いま読まれている記事

クラファン、PR、演者集め、自作楽器の制作!?『メグとばけもの』の作曲家が「ほぼひとり」でコンサートを開く理由とは。インディーならではの取り組みと情熱。「バルファルク戦」BGMなどを手掛けた裏谷玲央氏インタビュー

article-thumbnail-241016c

魔界に住む魔物の「ロイ」と、人間の少女「メグ」が旅をするアドベンチャーRPG『メグとばけもの』のコンサートが、2025年2月23日に開催される。

ゲーム音楽のコンサートは数あれど、『メグとばけもの』は小規模開発のインディーゲームだ。その上、主催しているのは作曲者個人という、かなり珍しい形態となっている。

そんな本作のコンサートを開催するのは、元カプコンで『モンスターハンター』シリーズなどの作曲、特に『モンスターハンターダブルクロス』の「バルファルク戦」のBGMで知られる裏谷玲央氏。

本作の開発元であるOdencat株式会社の協力は得つつも、出演するミュージシャンから音響・照明のスタッフに至るまで、たったひとりで手配をしているという。

イベント会社などには頼らず、自身でクラウドファンディングも実施。目標金額の4倍近くの支援を受け、開催に向けて鋭意準備中だ。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_001
(画像は【メグとばけもの】作曲家自ら開催する「最初で最後」のゲーム音楽コンサート! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)より)

「最初で最後」と称するコンサートは、コンサート専用の公式ホームページを作ったり、今回のためだけに専用の楽器を自作したりと、かなりの気合の入りようだ。

今回電ファミでは、そんな裏谷氏にインタビューを敢行。なぜ個人でコンサートを開くに至ったのか? その理由や準備の苦労、裏谷氏の考える「ゲーム音楽観」について伺った。

ゲーム音楽特有の権利事情から、「ゲームのコンセプトが第一」という仕事観、それを音楽で表現する情熱。「作曲家人生の集大成」という今回のコンサートについてひも解いていく。

取材・編集/りつこ・実存
文/なからい
撮影/かちゃ

コンサートは「作曲者に著作権が残る」ゲーム音楽では珍しい契約だったから実現した。カプコン時代と、インディーゲーム制作の違いについて

──インディーゲームで、しかもイベント会社などではなく、作曲家ご自身がコンサートを主催されるというのは異例のことだと思います。今回、コンサートを開催するに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?

裏谷氏:
まず第一に『メグとばけもの』の音楽の著作権が僕自身にあった、ということがあります。

そもそもの話として、ゲーム音楽の仕事って「著作権買い取り」のケースが非常に多いんです。制作費を頂いて楽曲を制作して、そのあとの権利はゲーム会社さんが持つという形ですね。

それが今回の『メグとばけもの』では予算の都合上「レベニューシェア」【※】という形を取ることになり、権利は作曲者自身で管理するということになったんです。これが今までのゲーム音楽のお仕事とは全く違いました。

※レベニューシェア……固定額ではなく、作品の売り上げに応じて発注者側と受注者側で利益を分配する報酬形式のこと。

──レベニューシェアというのは、かなり珍しい形態であると。著作権が作曲者に残るというのも、ゲーム業界ではレアなケースなんですね。

裏谷氏:
そういう意味では、自分に権利があったからこそ、コンサートを開催できたという面はかなりありますね。普段やっている作品だと、こういった催しをするハードルが高すぎるんです。

──過去のインタビューで語られていますが、パーカッションにフォーリー【※】を用いるだとか、レコーディングをリモートで行うといった、特殊な制作体制も、自分で責任を持てるという契約形態の特殊さからきているのでしょうか。

裏谷氏:
それもありますね。特殊な試みをやりたいと思っても、制作費の都合でできないこともありますし。

あとは、最近のゲーム音楽って、複数の作曲家で作ることも多くて。1人で全部やるというのも少なくなってきています。

※フォーリーサウンド……映像作品などで、場面ごとに合わせた効果音などをさまざまな小道具を用いて専用のスタジオで録音する手法。『メグとばけもの』では、作品のコンセプトに合わせて、BGMのパーカッション部分はデッキブラシや鍋のフタのような「がらくた」を用いて演奏されている。

──そもそも、『メグとばけもの』に参加することになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

裏谷氏:
2019年に開かれたCEDEC【※】で、『メグとばけもの』を作ったOdencat代表のDaigoさんが登壇をされていて、そこで話をしたのがきっかけです。僕はカプコンから独立した1年目で、いろいろなところに顔を出していました。

Daigoさんのことは元々知っていて。彼が中高生の時に『RPGツクール』のゲーム制作コンテストに応募されていて、そのゲームを遊んだことがあったんです。

それで「ちょっと話してみたいぞ」と思って、Daigoさんに挨拶をしました。「カプコンで『モンスターハンター』の音楽を作っていたんです」って言ったら「うちもモンスターが出るゲームを作りたいと思っているんです」みたいな話になって。その場では「ぜひ機会があれば」という話になりました。

実際に『メグとばけもの』のお話をいただいたのはそれから1年後で、そこから動き出しました。

※CEDEC……国内最大級の、ゲーム業界向け技術カンファレンス。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_002
Evoto

──カプコン時代に楽曲を作られていた時と、独立して、特にインディーゲームのプロジェクトに携わるのとでは、制作プロセスや条件などは大きく変わってくるのでしょうか。

裏谷氏:
そうですね。カプコンのコンポーザーをしていた頃は、作曲家と言っても会社員ですから。曲を作っても、なにをしていても毎月安定して給料が入ります。そういう意味では、世間一般で考えられている「作曲家」のイメージとはちょっと違うと思いますね。

──今回、『メグとばけもの』に携わって、カプコン時代と「これが一番違ったな」という点はありましたか?

裏谷氏:
インディーゲームという小規模な開発体制なので、全てにおいて話が早いです。
『メグとばけもの』では、プロデューサーのDaigoさんと、もうひとり、シナリオとディレクション担当のRyotaさんという方がいて。その2人にさえ話をすれば、どんな話でもすぐに進めることができたんです。

もしこれがカプコンとなると、「該当するセクションの担当者に話をして」とか。そこからディレクターに話をして、社内で相談をして。大きいことをやろうとすれば、そういった社内稟議を通さないといけません。コンサートとか、たぶん絶対出来ないと思う(笑)

──(笑)。やりたいことがすぐに実現しやすい環境だったんですね。

裏谷氏:
コンサート開催という点では、自分に音楽の権利があったということが一番大きいんですけれど。カプコンのような大きい会社だったとしたら、たとえ権利を持っていたとしても、実現するのは難しかったんじゃないかと思います。

「ここまでリスクの高い」イベントの開催は難しかったと思います。

──コンサート以外の話でいうと、ひとつ驚いたのは、サウンドトラックのためだけの公式Webサイトが用意されていることです。これが非常に作り込まれていて。そういった側面からも、作品にとっての音楽の存在を大切にされている姿勢が感じられました。

