クリプトン・フューチャー・メディアが開発した音声合成ソフトのキャラクターとして誕生した「初音ミク」は、プロ・アマチュアを問わず多くの音楽制作者に受け入れられた。そこから彼女の歌声に彩られた数多くの楽曲が生まれ、まずはインターネットを中心に広がっていった。
その活躍が音声合成ソフトの認知度も高め、ジャンル自体の広がりにも貢献したが、初音ミク自身の活躍はそれだけに留まらない。ひとりの歌い手として国内外で大規模なライブを開催するほどの発展を遂げ、「電子の歌姫」と呼び親しまれるほどの立ち位置を確立した。
また、初音ミクは歌い手として愛されただけでなく、様々な街頭広告やCMにも起用されていった。その結果、彼女の人気は一過性のものに留まらず、2007年に発売された音声合成ソフトから数えて実に17年もの歴史を刻み、そして今も歩み続けている。
2020年9月30日に正式サービスが幕を開けた、iOS/Android向けリズム&アドベンチャー『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』も、新たな形で彼女の活躍を見せてくれる場所のひとつだ。
初音ミクを知る者の中には、彼女の新たな一面を求めて『プロセカ』を始める人もいただろう。また、世界観やリズムゲームに惹かれて始めたユーザーの中には、本作を通じて初めて初音ミクを深く知った人もいる。立場によって知った順番に違いはあれども、それぞれが互いの魅力を引き立て合っているのは間違いないだろう。
そんな幸せな関係も、早いもので4年の月日を経て、『プロセカ』は2024年9月30日に4周年を迎えた。2022年6月時点で1,000万人だったユーザー数は、今や全世界で3,900万人を超え(いずれも全世界累計)、2025年にはアニメ映画も上映するなど、その勢いは留まるところを知らない。
なおも活気づく『プロセカ』と初音ミクがどのような影響を与え、今後いかなる発展を見せるのか。
Colorful Palette代表取締役社長であり、本作のプロデューサー・ディレクターを兼任する近藤裕一郎氏、セガのプロデューサーである小菅慎吾氏、クリプトン・フューチャー・メディアで「初音ミク」の責任者として知られる佐々木渉氏。
以前行ったインタビューと同じく、今回もこの3名をお招きし、『プロセカ』のこれまでとこれからについて伺った。
3周年からの1年間を振り返る、それぞれの視点
──今から1年前となる3周年というのは、『プロセカ』が続いていく上でひとつ大きな節目だったのではと思います。そこから4周年までの道のりは、皆さんとユーザー様にとってどんな1年でしたか?
近藤氏:
後半になるにつれ、発表するものが多くなりました。ずっと仕込んでいた劇場版や「マイセカイ」など、これまで積み上げてきた大きなものを発表できた期間でしたね。
「マイセカイ」は本当はもう1年早くリリースしたかったんですが……。
小菅氏:
僕としては、3周年のアップデートが大きなものだったので、その後のユーザーさんの反応を通して見られたのが良かったですね。
目に見えて進化し、機能や演出が上がったため、それをやり続けることがとても大事です。現場ではそうした部分と日々格闘しており、それが印象的な1年でした。
佐々木氏:
全体を見据えて今後の仕込みや展開を準備してきて、それが裏側で積み上がってますよ、という感じでしたね(笑)。劇場版の仕込みも3年以上ですよね?
近藤氏:
そうですね。P.A.WORKSさんとの最初のメールを掘り返したら、2021年の2月くらいから、劇場版の話が始まっていましたね。
小菅氏:
ストーリーの中身や方向性の話になったときに、忙しい近藤さんのタスクが地層のように積み重なっていき、「これ、どこまで行くんだろうな」と思っていました(笑)。
佐々木氏:
といった感じですので、この4年間で想像していたことは、結構やれたと思ってます。ライブをやって、劇場版に取りかかってと。
──3周年を迎えたタイミングでは「ワールドリンクイベント」が新たに登場しましたが、どういった意図や狙いで導入されたイベントだったのでしょうか。
近藤氏:
ひとつは、シンプルに“そうなっていくストーリー”だったためですね。あともうひとつは、イベントというものに対して何かしらの“新しい遊び”を入れたかったし、入れていく必要があるかなと思いまして。
とはいえ、イベントの“遊び”として、メドレーみたいなものをやるよりも、キャラクターゲームである『プロセカ』らしいものをやりたいという気持ちがありまして。そこで、ストーリー性とうまく組み合わせたイベントを企画し、実施させていただきました。
──また、3周年のタイミングで3DのCGモデルがかなり変わりましたが、それから1年の間、ユーザーさんの反応はいかがでしたか?
