中村俊輔選手は『ウイニングイレブン』もうまかった
──カビラさんがひいきにされているチームはどこなんですか?
カビラ氏:
以前、ワールドカップ中継でベンゲルさん【※】とお仕事をさせていただいたこともあって、アーセナルは気になりますね。
※アーセン・ベンゲル氏……アーセナルで22年ものあいだ監督として手腕を発揮した名将。Jリーグでは名古屋グランパスの監督を務めたこともある。
──やはりご自身のひいきのチームだったり、好きな選手の実況ですと、ちょっとテンション上がったり……?
カビラ氏:
大丈夫です。
──(笑)。
カビラ氏:
「大丈夫です」という表現にさせてください(笑)。
──ちなみに、どういうタイプの選手がお好きなのですか?
カビラ氏:
ドカンと決めるバティゴール【※】とか、中村俊輔さんとか好きですね。
※ バティゴール……1990年代〜2000年代前半に活躍したアルゼンチン代表の伝説的ストライカー、ガブリエル・バティストゥータ(通称:バティ)の強烈無比なシュートを指す。
──バティストゥータの豪快なシュートは印象的でしたね。中村選手もとくにフリーキックからのゴールの数々が現在も語り継がれています。
カビラ氏:
中村俊輔さんのゴールは本当に美しい。チャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦での伝説的なフリーキック。もう宝物ですね、あれは。ファン・デル・サールがどんなに飛んでも止められないです。そんな中村さんが『ウイニングイレブン』でイメージキャラクター【※】を務めてくださったときのことも忘れられないです。
忘れられないといえば、もうひとつ。以前、ゲームメディア、一般のメディアの皆さん、そして名うてのプレイヤーの皆さんをご招待しての大会が行われたんですね。優勝した方の賞品が、なんと中村俊輔選手と対戦できるというもので、そこで生実況をさせていただいたんです。
「両選手、どのチームを選びますか?」と聞くと、中村さんが記者の方に譲り、記者の方が「じゃあブラジルで」と。「中村俊輔選手、どうされますか?」と聞いたら「オランダですね」と。いざ試合が始まったら、中村さんが開始30秒でゴールを決めるんです(笑)。
でも中村選手にゴールを決められるたびに記者の方が喜んでいるんですよ(笑)。さらに中村俊輔選手が本当に粋だなと思ったのが、「そんなにやり込んでいないですから。僕はぜんぜんマニアじゃないですから」と言いながらゴールゴールゴール!
※イメージキャラクター……中村俊輔選手は、『ワールドサッカーウイニングイレブン5』、『ワールドサッカーウイニングイレブン5 ファイナルエヴォリューション』、『ワールドサッカーウイニングイレブン9』、『ワールドサッカーウイニングイレブン10』にてイメージキャラクターを務めている。
──(笑)。
カビラ氏:
パラメーター的にはトップのブラジルを、オランダがボコボコにしていて(笑)。でも負けている記者の方が本当によろこんでいるのが印象深かったです。ゲームで負けるとふつうは悔しいじゃないですか。なのに、なぎ倒されていることによろこべるというのは、『eFootball™︎』のひとつの醍醐味なんだなと実感しました。
本当にうまい人、技術に長けた人のパフォーマンスを見るのは実際のサッカーでもうれしいですし、ゲームの現場でもこんなにうれしいことなんだと。中村選手はゲームも本当にうまかったですね。
──当時、『ウイニングイレブン』人気はすさまじく、ゲームメディアだけではなく、スポーツ誌やファッション誌でも特集が組まれていたり、盛り上がりがすごかったですよね。友だちの家に集まって朝まで対戦したり、『ウイイレ』好きが集まって大会を開いたり、「『ウイイレ』好き」という共通項で人間関係に広がりができたり。
カビラ氏:
『eFootball™︎』の存在が、さまざまな形で絆づくりに貢献していたのだと思います。2025年7月に行われた大会”eFootball™︎ Championship 2025 World Finals”では、世界中からユーザーが参加していましたからね。
『eFootball™︎』というプラットフォームを通じて、世界がどんどんサッカーをでわかり合える。年齢が違っても、国が違っても、性別が違っても『eFootball™︎』で理解し合える、交流が広がるというのは本当にすばらしいことだと思います。
世界中のプレイヤーから愛される『eFootball™︎』
カビラ氏の実況は国境や言語の壁も超えていた
──30年ものあいだ実況を担当されてきて、プレイヤーの方から声をかけられることも多かったのではないですか?