こういった試みは、チームと制作を進めていく中で「音楽をもっとプロモーションしていこう」みたいな話があって行われたものなんでしょうか。

裏谷氏:
いえ、全くそんなことはなくて、僕がやりたいから勝手にやりました。

──そうなんですか!「やりたいから」でWebサイトまで作ってしまったんですね。

裏谷氏:
そうですね。特にインディーゲームではサウンドトラックを作ったとしても、Webサイトを作るような予算まではかけられないんです。

そこを、自分の責任でお金を出して作ればWebサイトができるんだったら「じゃあやってみようか」と思って。そこから派生して、サウンドトラックの紹介動画を作ってもらったりもしました。そういった「人があまりやっていないことをする」っていうのは好きなのかもしれないです。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_003

「こういうことをやったら面白いだろう」、「それができるんだったらやろう」とか、「これをやると喜ぶ人が多いよね」とか。アイデアを出すのは結構好きなので、そういったところが活動のベースになっています。

会社でやっていると、「過去に例がないから」とか、「予算を取っていないから」で出来なかったことが、もう全部自己責任でできるんです(笑)。もちろんお金にはならないんですけど、「やってよかったな」っていう状態に持っていけたらそれで十分かな、と。

──でも、ゲームの音楽に興味を持った人が、それについてもっと知りたいと思った時に、公式サイトが用意されているというのはありがたいですよね。

裏谷氏:
そうなんですよね。インディーゲームだからできたことのひとつとして、Steam版でゲームをクリアした後に、メニュー画面からサウンドトラックの公式サイトに飛べるようにしてもらったんです。

サウンドトラックのサイトも、普通だったら宣伝ばかりしているようなものが多いんですけど、そういうのはあんまり好きじゃなくて。

もっとゲームの世界観を楽しめるようなサイトにして「一応サウンドトラックも売ってるよ」というものにしたんです。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_004
(画像はメグとばけもの – 音楽の世界 – Music by Reo Urataniより)

──すごくかわいらしいサイトになっていますよね。

裏谷氏:
コンサートの話にも繋がるんですが…… サイトを作ったときは「その後どうしようかな」というのは、正直考えていなかったんです。

ただ、「音楽で喜んでくれる人がいるかもしれない」と思ったので、LINEの公式アカウントを作って、サイトに設置してみました。どういった反応が貰えるかはわからなかったんですが、興味を持ってくれる人が動向を把握できるかな、と思ったので。

ゲームの音楽に対して「良かったな」と思っても、大抵は2、3日で忘れてしまうと思うんですよ。「それはすごくもったいないことだな」と思ったので、ゲームや音楽を楽しんでくれた人に、より楽しんでもらうような導線を可能な範囲で用意していったんです。

──「ゲームの音楽をつくる」という仕事で、そこまでプレイヤーさんを楽しませることに思い至る方ってあまりいらっしゃらないんじゃないでしょうか。こういった「ゲームの外でも音楽を楽しんでほしい」というアイデアを思いついたようなきっかけってあったんでしょうか。

裏谷氏:
それに関してはただ「思いついただけ」なんですが……。 最初に話した通り、ゲームの作曲の仕事は、発売後にそういったアイデアを思いついても、基本的には「やりたくてもできない」と思います。

今回のコンサートを開催したモチベーションについて。軽い気持ちで始めたら、とても大変だった

──権利や規模の問題がクリアされていたことで、今回のコンサートが実現可能だったというお話でしたが、モチベーション的な面で「コンサートを開こう」となったきっかけは何だったのでしょうか?

裏谷氏:
ゲームをリリースした時に、「コンサートとかできたらいいな」という、ふわっとした思いはあったんですけど。まさか本当にするとは思っていなくて(笑)。

──(笑)。

裏谷氏:
予想に反して、ゲームと同時に発売したサウンドトラックCDが、ありがたいことに完売したんです。

その後にダウンロード版を購入してくれる方もいて、「音楽が良かった」という反応が多かったので。「せっかく自分で全て担当した作品だし、コンサートを開いたら喜ぶ人もいるんじゃないかな」と、安易な気持ちで始めてみたら、本当に大変だったというか(笑)。

──そういった、サウンドに対する反響みたいなものは、どこから収集したんでしょうか?

裏谷氏:
VTuberの方や、ゲーム実況者の方が『メグとばけもの』のプレイ動画を配信してくれて。僕も結構見ているんですが、コメント欄で「音楽が良い」ってコメントをしてくれるユーザーさんがいたんです。

ふつう、ゲームの音楽に視点が行くことってあんまりないと思うんです。それでもこんなに喜んでくれる人がいるんだと思って。それだったら、音楽単体でコンサートをしても、きっと喜んでくれる人がいるんじゃないかと思ったんです。

──余談ですが、裏谷さんの楽曲を配信で聞いて、配信者が「ブチ上がってる」動画がバズったりしているのを思い出します。『モンスターハンター』シリーズの「バルファルク」戦のBGMなんかが特に人気ですよね。

裏谷氏:
「モンハンBGM総選挙【※】が開催されて、バルファルクのBGMがユーザー投票で1位になったんですよね。ありがたい話ではあるんですけれど、自分が作ったのもかなり前なので「あ、そうなんだ」というか(笑)。もちろん嬉しいことではあります。

※モンスターハンター モンスターBGM総選挙……2024年の『モンスターハンター』シリーズ20周年を記念して開催された、歴代シリーズのBGMの人気投票。裏谷氏が作曲した『銀翼の凶星 ~ バルファルク』が1位を獲得した。

──コンサート自体に関して、がらくた楽器に関しては、事前の録音などではなくて、専用の楽器を作って実際に演奏するという力の入れ具合です。そういった気合の入れ方に関しては、どういった思いがあるのでしょうか。

裏谷氏:
そこは厳密に何かを決めているわけではないんですが、「実際にガラクタを演奏できたら楽しいよね」というのが一番大きいと思います。

──コンサートとしての、体験の楽しさを重視されているんですね。今回は、実際に「ガラクタから作った楽器」を制作されているんですよね。

裏谷氏:
そうですね。名古屋で活動されている「日用品演奏ユニットkajii」というユニットがいるんですけど、直接連絡を取って「コンサートで演奏してほしいんです」と言ったら、OKしてくれて。

今回のコンサートのために、ちゃんと演奏できるようなカスタマイズをして作っています。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_005
(画像は【メグとばけもの】作曲家自ら開催する「最初で最後」のゲーム音楽コンサート! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)より)

──コンサートに出演されるミュージシャンの方は、もともとお知り合いだったりするのでしょうか。

裏谷氏:
いえ、コンサートを開くことになってから、直接メッセージを送ってお誘いしました。
地道に、お問い合わせフォームから連絡を送ったりして(笑)。

確認を忘れていたり、迷惑メールのフィルターに引っかかったりして、返事が帰って来ない場合もあるので、その時は知り合いづてに「ちょっと〇〇さんを紹介してくれないか」って頼んだり。

──かなり泥臭く出演者を募られたんですね(笑)。実際に連絡を取り合っている最中の反応はいかがでしたか。

裏谷氏:
ゲーム音楽のコンサートって、ゲーム会社やイベント会社が主催することはよくあるんですが、作曲家自身が主催するという珍しさから「ちょっと面白いかも」と思って手伝ってくれる方もいますね。

