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坂口博信と吉田直樹に聞く、「良いRPG」の条件とは? 『FANTASIAN Neo Dimension』から迫る「王道ファンタジー」の定義と、心に響くRPGの届け方

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もし『FANTASIAN』と『FF14』がコラボするなら、「〇〇〇」にしたい

──率直ではあるのですが、『Neo Dimension』の新しくなった箇所で「ここが推しポイント」といった点があれば、ぜひお聞きできればと思います。

坂口氏:
「ここが」というよりかは、トータルですべてがフィットしているというか……本当に「完成形に辿り着いた」という感覚があります。この「熟成感」ですかね? そこが僕としては一番作り直してよかったし、いい感じに仕上がったかなと思うところでした。

実はこういう体験って、僕は意外としていなくて……スクウェア時代にリメイクみたいなことはあまりやらなかったんですよね。自分で作ったものは、もうそれでおしまい。ずっと「次へ、次へ」で生きていたので、この「ゲームが熟成する」感覚は、僕にとって新しかったですね。

これまでは子どもを産んで終わりだったところが、今度は成人式を迎えたような感覚ですね。着物を着せてあげて、写真館に連れていってあげて、「こんなに綺麗になったんだ」と。

坂口博信×吉田直樹:インタビュー『FANTASIAN Neo Dimension』から迫る、「良いRPGの条件」とは_010

──吉田さんはいかがでしょうか。

吉田氏:
まず、『FANTASIAN』の評価が高いのは、市場を調査した時にもわかっていました。もちろん、メタスコアなどにも数値として出ていますし。ただ、やっぱりタイトルそのものに触れられている人の数が圧倒的に少ないから、まず「認知度を上げる」という点でチャンスがあると考えました。

だから、無理にいろいろな新要素を盛り込もうとして、開発期間が長くなりプラットフォーム対応も延びるくらいであれば、元々の完成度が高い『FANTASIAN』をもう一段引き上げたうえで、とにかく早くみなさんに遊んでもらおうという方針の方が、よっぽどビジネス的にもゲーム体験的にもいいだろうと。

つまり、「完成度を高める」ことはしても、無理に新要素は入れないようにしていました。プロジェクトの立ち上がり的な意味でも、1年ちょっとでここまでのプラットフォーム対応をするのは、重要なポイントでした。今作は、この「モノが良いのだから、とにかく早く遊んでもらう」ことにフォーカスした感じでしたね。

また、「完成度を高める」「さらに楽しく遊んでもらう」という点で、新たにボイス対応や『FF』の楽曲とのコラボレーション【※4】を行った形です。

坂口氏:
僕は普通に『FF14』のサントラも買っていて……個人的に『FANTASIAN』をプレイしていた時、戦闘中だけ音楽のボリュームを下げて、『FF14』のバルバリシアの音楽をかけながら遊んでたんですよ。

だから、普通に「あ、この音楽で戦いてぇ~」とか思って、「ちょっと吉Pに言ってみようかな?」みたいな(笑)。

一同:
(笑)。

坂口氏:
「みんなにもこれを体験させてぇ~」みたいな感覚があって(笑)。

やっぱりバルバリシア戦も『FANTASIAN』も植松メロディーだから、当たり前に親和性があるというか……スッと入っていけるんですよね。

吉田氏:
坂口さんの良くないところは、こうやってせっかく『FANTASIAN』のインタビューを受けているのに、どんどん『FF14』の話になるところなんですよ!

なんだったら坂口さんにプロデューサーを交代してもらい、僕は開発に専念しようかなと思うくらいです(笑)。

坂口博信×吉田直樹:インタビュー『FANTASIAN Neo Dimension』から迫る、「良いRPGの条件」とは_011
※4『FANTASIAN Neo Dimension』と『FF』の楽曲コラボレーション
『FANTASIAN Neo Dimension』内にて、オプションでバトル中の楽曲を『FF』シリーズとのコラボレーションBGMに変更できる。『FF ピクセルリマスター』、『FF7リメイク』、『FF7リバース』、『FF14 暁月のフィナーレ』『FF14 黄金のレガシー』『FF16』の楽曲が対応している。(画像は『FANTASIAN Neo Dimension』 坂口博信×植松伸夫 スペシャルトークステージ – YouTubeより)

