いま読まれている記事

「最高峰のピッチへようこそ!」──耳と心に残る名実況はいかにして生まれたのか? 『ウイニングイレブン』、『eFootball™︎』の実況を30年続けてギネス世界記録に認定されたジョン・カビラ氏に30年の知られざる舞台裏とサッカー愛を聞いた

article-thumbnail-260410d

1

2

3

驚きのスピードで進むカビラ氏の実況収録

──実況を収録されるときに、KONAMIさんからどのようなディレクションがあったのでしょうか?

カビラ氏:
まず、ゲームの場面場面、局面で求められる「圧」ですね。強さと圧。まあこれはもうグラデーションがあるので、「これはこういうシーンで使います」と説明がありました。おかげさまで30年目にもなると、そのフレーズに求められる圧やスピードというのは、台本を見た瞬間にわかるようになりました。

──取材前に収録現場を見学させていただきましたが、収録スピードの早さに驚きました。KONAMIさんから「ここはこういうシーンです」という説明があってすぐに、カビラさんが声を発していたので……。あまりの早さに、最初は録音を流しているのかと思ったほどでした。

カビラ氏:
ほかの収録現場を見たことがないので違いがわからないんですよ。「いや、これがふつうなんです」というしかない(笑)。ただ、KONAMIさんから聞くところによると、海外版の収録をリモートでやられているそうなのですが、「こんなハイペースでは録れません」という話は耳にしております。

──1作目では、ゼロからすべてを収録する必要がありますから、かなり苦労されたのではないでしょうか。

カビラ氏:
初期のころは収録されているチーム数がある程度限定されていたので、量としてはそこまでたいへんではなかったんです。現在は、新たな国や新たなリーグ、多くのチームが搭載されています。

また、昔に比べるとプラットフォームのスペックも向上しているので、より多くのデータを収録できますし、ダウンロード版なのでパッケージのころよりも早く、収録したデータで遊べるようになりました。

──一度収録したものは以降の作品で使われているのですね。

カビラ氏:
もちろんそうですね、アーカイブといった形で。

──それが可能なのは、30年のあいだに、カビラさんの声質が変わっていらっしゃらないからですよね?

カビラ氏:
変わっているとは思います。

KONAMIサウンドチーム:
30年前の声と聴き比べると「あ、たしかに違うな」というところはあります。ただ、おそらくこの10年ではそこまで大きくは変わっていないですね。

カビラ氏:
声帯って、コードというか糸みたいなものが縦に並んでいて、逆三角形のハープみたいなものなんですよね。まわりが全部筋肉で、その筋肉が動いて空気が通って鳴る。一度この声帯の筋肉が切れちゃったんですね。ただ、おもしろいことに筋肉が切れた箇所は、本来動くはずの弦が動かなくなって一定の周波数だけ抜けるんですよ。だから声は出るんだけど途中で切れるんです。

J-WAVEの生放送中にそれが起きてしまって「あ、これはダメだ」とディレクターやプロデューサーに「代役をすぐお願いしてください」と伝え、病院で内視鏡を入れたら「あー、もうこれ筋肉裂傷ですね」と。あとは声帯にポリープができたときがあって、そのときは微妙に声が変わったような気がしたのですが、大きくは変わっていなかったみたいです。

KONAMIサウンドチーム:
ポリープ手術後の収録で、「声が変わっているかもしれない」と緊張されていたことがあったのですが、実際には変わっていなかったです。

カビラ氏:
この30年で本当に鍛えていただいて、KONAMIさんには感謝しかありません。選手名のカタカナにも強くなりました(笑)。

『ウイニングイレブン』、『eFootball™︎』ジョン・カビラ氏インタビュー_009

──ちなみに、1作目の収録のときはゲーム画面はあったのでしょうか?

カビラ氏:
ゲーム映像、ゲーム画面はなく、テキストだけでした。いまではありがたいことに、たとえばリアルサッカーの試合映像をBGVのように流していただいているので、サッカーのマインドに入っていける環境でやらせていただいています。

──収録中、カビラさんがアドリブを入れていらっしゃいましたが、1作目からアドリブはあったのですか?

カビラ氏:
当時は基本に忠実に収録していました。ゲームの容量が決まっていることもあり、アドリブをしてしまうと容量的にご迷惑がかかると考えていました。

KONAMIサウンドチーム:
制作を続けていくなかで、台本を使用せず音声収録に取り組んだ時期もありました。

──え、台本なしで実況をされたのですか?

