲームデザインの世界では“パズル”と表現される)を解いた報酬として得られるアイテムによって行われるため。
 だから成長要素は存在しても、RPGメカクニクスの定義には当てはまらないというコトになるわけだ。

一方、ファミコンディスクシステムの『THE LEGEND OF ZELDA 2 リンクの冒険』は、敵を倒したり宝箱から手に入れる成長リソースによってキャラクターを成長させられるので、RPGメカニクスを使ったCRPGだと言える。
(画像は任天堂公式サイトより)

 『THE LEGEND OF ZELDA 2 リンクの冒険』(1987/FCディスクシステム/任天堂)のようにRPGメカクニスがゲームのメインの要素として存在していれば、「ともかくこのゲームはRPGね」と、わかりやすく分類できる。
 メカニクスでジャンルを考えるようなロジックベースの分類は、こうしたわかりやすさがいいところだ。

アクションではないが、初期のアドベンチャーゲーム『Zork I 』(1980/PC/インフォコム)【※】は『ゼルダの伝説』と同じように、パズルを解いた結果の報酬として内部的に経験値が加算され、キャラクターが強くなるようにできていた。だがこれをCRPGと呼ぶ人はいない。
(画像はWikipediaより)

※Zork I 
1980年にインフォコム社からリリースされた、テキストに対してインタラクトするタイプの黎明期のアドベンチャーゲーム。最初のモノは、PDP-10というコンピューター上で動かした。冒頭、プレイヤーのキャラクターは一軒家の前に立っており、提示されたテキストに対してプレイヤーは、自分の行動をほぼ名詞+動詞で回答。それが制作者の想定している内容であれば話が進んでいく。リリース時から当時のさまざまなハードに移植され、オリジナルの三部作をはじめ、21世紀直前まで数多くの続編が登場した。

銀の弾丸その1:本当の「クリア保証」の始祖『ドラクエ』

 と、いきなりどのようにしてゲームを分類するかの話を書いて脱線したけど、ここからが本題。

 前回は、前述のRPGメカニクスを説明するにあたり、「成長することで、ゲームのクリアを保証してくれることが大きかった」という「クリア保証」【※1】の話を最後に書いたわけだけど、これこそが疑いもなくRPGメカニクスが銀の弾丸【※2】となり得た、第一の、そして最大の要素だった。

※1 クリア保証
アクションゲームの場合、難度が上がると、プレイヤーによってはそこで事実上ゲームの進行が止まってしまうため、これはゲームのクリアが保証されていない状態となる。RPGは経験値などを蓄積し、プレイヤーキャラクターが成長することで、時間さえかければ誰もがクリアを目指せるようになる。これが「クリア保証」という言葉で語られている。

※2 銀の弾丸
フィクションの世界では、通常の弾では倒せない狼男や吸血鬼などを倒すことができる弾丸としてよく登場する。“モンスターを一発で撃退できる”という効果から、「問題を一発で解決できる決め手や手段」の比喩的表現として用いられることが多い。

 まず、その「クリア保証」の指し示すものが、アメリカや日本のPCと日本のコンソールゲームでは少し意味が違った、という話から始めていきたい。

 そもそもアメリカで『ウィザードリィ』(1981/Apple II/Sir-Tech)【※1】が大ヒットしたとき、大流行していたのはグラフィックアドベンチャー【※2】だった。

※1 ウィザードリィ……1981年にApple II用ソフトとして米サーテック社から発売された、主観視点でダンジョンを探索するRPG。最深部に潜むボスを倒すため、さまざまな職業から最大6人のパーティを編み、戦闘で得られる経験値によって各キャラクターを成長させることになる。ダンジョン内で得られる正体不明のアイテムは鑑定し、武器や便利なアイテムとして携行しつつ冒険。日本では『ドラゴンクエスト』など、最初期のファミコンRPGに多大な影響を与えていることは有名で、日本語版は1985年にアスキー(当時)から販売された。
Image by Orion Blastar.  Licensed under the terms of CC BY-SA 3.0.)

※2 グラフィックアドベンチャー
テキストアドベンチャーに続いて重なるように隆盛した、アドベンチャーゲームの一種。グラフィックをともなったアドベンチャーゲームで、おもに名詞+動詞などの単語を入力してプレイを進めることが多かった。岩崎氏も言うSierra Online社の『MYSTERY HOUSE』(1980)がその嚆矢。

 グラフィックアドベンチャーは、『MYSTERY HOUSE』(1980/Apple II/Sierra Online)【※1】と『Wizard and the Princess』(1980/Apple II/Sierra Online)【※2】の大ヒットで決定づけられたジャンルだ。