カビラ氏:
2000年前半、カメラの現像をお店に頼みに行ったときに、大学生のアルバイトとおぼしき男性が急に小声で「((次作は)いつ出るんですか?」と聞かれまして。僕も一瞬何のことかわからなくて(笑)。僕は確かもうお金を出したよな、などと思いつつ「あ!」と気づいて「近いうちに……」なんてやり取りをしたこともありました。
──(笑)。
カビラ氏:
ほかにも、J-WAVEで知り合ったアーティストの皆さんが「やってます」とおっしゃってくださったり。なぜかそこだけ小声になるんですけど(笑)。ご本人プラスそのお子さんと遊んでいますという声も聞きますし、そういった声があるのはうれしいですね。オールドファンも含め、30年前というと10歳だった子はいまや40歳ですからね。サッカー小僧がサッカーおじさんになっているという(笑)。
7月のシリーズ30周年イベントのときも、会場には長らくプレイしていただいている30~40代の方が中心になると思っていたら、中高生も大勢いたのでめちゃくちゃうれしかったです。
──若い世代はモバイル版を遊んでいますからね。本当に幅広い世代の方が、カビラさんの実況を楽しんでいると思います。
カビラ氏:
驚いたのは海外での『eFootball™︎』の広がり、遊んでいた方たちの情熱の高さです。
とある試合会場でトルコのスポーツメディアの方から「日本選手がゴールを決めたときの実況を、この場でやってくれないか」とお願いされたこともあります。そのときはフジテレビの取材班として現場にいたので、プロデューサーさんに確認と許可をいただいて対応を行いました。
2023年にはサウジアラビアの映画会社さんから、元代表選手のヒューマンドラマを撮影するというお話があり、「この場面でどうしても『eFootball™︎』の実況が必要なんです」とお願いされたことがあったんですね。
「サウジアラビアの映画ですよね? 日本語ですけど大丈夫ですか?」と聞いたんです。そうしたら彼らは、「私たちは日本語の『PES』で育ったから大丈夫です」と(笑)。お父さんが代表でプレイしていたことを子どもたちに知ってもらうために『eFootball™︎』を映画に登場させたいというお話で。
ただ著作権上、『eFootball™︎』の実際の画面を使用することはできないんです。そこで「カメラはテレビの裏から映し、ゲーム画面は映らないけれども実況の声は聞こえる」ようにして。海外の方が日本語版を遊んでいると知ったときの驚きとうれしさと感動は、たまらなかったです。
※『PES』……『ウイニングイレブン』シリーズの海外名、『Pro Evolution Soccer』の略。
──日本語版がそこまで広がっているのは驚きですね。
カビラ氏:
カタールワールドカップのときに、BBCのアラブ語放送の記者の方とKONAMIさんの計らいでオンラインインタビューを受けたときも、「モハメド・サラーのゴールシーンの実況をお願いします」と言われて。そのときも「でも日本語ですよ?」と伝えたら「僕は日本語の2006年版をずっとやり込んでいたから大丈夫」と(笑)。
──(笑)。
カビラ氏:
パス、シュート、ロブ、これはわかります。選手名もわかりますが、独特のカタカナの発音で「ガブリエル・バティストゥータです!」、「そう! それ!」というのも伝わる(笑)。どんな方にどんな風に琴線に触れるのかっていうのは、僕らでは計り知れないことなんですよね
KONAMIさんにうかがったところ、日本語版でプレイしている方はもちろん日本人がいちばん多いんですけど、そのつぎにアラブ圏やブラジル、東南アジアで遊ばれていたと。また、英語圏でも一定数いらっしゃるということで、これはもう『eFootball™︎』ワールドツアーをやったほうがいいのではないかと(笑)。
──選手名の話題で思ったのですが、さきほど収録現場を見学させていただいたときに、選手名をふつうの感情で言うときもあれば、テンションが違うパターンも複数収録されていましたが、何パターンくらい録られているのですか?
カビラ氏:
選手名に加えて、選手名のあとにつながるコメントのバリエーションもありますが、多い選手だと20パターンくらいですね。
──20パターン! それをすべて演じ分けられてるのもびっくりです。
カビラ氏:
鍛えられてますからね。ありがとうございます
KONAMIサウンドチーム:
ゴールから近いところではテンション高く、ゴールから遠いときはふつうのテンションと使い分けています。テンションの使い分けに関してはカビラさんのチューニングがすごくて、「このテンションでお願いします」とお伝えするとズバッと言ってくださるんです。
カビラ氏:
長年の蓄積で積み上がったものですね(笑)。
──解説との掛け合いについては、映像と音声を流しながら別録りで、という形でやっていらっしゃるんですよね?