──作曲家自身の主催が少ないというのは、やはり権利的な制約の部分が大きいのでしょうか。

裏谷氏:
そうですね。あとは、こんなに大変なこと、たぶんひとりでやらないほうがいい(笑)。

──今回はクラウドファンディングもされているということで、リターンの用意などもありますしね。

裏谷氏:
実際にやってみて、片手間でできるようなものではないと思いましたね。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_006
Evoto

──Webサイトの作成やコンサートの出演者集めなど、ご自身でコンタクトをとられて、好きなクリエイターさんと仕事をされているというのは、大変素敵だと思います。

CEDECでDaigoさんに声をかけたのも裏谷さんからということで、裏谷さんが積極的に人と動いていくからこそ『メグとばけもの』や、今回のコンサートが世に出ているんだな、と感じました。

裏谷氏:
自分としては、「皆さんそうしているんじゃないかな」とは思うんですが…… 。実際は自分から連絡を取るような人って、意外と少ないのかもしれませんね。

──特に、コンサートに関わる人集めを、裏谷さん自身がしているとは思っていなかったので、驚きました。

裏谷氏:
当日の「チケットもぎり」の担当を任せる人から、音響・照明のスタッフさんまで、全部自分でお願いする人を決めました

メインのサウンドエンジニアさんは、カプコン時代に知り合った方で、ロサンゼルス在住で「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ【※】のミックスをしているようなすごい方なんです。今回のコンサートの話をしたら、コンサートのために日本に来てくれることになって。

※レッド・ホット・チリ・ペッパーズ……アメリカのロックバンド。アメリカ音楽界最高峰の賞であるグラミー賞を複数回獲得し、「ロックの殿堂」入りも果たしている。

──凄い方が参加されているんですね。それもアメリカからわざわざ日本に来てくれるとは(笑)。

裏谷氏:
そうなんですよ。そういった人と人との繋がりだとか、そこから生まれるものをすごく大切にしています。自分から頼んで、もし仮にうまくいかなかったとしても「自分で決めたんだからしょうがない」と思えるような人にだけお願いをしました。

──こうしてお話を聞いていると、裏谷さんはプロデュース能力にも非常に長けた方なのかな、とも思います。

裏谷氏:
どうなんでしょうね。僕自身はそういった意識もなく、人に連絡をするのとかもすごく面倒くさい人間なんです(笑)。
「やると決めたらやるしかない」という気持ちで動いている感じです。

──ゲーム音楽を作られている方って、ある種スタジオミュージシャンのような、職人的に作品を作られる方も多いと思うんです。

いっぽう、裏谷さんのやられていることは真逆で、ご自分でやりたいことを全てやられていらっしゃいます。そういった前のめりなガッツが半端じゃないな、と感じさせられます。

裏谷氏:
「やったら喜ぶ人がいるだろうな、じゃあやるか」って、スタートはすごく軽いんです。ただ、自分の性格的に、基本的に手を抜くことがすごく下手なので。「やると決めたら、いいものを作るために全力でやる」というやり方しか知らないんです。

──それにしても、ご自身でここまでコンサートの準備をされて、クラウドファンディングもされて、というのは、並大抵のことではないと思います。

裏谷氏:
コンサート開催すると決めて、準備を進める中で、資金が全然足りないことが発覚して、このままでは全席完売でも大赤字というところまでいきました。
逆に言うと、資金面の問題さえクリアできたらコンサートが開催できるんじゃないかということで、クラウドファンディングをやってみたんです。

──なるほど、逆に「資金さえあれば、あとは自分の頑張りでまかなえる」という条件が整っていたんですね。コンサートの準備期間としては、どれくらいかけられたのでしょうか。

裏谷氏:
構想レベルから考えると現時点で1年近く、開催が来年の2月なので、そこまで考えると2年弱はかかっていると思います。

──クラウドファンディングの紹介文にもありましたが、本当に「作曲家人生の集大成」のような催しになっているんですね。

裏谷氏:
そうですね。たぶん、自分で主催というのはもう2度とやらないと思います(笑)。クラウドファンディングを開始する前の段階で相当大変だったので、「これはもう、最初で最後だ」と。

ただ今回は最初なので、自分の手でこだわったものを作ろうと思いました。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_007
Evoto

「しっかりしてる」プロデューサーとしての裏谷氏。「怪しいビジネス講座」で学んだ知識をフル活用する「ぬかりのなさ」

──プロデューサー意識はそんなにない、とのことでしたが、今回の企画を持ちかけた時に、ミュージシャンの方が面白がってくれたというエピソードがありました。こういった点で、今回のコンサートには「企画としての鋭さ」みたいなものも感じます。

裏谷氏:
そうですね。良い意味でも悪い意味でも、そういった「勘どころ」はあると思っていて。「文章をこういう風に書いたほうが、反応する人がいるだろうな」というのは結構考えます。

たとえばですが、「〇周年記念で開催」って書くと、「じゃあ毎年開催されるのか」って受け取ってしまう人もいますよね。

あとは、「お金を儲けたい」みたいな態度がちょっとでも見えてしまうと、すごくネガティブに映ったりすると思います。なので、そうした一貫性はかなり大事にしています。

──そういった感覚やセンスって、どこで培われたものなんでしょうか。

裏谷氏:
ちょっと余談にはなるんですが、カプコンを辞めるときに「もし音楽でやっていけなかったら」という事を考えて、100万円の怪しいビジネス講座に申し込んだんですよ(笑)。

自分の事業には全然活きなかったんですが、今回のコンサートではかなりノウハウは活かされています。

──100万円の講座とは、思い切りましたね(笑)。

裏谷氏:
100万円分の価値があったかというと微妙なところですが(笑)。

自分の事業には活きなかったんですが、母親がやっているピアノ教室のマーケティングには活かせたんです。当時、毎月赤字だった教室の、生徒の数が10倍ぐらいに増えて。

──10倍はすごいですね!ピアノ教室ってなかなか生徒さんの数が急増するイメージのないジャンルですが、その点もすごいです。

裏谷氏:
もともとの人数が少なかったというのもあるんですけどね。ホームページからの導線設計だとか、周辺の地区の人口分布から子供の数を割り出してマーケティングをして、とか。そのビジネス講座で学んだことを全部導入してみたんです。

そういう意味では、受講して良かったのかもしれませんね。今回のコンサートでも、告知の手段がないから、LINEの公式アカウントを作ったり。実際、クラウドファンディングの支援者のほとんどが、X(旧Twitter)とLINEから来てくれています。

──さまざまな積み重ねがあって、今回のコンサートが実現したということですよね。クラウドファンディングの成功といい、個人での主催といい、異例なことづくめだと思います。こんなこと、誰もやったことがないというか(笑)。

裏谷氏:
自分でコンサートを開くと決めた後に、他の団体の方からも「『メグとばけもの』のコンサートを開きたいんです」というお話を頂いたりもして「すいません、自分でやることになりました」と渋々お断りすることになりました。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_008

──その断り方すら珍しい(笑)。コンサート自体は、クラウドファンディングの支援者の方を招待するという形で、チケットの一般販売などはされないのでしょうか。

裏谷氏:
一般販売も予定はしていたのですが、ありがたいことに、クラウドファンディングの方で全席完売してしまって。

2回公演も検討したのですが、こだわった内容を届けるためには、1日2回の公演は難しかったんです。すごく悩みましたが、一般販売はせずに、クラウドファンディングの支援者の方だけを招くという形になりました。

その代わり、チケットを買えなかった方のために、映像配信の視聴権を販売する形を取ろうと思っています。

──映像配信まで手配されているんですね!さすが、しっかりしているというか、ぬかりがない……!