KONAMIサウンドチーム:
いろいろと試行錯誤しての試みだったのですが、実際のゲーム映像をカビラさんにお見せして、フリー実況をしてもらったんです。

カビラ氏:
そういう試みもありましたね。

KONAMIサウンドチーム:
開発スタッフが仮の解説役を担当し、実況と解説の掛け合い形式を実際に再現しながら実演いただくことで、台本収録では得られない、よりカビラさんらしい実況音声を録ることができました。

カビラ氏:
それをベースに「あ、カビラはこういうスタイルだよね」と、開発の方々に翻案いただいて。いや〜、本当にありがたいことです。

KONAMIサウンドチーム:
カビラさんから生まれたセリフをできるだけ活かしたかったので、「セリフから実況仕様を作っていく」といった逆方向の取り組みも過去に行っています。

──さまざまな収録方法を試すことで、実況に幅が生まれたわけですね。

KONAMIサウンドチーム:
そうですね。ただ、とてもたいへんでした(笑)。

カビラ氏:
それを拾って形にするのはたいへんなことだと思います。ただ、サッカーゲームということで、基本的に想定外の事態が起こらない点は救いだったかもしれません。ピッチがありボールがありゴールがあり、22人がピッチに立っていて行われる。ゲーム中の動きの枠の中での現象なので、突拍子のないようなことは発生しませんからね。

「意図がわかりません」、「パスの行った先、誰もいない!」
印象深いフレーズの誕生秘話

──1作目の収録で印象に残っているエピソードはありますか?

カビラ氏:
1作目はKONAMIさん側も含めて全員が初めてなわけです。僕も初めてスタジオに入って、「大丈夫ですか?」とお互いに確認しながら収録を進めていった、という印象ですね。ただ、なんとなくお互いの想定していた環境だったとは思います。

終わったあとに反省会もあったのですが、僕から「これは辛いです」とか「これは難しいです」ということは一切ありませんでしたから。なぜかというと、「Jリーグビデオマガジン THE DIGEST」というVHSの存在があったからだと思っています。

──それは、どういった内容のものなのですか?

カビラ氏:
Jリーグ黎明期に「Jリーグ映像さん」がやっていた施策のひとつです。Jリーグの情報はテレビ番組などで一定のカバーはしてくれるけど、本当のJリーグファンだったら一節丸ごと、そのダイジェストを見たいだろうと。レンタルビデオショップの全盛期の1990年代ですね。ただ、これがたいへんな作業だったんですよ。

──そのビデオのナレーションもカビラさんが担当されていらっしゃったんですね。

カビラ氏:
人と人との繋がりがきっかけで、お声がけいただきました。ビデオの発行はJリーグ映像、制作はソニーレコードだったんですね。僕は大学卒業後にCBSソニー、現在のソニー・ミュージックエンタテインメントに勤めていた時期があったんです。ソニーレコードで先輩が働いていて、その方が転属されたセクションでダイジェスト映像の一部を請け負うことになったんですね。その際に「カビラ、サッカー好きだろ? ラジオもやってるし、できるよね」とお声がけをいただきました。

もう忘れもしないですね。ソニーPCLで収録を行ったんですけども、ディレクションの船頭さんが多くて……。収録現場にJリーグの方、Jリーグ映像の方、さらに元NHKのスポーツ担当の方、プラス制作の現場みたいな。もう寄り合い状態で「ああでもない、こうでもない」と、収録に7時間ぐらいかかったこともあります(笑)。

──7時間ですか!?

カビラ氏:
長かったですね(笑)。このダイジェストビデオにも鍛えられました。「白星、黒星は相撲用語なので使いません」とか、「ファンではなくサポーターです」とか。いわゆるJリーグボキャブラリーというのがあって、その試行錯誤はたまらなかったです。ただ、忍耐力はつきました。Jリーグメディア黎明期ならではのおもしろい現象だったと思います。

──そういったさまざまな経験が『eFootball™』の収録に活きたわけですね。

カビラ氏:
サッカー関連のさまざまな仕事があったおかげで、収録も自分なりにうまくできたのだと思っています。

──『eFootball™︎』では、カビラさんの実況によって楽しさが数倍、数十倍にも膨らんでいると感じますし、「カビラさんの実況=『eFootball™︎』」と捉えているファンも多いと思います。カビラ節といいますか、カビラさんだからこそ生まれた印象的なフレーズって、すごくたくさんありますよね。

カビラ氏:
「パスの行った先、誰もいない!」、とかですよね(笑)。

『ウイニングイレブン』、『eFootball™︎』ジョン・カビラ氏インタビュー_010

──生実況、ありがとうございます(笑)。ほかにも、ご自身の中でとくに印象に残ってるフレーズや「これは少しやり過ぎてしまった」というのはありますか。

カビラ氏:
「ちょっと言い過ぎちゃったかな」と思っているフレーズは「意図がわかりません」ですね。

──(笑)。プレイしながら、いつもそのフレーズを真似していました!