坂口氏:
あと、『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』に関しては、ありがたいことにスクエニの担当者がわざわざ僕のところにまで来てくれて、「実は過去作をこの形で作り直そうと思っているんです」という話をしてくれたんです。

権利的には、僕なんかにわざわざ話をする必要はないんですよ。でも、直接伝えに来てくれたんですよね。そんなご縁もあって、『ピクセルリマスター』の音楽も入れられる形になりました。やはり昔の『FF』は植松音楽の原点でもありますからね。

あとは……そのまま、「北瀬、おねがい…」とFF7のことをちょっと話したり(笑)。【※5】

一同:
(笑)。

坂口氏:
そうこうしていたら、『黄金のレガシー』【※6】も出ちゃって。
曲を聴いてみたら最高で、「この最新版もぜひ!」と(笑)。

※5「北瀬佳範」
スクウェア・エニックスに所属するゲームプロデューサー。同社の取締役と執行役員、『FF7』を筆頭にした『FF』シリーズに数多く携わっており、現在は「FFVII」リメイクプロジェクトのプロデューサーを務めている。

※6「黄金のレガシー」
2024年にリリースされた、『FF14』の最新拡張パッケージ。「トラル大陸」での新たな冒険が描かれた。

吉田氏:
他の曲の実装もどんどん進む中で、坂口さんから「やっぱり『黄金のレガシー』の曲も、ねぇ……」と連絡があって……。

でも、『FF14』ってサントラを作るまで正式な曲名は決まらないんですよ。だから、僕も祖堅【※7】も曲名が決まってないタイミングで言われてもわからないし、特に最新パッチは「え、どの曲だっけそれ?」状態になりがちです。

だから、坂口さんには「どの曲を収録したいかを、コンテンツかバトル名で言ってもらえれば……」とお伝えしていました。

坂口氏:
吉田さんは、僕がユーザー目線で遊んでいることを知っているから、ネタバレ周りにもすごく気を遣ってくれて……。

でも、「これすごく言いづらいんですけど……『FF9』要素が入っているんですよね……」と言われた時は、さすがに「それはちょっと聞きたくなかったかな」という気持ちが上回りました(笑)。

吉田氏:
だから、坂口さんから「『黄金』はどんな楽曲があるの」と聞かれた時に、既にトレーラーなどで流していた曲は問題なくお伝えできるのですが、実は後半にもっと素晴らしい曲や植松さんと親和性の高い曲も用意しているんです……ということも言いたかったんです。

でも、それを伝えると坂口さんには『黄金』のネタバレになってしまうし、「すごい難しい立場だな、これ……」と(笑)。

まさにタイミング的には、みんなが「曲のマスターまであとどれくらいだっけ?」と言っているような状態でしたね。ですが、最終的には問題なく入れることができました。

※7「祖堅正慶」
株式会社スクウェア・エニックスのサウンドディレクター/サウンドデザイナー。『FF14』や『FF16』のコンポーザー及びサウンドディレクターを務めており、「THE PRIMALS」のオフィシャルバンドメンバーも担当。

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(画像は『FANTASIAN Neo Dimension』 坂口博信×植松伸夫 スペシャルトークステージ – YouTubeより)

──逆に、『FANTASIAN』を制作する中で、実現はしなかったアイデアなどはあるのでしょうか?

坂口氏:
「やれなかった」ということではないのですが、『FF14』内でなにかやってくれないかなぁとは……。

吉田氏:
いや、やる準備はあるんですよ?
あるのですが……そうなったら、1クエストくらいは坂口さんに書いてほしいんですが、この話をすると……。

坂口氏:
いや、それは書きたくない!
『FF14』内に自分の書いたメッセージとか出たら、興ざめでしょ。

吉田氏:
そう、書きたくないって(笑)。

この話自体は何度か出ているのですが、その度に「自分が産んだ子は旅立たせてそっちに出てほしいけど、俺は遊ぶ側でいたいんだよ!」とおっしゃられていて。そこもやっぱり「プレイヤーでいたい」と。

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吉田氏:
これは『FF14』でコラボをする時にいつも考えていることなのですが、「プロモーション」という観点で言えば、本当は『Neo Dimension』の発売タイミングでゲーム内コラボレーションをするのが一般的ではあると思うんです。

