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『近畿地方のある場所について』背筋氏 ×『零 ~紅い蝶~ REMAKE』柴田 誠氏対談──ホラークリエイターが語る恐怖の本質。「消臭スプレーで除霊」の生みの親、柴田氏に聞く「視えること」による創作への影響

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リメイクによって進化した『紅い蝶』の体験

──シリーズの中で『紅い蝶』に関してはどのような印象をお持ちですか?

背筋氏:
ナンバリング通りにプレイしたので、1作目のあとに『紅い蝶』を遊びました。1作目はストーリーラインが明確じゃないですか。いなくなってしまった兄を探しに行くという大きな目標が提示されて、「いなくなったのはなぜか?」、「兄には恋人がいたらしい」となって、そこから軸がぶれずに進行していく。

対して『紅い蝶』をプレイしたときに感じたのは、想像よりも「難しい」ということでした。ゲーム難易度ではなく、物語構造的な難しさですね。「双子の姉がいなくなった」ということはわかるのですが、登場人物全員がひと筋縄ではいかないバックボーンを持っている。中学生や高校生がプレイすると、そういった複雑さを理解するまでに時間がかかり、感情がつながらない時期がけっこうありました。「この子はいまの場面でなぜこんなことを言っているんだろう」というのがわからないわけですね。

でも、プレイを続けていくとわからないなりにいろいろなことを感じる。アーカイブの断片から「いまの言葉はお姉ちゃんが言っているんじゃなくて、乗り移ったほうが言っているのか」とか、「いやいや、どちらも同じことを言っている?」とか。全部説明しきらずに、どちらがしゃべっているのか、それとも同調して二人一役として言っているのか。ストーリーの深度が、文学的ともいえる進化を遂げていると感じました。

──今日、実際に『零 ~紅い蝶~ REMAKE』をプレイされてみていかがでしたか?(発売前の対談だったため、取材開始前に背筋さんには台北ゲームショウ出展バージョンをプレイしていただいている)

『近畿地方のある場所について』背筋氏 ×『零 ~紅い蝶~ REMAKE』柴田 誠氏対談──ホラークリエイターが語る恐怖の本質_009

背筋氏:
すごく懐かしい一方で、同じくらい新しさを感じました。序盤の日本家屋も大きくレイアウトは変わっていないけれど、グラフィックとして新しくなっていることにも目を見張りました。操作感に関しても、迫真性というか現実感が増している感覚がありました。でも基本の味は『零』のソウルを引き継いでいるので、懐かしくて新しいという不思議な気持ちになりました。

柴田氏:
ありがとうございます。ストーリーや世界観は大きく変えてはいないのですが、ゲームの操作感は向上させて、遊びやすさ、情報の受け取りやすさをキチンと整理してわかりやすくしています。

また、物語を進める誘導も丁寧目にしました。当時は「ホラーゲームはある程度放ったらかされて、さまよったほうが怖い」と思っていたのですが、そのやり方だと最近のユーザーが最後までプレイしてくれないこともあります。ゲーム上の動線もそうですし、感情の動線も少しわかりやすくなるように意識してリメイクしました。

『近畿地方のある場所について』背筋氏 ×『零 ~紅い蝶~ REMAKE』柴田 誠氏対談──ホラークリエイターが語る恐怖の本質_010

これまでにいろいろなところでお話させていただいていますが、『零 ~紅い蝶~』の物語は、私が実際に見た夢を落とし込んだんです。ですので、オリジナル版を作っていたときは「ストーリーがなぜこうなるのか?」「なぜこの人物はこんなことを言っているんだろう」という明確な理由はわからなかった。ただエンディングがはっきりしていたので、そこに向けて必死に作っていました。今回、リメイクするにあたって、改めて客観的に見直すことができたんです。その中でも曖昧さが良かったところは残してあります。

背筋氏:
ひと言で説明できるものが必ずしもいいとは限らないですし、単純ではないからこそ奥行きが生まれて「知りたい」と思う魅力がありますよね。「この村では先に生まれたほうが妹なんです」という設定など、民俗学的に見れば、もしかしたら正しいのかもしれませんけど。

