2009年7月11日に『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(以下、『ドラクエIX』)が発売されてから10周年を迎えた。
シリーズ初となる携帯ゲーム機向けのナンバリング作品、マルチプレイの導入、インターネットを介したサービスが特徴。そして「まさゆきの地図」に代表されるニンテンドーDSのすれちがい通信の機能を使った宝の地図を求めて、プレイヤーたちは現実の町に繰り出した。こういった現象を一般紙も盛んに報道したように、本作は『ドラゴンクエストIII』以来の社会現象になり、400万本を超える大ヒットを記録した。
7月11日には、YouTubeで配信番組「【ドラゴンクエストⅨ 発売10周年特別企画】 今だからこそ話せることたっぷり話しちゃうぞスペシャル!」が生放送され、当時のスタッフたちから開発の裏話や、リメイクに対する見解が飛び出すなど、賑わいを見せた。
一方、Twitter上ではその放送に先駆けて、『ドラクエIX』のあるツイートが反響を呼んでいた。それは、家に帰れば300個の『ドラクエIX』のロムカセットがあるため、「まあ家に帰ればDQ9が300個あるしな」と現代社会の辛い場面でも生きていけるという、強者の思考に基づいた、見た者の脳を混乱させるツイートだった。
ドラクエ9が300個も家にあると、ちょっと嫌なことがあっても「まあ家に帰ればDQ9が300個あるしな」ってなるし仕事でむかつく人に会っても「そんな口きいていいのか?自宅の倉庫には未開封ドラクエ9を20本隠してる身だぞ」ってなれる。戦闘力を求められる現代社会においては最も有効である #DQ9 pic.twitter.com/e4uH3Z09qY
— 砂倉=ラグナス@導かれしスタッフ指導係 (@lagunas_brave) July 10, 2019
そのツイートをしたのはユーザー砂倉氏。投稿した写真には、実際に数多くの『ドラクエIX』のロムの姿が写っている。なぜ砂倉氏は、これほどまでに多くの『ドラクエIX』を所有しているのだろうか。今回はそのとんでもない収集劇の裏側を、本人に伺うことができた。
──『ドラクエIX』のロムを300個所有しているというツイートを拝見しました。なぜ、これほど多くの『ドラクエIX』を所有しているんですか。
砂倉氏:
実はあれから数えてみると、300本ではなくて400本でした。開封済みが390本、未開封が10本くらいあります。DSのソフトって、1カートン20本で出荷されるんでが、子売店さんにそのカートンごと売ってもらったり、色々な手段で買い集めました。たくさん持っている理由は、『ドラクエIX』をやり込むためですね。
──『ドラクエIX』をやり込むのに、これほどの数のロムが必要になんでしょうか。
砂倉氏:
必要です。発売日のときにソフト1個にセーブデータ1枠しかないのはわかっていたんで、そのときから2本買ってはいたんですけど、実際に仕様を理解していくと、宝の地図が1ソフトに、100枚しか持てないことがわかって。そうして芋づる式に増えていって……あとは種のデータですね。
──種というのは、キャラクターのステータスをあげることができる「ちからの種」や「まもりの種」のことですね。
砂倉氏:
ええ、種はそれまでは特定のモンスターを倒せばドロップできたんですけど、酒場のドラゴンクエスト Wi-Fiショッピング【※】というDLCサービスで、発売後しばらくしてから、種が購入できることになったんですよ。でもWi-Fiショッピングは一度買ったら再購入ができないですね。
※ドラゴンクエスト Wi-Fiショッピング:インターネットを通じてアイテムを買うショップサービスのこと。リアルマネーを使って消費アイテムを買うというわけではなく、単純にゲーム内の資金(ゴールド)にて日替わりで並ぶレアなアイテムを購入できるというシステムだった。基本的に買ったアイテムは購入できなくなり、商品リストは早朝に更新される。