小菅氏:
お客さんの反応は良かったですね。褒めてもらえることが多かったです。ただ、いつまでも同じだと目が慣れてくるので、そこに対してどういう表現を加えていこうかなと模索しています。
例えば、スモークっぽいものを足したりとか、ちょっとずつアップデートをかけています。あとは、アナザーカットなども入ってきましたし、チームでどのように質と量を担保していくかが今の課題ですね。
──この1年で、バーチャル・シンガーを含めて6ユニットが「ワールドリンクイベント」を1周しましたが、ユーザーさんからのリアクションはいかがでしたか?
近藤氏:
熱量がかなり高い人が多かった印象ですね。意図的に設計していたことではあるんですが、キャラクターひとりひとりで分けるとかなり短い期間になっています。普通のイベランは、もっと長いじゃないですか?
──はい、確かに。
近藤氏:
それって、とても疲れますよね(笑)。なので、1回やったら「イベランはもういいかな」と考える人も沢山いると思うんですよ。でも、2日間や3日間だったら「またやろうかな」と思ってくれる人もいるのかなと。実際、そういった人は多かったですね。
あとは、キャラクター個人が好きな人もいる一方で、箱推しする人もいらっしゃるので、そういった方々にとっても特別なイベントになれたのかなと。
──そんな「ワールドリンクイベント」は1周しましたが、ここからさらにもう1周に入られるのでしょうか?
近藤氏:
翌年度以降も、何かしら続けていこうと思っています。ストーリー進行的に続けなければいけない側面もありますし。ただし、まったく同じやり方で行うことは多分ないと思います。
ルールが変わるのか、もらえるものが変わるのか、それとも設定が変わるのか、それはまだ言えませんが、同じことを2回やるよりもその方がいいかなと。ストーリーの展開もありますし、そちらと上手く合わせたゲームのシステムができればと思います。
──「ワールドリンクイベント」で、ストーリーそのものも驚いたのですが、“セカイに変化が起きる”とは予想していなかったので、実際に目の当たりにして「ああ、そういうこともあるんだな」と衝撃を受けました。そうした展開は、元々想定されていたものでしたか?
近藤氏:
そうですね。“セカイが広がっていく”という話に関しては、可能性も含めて示唆をしていましたし、それを行ったという形ですね。あとは、“セカイに生えた芽をタップすると何か起きる”という現象も、次のストーリーに繋がっていくと思います。
音楽シーンに影響を与え、海外にも浸透していく『プロセカ』
──3年、4年と続けていく間に、『プロセカ』のユーザーさんに変化などはありましたか?
近藤氏:
ユーザー層という意味では、大きな変化はしていませんね。年齢層が著しく引き上がったとか、男女比率が変わったとかはありません。
もちろん、最初期と比べると若年層化が進んだり、女性の比率がちょっと増えたとかはあります。ただ、3周年から4周年という節目にかけて、ユーザー側に大きな変化は見られませんね。
──ずっと続いているので、ユーザー層全体が順次持ち上がるようなイメージを受けがちですが、新しい人が入ってくるから逆に変わらずにいられる、という感じでしょうか。
近藤氏:
新規で小学生や中学生の子が入ってきていますね。小学生の子たちが遊んでいるというのは、私個人も実感としてあります。
リズムゲームってゲーム性としてはルールがシンプルですし、お借りしている「初音ミク」さんのお力もあり、若年層にとって遊びやすいのだと思います。
──ユーザー層の年齢を気にする部分というのは、ありますか?