柴田氏:
そうですね。明治に入って双子の順番が明確に決まったことは事実なんです。夢で見たときはそういう設定だと受け止めていたんですけど、調べてみて実際にあると知ったときはうれしかったです(笑)。

背筋氏:
いま見ているのは姉と妹なんだけど、じつはそれが逆転している。対照的になるふたりが逆転しているというのも含めて、絶対に何かしらのこだわりがあるんだろうなと。それを読み解いていくゲームなんだと当時は受け取っていました。

柴田氏:
過去の双子と現在の双子がだんだん融和してわからなくなっていく。そういった境界のゆらぎがあるからこそ怖いというのもあります。

『近畿地方のある場所について』背筋氏 ×『零 ~紅い蝶~ REMAKE』柴田 誠氏対談──ホラークリエイターが語る恐怖の本質_011

背筋氏:
柴田さんのインタビュー記事などは拝読していましたが、柴田さんの実体験や夢の話、オカルト体験やホラー体験の“実体験”が具体的にどう表現に活かされているのか聞いてみたいです。

私は幽霊を見たことがないので率直に思うのが「見えたら正解がわかる」わけですよね。逆に見えていないからこそ正解を想像しながら作るという方法をとっているわけで、だからこそイメージの幅が広がると考えている節もあります。一方で、正解に近いものをご覧になっていると、それはある種、不自由でもあるのかなと。答え合わせみたいな文脈が自分の中に生じてしまうというか。

知らなかったら何をやってもいいわけですよね。たとえば、幽霊が血を吐いてもいい。でも本物を知っていると「それはしないだろう」とか「こうだろう」というところが生まれてしまうわけで、それが創作を行ううえで足枷になってはいないのですか?

柴田氏:
まったく足枷ではないですね。幽霊はこういうものだとしたほうが考えやすいです。ただ、幽霊は全部怖いものではないです。怪談だと「ここで昔、悲惨なことが……」とか前振りがありますけど、突然近くに現れて「うわ! 誰だお前!」って驚くと消えていく。造形や聞こえてくる音は参考になりますけど、実際の幽霊はホラーの文脈を踏まえて出てきてくれるわけではなくて。多分、向こうに立ってるのに気づいたときがいちばん怖い(笑)。

背筋氏:
なるほど。ただ、ゲームを作るうえではビジュアルが重要じゃないですか。そのビジュアルの幅が、自分が見ているからこそ制限されてしまうことはありますか?

柴田氏:
それはありますね。『零』の幽霊は透明でモヤモヤしていて少し歪んでいるじゃないですか。あれは私が見えるものをなるべく再現しています。……そう言われるとたしかに、異様に首や手が長かったりだとか、クリーチャー的な造形の幽霊には会ったことがないですね。

背筋氏:
そのクリーチャー的な造形は「しないでおこう」と決めているのですか?  フィクションですから「実際にあるもので作らなければならない」という縛りはありませんよね。だけどそこで幽霊の首を伸ばさないというご判断をするというのは、見えているものに対して忠実でありたいという意識があるのでしょうか。

柴田氏:
シリーズ1作目から「自分が怖いと思うものを作ったほうがいい」と思っています。ゾンビも怖いし、クリーチャーも怖いですけど、自分が本当に怖いと思うものを表現して「すごく怖い」というのを分かち合ったほうが伝わると考えたんです。たとえばすごく横に長い霊を出すと写真におさめるゲーム性が高まるかもしれませんが、見たこともないのでなかなかリアリティが出せない。

背筋氏:
逆に見えると怖いですか? 見えない自分からすると、見えてしまう人にとって幽霊は野良犬や熊の怖いとかに近い、実害を伴う怖さなんじゃないかなと想像しているのですが。

『近畿地方のある場所について』背筋氏 ×『零 ~紅い蝶~ REMAKE』柴田 誠氏対談──ホラークリエイターが語る恐怖の本質_012

柴田氏:
野生動物と幽霊の最大の違いは、しゃべるかどうか、ということですね。

背筋氏:
しゃべるというのは、会話をするということですか?