ただ、発売前の『Neo Dimension』そのものは内部のスタッフも好きに遊べるわけではないし、プレイヤーのみなさんも『Neo Dimension』を遊べていない状態じゃないですか。その状態では、強烈なクロスオーバーはできないんです。

お互いの体験が合わさったからこそのコンテンツにできないのであれば、それぞれのファンが双方のタイトルの良さを味わってからクロスオーバーをした方が、もっと楽しいものが作れると思うんです。だから、やるなら「発売後」にしたい。プレイヤーのみなさんも、開発チームも、全員が遊び倒した上で、しっかり時間をかけて作りたい。

でも、『Neo Dimension』を遊んでくれる『FF14』プレイヤーの方もいると思うので、発売以降に「コスチュームだけでも先に出ないの?」といったお声があれば、みなさんのリアクションを見つつ対応できればとは考えております。

坂口氏:
いま、言質を取りましたね。

吉田氏:
あ……。

一同:
(笑)。

RPGの「王道感」、どこから来るのか

──『FANTASIAN』は、ジオラマを取り入れた特殊なマップ表現も魅力的なタイトルとなっています。吉田さんの視点から見て、そんなグラフィックや全体の雰囲気などを含め、今作のどういった点が魅力だと感じられていますか?

吉田氏:
そこはもう、「ゲーム全体」が魅力だと思っています。オリジナルをプレイした時、率直に感じたのは……絵も、キャラも、セリフも、ダイアログのひとつをとっても、改めて「作家性って出るんだな」と。僕のようなリアルタイムで『FF』を第一作目から遊んできた人間からすると、特にそう感じました。

坂口さんが表に立たれているタイトルは、ストレートな「王道」という言葉がピッタリハマるんです。

最近、モノを作っていると、グラフィックスの性能が向上したことや、リアルの世界情勢がより複雑になっていることもあって、どうしても「現代に向けた複雑なメッセージ性」が強くなってしまう傾向ってあると思うのです。

ただ、坂口さんのタイトルは、この作品で伝えたいものをまっすぐあらゆる世代に届ける。そこが坂口さんならではだし、ウチの開発メンバーはみんなそこが素晴らしいと言っていました。

そのストレートさは特に「絵」から伝わってくるものでもあるし、だからジオラマだったんだろうなと。「そんな王道感をシンプルに味わっていただきたい」というのが、今回僕らが『Neo Dimension』に込めている想いだったりします。

奇をてらったり、あえてひねったり……そんなひねくれた届け方って、ゲーム開発ではどうしてもやりたくなっちゃうものなのですが、今回は一切ありません。ストレートな冒険活劇を遊び、スカッとした気持ちに到達できる。そこをぜひ楽しんでもらいたいですね。

僕みたいなオールドゲーマーには懐かしさとともに、「そうそう、これこれ」と感じられるし、今の若い世代のゲーマーにも、まっすぐ届く作品になっていると思います。

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──吉田さんがおっしゃられたように、やはり『FANTASIAN』はこの「王道感」が魅力的なタイトルでもあると思います。今回、おふたりでゲーム制作をされてみて、「王道ファンタジー」の捉え方や定義などには共通点がありましたか?

吉田氏:
どうなんでしょうね……?

今回は坂口さんと一緒にゼロからタイトルを組み上げたわけではないので、正直未知数なところは大きいです。でも、実際にゼロからタイトルを作ってみた時にどうなるのかは気になりますね。

坂口氏:
まぁ、「ファンタジー」の定義は難しいですよね。

もはや、昔「ファンタジー」と言っていたものと、今の「ファンタジー」は既に違いますし、さっき吉田さんが言っていたような現代社会へのメッセージみたいなのも僕らとしては入れたいし。そこは時代に合わせて変容していきますよね。

吉田氏:
僕は『FF』シリーズ内でも『FF14』と『FF16』を担当させていただきましたが、どちらもファンタジーとしてのアプローチの仕方は全く違います。その上で、そこに「魔法」と「科学」という要素を加えようとした時の解釈や比率なども、全く変わってきます。

たとえば、『FF16』ではいわゆる「超古代文明の技術」などは出していましたが、基本的に作中で科学的な要素は、あえて扱わないようにしていました。でも、だからこそ坂口さんとゼロから「ファンタジーについて」というテーマでお話したら、面白いだろうなぁとは思います。