佐々木氏:
初音ミクファン側にも影響は出ています。「マジカルミライ」もそうなんですが、若い世代を中心に多種多様な世代の人が流入してくれていて。『プロセカ』の影響も感じつつも、本当に広がったから、様々な価値観を持った人が混ざり合っている印象です。親子で楽しんでくださる方も増えました。
──なるほど(笑)。また、クリエイターさんへの影響も大きいのではないでしょうか。
近藤氏:
そうですね……さまざまなことをやってきた中で、上手くいったこともそうでないものもありますが、『プロセカ』というものがあることによって、そこに楽曲が収録されることが、クリエイターさんにとって一つの励みになっていると言われることもありまして。そこの一点に関しては、役に立っているのかなとは思いますね。
佐々木氏:
『プロセカ』がクリエイター活動にとっての分かりやすい出口の一つになっているとは思いますね。今までは「動画サイトで沢山の人に聞いてもらえたんだよ」だったのが、そこに「スマホの音楽ゲームに収録されたんだよ!」という色合いの違うものが入ってきて、爽やかな感じになったといいますか。
近藤氏:
出口はあればあるほどいいですからね。
佐々木氏:
基本は動画サイトにMVがあって、それが再生されるというのがメインでした。もちろん、いまでも主戦場だと思うんですが、『プロセカ』によって、「もっといろいろあっていいよね」という感覚が出てきていると思うんです。
プロセカに合わせつつ「じゃ自分の好きな曲調でやってみるかな」みたいな、そういう感覚が増えたように感じますね。
──クリエイターさんの話でいうと、もともとはオリジナルのMVがあって、それが『プロセカ』でセカイver.として歌唱及び実装される際に「プロセカでの3DMV」が制作されるわけですが、オリジナルの表現をどのようにゲーム内で表現するのか、あるいはどう分けているのか、みたいな苦労の部分はいかがでしょうか?
小菅氏:
オリジナルの表現をどうするかは『初音ミク -Project DIVA-』のころからやっていたんですが、『プロセカ』ではそこにキャラクターの良さやバックボーンが加わるので、その塩梅は結構議論されますね。
そのバランスは曲ごとの議論になるのと、3年4年と運営していく中で、ユーザーさんの印象や想いも入ってきて、MVだけではなく脚本もそうですが、作り手はそういった部分も意識しながら開発している感じですね。
──そういった部分も含めて、クリエイターさんにとっては『プロセカ』に収録されることがモチベーションに繋がりそうですね。実際、そういうクリエイターさんがいると実感しますか?
佐々木氏:
昨年か一昨年くらいまでは、クリエイターさんからどういう反応が来るか、我々としては結構気にしていたんですが、今はポジティブに捉えてくれる方が多くなったと思います。
むしろ「プロセカNEXT」の応募者を振り返って、そこにある時代の流れというか、脈々とあるもののほうが今は印象深いです。感覚としては、点ではなく面になったように感じます。
──それは『プロセカ』が出口の一つとして定着したということでしょうか?
佐々木:
出口の一つとして定着というよりは、あって当たり前のものになったという感じでしょうか。
『プロセカ』だけを特別盛り上げようとしたり、『プロセカ』とそれ以外を戦わせたりすると矮小化してしまうと思うんですが、狭くならずに済んでいる感覚があって。
『プロセカ』も好きだけど、バーチャル・シンガーそのものも好きみたいな方や、『プロセカ』のここだけが好きみたいな方も沢山いたり、楽しみ方も摘まみ方も多種多様になっている。そして「別にそれでいいんじゃない?」という空気になっているのかなと思いますね。
近藤氏:
その通りですね。
──ボカロというカルチャーにおける『プロセカ』の話はいつも興味深いですね。また、『プロセカ』は海外でも人気が広がっているようですね。
小菅氏:
引き続きではありますが、順調に増えていまして、毎月大体200万人前後くらいのお客さんが遊んでくれています。
国内のゲーム展開と比べると、どうしてもコンテンツが1年遅れになってしまうのですが、「プロジェクトセカイ World Champion ship 2024 Spring powered by ヴァイスシュヴァルツ」で、初めて海外のユーザーと一緒にリズムゲームの腕を競い合うイベントを開催することができました。参加できる人が限られるかもしれませんが、一緒にできて良かったなと。
あとは、ロサンゼルスで行った「Anime Expo 2024」のブース動員が1,500人、トークショーでは3,000人でした。去年も良かったんですが、徐々に『プロセカ』の文化が根付いてくれているんだなと実感しました。今まで撒いてきた種が、ようやく芽吹いてきたなと思います。
──人気が高い地域などはありますか?