ゲームクリエイターになりたかった裏谷氏は「作品に合う音楽」を追求する。作品に必要ないなら「音楽を作らない方が良い」というラディカルな思想

──ここからは、もう少し裏谷さんご自身のことについても伺ってみたいと思います。

裏谷さんはカプコンに長年在籍し、独立してから『ライザのアトリエ』シリーズ『メグとばけもの』などの作品に携わられています。今回のコンサートもそうですが、ご自身の作品をプロデュースしていくような目線というのは、独立されてから培われたものなのでしょうか。

裏谷氏:
結果的にはそう見えている部分もあるかもしれませんが、僕自身は、音楽単体にはそんなに興味がなくて。ゲーム作品があって、「それに合うもの」を作るのが好きなタイプの作曲家なんです。

──音楽自体が好きというよりも、作品に合う音楽を作るのが好き、と。そういった姿勢は元からそうだったのでしょうか?それとも、キャリアの中で培われたものなのでしょうか。

裏谷氏:
僕自身、小さい頃はゲームクリエイターになりたかったんです。ゲームを作りたかったんですけど、プログラミングがわからなくて挫折して(笑)。いろいろチャレンジした中で、残ったのが音楽だった、というのが大きいですね。

なので、音楽だけを作るのが楽しいというわけじゃなくて、ストーリーや情景を音楽でより良いものに表現する、ということに喜びを覚えて、それが仕事になりました。

──裏谷さんの楽曲は、たとえば『モンスターハンタークロス』だったらモンスターの設定にマッチした音色の楽器を使っていたり、『メグとばけもの』では「きれいときたない」というキーワードに沿った楽器を選定されたりと、象徴レベルで作品とマッチした楽曲が多いように感じます。

昨今の傾向としてゲーム音楽は雰囲気に徹するような役割が増えている中で、こうした試みはサウンドトラック自体の強度も増すと思います。こうした制作姿勢の背景には。どういった思いがあるのでしょうか。

裏谷氏:
僕自身のスタンスとしては、「ゲームがどうか」ということが一番大事だと思っています。

「音楽で引っ張っていくぞ」というアプローチでゲームが良くなるならそうしますし、逆に「雰囲気に徹した方がいいな」という作品だったらシーンに合わせた主張しない曲を作ります。

そこに対しての忖度はあまりなくて、「作品としていいものを作ろう」ということしか考えていないんです。

──なるほど。

なので、作品について考えた結果として「音楽はいりません」となったのなら、音楽を作らないという決断ができるくらいには、ゲーム先行で考えているところはあります。

作品に関しても、「自分が作らない方がいいな」と思う作品だったら、自分以外の人に作ってもらった方がいいかな、と思うくらいです。

もちろん、クライアントとの関係性だったり、その人が頼ってくれているのであれば、精一杯応えたいなとは思いますけど。「このジャンルだったら、他の人が作った方がいいな」と思ったら、言うかもしれませんね。

──「いらないんだったらつけないほうがいい」というのは、相当ラディカルというか…… 今までお話を聞いていて、裏谷さんはかなり明確な活動スタンスや、行動のひとつひとつに理由がある方なんだな、と感じます。

裏谷氏:
そうですね。独立してからのいろいろな変化や悩みを経て、こういった形に落ち着きました。

──それで言うと、『メグとばけもの』は、耳に残るタイプのゲーム音楽を採用しやすいゲームであった、というのはあるんでしょうか。

裏谷氏:
そうですね、かなり大きい理由だと思います。『メグとばけもの』がもし「すごくリアルで、フルボイスのゲーム」だったら、絶対ああいう風にはしていないですね。

──ドット絵のゲームだったということもきっかけになったんですね。

裏谷氏:
ですね。極力音数も少なくして、スーパーファミコンとかファミコンくらいの、シンプルな音数で表現できるくらいのトラック数で作ろうと思いました。

『メグとばけもの』のコンセプトの話で言うと、僕は、コンセプトというものは自分のルーツとかけ合わさると強くなると思っていて。

僕自身は、キャラボイスとかが入る前の時代のゲームが一番好きで、ドット絵で、何をやっているかはわからないけど、音楽などでシーンを盛り上げていく演出が強く原体験として残っています。

『メグとばけもの』は、たまたまそういうゲーム音楽の在り方と合致するプロジェクトだったので、自分が幼少期に体験した、ゲームを遊んだ時の感覚を今の時代にやってみようと考えました。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_009
(画像はSteam :メグとばけものより)

──ちなみに、裏谷さんの原体験的なゲームってどういった作品になるんですか。

裏谷氏:
RPGが多いですね。『ファイナルファンタジー』もそうですし、あとは初期の『テイルズオブ』シリーズとか。あとは最近リメイクされた『ライブアライブ』とか、『サガ フロンティア2』とか。挙げればキリがないんですよ。

スーパーファミコンやプレイステーション時代のRPGはほぼ全部やったんじゃないかっていうくらい遊んでいて。そのころに受けた自分の感覚っていうのが、今に活かされているんじゃないかと思います。

──たしかに、クラシックなJRPGって、その作品を象徴するメインテーマのような曲がかなり多い印象を受けますね。バトルの戦闘曲とかには、特にその傾向を感じます。

裏谷氏:
戦闘曲とかは、繰り返しの回数があからさまに多いですよね。普通の音楽とは違う、特有の受容のされ方があるなって思います。

それで僕が思うのは「感情とリンクすること」かなと思います。例えばRPGだと、そのストーリーに共感して、のめり込むということがありますよね。

ストーリー上倒すべき敵でも、ただの悪いやつなのか、自分の両親を殺したやつなのかで、感じ方は変わってくると思うので。感情にリンクする音楽を付けてあげると、心に残りやすいというか。

そういった役割は、昔だと音楽が全てを担っていたと思うんですが、今はキャラボイスなどの要素をゲーム内に実装できるようになったので。その影響でたぶん「ゲーム内の音楽の役割」が下がっている可能性はありますよね。

──なるほど。音楽以外の演出がリッチになったことによって、演出全体における音楽の占める割合が狭まってきたかもしれないんですね。逆に言うと、予算が限られているインディーゲームの方が、むしろ音楽で演出する余地が広い、みたいな。

裏谷氏:
そうかもしれません。いわゆる、「メロディーで盛り上げる」みたいな手法に関しては、DIYなインディーゲームの方がやりやすいと思います。

──そういった、「耳に残りやすいゲーム音楽が減ってきた」これまでの歴史と、ゲーム音楽がこれから先どうなっていくかといった点については、どういう風に捉えられていますか?

