「ゲームを通して仲良くなる」ということ、ゲーマーのみなさんなら一度くらいはあると思う。たとえば、実際にゲーム内で協力したり、対戦したり、共通の話題で語り合ったり……。
そして、今回お話をうかがった『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親こと坂口博信氏と、『FF14』プロデューサー兼ディレクターや『FF16』のプロデューサーを務めている吉田直樹氏が、まさに『FF14』の話題を通して仲良くなった……ということは、一部の方には周知の事実かもしれない。
そんな『FF14』を通して仲良くなられたおふたりが共同で制作した作品が、『FANTASIAN Neo Dimension』。
過去に坂口氏が「引退作」として意気込み制作されたあのタイトルのコンソール版が、なんとまさかのスクウェア・エニックスから発売されることになった。ある種、二重の意味で「原点回帰」。
今回は、そんな坂口氏と吉田氏に、『FANTASIAN Neo Dimension』の制作の裏側をいろいろとお聞きした。
坂口氏のRPG表現へのこだわり、『FF14』を通したおふたりの関係、吉田氏が『FANTASIAN』から感じた「王道感」、そして『FF14』を筆頭にした『FF』シリーズの楽曲が収録されることになった経緯……あれ? やっぱり『FF14』の話多くない? とにかく、光の戦士のみなさんも必見です。
加えて、RPGのトップランナーとして数々の名作を作り上げてきたおふたりに、改めて「良いRPGの作り方」もお聞きした。そもそも、「王道ファンタジーの定義」とは? RPGで人を感動させるには、何が必要なのか? 幅広く、あらゆる世代にRPGを届けるにはどうすればいいのか?
RPGを通して仲良くなり、共にRPGを作ったおふたり。
率直に、「王道RPG」についてお聞きする対談となりました。
ぜひ、最後まで読んでいただければと思います。
スクエニへのバリアが、『FF14』を通してなくなった
──本日は『FANTASIAN Neo Dimension』について、坂口さんと吉田さんにいろいろとお聞きできればと思います。よろしくお願いいたします。
吉田直樹氏(以下、吉田氏):
そもそもメディアの皆さんも、東京ゲームショウ(以下TGS)の翌日で大変お疲れだと思うのですが……お越しいただきありがとうございます。
坂口博信氏(以下、坂口氏):
顔、疲れてるよね。
吉田氏:
いや、それはTGSで3ステージも出てましたしね……。
しかも、今週末からシドニーに飛ぶので……もう大変ですね。
坂口氏:
ちょうどTGSで「滅暗闇の雲激闘戦」【※1】が発表されてましたけど、あれを開発室で先に見ちゃってて……誰にもしゃべれない辛さがありました。でもようやくプロデューサーレターLIVEで発表されて、「あ、言える!」とか思って(笑)。
一同:
(笑)。
吉田氏:
この前、別件で坂口さんとインタビューを受けさせていただいたのですが、そこで「せっかくなので『FF14』の開発チームをひと回りしますか?」とお話して、坂口さんと一緒に開発チームを回ったのですが……その時に暗闇の雲が動いているところを……。
坂口氏:
そう。うっかり暗闇の雲と戦ってるところを見ちゃって。
「あ!見ちゃった…(ネタバレだから)見たくね~!」みたいな(笑)。
吉田氏:
ちなみに、坂口さん的に今年のTGSはどうでしたか?
坂口氏:
まぁ、TGSそのものに「あんなに人が来るんだ」と(笑)。
うちのスタッフ、一般のチケットで入ろうとしたらもう入れなかったみたいで。「列が全然進まない」って聞きました。昔はここまでじゃなかったんですけどね。
吉田氏:
実際、入場制限がかかってたみたいですからね。そんな中でも、『Neo Dimension』の試遊にも積極的に参加してくださる方が多くて、ありがたかったです。
やはり、一度Apple Arcadeでリリースされているとはいえ、「これまで『FANTASIAN』に触れていなかった方も相当多かったんだろうな」というのが正直な感想です。実際に試遊をされている方も、かなり真剣にバトルを触っていて、すごく手応えを感じました。
みなさんの表情を見ていても楽しそうでしたし、そこは大丈夫かなと。むしろ、試遊に来たみなさんに自信をもらった感じでした。元々の完成度が高いのは当然わかっていたのですが、試遊でようやく「きっちりやれてよかったな」と思えましたね。
──事前に、吉田さんとの対談があったからこそ、こうして改めて坂口さんがスクウェア・エニックスとゲーム制作をすることになったとお聞きしました。
坂口氏:
そうですね。吉田さんとのインタビューをきっかけに『FF14』をやり出したのが、始まりでもあると思います。
そして、『FF14』が古い『FF』をテーマパークのように入れてくれているので、そこでの安心感が大きかったですよね。「こんな風に過去のFFを扱ってくれる人やチームだったら、僕も入っていけるのかな?」と。