小菅氏:
北米はもちろん人気が高いのですが、アジアもお客さんが多いですね。北米が強いのは、おそらく初音ミクさん自体の人気が高かったからだと考えています。
佐々木氏:
今、海外で『プロセカ』を遊んでくれている人って、結構アンテナが尖っている印象があります。そういう人が海外のメインストリームミュージックだけでは飽き足らず、ハイパーポップのような生き方の文脈のひとつとしてボカロも聴いちゃう、みたいな。
そうした、かなり感度の高い海外の人たちが遊んでくれていて…。そこからコミュニティが 繋がって、広がって、繰り返しているような感覚はあります。
小菅氏:
海外のサブスクのチャートとかを見ていると、尖っていたところから広がり始めて、マジョリティになりつつある気配がありますね。いずれ、ボカロや『プロセカ』の楽曲みたいなところまで行くのかなという気もします。
佐々木氏:
そうなってもおかしくない世の中になるのかもしれませんね。センスのあるボカロPさんたちが、目立つようになってきて、それが海外に伝播されていって。
『初音ミク -Project DIVA-』の頃からセガさんには温めてもらいましたし、近藤さんは劇場版とかでガシガシ広げてくれますし(笑)。
劇場版「プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はIFの物語に、キャラは全員登場
──今後も様々な新展開や発表があるかと思いますが、現段階で分かっている範囲で『プロセカ』の大きな動きといえば、やはりアニメ映画の話が外せません。まずは、TVなどのフォーマットもある中で、“劇場で新作アニメ”を選択した理由をお聞かせください。
近藤氏:
最初はやっぱりTVシリーズが検討に入ってくるんですけど、アニメを手掛けるのは初めてだったので、事業的にどうなのかの試算をしたんですね。すると、「なかなか厳しいぞ」というのが率直な気持ちでした。
ただ、最終的に決め手となったのはストーリー的な面ですね。「TVアニメの1クールで何がやれるんだろう」と。あとは、品質もありますね。折角ですから、最高の品質でアニメを作りたくて。その意味でも、クールアニメよりもアニメ映画の方が良いのではと思いました。
ストーリーの面と品質、そして事業的な部分を総合して、アニメ映画がいいという判断に落ち着きました。
──制作スタジオがP.A.WORKSさんですが、何かご縁などあったのでしょうか。
近藤氏:
基本的には「お願いしたいです」というお話からさせていただきました。
──公開がまだ先なのでどこまで伺えるか分かりませんが、劇場版はこれまでとは違う新しいミクが出てくるお話ですよね。『プロセカ』のアニメ化と言われたら、これまでの4年間をベースにしたものや、全ユニットが一堂に会するお祭り的なものを連想してしまいますが、ここに全く新しいストーリーを持ってきた理由や意図は何でしょうか?
近藤氏:
ファン向けに100%振り切るのもアリだと思いますが、今回は半々くらいを目指したと言いますか。劇場版を考え始めたのは、最初のハーフアニバーサリーよりも前だったんですよ。実際にリリースできるのは、そこから数年後になります。
そしてオンラインゲームというのは、時間と共にユーザーさんが減っていくものだと思っていて。そのため、新しいお客さんが興味を持ってくれるきっかけはいくらあってもいいですし、劇場版がそのひとつになればとも考えました。
とはいえ、見に来る人のほとんどはファンの方だろうと僕らも理解していますので、ファンの方々が楽しめる要素がありつつ、新しい人が入るきっかけにもなれるようにという思いで、劇場版が走り始めました。
──『プロセカ』ファンはもちろんのこと、未プレイの人や「ボカロってなに?」といった方も楽しめる映画になっているんですね。
近藤氏:
そうですね。『プロセカ』自体も、家族や親子で楽しまれてるという人がかなり増えています。そのため、映画を見に行くとなれば、家族や友達を誘ったりというケースもあると思いますし、そこを意識している部分もあります。
『プロセカ』を知らない人が見た時、「まったく何も分からない」みたいな状況に陥らないよう気を付けてはいますので、広く楽しんでもらえると思います。もちろん、『プロセカ』やボーカロイドの知識を持っている方が、より楽しめるのは確かですが。
──劇場版で描かれる物語は、ゲームの『プロセカ』になにかしらの形で影響を及ぼしたりはしますか?
近藤氏:
基本的に劇場版の物語は、『プロセカ』の世界線にあるどこかの時間軸に存在したであろうお話にしています。ただ、IFのストーリーでもあるので、正史として扱っていくわけではなく、影響を出す前提の物語ではありません。
──公式サイトのストーリーでは、新しいミクと一歌が出会うという物語になっていますが、特報映像には他のキャラクターも出ていましたよね。その辺りはいかがですか?
