坂口さんの「作り手の言葉がバシッと出た」瞬間
──では、改めて『FANTASIAN』が『FANTASIAN Neo Dimension』として移植されることになったキッカケや経緯などをお聞きできればと思います。
坂口氏:
ご存知のように、『FANTASIAN』は元々Apple Arcadeで配信されていたタイトルです。
そして、ある期間まではApple Arcadeに独占的に配信をおまかせする形でした。それが終わってからは、完全にミストウォーカーのコンテンツになる形での契約です。当時はApple Arcade自体が立ち上がったばかりなこともありましたし、サービスの普及も含めてビジネスとして行うことができました。
ただ、ゲームを作った者としては、やっぱりより多くの人に遊んでほしい。さっき吉田さんからも話があったように、Apple Arcadeでは触れていない……ないし『FANTASIAN』の存在を知らない人は、結構世の中にいると思います。
せっかく産んだ子どもでもあるし、少しでも多くの方に手に触れてほしい。当初は、ただただその気持ちがありました。
そこで「より多くの人に触れてもらうために、どうしようかな」と考えた時……たとえば、自分たちでSteamで配信してしまおうかな、みたいな発想もあったわけです。だけど、プロモーションなどのことを考えていくと、そもそもの「より多くの人に」というところからはかけ離れちゃうじゃないですか。なんだか小さな話になってしまう。
それを悩んでいた時に、ちょうど吉田さんとお食事をする機会があって。「どうかなぁ?」と相談してみたら、「おお、いいじゃないですか」といった言葉をもらったのがキッカケですね。
吉田氏:
僕は、坂口さんがスクエニを退社されていることに関しては「別にそんなの関係ないじゃん」と思う方の人間なのですが……一番初めにご相談をいただいた時は、やっぱり即答はできませんでした。
一応自分もビジネスマンではありますし、即答した後になにかあってぬか喜びになってしまうのは嫌だったので、「大変ありがたいお話なのですが……すぐに確認してくるので、一旦預からせてください」と。
そのまま翌日社長のところに行き、「別にいいですよね?」とお話をしたところ、「何の問題もないし、大変ありがたいお話なので前向きに検討してください」と返事がありました。
そこで、スクエニとしても何の問題もないことが決まりました。
ただ、そこでも坂口さんには、「一旦、可能性を全部ちゃんと洗わせてください」というお話をさせていただきました。まずは開発の主力になっていくであろうスタッフ全員で『FANTASIAN』をプレイして、中身を徹底的に確認する。そこからの市場調査も改めて行った結果として、「行ける」と判断しました。
もちろん、最初から想定はしていたのですが、預けていただくからには、キチンとした内容精査と報告が必要だと思っているからです。
そこからは、ひとりでも多くの方に『FANTASIAN』を触ってもらえるような企画の固めを行っていきました。ボイス対応や言語数などもある程度プランニングをした上で、最終的に坂口さんに「ぜひウチでやらせていただきたいです」「我々としてはこういう条件で考えています」とお伝えさせていただいた形です。
──ちなみに、吉田さんの『Neo Dimension』における「Co-プロデューサー」というポジションは、具体的にどういったものなのでしょう。
吉田氏:
つい最近、「肩書きどうしますか?」という相談がチームからきて、最終的にこうなったんですよね……。
坂口氏:
最近メールで来ましたね。
「吉田の肩書きはこうなりました」って。
吉田氏:
僕としては、「もう“雑用おじさん”でもいい」と思ってたんですよ(笑)。
でも、最後のスタッフロールを作る時に肩書きを決める必要が出てきて……コージ【※3】に「なんか適当に考えといてよ」とお願いをして、Co-プロデューサーになりました。
※3「コージ」
『FF14』や『FF16』などのローカライズを担当しているマイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏。
坂口氏:
僕は意外と「ボイス要らないんじゃない」派だったりするので、その辺は本当に吉田さんに「リプロデュース」してもらったというか。難易度の調整なども含めて、『FANTASIAN』を吉田さんにもう一度プロデュースし直してもらった形でしたね。
吉田氏:
難易度に関しては、ウチのマネージメントチーム内から「後半が難しすぎる。クリアできないんですけど!(笑)」という一言があり、坂口さんとビジネスの話になった時にちゃんとノーマルの難易度を作ることになりました。