そこで種が購入できるデータを別途用意して、そのデータにマルチプレイで入り、その世界で種を買います。本データのマルチプレイを切断した後に、種のデータの電源を落とすと、また種がまだ買える状態で復活できるんですよ。その裏技を使うため、Wi-Fiショッピング用のロムをたくさん用意する必要がありました。
──つまり、種が販売されている商品リストごとの『ドラクエIX』のロムを用意したと。
砂倉氏:
なかには違う種同士が一緒にWi-Fiショッピングに出てくることもあるので、そのロムのデータは貴重です(笑)。種以外にもゲストキャラ用の装備が売り出されるので、その買い物ができるデータも一通り揃えたりもしました。
気をつけなきゃいけないのが、そのロムはDS本体を紐付けされているんです。ロムを他のDSで起動すると、Wi-Fiショッピングの買い物リストが違ってくるので、このロムには、このDS本体、といった形で徹底して管理しました。
──ということは、DS本体を複数用意しなければいけないですね。
砂倉氏:
当時、最大同時稼動していたのが20台で、壊れた本体を含めるともっと多かったと思います。ゲームを始めてすぐにWi-Fiショッピングができるわけではなく、Wi-Fiショッピングが利用できるリッカの宿屋をオープンさせるところまで何度もストーリーを進めて、用意しましたね。
──もうひとつのやり込みですが、地図【※】の上限が100枚とおっしゃっていました。400個近くのロムを使って、地図をひたすら集めていたといううことですか。
※地図:『ドラクエIX』における「宝の地図」システムのこと。地図ごとに示された自動生成ダンジョンを見つけて探索すると、レアなアイテムやさらに貴重な地図を入手することができる。そのダンジョンの中身は複数種類のキーワードから割り振られた地図の名称と、レベルによって決定。また、その地図は他のプレイヤーと共有することもできる。高レベルのダンジョンの敵はラスボス以上に強く、本作におけるエンドコンテンツとなっている。
砂倉氏:
魔王の地図を自力で、しかもちゃんとレベル1から99まで揃えました。レベル1の竜王の地図をクリアしたら、いったん保存して、レベル2を攻略して、それを保存して……と、それをすべての地図で延々と繰り返しました。そのデータを保存するのが、すれちがい通信で移さなきゃいけないんですが、作業がけっこう手間なんですよ。わかってくれる人にはわかってくれると思うんですけど……。
──つまり無作為に地図を保存しているわけではなくて、選び抜いた地図を保存しているわけですね。
砂倉氏:
そういうわけです。しかもセントシュタイン城の横にあるレベル1から99、船着き場の横にあるレベル1から99の魔王の地図をそれぞれ揃えました。魔王の地図はこの2択がベストなんです。アクセスが良く、それが当時、誰もが欲しがった地図でした。
──砂倉さんの戦歴のスクリーンショットを見ると、すべての数字がカンストしているのが驚きですが、これまで話した魔王の地図をそろえるというのは、それを飛び超えた先のやり込みを追求してたわけですね。ちなみに戦歴で苦労された点は?
砂倉氏:
真っ先に終わったのは、戦闘勝利回数の99999回です。これは普通にプレイしたら、すぐに達成しました。1年間の時間は8760時間なので、プレイ時間のカンスト「9999時間59分」は、1年半くらいに相当するので、これはずっと付けっ放しにしておしまいです。
一番大変だったのは、錬金【※】の回数です。だいたい錬金のやるべきことって、2000回もあれば終わるんです。当時の自分は、錬金カンストは「9999回」かなと思ってやっていたんですが、ところで「10000回」をカウントしちゃったんで、「えっ!?そんな馬鹿な!」とビックリしました。それでも続けたら11000回近くまでいって、そこでやっと錬金回数のカンストが99999回なのだと実感して……。
※錬金:材料を入れて新たなアイテムを生み出す『ドラクエIX』のアイテム生成システムのこと。リッカの宿屋の錬金窯にて合成できる。
──なぜ錬金回数のカンストが「99999回」とわかったんですか?