近藤氏:
もちろん全員出ます。バーチャル・シンガーも全員出ますので、そこは本当に安心してください。
佐々木氏:
劇場版に取り組んでいる近藤さんを見ていて面白いのは、僕から見てると「プロセカの反対側」も指しているところなんですよね。
反対側というのは、『プロセカ』の概念というか世界観って、キャラクターたちがいてオリジナルミクがいるのか、ミクたちがいてオリジナルキャラクターがいるのか、それがいい感じにあべこべになっているんですよね。そこで混乱される方もいれば、キャラクターがいるから入っていきやすいという人もいて。
ミクだけでは成し遂げられない、ミク達と現実世界が入り組むよう構造を近藤さんが実現してきました。
──佐々木さんから見て今回の映画はどのような作品ですか?
佐々木氏:
プロセカの映画では有るのですが、観る人によって受け取り方が違う映画でしょうか。
「プロセカにとってのミクってなんだったんだろう」というのをIF的に振り返る。「ミクが歌えなかったらどうなるんだろう」などといろんな角度から投げかけを行う……そんな印象ですね。
ある種のシャッフル感といいますか、初音ミクの映画にも見えるし、『プロセカ』の映画 にも見えるといいますか。
──カルチャー的な部分は入っているんでしょうか?
佐々木氏:
ゼロではないです。でも「ネットカルチャーのニュアンス感を映画に入れてるんですよ!」というわけでもなくて、本当に絶妙なプロセカらしいバランスの上に成立している作品だと思いますね。
小菅氏:
いま仰ったことは本当にそうで、積み上げた4年間の中でそのバランスに至り、映画として公開できるようになったのかなと感じます。
佐々木氏:
初音ミクの映画であるような、ないような。でも、見る人が見たら、意味深で深読みも できる。見た人の捉え方次第というバランスは、この4年間をかけて積み上げてきた成果のひとつとも言えますね。劇場版がもうちょっと早いタイミングだったら、また違うものになっていたかもしれません。
近藤氏:
そもそも『プロジェクトセカイ』自体が難しいプロジェクトじゃないですか。これまでずっと、薄氷の上を歩き続けてきてて(笑)。
(一同笑)
近藤氏:
最初に受け取ったものとその中身が1ミリでもズレると、その氷が割れてしまうという感覚がありまして。今回の劇場版の伝え方も、最大限の配慮はしていますね。
佐々木氏:
そういう過程は見させてもらっていたんですが、今ってスタジアムにお客さんを入れていない状態で、「ここでどんな試合が行われるんだ!」っていうザワザワしている状態だと思うんです。お客さんが入って臨場感が出て、口コミも広がって、温度や湿度が生まれる。
だから、ファンの熱気や想いによって空気感や感じ方が形成されていくものなんだろうなと思います。薄氷も温度によって割れやすくなったり固まって割れにくくなったりするものなので(笑)。
そしてお客さんはそこも含めて楽しんでくれると思いますね。
──小菅さんとしてはどのように見られていますか?
小菅氏:
期待はもちろんありますね、立ち上げの頃から見ていますし。あと心境としては……こういう場合のアニメ化って普通、TVシリーズでやりますとか、ゲームの配信と同時に行うじゃないですか。
でも『プロセカ』はすでに出ていて、お客さんもある程度いらっしゃっていて。こういう状態の時に出すのに、「総集編をやってもね」ってなりますよね。でも映画をやるにしても「どんな話にするの?」って。
あの頃は、ちょうど『THE FIRST SLAM DUNK』とか、スゴい映画がいっぱい出てきた時期でしたし、「とにかく映画やればいいじゃん」みたいな潮流でもなくなっていました。そのため、シナリオや最初のコンセプトに長く時間を割いていたと思います。
議論にかける時間が長くなりましたし、それが苦心の表れでもあります。そんな中で「よく間に合ったな」というのが率直な実感ですね(笑)。単なる商業映画ともちょっと違う状況の中で、本当に大変だったと思います。その分、より楽しみですね。
“詰め込み過ぎちゃった”「マイセカイ」に劇場版と、4周年を過ぎた後の『プロセカ』もアツい!
──「コネクトライブ」も2ユニット合同という新しい形が展開しましたが、ユーザーさんの反応はいかがでしたか?