カビラ氏:
じつはいっしょに収録したこともあります。ただ、なかなかスケジュールのすり合わせが難しいですからね。
KONAMIサウンドチーム:
いっしょに録ったときは、台本をきっちり決めず、自由にやっていただくこともありました。「このフォーメーションについて好きにしゃべってください」ですとか、「このレジェンド選手について自由にしゃべってください」ですとか。
カビラ氏:
解説の方は原稿や台本を読むようなお仕事ではありませんから、自然体で話すほうがいい内容になったりするんですよ。
──サウンドチームとして印象に残ってるエピソードがあればぜひお聞かせください。
KONAMIサウンドチーム:
僕は10代のころに『eFootball™︎』シリーズをプレイし始めて、ユーザーとして30年間ずっとプレイしてきたので、先ほどカビラさんがおっしゃった10代の子供がおじさんになっていくというのを体現しているんですね(笑)。
自分の子どもといっしょに遊んでいて思ったのが、『eFootball™︎』で選手を覚えるんですよね。私も子どものころにそうだったのですが、「この選手はこういう特徴がある」とか「こういうプレイが得意なんだ」といったことを含めて、『eFootball™︎』でサッカーを覚えていく感覚があります。「シェフチェンコって”ウクライナの矢”と呼ばれているんだな」とか(笑)。
『eFootball™︎』にはレジェンド選手が登場することも特徴のひとつですが、若い人たちに「この選手はこんなすごかったんだよ」ということをカビラさんのお言葉を借りながら伝えていきたいという気持ちがありますね。
──ちなみに、収録台本はサウンドチームで作られているのですか?
KONAMIサウンドチーム:
サウンドチームが作っています。台本の作成と収録のディレクションは私です。ほかに実装を担当するプログラマや音声を編集するサウンドスタッフなどがいます。
──台本も作り、収録も担当し、というのはかなりプレッシャーがありますよね。
KONAMIサウンドチーム:
ただ、これまでの『eFootball™︎』の30年の歴史と蓄積がありますので、秘伝のタレじゃないですけども、「これは言ってもいい」、「これはちょっとダメ」というバランスや判断がしっかりとできていますので、困ることはありませんね。カビラさんに言ってほしいことを好き勝手に書いていますから(笑)。「カビラさんにこういう気持ちで、こういう声で言ってほしい」というのが大事な部分なのかもしれません。
カビラ氏:
それは伝わっています。
KONAMIサウンドチーム:
台本を書いているときには、「カビラさんだったらこう言っているだろうな」と脳内再生されています。サッカー中継を見ていても『eFootball™︎』の仕様で考えるんですよね。「選手が入場して、キックオフとなり、サイドにボールが渡って、クロスが上がって」っていうのがすべて『eFootball™︎』の仕様で再現されるんです。その中で「カビラさんが言う、言わない」の取捨選択をしています。
カビラ氏:
僕も中継を見ながら、「これは僕なら言わない」とか、「僕ならこういう表現にする」という見方をしますから、同じ目線ですね。
──『eFootball™︎』では、いわゆるふつうの実況ではあまり言われないようなフレーズも印象に残っていますが、どのように生まれたのでしょう?
カビラ氏:
それは僕かもしれませんね。「むぅうううっ!」とか(笑)。
──慈英さんがよく言われている「むむっ」、「くぅー」、「いいんです」というフレーズも、じつは発祥はカビラさんなんですよね。
カビラ氏:
ただね、その辺りは飛び道具なのであまり安易に使っちゃいけないかなと(笑)。
──(笑)。とにかく実況はいろんなバリエーションがありますよね。
カビラ氏:
ゲームをプレイしていると、いろいろな局面でさまざまな発見があると思いますので、皆さんぜひやり込んでください。
──「え? そんなフレーズあるの?」というレアな実況もありますよね?
KONAMIサウンドチーム:
聞いたことがない実況もあると思います。特定の攻め方が好きな方だと、別パターンのフレーズはなかなか聞けないでしょうし、プレイヤーのスタイルによって流れてくる実況のフレーズは異なりますので。
カビラ氏:
あなたのプレイでカビラの声が変わる、っていうね。
──プレイ人口が多いタイトルですので、見つかっていない実況はない……ですよね?