坂口氏:
よくゲームを作っていて議論になるのは、「(世界観的に)魔法の立ち位置をどうする」あたりですよね。ゲーム的にも戦闘システム的にも大きく関わってくるところですから、意外と開発の序盤でよく議論になったりします。

でも、そういう話をする時が一番楽しいですけどね。
「どうするべ、今回は?」と。

吉田氏:
今回の世界では「魔法」はそもそも「科学」から生まれたもので、実は科学が裏で動いているものをこの世界の人たちは「魔法」と呼んでいるのか。それとも科学とは全くの別体系で、そもそも「魔法」として存在しているものなのか。……みたいなことは、RPGを作る時は必ずスタート地点で話しますよね。

坂口氏:
「魔法が当たり前ものなのか、特別なものなのか」とかね。

吉田氏:
「そこにあえて触れない」というのも、選択肢のひとつですよね。

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──ちなみに、今作の『Neo Dimension』というサブタイトルはどのように決められたのでしょうか?

吉田氏:
ここは我々とミストウォーカーさんでお互いに出し合って決めた部分です。

僕としては、これから『FANTASIAN』という作品が、僕たちが関わる/関わらないに関係なく、シリーズとして展開していく可能性もあると考えた時に、ナンバーをつけてしまうよりはサブタイトルを付ける方がいいのではないかと判断しました。

仮に続編を作る話が出た場合も、サブタイトルによって『FANTASIAN』そのものを広げていけるようになります。

そして双方から上がった案に商標調査などをかけつつ、最終的には坂口さんに決めていただきました。

坂口氏:
やっぱり、ゲーム内に「ディメンジョンシステム」という特徴的なシステムがあるじゃないですか。そこと言葉をかけつつ、「新しい次元に到達した」というディレクターズカット的な『FANTASIAN』という意味で、すごく今回の内容にピッタリな、いいタイトルをもらったと思います。

あと、僕が『マトリックス』オタクなので、「Neo(ネオ)」がいいなと(笑)。

吉田氏:
「ザ・ワン」ですからね。

でも、ターンベースのさらなる進化系となっているバトルシステムやストーリー展開を含めて、「新時代」「新次元」的なニュアンスを想起させやすいから、ゲームの中身そのものとの親和性もすごく高いですよね。そういう意味でも、ストレートに良いタイトルだなと。

「良いRPGの条件」って、なんですか?

──今回、おふたりに「良いRPGの条件」についてもお聞きできればと思っておりました。個人的な話で恐縮なのですが、私はRPGを遊んでいて、エンディングに到達した時に「ここまでのプレイ時間が報われた」と思うと、良いRPGだったと感じることが多いんです。最近『ロマサガ2』を遊んだのですが、道中すごくキツいと感じながらも、ラストに到達すると報われたような感覚があって……。

坂口氏:
河津くんらしい作品ですよね〜。

一同:
(笑)。

坂口氏:
ちょっと突き放すようなところがあるというか…。
でも、根底に優しさありますよね。

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坂口氏:
やっぱり、ゲーム的に成長要素が入ってくると、最後に「感動」までは辿り着きますよね。だけど、その要素だけで「本当に良かったな」と思えるのは、一部の作品だと思います。うーん、なんなんでしょうね?

吉田氏:
作っている時には、あまり気にしたことがないですね。

坂口氏:
明確な「これで感動させられる」という答えもないし、とにかく丁寧に積み上げていく地味な作業ですよね。

特にRPGは、そこに手を抜かず、本当に毎日コツコツと積み上げていく。そしてできあがった世界は、意外と感動するのかなと。もちろんシナリオやゲームの設計図っぽいものはあるけど、そこに至るまでの方程式などは意外となくて。

そうしてコツコツ積み上げた中で、いびつなんだけど「積み上がっていったもの」ができます。それをユーザーも登っていく過程で、熱量を感じつつ、吸収して……だからこそ、登頂した時に感動するんじゃないですかね。

──やはり『FANTASIAN』の制作においても、「丁寧に積み上げる」ことを意識されていたのでしょうか。

坂口氏:
スタッフと一緒に、とにかく手を抜かず、地味なところも大事に作っていきました。UIとか、文字フォントとか、それこそセリフの吹き出しのとんがり部分とか……それだけで30分議論したり(笑)。

そんな地味なところを大事にしています。
意外と地味ですよね。

吉田氏:
ちなみに、坂口さんがオリジナル版の『FANTASIAN』を作られた時って、脚本が上がってから開発メンバーを増やし始めていったんでしょうか? それとも、ある程度はプロットの段階からチームを組み始めてたんですか?