ただ、オリジナル版の難易度もその時の開発チームの思いが含まれているものですし、そこはしっかりとリスペクトをして、「ハードモード」として残させていただきました。
あと、僕が一番ヒリついたというか……「怖っ!」と感じたのは、坂口さんにボイスの追加についてご相談をした時の「要らないんじゃないかなぁ?」という一言でしたね。
坂口氏:
あの最初の会議は、若干「しーん……」となったよね。
吉田氏:
まさに、「あっ、作り手側の言葉がバシッと出たな」と感じた瞬間でした。
それでも、より多くの方に売っていくためにボイスは必要だとお話をさせていただきました。やっぱり今の世代の人たちは「ボイス付きのゲーム」にも慣れていらっしゃいますし、声優さんが素晴らしい演技をしてくだされば、ゲーム自体もより魅力的に映るはずなので、ご検討いただきたいです……と。
坂口さんも数日悩まれた上で、「そこまで言うならやってみようか」と言ってくださいました。
ただ、「フルボイス」として街のNPCなどにまでボイス対応をしてしまうと、どうしてもセリフ待ちをする必要がある。そこでゲームのテンポを損なってしまうのは避けたいとも、坂口さんからお話がありました。それは作り手としてもよくわかることでしたし、「フルボイス」と言えなくなったとしても、そのこだわりを残すべきだと判断しました。
──坂口さんがボイスを付けるのを悩まれたのには、どういった理由があったのでしょうか?
坂口氏:
やっぱり、元々ファミコンやスーパーファミコンでゲームを作っていたじゃないですか。だから、ボイスも入れようがない。そして、ドット絵の世界が、ユーザーに想像してもらう世界でもあった。そこにずっといたせいなんじゃないですかね。
きっと、「それがゲームだ」という固定観念があるんでしょうね。
でも、『Neo Dimension』を遊んでみて……やっぱりボイスは良いですね(笑)。
──実際にキャラに声が入っているところを見られて、やはり印象が変わったのでしょうか。
坂口氏:
なんかバカみたいなんですけど、TGSが終わってから、急に『FANTASIAN』がやりたくなって。昨日の昼くらいから、『Neo Dimension』をずっとやってるんですよ。もう中盤まで行きました(笑)。
本当にきっちり遊んでみつつ……ちょうど、レオアとシャルル、キーナのかけ合いが入るところで、
シャルル「やはり、わたくしとの約束をすっぽかして、この女性と…」
レオア「いや、だから…そうじゃなくて…」
キーナ「責任とってね。」
ここらへん聞きながらニヤニヤしていました。
やっぱり、声優さんは上手いですよね。
ああいうかけ合い漫才的な、男女間のニュアンスを上手く表現してくれるというか……内容をわかっていても、ボイスのおかげでドラマに引き込まれちゃう。だから、ボイスがなかった時とはまた全然違う感覚で、ニヤニヤしながらドラマを追えるというか。
吉田氏:
ボイスがなければないで、遊んでいる人たちの中では、それぞれキャラの声が当たっているはずなんですよね。そこを、坂口さんはすごく大切にされているのだと思います。
そこに対して、ゲーム側が「このキャラはこういう声で、こんなしゃべり方をするんだよ」と決めつけてしまうのは、ある種作り手側のエゴになってしまう可能性もあるんです。坂口さんはそこですごく悩まれたと思うのですが、皆さん、さすがの演技力でした。声が当たると当たったで、とても良い形になりましたよね。
今回は、特に上手い方にお願いすることもできて……それこそ『FF』が大好きな内田雄馬君にレオアを演じてもらえましたし、坂口さんがイメージしていたものをさらにプラス方向に膨らむような演技をしていただけたかなと感じています。だから、そう言っていただけてありがたいですね。
【キャラクター声優情報公開!】
— FANTASIAN Neo Dimension(ファンタジアン ネオディメンジョン) (@Fantasian_JP) September 25, 2024
シャルル CV : 長谷川育美
ビブラ王国の王女。
レオアと過去の因縁があるようだが、記憶を失ったレオアはその一切を忘れており、彼女の怒りを買うことになる。#FANTASIAN #FANTASIAN_ND #ファンタジアン pic.twitter.com/kCrYcM3BaU
坂口博信と吉田直樹、お互いのゲーム作りのスタンス
──今作は、坂口さんと吉田さんが初めてゲーム制作でご一緒された作品でもあると思います。実際にゲームクリエイターとしてご一緒されてみて、どんな印象を受けましたか?