裏谷氏:
大まかな流れの話で言うと、ゲーム音楽はずっと進化してきているとは思っていて。
進化というと、ある意味では「できることが多くなる」という風に思うんですが、それって逆に言うと「なんでもできてしまう」ということなので、ブレやすくはなるかなと思っています。

それまであった制限がなくなって、なんでもできるようになったからこそ、ひとつの芯となるコンセプトを決めることが重要になってくると思いますし。それをしっかりと考えられるクリエイターはこれからも必要になると思います。

──取れる選択肢の幅が広くなったゆえに、その選択自体が重要になってきているんですね。

裏谷氏:
あとは、もしかしたら「音楽そのものがいらなくなる」可能性もあると思っていて。
例えば、仮想現実のような空間で人と喋っている時に、BGMとして流す音楽はあるかもしれないけど、僕が普段作っているような「情景や感情に音楽を当てる」みたいなものって、たぶん暑苦しいじゃないですか(笑)。

シーンに合わせてテンションが上がっていくような音楽って、いらなくなる可能性は全然あると思っていて。「なくなったらなくなったで、また別の事をすればいいか」という感じではありますけどね。

──やはり、音楽以外の演出が豊かになったことによって、かつて音楽が担っていた部分が分散していっている、というような感じなのでしょうか。

裏谷氏:
音楽自体に求められる技術力は高くなっているんですけど、得られる効果はどんどん薄くなってきていると思います。

──最近は、「インタラクティブミュージック」なども増えてきていますよね。ゲーム中の状況に合わせてシームレスに音楽が切り替わったりして、それ自体はすごい技術ですが、一方でプレイヤー自身が音楽そのものを認識する機会が減っているような気がします。

裏谷氏:
カプコンの『バイオハザード』シリーズで、僕の同期がインタラクティブミュージックをかなりうまく使っていたんです。曲と曲のつなぎ方がすごくきれいで、どこで切り替わったか全然わからない、みたいな感じなんですよ(笑)。
すごくよくできていて、それ自体は大正解だと思うんです。いっぽうで曲が変わったのを認識できるかというと、わからないですよね。

──シームレスにすることで、没入感自体は増すけれど、音楽単体として耳に残るかといわれると、そうではない。「どちらが正しいか」というわけでなく、このあたりも作品ごとの事情によって「どれが最適か」で変わってくると。

それで言うと、裏谷さんが担当された『モンハンクロス』の楽曲はとてもドラマティックだと思います。あれは、どういった意図で非常に盛り上がるような方向性の楽曲になったのでしょうか。

裏谷氏:
『モンハンクロス』の時は、僕はサウンドディレクターという役割で、ゲーム全体のサウンドの方向性を決める立ち位置でした。
当時は、『モンハン』の曲って、民族音楽風で繰り返しが多く、あまり盛り上がらない曲も結構ありました。

『モンハンクロス』は、ニンテンドー3DSで遊べる『モンスターハンター』として、カジュアルに遊んでもらいたい、「お祭り感のあるような感じ」というゲームコンセプトがあったので。音楽ももうちょっとキャッチーで分かりやすいものを作ったほうが良いんじゃないか、という着想があったんです。

──なるほど、『モンハン』シリーズって、全体としてはリアル調のイメージですが、その中でも『モンハンクロス』はキャッチーに行きたかったということですね。納得です。

ちなみにそうしたコンセプトというのは、開発の初期段階から定まっているものなんですか。

裏谷氏:
基本的にはそうですね。作っていくうちに途中で変わってきたりするところもあるので、そこは開発と共にブラッシュアップをする形です。

──先にゲームのコンセプトがあって、それに合わせて音楽のコンセプトを決めていくわけですね。そもそも楽曲のコンセプトというのは、どのように決めるものなのでしょうか。ゲームの試作版をプレイしながらとか。

裏谷氏:
決め方としては、やはりディレクターからのヒアリングが一番だと思います。

ディレクターの頭の中にある、「どういうものを作りたいか」というイメージを引き出して、サウンドの方向性を決めるんです。そういった点では「アーティスト」というよりは、職人的な部分は大きいです。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_010

──ちなみに『モンハンクロス』でサウンドディレクターを担当したというのは、ゲーム音楽に対する考え方が構築される上でのターニングポイントだったりするのでしょうか。

裏谷氏:
そうですね。サウンドディレクターは、効果音なども含めて、作品のサウンドの責任者的な立場なんですが、自分でコンセプトを考えるってことを経験できたのは大きかったです。

『メグとばけもの』音楽の制作工程について。楽曲は勿論、再生やフェードアウトのタイミングまでこだわる理由。

──いっぽうで、今回の『メグとばけもの』の制作工程は、どういったものだったのでしょうか。

裏谷氏:
『メグとばけもの』に関しては、ディレクターのRyotaさんが新潟県に住まわれているので、直接会いに行って、どういうイメージで作品を作っているのか、という話をいろいろ聞いて。
別に音楽やサウンドの話をしたわけじゃないんですが、化け物と女の子が出てくる物語だということを伺いました。

その中で「きれいときたない」というキーワードを思いついて、そういうものを実現するアプローチとして、「きたない」を表現するガラクタの楽器だったりとか「きれい」といえばピアノやバイオリンだよね、という着想を得て。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_011
(画像はメグとばけもの – 音楽の世界 – Music by Reo Urataniより)

──『メグとばけもの』でも、企画初期で掴んだコンセプトを元に進めていったんですね。

裏谷氏:
そうですね。手探りではあるんですけれど。それで、DaigoさんやRyotaさんに、「こういうコンセプトで曲を作ろうと思うんですけど」とコンセプトの提案書を作りました。

自分が関わることでひとつ強い軸ができたかな、とは思います。

──『メグとばけもの』の開発段階では、サウンド以外の、ゲームの内容の話などはされたんですか。

裏谷氏:
そうですね。ちょっと細かい内容で覚えてはいないんですけど。ストーリー展開の話などもした記憶はあります。

一番こだわったのは、曲を流すタイミングと止めるタイミングですね。
Ryotaさんが曲の再生・停止の設定をされるので、そこはすごく細かく指定して。「このメッセージのこの箇所で再生開始して、このタイミングで何秒かけてフェードアウトします」みたいな感じです。

──それはすごいですね(笑)。演出として、かなりこだわって制作されていたのが窺えます。

裏谷氏:
最近のゲーム開発では「サウンドミドルウェア」というものがあって、それを使うことで、クリエイター側で音楽の再生タイミングなどを細かく制御することができるんです。
ただ、『メグとばけもの』はインディーなので、そういう凝ったことはできないんですよ。鳴らすか止めるかしかできないので、「じゃあどこで鳴らすと一番演出として良いのか」というところを考えました。

──『メグとばけもの』は、自作のゲームエンジンを使用しているとお聞きしました。だから既存のサウンドミドルウェアは使っていないんですよね。

裏谷氏:
自作のゲームエンジンを使用しているので、その中で使える手段を使ってやる、という感じです。デバッグで確認できるものもあるんですが、ゲーム全体を通して確認しなきゃいけないタイミングもありました。なので、たぶん10回くらいはクリアしていると思います。

ストーリー重視のゲームなので「曲の再生タイミングにこだわらずして、どこにこだわるんだ」みたいなところはありました。

──「演出としての音楽」を作られているからこその視点があるんですね。音声データを作って渡してそれで終わりなのではなく、チームの一員としての、ゲームへの関わり方を感じます。

裏谷氏:
音楽だけを作るというスタイルで、いい曲を作られる作家さんもたくさんいると思うんですけど。自分はどちらかというと「曲が入ることでゲームが良くなることが嬉しい」という思いがすごく強くて。自然と演出なども考えるような関わり方になりますね。