坂口氏:
『FANTASIAN』の時は、プロットが先でしたね。
まぁ、本当にザッとしたプロットです。

そこで大体の規模が見えるので、チーム構成もこんな感じかな、と。

吉田氏:
そうなんですね。

RPGの作り方はチームによって結構違うと思うのですが、僕は「シナリオが当然先に上がるべき」だと考えています。そうしないと、まず全体のコストが見えない。途中でシナリオのニュアンスが変わることはあったとしても、ラストがどうなるのかわかってないのに作り始めるのは正直ないだろうと思っています。

坂口氏:
あぁ、シナリオの途中で作り出すチームは多いですよね。
僕はあれ苦手ですね。

吉田氏:
僕も苦手なんです。

なんか開発が止まっちゃうし、チーム内で誰かのせいにしだしたり……。シナリオができていないのにゲームを作り始めていくと、結構グチャグチャになります。しかも、ゲーム内にも「この辺で停滞したんだろうな」という雰囲気が出ちゃったり。

だから、シナリオが先に上がっていた方が、間違いなく遊んでみた時に「キチンとできあがっている」感覚があるのではないかと思います。僕はそっちの方が、エンディングの達成感などに繋がりやすいのかなと。

坂口博信×吉田直樹:インタビュー『FANTASIAN Neo Dimension』から迫る、「良いRPGの条件」とは_018

──坂口さんと吉田さんが初めて対談をされた時、吉田さんが「最近RPGを作っていてツラいと感じるのが、グラフィックのコストが上がりすぎていて、世界を救う大冒険を描くのが難しくなってきている」といったことをおっしゃられていたのが、印象的でした。やはり、今も変わらずRPGで世界を救う大冒険を描くのは難しくなってきている……と感じられていますか?

吉田氏:
難しいのは……難しいですね。

僕らがアイデアを形にしようとした時、グローバル規模でスクウェア・エニックスという会社が期待されるベースラインが、どうしても「いくつかの大陸を股にかけ、世界の危機に対して立ち向かっていく人たちの物語」になりがちなのかなと思ってしまいます。

地形も違う、気候も違う、当然砂漠もあれば雪山もあって……そんな大規模なタイトルを作っていこうとすると、すべてが使いまわせないユニークなものの集合体になってしまいます。それで、あっという間に開発予算が何十億になってしまう。

しかもローディングでエリアを移動すると、「シームレスじゃないのか……」とも言われてしまう可能性もあります。

坂口氏:
そうね。グラフィックの解像度が上がると、絵面的に描かざるを得なくなる。

「雪国はこうじゃないだろう」というリアリティを追求すれば、着てるものも違えば、食べるものも違ってくる。でも、本来開発的にはそこを作りたいわけじゃない。設定が絵に追いつかなきゃいけないから、中々広げづらくはなりますよね。

吉田氏:
そうなんですよ。以前は衣装を変えるだけでよかったところが、もはや「骨格」から変えなきゃいけなくなってきます。

まず人類って、骨格からして人種によって違うんですよね。変な話、いまのフォトリアル系RPGは衣装を変えて、髪型と髪色を変えて、肌のカラーテクスチャーを調整すれば……という世界じゃなくなっています。

坂口氏:
まぁ、『FF14』をやればいいんですよ!

大陸がじわじわ増えていっているし、きっとこれから先も世界は広がっていくので……って、まぁ僕が言うことじゃないんだけど(笑)。これからにも期待を込めて。

吉田氏:
でも、たしかに『FF14』くらいのグラフィックバランスだと、あまりそういうツッコミは言われないんですよね。だから、『FF14』はちょうどいいところにいると思っています。この次のハイエンド表現になってくると、結構厳しいんじゃないかと。

坂口氏:
MMOだからこその「10年かけて構築した世界」があるし、これから先もさらに年数をかけて世界を構築できる。シングルのタイトルで、いきなりこの規模の世界を3年か5年で作れと言われても、多分無理です。だから……みんな『FF14』をやりましょう。