坂口氏:
でも、最初に会った時の印象とはそんなに変わらないですかね。
やっぱり、ジャラジャラしてるけど真面目な人ですよね。
あ、でもそういう意味では第一印象は悪かった(笑)。
吉田氏:
まぁ、そうですよね……。
実は『新生エオルゼア』が始まる直前に、「坂口さんにはご挨拶だけでもさせていただこう」と思い、人づてにお食事をセッティングしていただきました。新生前だから、10年以上前ですよね。
坂口氏:
その「新生前にご挨拶させていただきたい」というセッティング自体は真面目じゃないですか。だから、まぁ会ってみようかなと思っていたら……もうジャラッジャラじゃないですか!
正直「なんだコイツ?」とか思いましたよ(笑)。
一同:
(笑)。
吉田氏:
最初の印象は絶対悪かっただろうなぁとは思います(苦笑)。
坂口氏:
でも、いざ話してみると、やっぱり中身は真面目な方だなと。
そこは、一緒にゲーム制作をしても変わらないところでしたね。
あと、プラスで思ったのは「スタッフに気を遣っている」ところですよね。『FF14』チームを案内してもらった時に、吉田さんはローカライズ担当の子にすごく気を遣っていて……。
やっぱり、そういうのって難しいんですよ。会社が大きな組織になり、ローカライズの部署ができてしまうと、どれだけのローカライズの仕事をしてようが、給料も含めた立ち位置は横並びで見られて決まっちゃうことがあるじゃないですか。
そうなると、彼らのおかげで『FF14』のローカライズが上手く行っているのに、上司がちゃんと見てあげられなくなる。
そこに対して、吉田さんは「キチンと評価してあげたいので、FF14の開発チームに、ローカライズ担当を直に移動させちゃったんです」と。そういうところまで見ているのは、正直「なるほど」と思いました。まぁ、あんまり言うとスクエニ内の組織がマズいんじゃないかみたいな話になりそうだけど……(笑)。
吉田氏:
いやいや、大丈夫です。
もう僕もずいぶん長くゲーム開発に携わっていて……自分自身が下っ端だった時もそうなんですけど、「いくら頑張っても中々組織の壁を超えてくれないなぁ」というのは実体験としてありました。
その人の頑張りが隣の部署や別チームではすごく評価されているのに、自部門ではあまり評価されず、会社を辞めていってしまう人も数多く見てきました。
特に、『FF14』のチームに関しては長年一緒に走り続けている仲間でもあるから、組織にとっても、タイトルにとっても「抜けられてしまうこと」がすごくダメージになってしまうんです。だから、「全員移動してくれば、ウチの部門で評価できる。もちろん、本人が望むかどうか次第で良いです。そっちの方が早い」と直談判して、ローカライズメンバーを直接開発チーム内に加える形としています。
吉田氏:
僕の坂口さんの印象は、「ものすごくお仕事をされる」ことですね。そして、レスポンスもめちゃくちゃ早い。正直に言うと、ここはちょっと驚いたところです。
どんなゲーム開発者でも、会社内で偉くなっていくと段々自分で実作業はされなくなっていく方が多い……。現場から離れていく人の割合が圧倒的に多いのです。
でも、坂口さんは即決・即判断・即レス。そしてご自身からの提案も、ものすごく早い。『FANTASIAN』という作品単位で見ても、坂口さんがご自身で作業している部分の分量がすごいんですよね。
とはいえ、今回は対応プラットフォーム数も多く、開発もちょっと時間がかかってしまうのかなと思っていたのですが……ミストウォーカーのスタッフのみなさんの優秀さも含めて、信じられないスピードで物が上がってきました。
この坂口さんの判断の早さや仕事に対するスタンスに、改めて尊敬し直させていただいたところはあります。ちょっと僭越なんですが、これは本当に驚きました。
坂口氏:
……いい話だなぁ。
一同:
(笑)。
吉田氏:
いや、でもこれは本当に誇っていいと思います。
まぁ、たまにミストウォーカーの方から「『FF14』のせいで坂口がミーティングに来ないんですけど」とクレームを言われることはありますが……(笑)。
坂口氏:
うちには成田賢という『FF4』から『FF10』くらいまでのプログラマーをやっていた人間がいるのですが、彼も『FF14』のアカウントを持っているので、僕をゲーム内で呼びに来ますね。「すいません、ミーティング始まってますよ」って(笑)。