──『メグとばけもの』が完成するまでに、10回近くはクリアしたというお話がありました。最初のデモ版の段階って、当然音楽はついていない状態ですよね。そこから実際のメロディーが作られていく過程についてもお伺いしたいです。

裏谷氏:
メロディーがどう出てくるかでいうと『メグとばけもの』の音楽って、基本的なテーマ曲があって、それと同じフレーズを他の全ての曲でも使う形式になっています。つまり基本的には、全ての曲が元となる1曲のアレンジになっているんです。

だから、今回コンサートで演奏されるのが、ほぼ全部同じメロディになるので、大丈夫かなって(笑)。もちろん、アレンジは全て違うんですけれど。

──メインテーマというひとつの強力なモチーフがあって、全ての曲においてそれが共有されているんですね。そのフレーズ自体は、どのように制作されたのでしょうか。

裏谷氏:
実は、そのテーマ曲自体も2回ボツになっていて。3回目でようやく今のテーマ曲が出てきたんです。「ひねり出した」という感じですね。

──2回もリテイクがあったんですね。テーマ曲に関しては、DaigoさんやRyotaさんなどの制作陣と相談はされましたか。

裏谷氏:
お二人もそうですし、いろいろな人に聞いてもらったりして。デモで作る曲なので、完成形のイメージも湧きづらいんですよ。「なにか違うと思う」みたいな、ふわっとした感じで話し合って(笑)。

──最初は、ゲーム自体のイメージやコンセプトを踏まえて曲を作るわけですよね。そこで「なにか違う」というリアクションだった場合、どうやって軌道修正するんでしょうか。

裏谷氏:
当初は、テーマ曲をエンディングだけで使うという話だったんです。曲自体もすごく「エンディングっぽい曲」を意識していました。

ただ、エンディングというキーワードだけでは、シンプルでキャッチーなフレーズがどうしても浮かばなくて。エンディングという言葉は一旦忘れて「テーマ曲」として作ろう、みたいな。そうやって発想を切り替えていきました。

──こういった、音楽の方向性に関してのやりとりやすり合わせって、一般的にはどれくらいかかるものなんでしょうか。

裏谷氏:
そのあたりは本当に「人によりけり」という感じですね。
あとは、発注する方がいわゆる「サウンド畑」の方なのか、そうでない方なのかでも変わってきます。

サウンド系の方であれば、音楽的なところで「こうしてください」という要望をしてくれますし。
そうでない方になると「なんとなく違うんだよね」というような反応になってしまいますし。

──音楽的な用語だったり、共通理解があるかないかでも変わってくるということですね。ディレクターさんやクライアントさんの言語化能力みたいなものにも依存する気がします。

裏谷氏:
そうですね。なので、「最初にいかにイメージを引き出すか」と、きちんとそのイメージを言語化しておくことは大事だと思います。

「Aですか、Bですか」と提示して、「じゃあBですね」という風に決めていったり。
料理で例えると、おいしい料理が食べたいというオーダーに中華料理を作って持っていったら「いや、フレンチの気分だったんだよね」ということが起きてしまうので(笑)。

──それはもう、お互いのためにならないですね(笑)。テーマ曲以外の曲も同様に制作されていったのでしょうか?

裏谷氏:
テーマ曲はゲームのプロモーションにも関わりますし、トライアンドエラーが起こりましたが、その他の細かいBGMなどは、基本的には自分が作ったものがそのまま実装されている形です。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_012

裏谷氏の生い立ち・音楽を始めたきっかけは「パソコン教室」だった

──改めてにはなるのですが、裏谷さんの音楽との関わりについて、生い立ちから伺っていければと思います。

裏谷氏:
生い立ちで言うと、普通の家庭だったんですけど、両親が元々音楽好きだったというのはあります。父親はすごいジャズオタクで、母親はピアノの先生をしていたので、音楽に触れやすい環境ではあったと思います。

だからといって、専門的な教育を受けたとかではないです。

──たとえば、ピアノを習われたりはしなかったんですか。

裏谷氏:
小さいころにちょっとだけ弾かされたんですけど、親から教わるっていうのはたぶん無理なんでしょうね。
今でも弾けないです(笑)。

──別のインタビューでお話されていましたが、裏谷さんは、パソコン教室で作曲を習い始めたそうですね。とても不思議な経歴だと思うのですが、そのころのことについて詳しくお聞かせ願えますでしょうか。

裏谷氏:
僕が小学校5年生か6年生のころに、Windows95が出て。「インターネットがこれから来るぞ」という感じだったんです。

僕の祖父がハイテク好きで、「これからはパソコンができなきゃあかん」と、パソコンを買ってきてくれて。ただ、買ってくれたはいいものの、どうやって使ったらいいかわからないので、地元のパソコン教室に行ったんです。

僕は、「パソコンを使えばゲームが作れるんだ」と思っていて。「ゲームを作りたい」って言って、祖父といろいろなパソコン教室を回ったんですけど、「そういうのじゃないから」って門前払いされていたんです。

──(笑)。いわゆる町のパソコン教室って、そういった意図では開講していないですよね。もうちょっと初歩的な、メールの送り方だったりとか。

裏谷氏:
今思えばそうなんですよ(笑)。小学生がおじいちゃんと「ゲームを作りたい」って来たら、パソコン教室の人も困りますよね。
ただ、そんな中で唯一、近所のパソコン教室が「ゲーム制作とかもあるけど、パソコンっていろいろなことができるから、一旦使い方を学んでみたら」と言ってくれたんです。

それでそこに通うようになったら、たまたまそのパソコン教室に、元カプコンでサウンドの仕事をしていた人が講師としてやってきたんです。
それが最初のきっかけで。もう前のめりになって「ゲーム作りたいんです」って。

──たまたま受け入れてもらったパソコン教室に、たまたま元カプコンの方がいらっしゃったんですか!かなりの運命的な出会いのように思えます。

裏谷氏:
そこで、パソコン教室にも作曲を学べる講座が開催されて、はじめてパソコンで作曲できることを知りました。

講師の人は、独立されてからフリーでお仕事をされていたんですが、手伝いとして仕事を振ってもらったりして。

そういった経緯なので、僕は趣味で曲を作ったことはほとんど一度もないんです。

──最初から仕事で「何かのための音楽」を作られていたんですね。これもまた珍しい。

裏谷氏:
当時はまだ全然曲を作れなかったので、「メロディーとベースラインだけ」みたいなレベルだったんですけど。

一番最初は、子供向けのおもちゃで、絵本を開くと音楽が鳴るものだったりとか。あとはガラケーのゲームアプリの音楽などを作っていました。

──そこからそのお仕事を続けられて、カプコン入社に至ったわけですか。

裏谷氏:
仕事というよりは、お手伝いみたいな感じでしたけどね。ギャラも全然もらえなかった(笑)。
今思えば「うまく使われていた」のかもしれませんが、「カプコンに受かりました」って連絡したら、1万円だけくれました。

でも、その方がいなかったら、たぶんこの業界には入れていなかった。音の出し方すらわからなかったと思います。

──今でこそ、YouTubeには作曲講座の動画が上がっていたり、スマホに作曲用のアプリがあったりして、音楽制作は「学んだらできそう」といった身近さがあります。いっぽうで、その当時にゲーム音楽への導線を得て掴んでいったというのは、かなりユニークな例ですね。