カビラ氏:
プレイしている本人は、操作に意図が満々にあるわけですから、現象的に「ん?」となってしまうこともある。つまり、プレイヤー自身が「あれ?」となる瞬間を言語化したらそうなったんですよね。

ただ、聞いているプレイヤーの中にはムカつかれる方もいらっしゃるわけです(笑)。「いいんだけどさ、あんなこと言う必要ないじゃん」、「息子といっしょに遊んでたんだけどさ、お前たまにムカつくんだよ」と友人から言われたこともあります(笑)。

そういうときは、「やった!」という思いと、「やりすぎたかな?」という思いの両方が出てくるんです。うれしさと反省が混ざったような感覚と言いますか。

──ほとんどのユーザーは、「カビラさんの実況があってこその『eFootball™︎』」と受け取って楽しんでいると思います。

カビラ氏:
ありがとうございます。実況において「言っていい、言って悪い」と言えば、ひとつ印象的なことがありまして。

──どういった内容でしょう?

カビラ氏:
2014年ブラジルワールドカップの北中米カリブ海地域の最終予選の最終マッチのことです。アメリカはすでに本戦への出場を決めていました。メキシコはアメリカの結果によって行けるか行けないか、首の皮一枚というゲームがあったんですね。結局、そのときはアメリカが勝ったおかげでメキシコがワールドカップに出場できるという結果になりました。同時刻にメキシコも最終戦をやっていて、メキシコの実況担当が自国のチームに対して「恥を知れ。恥ずかしくないのかメキシコ。あのアメリカのおかげで出られたんだぞ」というニュアンスのことを言ったんですよ。

それを聞いて「これだけの愛と憎しみが同居する瞬間があるのか」と思ったんです。安堵するとともに、愛する自国のチームへの不甲斐なさを叱責するという。この実況はものすごい胆力があってこそだなと。それを見ると自分もまだまだ「甘いな」と思いました。

──海外では、サッカーの熱狂度がすさまじい国が多いですからね。ワールドカップともなると、愛ゆえに厳しい言葉が出てしまうんでしょうね。

カビラ氏:
そうなんですよ。日本が最終予選の最終マッチまで出場が決まらなくて、他国が勝ってくれたおかげで日本が出場できるとなったときに、同じようなことが言えるのかと……。

──深いお話をありがとうございます。『eFootball™︎』に話題を戻すと、選手特有のフレーズがやっぱり深く印象に残っているんですよね。

カビラ氏:
たとえばインザーギですよね。「なんでいつもそこにいるんだ、インザーギ!」(笑)。

──(笑)。インザーギを見るたびに、いつもカビラさんの実況が頭の中で再生されます。そういったセリフは台本の時点で入っているのですか?

カビラ氏:
台本にあるときもあれば、アドリブのときもあります。「なんでいつもそこにいるんだ」は僕かな? シチュエーション的に、ゲーム中のセリエAダイジェスト【※】の中から出てきたものだと思うんですよ。

セリエAでの日本人選手といえば、三浦知良選手が日本人初としてセリエAデビューを飾り、そのあとに中田英寿選手が大活躍し、ローマの2000-2001シーズン優勝に貢献。いずれも鮮烈でしたね。

三菱ダイヤモンド・サッカーを見ていた時代から考えると、日本のサッカーは本当にすごいところまで来ていると思います。日本のサッカーを強くしようっていうモチベーションより、自分がどこまで勝負できるんだろうという、プロフェッショナル、アスリートとしての矜持みたいなものを、やはり感じますよね。

もちろん、その道を切り拓いてくださった、奥寺康彦さんをはじめ、先人たちの功績も忘れてはいけません。でも、ここまで来るとは……と感慨深いものがあります。メキシコの空が遠かったあのころを思うと、もう隔世の感ですね。

※セリエAダイジェスト……1994年から1996年、1998年から2003年までフジテレビで放送、2020年11月から2021年5月までフジテレビNEXTで放送されていた、イタリアのプロサッカーリーグ・セリエAを扱ったテレビ番組。カビラ氏はMCを務め、特別に長いダイジェストを流す際には、カビラ氏が実況を担当した。

『ウイニングイレブン』、『eFootball™︎』ジョン・カビラ氏インタビュー_011

1

2

3

副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。元ファミ通.com編集長。1990年代からゲームメディアに所属しており、これまで500人以上のゲーム開発者、業界関係者、著名人インタビューを手がける。1970年代後半からアーケード、PC、コンシューマーゲームにのめり込み、『ウィザードリィ』のワイヤーフレームで深淵を覗き、現在に至る。
Twitter:@Famitsu_Toyoda

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ

インタビュー

インタビューの記事一覧