砂倉氏:
それは戦闘勝利回数のカンストが99999回だからですね。おそらくこれが上限だろうと予測しました。入手困難とされてる最強武器「ぎんがのつるぎ」なんて、はるか昔に終わってるので、「やくそう」から「上やくそう」を作る錬金を、毎日毎日やりました。
それを2ヶ月続けて、ようやく錬金回数がカンストしました。これに関してだけは、今でも思い出したら泣きそうになりますね。「なんで9999回で止めてくれたかったんだぁ…」と、当時は開発者さんを恨みながらプレイしていました(笑)。
──選び抜かれた地図を集め、戦歴もコンプリートし、種を買える環境も作った。これで砂倉さんのなかで『ドラクエIX』はクリアでしょうか。
砂倉氏:
いや、自力で「まさゆきの地図」【※】を出そうと奮闘を続けました、結局、これに2年半かかりましたね……。
※まさゆきの地図:見えざる魔神の地図Lv87のこと。2009年にまさゆきというユーザーが発見し、掲示板で予告して秋葉原にてすれちがい通信で配布した。メタルキングのみが発生する階がありレベル上げに最適な内容から、日本全国に拡散していった。
出てきたのが2012年の2月です、忘れもしません! 『ドラクエX』が発売する2012年8月までには、達成しておきたくて。出た瞬間は「やっと、まさゆきの地図でたー!」と、ほとんど燃え尽きましたね(笑)。以降は、メタキンやゴルスラだらけの地図を自力で出したりして、遊んでいました。
──こういったやり込みというのは、これまでの歴代『ドラクエ』でずっとやっていたんですか?
砂倉氏:
そうですね。オリジナル版やリメイク版含めて、転職やレベル、パラメータをカンストさせたり、ドロップアイテムを集めたり、はぐれメタルを仲間にするまで寝ないとか、ずっとやっていました。流石に『ドラクエX』は時間がかかりすぎるため、極めてはいませんが、『星のドラゴンクエスト』や、この前、サービスが終了したPC版『ドラゴンクエストモンスターパレード』も、かなりやり込みました。
──ということは、歴代の『ドラゴンクエスト』シリーズを順番にやり続けている中で、急に『ドラクエIX』で、やり込みのハードルがあがったように感じたんじゃないですか?
砂倉氏:
最初にプレイしたとき、転生とか地図とかの仕様を徐々に理解して、「これはまずいぞ。なんてことしてくれたんだ」と思いました(笑)。でもやり込まないと、開発者の皆さんに失礼に値するなと思いました。家族に許しを得ながら、黙々とやりつつ、家内は僕の性格を知っているので、理解はしてくれています(笑)
──それほどやりこまれてる『ドラクエIX』ですが、他のシリーズにはない本作の魅力はどのように考えておられますか。
砂倉氏:
自己顕示的な部分ですね。これまでの『ドラクエ』は家で「俺、すげえ」と完結していたのが、人に見せ合うことができるようになったのが、素晴らしいなと思います。発売当時はmixiとかブログとか活況な時代だったとは思いますが、今ではファンサイトすらなくなっている時代ですから。今のTwitterなどで自分顕示する要素を『ドラクエIX』をゲームに取り入れてあって、それが凄い部分だと思います。
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──そこまで長い時間と大変な労力をかけて、ゲームをやり込んだ先に見えてくる景色というものはあるんでしょうか。山の頂上まで登ったような感覚というか。
砂倉氏:
いや自分のなかでは「遊ばせていただいている」という気持ちしかないので。宝の地図とか無限に近く全部を見ることはできないし、むしろそれが魅力なんです。「今日はいったいどんな地図が出てくるのか」というワクワク感というか。当時は記録をつけてましたけど、あれだけやり込んでも同じ地図が出たことってないんですよ。これは本当に終わりがない『ドラクエ』だなと。『ドラクエX』もそういうキャッチコピーをつけていますが、自分のなかでは『ドラクエIX』が最初ですね。
頂上にたどり着いたと思ったら、さらなる頂上がある。僕は堀井雄二さんや藤澤仁さんはすごく尊敬していて、特に藤澤さんと1歳しか違わないんですが、そういう人たちが自分の好きな文化を作ってくれていること、いつまでも楽しませてくれる開発者の皆さんには、感謝の念しかありません。
──ありがとうございました。
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