裏谷氏:
でも、僕は就職活動でカプコンに応募しようと決めるときまで、まともに音楽なんて作れなかったんですよ。自分の作る音楽は、着メロとかそういったもので、世に出ているj-popとか、どうしたら「こんなにプロっぽい音が出るんだろう」って。

就職活動の時期に、大阪で作曲の教室を見つけて、そこで「ソフトシンセ」という存在を知りました。親に借金をして「音楽を作るならMacだろ」みたいな、単純な動機でMacを買ってもらって、急いで徹夜でデモテープを作って、カプコンに送ったんです。

──そこからカプコンに入社して、経験を積まれたわけですね。

裏谷氏:
カプコンに入れたのは、たぶん運がよかっただけなんです。僕を採用してくれた人も、「採用するか迷ったんだけどね」と言っていました。
しかも、僕が入るまで、数年間、サウンド関係で新卒採用をしていなかったんですよ。たまたま業績がよかったのか「新卒採用をして、育成していこう」という枠があったんです。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_013
Evoto

──ゲーム音楽家の方って、特に上の世代の方だと、別の事業にも携わっている方が多かったり、ゲーム以外の音楽を作られる方もいらっしゃると思います。その中で裏谷さんは、最初から「作品のための音楽」から始めたというのが、今の活動や思想に繋がっているんだなと思いました。

子供の頃はゲームクリエイター志望だったということでしたが、挫折した経緯はどのようなものだったのでしょうか。

裏谷氏:
大学も理系で、情報系のところを出ているんですけど、根本的にプログラミングに向いていなかったんだと思っています。
コードを書くことと、完成形としてのゲームとの距離が遠すぎたんじゃないかと思います。

プログラミング用の環境を用意するのもハードルが高いし。最初のチュートリアルとして画面に「Hello World」って出力するのがあるんですが、それと自分の頭の中にあるゲームとの乖離がすごくて。

──当時は、Unityのようなゲームエンジンもなかったですし、手に入る情報自体も少なかったですよね。

裏谷氏:
例えば、スポーツやダイエットだったら、「2キロ痩せたぞ」みたいな指標があるので、前に進んでいる実感があると思うんですけど、それがなかったというのがあります。
そういう意味では、音楽というのは、時間軸に沿って順番に積み重ねていくものなので。「10秒作れた」といったように、進捗が見えていくもので、積み上がっていく感覚があったのはひとつの救いですね。

楽器が弾けず、音楽理論もよくわからない裏谷氏。大切なのは理論よりも感性。「なぜ作品をつくるのか」という問い

──ご自身の楽曲の作風については、どんなふうに形づくられたとお考えですか。裏谷さんの作品は、ゲームタイトル毎にさまざまなアプローチを取られているというように感じるのですが。

裏谷氏:
あまり自覚はないですが、幼少期に、父親が聞いていたジャズとか、母親が弾いていたクラシックの曲が残っているというのはあるかもしれません。真偽は不明ですが。

楽器も弾けないし、音楽理論もよくわからないので、作る過程では曲のイメージ以外何も考えていないです。鍵盤とかを適当に押さえて「あ、なんか違うか」みたいな。瞬間瞬間で、「あ、これはいい響きかも」とか、そういった作り方をしているので、すごく時間がかかりますね。

──一般的には、ゲーム音楽の作曲家の方は、楽器を弾ける方が多いのでしょうか?

裏谷氏:
多いと思います。僕はギターくらいですが、作曲家だと鍵盤を弾ける方が多いと思います。

鍵盤を弾けると、作曲ソフトの上で弾いたものをそのまま曲にしていけるので、作曲スピードも早いんです。僕も鍵盤を弾いて作りますが、全部間違えているので、弾いた後にリズムや、音階まで全部直したり(笑)。

──逆に、裏谷さんのようなやり方で曲が作れてしまうというのも驚きです。

裏谷氏:
やっぱり大事なのは、感性というか、曲を聴く耳の方だと思うので。「その音を聞いて、自分がどう思うか」みたいなところですよね。

──良し悪しの判断を自分でできるというのが大切なんですね。

裏谷氏:
おととし、1年間だけ大学で音楽を教えたことがあったんですが、その時に感じたのは、理論から音楽に入った人は、理論が先行して音としてアウトプットするのが苦手な人が多いな、と思いました。音楽理論は詳しいけど、曲として完成させたら……みたいな人は実際多いんですよ。

──理屈にとらわれているというか、「理論には沿っているけど……」といった感じなのでしょうか。

裏谷氏:
そうですね。理論が先にあって音楽ができたんじゃなくて、まず音楽があって、それを「どうやっているのか」を体系化したものが理論だと思うので。

だから、理論から先に考えて曲を作るっていうのは、逆にあまり理にかなっていないんじゃないかと思います。

理論を知っていることでさまざまなアプローチができるというのはもちろんわかるんですが、特に最初のうちは、理論よりも感性や感覚を鍛える方がコスパはいいのかなと。

──『メグとばけもの』のクラウドファンディングのリターンに、作曲家志望者向けの、裏谷さんによるコンサルティングというものがありましたよね。その説明文に「感覚を鍛える」と書いてあったのが印象的でした。

「コンサルティングで感覚を鍛えることができるのか」と思ったのですが、それってどういった意図なのでしょうか。

裏谷氏:
理論先行で学んで来た人と、感覚派の人で、どちらも正解や間違いはないですが、相手が現状どちらのタイプかは知る必要はあって、それによってアプローチは異なると思っています。

でも基本的に、第六感と言われるように人間は頭で考えるより、感覚の方が優れていると思っていて。

僕のコンサルを受けたとして、僕のような曲を書けるようになってもあんまり意味がないと思うんです。本人の思いの中に、本人自身がわかっていないような要素もあるだろうし、そこを引き出すための関わりができたらいいなと思いますね。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_014

大学で教えていて気になったことの1つに、事前にやることやカリキュラムが決まってしまっているんです。

「これをやりなさい、これが正解です」って、みんな同じ課題を出されて。でも、ひも解いてみると「この子、別に『音楽』じゃないよな」というのは、接してたら結構分かるんですよ。そういう子に音楽を教えても意味ないよね、と。もうちょっと別の問題を解消した方がいいよね、というか。

そういう子に対してはもう、恋愛相談とか雑談とかをしてあげた方がいいかなって思うんです(笑)。

──(笑)。ひとつの正解に収束するのが、ものづくりの本質的な面白さや価値じゃないということですね。

裏谷氏:
そう思いますね。その人それぞれの良さというものはあると思うので。僕のコンサルティングを受けてもらって、最終的に「やっぱ音楽じゃなくてもいいや」となっても、全然いいかなと思います。

それに気づくこと自体にも価値はありますから。

──すこし抽象度の高い話になってしまうと思うのですが、最近は、チュートリアルを見ることで、「正解らしいもの」にたどり着くためのノウハウのようなコンテンツが大量に流通していると思います。