近藤氏:
ふたつのユニットが合同で行っていく中で、お互いの曲をカバーしたりとか、そういったところがユーザーさんに喜んでもらえてるのかなと思います。
──「コネクトライブ」ではなくリアルなライブの方は、キャストが出てくるものと「セカライ」の2本立てになっているかと思います。この2本の切り分けや位置づけについて教えてください。
近藤氏:
キャラクターが投影される「セカライ」(プロジェクトセカイCOLORFUL LIVE)はお馴染みになっていますね。
あとは、感謝祭でキャストさんに歌っていただける日もあるんですけど、コンテンツとしてはサプライズに近いというか、ファンサービスに近い観点ですね。
本流は「セカライ」で、加えて「セカイシンフォニー」もかなり定着してきており、そこに「コネクトライブ」も入ってきてる感じですね。
──ソーシャルゲームで4周年というのは、やはり大きな節目だと思います。その実感といいますか、改めて心境の変化や印象に残ったものなどはありますか?
近藤氏:
毎年聞かれている気がするんですけど、記憶がないんですよね(笑)。
小菅氏:
(笑)。
「これが印象に残った」といった爆弾的なものはないんですが、なんだかんだでもう4年経つんですよね。で、お客さんのデータとかも蓄積されているんですが、ずっと支えてくれているお客さんとかが分かるんですよ。
これだけたくさんのゲームが出ている中で、一緒に付き合ってくれて、共に歩んできた人たちが。それがなんだか、戦友のようにも感じています。周年を重ねるたびに、ずっと一緒にいる友達みたいな感覚が増していきますね(笑)。
──ものすごく気の早い話になりますけど、来年はもう5周年なんですよね。
小菅氏:
そうですね。もうすぐ5年ですよね。でも、きっと5周年も楽しいものになるはずなので……5周年でお会いしましょう(笑)。
(一同爆笑)
──佐々木さんはいかがでしょうか?
佐々木氏:
リリースからの時間経過の中で、クリエイターが練ったアイディアや作品と、ファンからの反響は呼応するように化学反応を繰り返してきたと思います。前々からクリエイターが『プロセカ』で作品を出すときに、プロセカの深堀りや分析をされている感じがあったんですね。そこが進んで、自然と『プロセカ』らしさが研ぎ澄まされていったと感じています。
プロセカは企業が作ったゲームでも枠組みでも有りつつ、クリエイターやファンが色付けをしてくれていて、色づいている。近藤さんも、そんな土壌にインスパイアされながらゲーム性やストーリーを追加していっている。循環が続いているなぁと感じます。
──なるほどです。とのことですが、最後に近藤さんお願いいたします!
近藤氏:
ありがとうございます(笑)。4周年に関しては生放送でお伝えした通りですが、劇場版も「マイセカイ」も4周年の後なんですよね。まだまだ過渡期なので、今の僕はそのふたつにほとんど集中しています。
開発チームが月曜日から金曜日まで「マイセカイ」を作って、僕が土曜日に「マイセカイ」を触り、チケット(フィードバックや修正依頼)を100個くらい発行して渡し、また開発チームが「マイセカイ」を作る……みたいな生活を繰り返しており、「あとちょっとで終わるかな?」という感じです。あと少しだけお待ちください。
──まさにラストスパートですね。「マイセカイ」、楽しみにしています。
近藤氏:
生放送での発表と被ると思いますが、「マイセカイ」は一般的なマイルーム機能とはちょっと違うというか、「ちょっと詰め込み過ぎちゃったかも」みたいな感じになっているので、楽しみにしていただければと思います。
──4周年を節目に、これから先も色々な楽しみが出てくるんですね。
近藤氏:
そうですね、まず目先は「マイセカイ」ですね。
「コネクトライブ」がきて、3DとかUIリニューアルがきて、次の大型アップデートは「マイセカイ」という感じです。まずはそこを触っていただければと。
──4周年はもちろん、その後の展開も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
今回のインタビューでは、海外における活躍の一端やクリエイターに与えた影響など、ユーザー視点では実感しにくい点が、現場の方々による言語化で明確となった。活躍の具体的な内容に膝を打ったり、新たな視点をもらった読者もいることと思う。
初音ミクと『プロセカ』が歩んできた4年間。それは決して短い道のりではなく、常に前進する姿勢と支える声があって、実現した4年間だった。
そして、道のりは当然これで終わりではない。節目ではあるが過渡期に過ぎず、少しずつステージを上げながら、新たな歩みを刻んでいく。まずは「マイセカイ」が、そして劇場映画もほどなく訪れるだろう。
今後の『プロセカ』と、劇場映画で描かれる世界の関係性は、近くて異なるものになりそうだ。そこには「共通点」もあれば、IFならではの「違い」もあるだろう。変わらぬ繋がりと、関係性の様々な形。そのどちらもきっと、我々を楽しませてくれるに違いない。