一同:
(笑)。

坂口博信×吉田直樹:インタビュー『FANTASIAN Neo Dimension』から迫る、「良いRPGの条件」とは_019

吉田氏:
さきほど坂口さんが「RPGは完成に向かって、コツコツ積み上げていく地味な作業なんだ」とおっしゃられていましたが、まさに『FF14』はずっと積み上げていて、RPGの作り方の王道をやっている気はします。

だから、グラフィックのことも含めて、「もし次を作るなら思い切ってドットにしようか」という話が結構本気で出るくらいです。

坂口氏:
たしかに、ドットはミニマルな姿というか、抽象的な姿だもんね。

吉田氏:
『FF6』や『クロノ・トリガー』のその先を行き、HD-2Dとも違う形を目指した極限のピクセルRPGですよね。それをもしやるとしたら今ならアリだよなぁという感覚は、結構あったりしますね。

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──もっとお話を聞いていたいのですが、お時間も近くなってしまい……最後に、『FANTASIAN Neo Dimension』を楽しみにされている方にメッセージいただければと思います。

吉田氏:
『FANTASIAN』が本当に素晴らしい作品で、遊んで間違いがないのはApple Arcade版で絶対的に証明されています。だから、改めてユーザーのみなさんには「安心してください」とお伝えさせてください。まず、絶対に損はさせない。プラスにしか働きません。

そして、坂口さん自身も、当時は引退作のつもりでミストウォーカーの方たちと全身全霊を込めて作られた渾身のRPGです。それをさらにもう一段次の次元へ引き上げさせてもらうために、我々クリエイティブスタジオ3で協力をさせていただきました。

全プラットフォームで遊べるようになっているので、もうどのハードでも構いません。とにかく、せっかくの機会なので、まずは純粋に『FANTASIAN Neo Dimension』のプレイを楽しみにしていただけると嬉しいです。

坂口氏:
僕はいつも大体締めを『FF14』にしているので、今回は一旦置いといて……。

吉田氏:
そうしてください(笑)。

坂口氏:
昨日の昼から『Neo Dimension』を遊んでみたら、ボイスのおかげもあり、やっぱりかけ合いにニヤニヤできるんですよ。レオアとキーナとシャルルの3人の関係は、ニヤニヤしながら見ていられるというか……散々見てきたはずなのに、いまは結構楽しめています。

そんなところを楽しんでもらえたら、すごく楽しい時間を過ごせるんじゃないかなとは手前味噌ながらに思います。なんか、「ニヤニヤしてほしいな」って(笑)。

吉田氏:
あとは、坂口さんは初孫が産まれておじいちゃんになりましたので、ファンのみなさんはぜひご祝儀として1本と言わず2本! 2本と言わず3本!!

あらゆるプラットフォームでご祝儀をいただいても構いませんので……(笑)。

坂口氏:
1本につき、孫の衣装がひとつ増えます。

一同:
(笑)。

坂口氏:
生後から6ヶ月くらいの洋服は揃ってるんですけど、1歳ぐらいのがまだ揃っていないので……ぜひ『Neo Dimension』で6ヶ月から12ヶ月くらいの洋服を買わせてくれと(笑)。

坂口博信×吉田直樹:インタビュー『FANTASIAN Neo Dimension』から迫る、「良いRPGの条件」とは_021


ぜひ、坂口さんへのご祝儀として『FANTASIAN Neo Dimension』を買いましょう。

……というダイレクトマーケティングもしつつ、この「良いRPGの条件」という話題は、僭越ながらも個人的におふたりにお聞きしてみたいことでした。やはり、私自身坂口さんと吉田さんの作られたRPGに心を掴まれてきました。あの心に残る冒険は、どう作られてきたのか? あのエンディングの達成感は、どこから生まれているのか?

その片鱗をお聞きできただけでも、すごく嬉しかったです。

地道で小さな積み重ねこそが、RPGの感動を生む。まさに、徐々にレベルを上げてラスボスを倒すRPGの体験を、制作側が一番味わっている……と言えるのかも。

そして、そんなおふたりが共同で作り上げられた『FANTASIAN Neo Dimension』も、きっと心を掴む大冒険を味わえるはず。みんなが楽しめる「王道」でありながら、新たな次元に到達した最新作。ぜひ、RPG好きの方も、光の戦士の方も、一度触れてみてください。そして、『FF14』とのコラボを祈って!

© MISTWALKER/SQUARE ENIX

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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