柴田氏:
一方的に何かを言われます。

背筋氏:
でも、幽霊と意思疎通はできないんですよね。

柴田氏:
そうですね。でも何か言いたいことがあるから来ていて、おそらく感情があるんです。意思疎通はできないんですけど、意思を伝えに来ているというか。でも、なぜそこにいるのかはわからないから「誰?」と驚いてしまう。

背筋氏:
見てしまうと「かわいそう」という感情がわいたりはしないのですか?

柴田氏:
急に感情がわかないですね。何を言っているかはわかるけど、意味はわからないという感じです。『濡鴉ノ巫女』で、白菊という白い髪の子が最後に「お前は死ね、ゆっくり死ね」って言うんですが、女の子の幽霊が私に言った「もっと……ゆっくり死ねよ」という言葉が元なんです。まったく意味がわからなくて「え? どういうこと?」と思ったんですが、何年も考えた結果、これは「なるべく生きろ」という意味かもしれないと。幽霊なりの発話というか表現があると思っています。

背筋氏:
死んじゃったら、人間としての文脈で話すことを忘れてしまうのか、もともとそういう変わった人が幽霊になるのかどっちなんでしょう。

柴田氏:
あまりちゃんとした言葉は言えないという印象です。感情は残っているけど、主語・述語をしっかりと言えていない感じというか。その女の子は緑色のワンピースを着ていたのですが……。

背筋氏:
たとえばジャージを着ている幽霊っているんですか?

柴田氏:
ジャージ……は見たことないですね。

背筋氏:
どういう格好をしていることが多いのですか?

柴田氏:
ボロボロの布みたいなのが多いです。私は「ちゃんと見えない」というか、かなりピントがボケている状態で見えるんです。

背筋氏:
あーなるほど。黒沢清監督が表現される映像のような?

柴田氏:
そうですそうです(笑)。とくに顔はピントが合わなくて、のっぺらぼうに近いというか、ちゃんと顔を見ようとすればするほど歪んで見えます。目の端っこで見ると比較的見えるのですが、しっかり見ようとするとボケてしまうんです。

『近畿地方のある場所について』背筋氏 ×『零 ~紅い蝶~ REMAKE』柴田 誠氏対談──ホラークリエイターが語る恐怖の本質_013

背筋氏:
柴田さんは幽霊は怖くないんですね。

柴田氏:
もちろん怖いんですけど、急に近くに現れると「びっくり」が先にきて……初めて幽霊に遭遇したときは幼くて幽霊という概念を知らなかったので「死んだふり」をしました(笑)。

背筋氏:
幽霊っぽいものを見ても、幽霊だとは初見では思わないんですね。

柴田氏:
概念を知らないと、そうなんです。何だかグニャグニャした人が寝室の柱の前に立っていて……。ちょっとおかしな人がいる。明らかに人間じゃないんですが、よくわからないのでとりあえず死んだふりをして、動かずにいればバレないだろうと(笑)。

幽霊にもっとも効果的なアイテムは消臭スプレー

──『紅い蝶』で思い出すのが、開発秘話で柴田さんが語られていた「消臭スプレーが霊に効く」という驚きの情報です。柴田さんは「消臭スプレーで除霊」の生みの親としても有名ですが、ほかにも霊に関与できる物ってありますか?

柴田氏:
消臭スプレーが唯一の成功例なんです。あと霊障に対しては、とりあえずお酒を飲むと感じなくなってきます。ヤバそうな雰囲気を感じたらお酒を飲むことで意識レベルを低下させて、感覚を鈍くすると見えなくなっていくんです。

──柴田さんの実体験的に、塩は効くんですか?  除霊といえば塩のイメージがありますが……。

柴田氏:
まったく効かなかったですね。もしかしたらキチンとした作法があって、それを知らないからかもしれませんが……。

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──見えない背筋さんからすると柴田さんのお話は興味深いですよね。ぜひ柴田さんに幽霊が出る場所を案内していただいて……。

背筋氏:
怖いから嫌です!(笑)  創作意欲はものすごく湧きそうですけど……。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。

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