たとえば、イラストの分野だったら、「神絵師になるための特訓」のようなものです。それを自身のものにして、面白い作品を作る方がいらっしゃる一方で、成功のための踏み台として絵を学ぶような方もいらっしゃるんじゃないかと思って。「なんのために人間はものを作るんだろう」ということを考えてしまいます。

裏谷氏:
「神絵師」の例でいうと、「神絵師になりたい」と思ってそういった講座を受けたとしても、たぶんなれないと思うんですよ。確率がゼロというわけではないですが、限りなく低いとは思っていて。

実際に神絵師になった人も、「神絵師になりたい」と思って、そういう講座を受けて神絵師になったわけではないじゃないですか。

──間違いないと思います。

裏谷氏:

自分の場合は「じゃあ、なんで神絵師になりたいの」という部分はヒアリングすると思います。そうして話を聞いていたら、「神絵師じゃなくてもいいか」ということがあるんじゃないかと思うんです。

「人から認められたい」とか、「絵で生計を立てたい」とか、細かいことを聞いていったら、「趣味として絵をやっていく」とか、「まずは副収入になるところから目指す」とか、軌道修正をしていくことができると思うんですけど。いきなり「有名人になれます」みたいな宣伝文句に飛びつくのは違うんじゃないかと思います。

他者からの評価や期待に軸が寄りすぎると挫折しやすい傾向があって。それよりも、自分が上達した実感とかを感じていくほうが続けやすい。

だから、外発的なエネルギーよりも、内から起こる「こういうことがしたい」みたいな気持ちが軸にないと。そうして続けていった結果、細かいことの積み重ねで自分のスタイルが出来上がっていくと思うので。

インスタントに「神絵師になれます」とか「プロになれます」みたいなものは「そういうものじゃないよね」って思います。
僕も、クラウドファンディングのコンサルティングのリターンには「プロ作曲家志望向け」って書いてしまっているんですけどね(笑)。

──『メグとばけもの』のコンサートの話に戻りますが、裏谷さんの場合、明確に「やってみたい」とか、「面白そう」というモチベーションが原動力になっているのが美しいと思いました。

裏谷氏:
本当に、全然儲けなんて出ないんですよ。クラウドファンディングであれだけ支援を頂きましたが、びっくりするくらい全然残りません。

──でもそれって、正しいクラウドファンディングのあり方ですよね。お金の合理性で突き詰めていくと、いかにクリエイティブな仕事でも、期待値を詰めていくだけの作業になってしまう気がして。

「そもそも、音楽のなにが好きだったんだっけ」みたいなことを忘れてしまう気がしますし、そういった点ですごく良いお話を聞けたと思いました。

裏谷氏:
たしかに、でも一般的にはすごくおかしい事を言っているとは思います。「ちゃんと利益になるかどうか」って、すごく大事なことなので。

『メグとばけもの』作曲家・裏谷玲央氏インタビュー。「インディーだからできること」をやりつくす情熱_015

カプコンからの独立の経緯・1年隠居して見つめなおした仕事論。AAAタイトルでもインディーでも、裏谷氏の姿勢は変わらない

──カプコンから独立されたのは、具体的になにか理由があったのでしょうか。

裏谷氏:
ちょっと語弊があるかもしれませんが、一番は「給料をもらってゲーム会社に所属していること」に満足したからです。

頑張っていようがサボっていようが、なにをしていても給料は入ってきますし、自分が頑張らなくても次のタイトルの仕事は降ってきますし。ゲーム制作の工程なんかもだいたい知ることができたし、結構「満足したな」って思ったんです。

人間関係なども良かったので、すごく迷ったんですが、一旦自分の力で仕事をして生計を立てていきたいなという、わりと前向きな動機で辞めました。

──なるほど。

裏谷氏:
会社では、すごくいい曲を書いたからとか、ユーザーからの評価が高かったといっても、評価や給料が上がるというわけでもないんですね。

──その後、独立なさってからの仕事の感触としてはいかがですか。

裏谷氏:
ありがたいことに、ずっとお仕事の話は頂いています。ただ、辞めた当初は、「自分の力で仕事を獲得してやっていきたい」という思いが強かったんですが、それから1年か2年くらい経った時に、「これは自分じゃないとできない仕事か」と考えた時に、「これは自分じゃなくてもいいんじゃないか」というようなものもあったりして。

フリーになって、周りの作曲家のように、どんどん上に上り詰めていくような考えは自分に合わなかったというのもあって。それで、去年くらいまでの1年間、静岡で隠居していた時期があるんですよ(笑)。

仕事も断って、のんびり暮らしていたんですが、今回のコンサートもやり始めるということで、また関東に出てきました。

──隠居生活ですか(笑)。仕事は全部断られていたんですか。

裏谷氏:
一応、『メグとばけもの』関係の仕事はあったんですが、半分以上は断っていました。2、3ヵ月暇にしているような時期もありましたね。

──作曲家の方は、ゲーム会社から独立されてフリーで活動されている方も多いと思うのですが、いわゆる「上り詰める」というような状況ってどういう感じなのでしょうか。

裏谷氏:
一般的に思われているのは、すごくたくさんの仕事が来て、作曲家個人の名前が売れるような状況だとは思います。

──分かりやすい例を挙げれば、菅野よう子さんのような。

裏谷氏:
そうですね。そういう感じになったら、「なんか生きづらくないかな」と思ってしまいます。コンビニとかも行きづらいし、って。絶対デメリットの方が大きいと思います(笑)。

──これから先のキャリアみたいなものについてはどうお考えですか。

裏谷氏:
先のキャリアですか……。 特には考えていないんですよね。『メグとばけもの』のサウンドトラックのホームページを作った時も、「この人のデザイン、すごく良いな」という人を探して、その人に直接コンタクトを取ったり、そこからいろいろな縁に繋がって、コンサートを手伝ってくれる人が集まるきっかけになったりしていて。

でも、それって狙ってできるものじゃないし、キャリアといわれると、どういうものなのかわからないし、考えていません。

──今後のゲーム音楽家としての活動として、「今後も『メグとばけもの』のような、インディーゲームの分野で仕事をしたい」みたいな思いはあったりするのでしょうか。

裏谷氏:
僕自身はタイトルがAAAだったとしても、インディーだったとしても、やり方や関わり方、そういったスタンスを変えているつもりは全くありません。

最初に「楽曲の権利が自分にあるかどうか」という話をしたと思いますが、そういった制約の中で自分ができる最大限のことをやっているだけなんです。それが、タイトルの規模に関係することはないですね。


「音楽をなくすことでゲームがよくなるのなら、それでもいい」という発言が印象的だった裏谷氏。

パソコン教室から始まったという異例の音楽キャリアに目が行きがちだが、偶然出会った作曲の師匠、偶然採用枠があったカプコンの就職試験など、裏谷氏の「やりたいことを全力でやる」姿勢が引き寄せたものだと感じた。

そうしたキャリアを通じて培われた「作品のための音楽」の集大成が、今回のコンサートには詰め込まれていることだろう。

裏谷氏が主催!「最初で最後」の『メグとばけもの』コンサートは、2025年2月23日開催。インターネットでのアーカイブ配信の視聴権は10月21日(月)の18時から一般販売開始予定だ。

期間限定で裏谷 玲央公式LINE登録者には¥500割引クーポンを配布中とのこと!

ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