※1 『MYSTERY HOUSE』……1980年にSierra Online社が発売した世界初のグラフィックアドベンチャーと、マイクロキャビン社が1982年に発売した日本初のグラフィックアドベンチャーがあり、ここでは前者を指している。Sierra Online社のものが当初、日本には入ってこなかったため、同名作をマイクロキャビン社が制作・販売した経緯がある。内容は操作や目的含め近いものだが、移植ではない。
※2 『Wizard and the Princess』……1980年に『MYSTERY HOUSE』に続いてSierra Online社が発売した草創期のグラフィックアドベンチャー。『MYSTERY HOUSE』以上にカラフルなのが特徴。日本では1983年にスタークラフト社から発売されている。
(画像はそれぞれWikipediaより)

 けれども、当時のアドベンチャーゲームは、大雑把には――

1. 状況を説明する絵とテキストが表示される。

 

2. それを見て、答えになる単語を入力する。

 

3. 正しければ先に進む、間違っていると一歩も先に進めない。

 というゲームで、しかも解答の仕方を間違えると、ゲームが解けなくなってしまう=ハマるのも当たり前。そのうえ「ハマっているかもわからない」のが当たり前だった。

おまけに当時のグラフィックアドベンチャーには、あの『オホーツクに消ゆ』(1984/PC/アスキー)で完成した、日本のアドベンチャーゲームに標準的なコマンド選択式も、海外でよく使われるポイント&クリック式もなかった。
(画像はプロジェクトEGGより)

 だからアドベンチャーゲームは、ブームになってすぐに「単語がわからないので解けない。謎がわからないので解けない」とフラストレーションがたまるイメージがついた。そこに登場したのが『ウィザードリィ』だった。

 『ウィザードリィ』には当時のアドベンチャーゲームのような、とても解けない謎はなく(謎はあるし、いまの感覚からするとそれなりに難しいのだが)、キチンとマッピングして慎重にプレイすれば、キャラクターが成長して強くなり、誰でもクリア可能なゲームとして評価された。

 実際の『ウィザードリィ』には、「テレポートトラップで通路でないところに飛び込む」、「蘇生に失敗する」などでキャラクターを失うリスクがある。だから「クリア保証」には「慎重にプレイすれば」という言葉がついていたわけだ。

 では、日本ではどうだったのか?
 日本でRPGがパソコンで決定的にメジャーになったのは、ふたつのゲーム『ザ・ブラックオニキス』(1984/PC/BPS)【※】と『ハイドライド』(1984/PC/T&E SOFT)の存在によってだ。

ゲームの歴史的な話をするなら、より重要なのは『ハイドライド』だ。なぜなら『ハイドライド』は当時世界に存在しなかったジャンル「アクションRPG」を決定づけた作品で、以降の日本のゲームシーンに決定的な影響を及ぼし、大きな潮流を生み出すことになるからだ。『ゼルダ』も影響を受けていると思う。(『ザ・ブラックオニキス』の画像はMSX版のもの)
(画像はそれぞれWikipediaプロジェクトEGGより)

※ザ・ブラックオニキス
1983年12月にBPSがPC-8801用に発売した国産RPGのはしりとされる作品。発売に関しては1984年1月という説もある。プレイヤーキャラクターの体力や経験値が、数値でなくバーなど視覚的に表現されていた。のちにさまざまなパソコンでリリースされ、ファミコンにも1998年に『スーパーブラックオニキス』として移植されているが、大幅に内容が変わっている。

 ただ、どちらのゲームも海外のCRPGと同様で、死んでもセーブポイントからやり直せないし、死んだキャラは復活しなかった。つまり「クリア保証」には、やはり「慎重にプレイすれば」という言葉がついていたわけだ。

 これを本当の意味での「クリア保証」にしたのが『ドラゴンクエスト』(1986/FC/エニックス)【※】だった。

※ドラゴンクエスト……1986年にエニックス(当時)より発売された、ファミコン用RPGの草分け。システムについても、岩崎氏の指摘するクリア保証のメカニズムのほか、電ファミ多根氏連載で語られている『ウルティマ』のフィールド画面と『ウィザードリィ』の戦闘画面からインスピレーションを得ているという話や、アクションゲームに比べて小難しいRPGをかみ砕くため、パーティ制ではなく、ひとりのキャラクター操作にしたエピソードなど、数多くの逸話を持つ。
(画像はドラゴンクエスト誕生30周年記念ポータルサイトより)

 いまではむしろ珍しい形式になっているのだけど、プレイヤーがバトルに敗北したとき、『ドラクエ』は経験値やキャラクターをロストせず、所持金を半分にして、最後に訪れたリスポーンポイントから復活させるシステムなのだ。

 これによってキャラクターの経験値がプレイ時間に比例して増加するのがほぼ保証され、『ドラクエ』は謎さえ解ければ本来的な意味での「クリア保証」のあるメカニクスになったわけだ。

 また、RPGメカニクスは基本的に進行(成長)が保存できるのを前提としたメカニクスだ。だから外部記憶、バッテリバックアップ、パスワードなど、ゲーム進行(成長具合)を保存できるハードウェアやメカニクスとの組み合わさっているのがほぼ必須であった。【※】

※記事末尾の補論では、そうした「ハードウェアの進歩」と、「ビジネスモデルの変化」の2つが「クリア保証」を促していった理由を述べている。

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