やっぱり、僕なりにバリアはあったわけですよね。
なんか、「スクエニには触れちゃいけない」というか。
──それは「遠慮」的なお気持ちがあったということなのでしょうか。
坂口氏:
それもあるし、「あまり僕が声高に昔の『FF』のことを言うのもどうなの?」という気持ちがありました。
それが『FF14』のおかげで、なくなったというか……「FF14を通してなら、僕がFFのことを語ってもいいんだな」という感覚がすごくあって。それで、「勝手に作っていたバリア」みたいなものが消えていった感じがしますね。
吉田氏:
坂口さん自身はこうおっしゃってくださいますし、この話をするとメディアのみなさんも驚かれるのですが……多分、僕を筆頭に『FF14』チームが一番驚いていると思うんです。
というのも、やはり僕自身坂口さんが退社されてからスクウェア・エニックスに入社しているので、当時のことを何も知りません。だからある種、すごくフラットというか……チームメンバーもみんな「クラシックFF」と呼ばれる作品群が大好きですし、それらを遊びながら育ってきた人間も多いんです。
──元スクウェアの坂口さんというより、ゲーマーに近い視点で「『FF』の生みの親」として見ていらっしゃる形なのでしょうか。
吉田氏:
そうです。最初に対談をさせていただいた時点からかなり緊張はしていたのですが、坂口さんがものすごくナチュラルにお話してくださったので、それでかなり安心させていただきました。
だから、『FF14』のスタッフは坂口さんが楽しんでくれているところを単純に喜んでますね(笑)。
坂口氏:
最初の対談はコロナ禍の最中だったので、対談自体がオンラインだったんですよね。
で、吉田さんの背景が黒かったんですよ。一方、僕はたまたま自分の仕事部屋で、後ろが窓だったから光がバーッと差し込んできて逆光みたいになってたんですよ。だから、みんながコメント欄で「天使と悪魔」って言ってて(笑)。
一同:
(笑)。
坂口氏:
絵がね、ちょうど白黒になってて……(笑)。
それが最初でしたよね。
でも、吉田さんはやっぱり真面目なので、そこが一番安心できました。今回の『Neo Dimension』も一緒に作る上でも、やはり「預けられる」という安心感がありましたね。
とんつう行ってるよ、吉Pと!
──坂口さんはプライベートでも吉田さんとお食事に行かれているとお聞きしたのですが、やはり最初から結構仲良くなられた……ような形なのでしょうか?
坂口氏:
やっぱり、そこも『FF14』を通して仲良くなっていきましたね。
まぁ、元々自分がMMOがとにかく好きだというのはわかってたんですが、案の定『FF14』にはハマってしまい……しかもあそこまで『FF』のテーマパークだと、さらにどっぷりハマるわけですよ。プレイヤーのみんなにとってもそうなんですが、僕にとっても「懐かしい要素」が満載なんですよね。
だから、吉田さんとお食事をする時も「ファン」な感じですよね。
「ちょっとFF14のこと聞かせてもらえませんか……?」みたいな。
で、行くなら「とんつう」【※2】が良いなぁ!って(笑)。
※2「とんつう」
錦糸町にある、焼肉店。『FF14』の聖地としても知られており、吉田氏だけでなくゲームファンも通うお店となっている。
──錦糸町に行かれたんですね!
坂口氏:
だから、「とんつう行ってるよ、吉Pと!」というファン心理が若干ありましたね。
吉田氏:
『FF14』を通じて、はじめての会食の際、最初の1時間は若干探り探りなところはあったかなぁとも思ったのですが……ゲームの話になると、やっぱり盛り上がりましたよね(笑)。
だから、僕からするとちょっと懐かしかったのです。やっぱり僕も若い頃は、先輩たちにものすごくかわいがってもらっていましたし、飲み会も「よし、次行くぞ!」的なノリで連れていってもらっていたんです。そして、坂口さんも「吉P、時間あるなら、もう一軒一緒に行こうよ」と言ってくださって。
坂口氏:
そうだ、ふたりで二次会に行きましたね(笑)。
吉田氏:
自分ももう50を過ぎたので、どっちかっていうと「みんな次行くか!」って言う側なんです(笑)。だから、自分が言われる側になったのは久しぶりで……めちゃくちゃ嬉しかったです。
──プライベートでお会いされている時は、やはり『FF14』の話題などが中心になられるのでしょうか?
坂口氏:
いや、あんまり聞かないですね。というか、「聞きたくない」んですよ。プレイヤー的には、「次、7.1どうなるの?」とか聞きたくないじゃないですか(笑)。
吉田氏:
坂口さん、そこはすごくキッチリされてるんですよ。
たとえば、遊んできてくださったコンテンツに関する「四層抜けたよ」とか、「あれはどういった意図なの?こうかな?」いった話はあったりするのですが、「先がどうなるの?」といったことは一度も聞かれたことはありません。むしろ、「しゃべらないでくれ」と言われているくらいで(笑)。
坂口氏:
そこはもう、本当にユーザー心理ですよね。