KONAMIサウンドチーム:
おそらくないと思いますが……。レアな実況で言うと、「この選手が100試合出場しました」、「200試合出場しました」とか、「100ゴール達成しました」、「200ゴール達成しました」というのもあるんですよ。こういった節目系のセリフがありますので、それは何百試合とプレイされた方じゃないと聞けないものですね。
カビラ氏:
先ほどお話したとおり、『eFootball™︎』の大会で世界中の方がプレイしているわけですから、すべての実況を聞いていただいていると思います。
──公式で「いちばん印象に残っているカビラさんの実況を教えてください」といったアンケート企画をぜひ実施してほしいです(笑)。
カビラ氏:
聞きたいような聞きたくないような(笑)。ポジティブな実況もあれば、若干ネガティブ寄りの実況もありますからね。
KONAMIサウンドチーム:
初期の『ウイニングイレブン』は、わりと厳しめなフレーズもあったんですよね。現在の『eFootball™︎』では、ユーザーに寄り添うスタイルになっています。うれしいときにいっしょによろこんで、残念なことはいっしょに残念がってくれるような実況ですね。
カビラ氏:
昔は厳しかったですね。「おーい、勘弁してくれよ」というフレーズはかなり前の話です(笑)。
KONAMIサウンドチーム:
30年続いてますので、実況のデザインも変わり続けています。私が入社する前はもう少しお茶目な実況だったイメージです。
カビラ氏:
よりリアルのサッカーに近いものになってきていますね。それはプラットフォームの性能が上がっていることも関係していると思います。初期のころは表現に制限がありましたからフィクション、エンタメ寄りだった。いまは選手の髭の細部まで判別できるくらいリアルな表現が可能となっていますからね。プラットフォームの進化とともにリアルとなり、映像もサウンドも進化する以上、実況も進化すると。
KONAMIサウンドチーム:
ただ、『eFootball™︎』ならではの実況をなくしてしまうのも違うと思っています。それはカビラさんのいちばんいいところでもあるので、変化はしつつも根本的に大事なところは忘れないように心がけています。
──カビラさんが実況を担当し、実際にゲームになったところを初めてご覧になったときに、どのような手応えを感じたのでしょうか?
カビラ氏:
正直にお伝えすると、最初は「やはりコンピューターゲームだよね」という感想でした。いまと比べると画質は荒いですし、動きもリアルと比べるとまだまだ滑らかとは言えなかった。声が入っているし、自由に選手が動かせるのはすごいなと感じつつも、実際の試合映像やほかのエンタメと比べてしまうところはありました。それが30年で……本当にすごいところまで来ましたね。
──カビラさんはいちばん近くで『eFootball™︎』の歴史、そして進化を見てこられたわけですが、どのように感じていらっしゃいますか?
カビラ氏:
制作チームのたゆまぬ努力がすごいですね。サウンドチームの皆さんもそうですし、デザイン、アルゴリズム、ユーザーインターフェースを高めていくというところに関しては、言葉がありません。「サッカーゲームの魅力を世界に感じてもらおう」という思いの強さは不変ですね。
そして、テクノロジーの進化、技術の進化で、ここまで来ているというのは驚きしかないです。ゲームの大会に4000万人近くの方が参加するというのは、たいへんなことだと思うんですよ。ゲームに対してさまざまな意見が出てくるのは、それだけ多くの方の熱量があり、期待の高さがあるからこそですからね。
ここまで人間の心を喚起できるものというのは、ほかにはないんじゃないですか。エンターテインメントとしてもナンバーワンですからね。ビデオゲームはもう皆さんの生活の一部になっているので、課せられるものは大きいのかなと。そういった自覚を抱くとともに、今回のようなインタビューで気持ちを新たにさせていただけるのはありがたいです。
──40年、50年と、ぜひギネス記録をご自身で更新されることを期待しています。
カビラ氏:
50年! 50年って、米寿手前ですよ(笑)。ただ、僕の父が98歳でまだ元気ですから、皆さんの求めがあり、体が続き、声が続く限りは。これぞライフワークですので、ぜひともお付き合い、よろしくお願いします。
──それでは最後に、『eFootball™︎』シリーズを愛してやまないファンの方たちへカビラさんからメッセージをお願いします。
カビラ氏:
日ごろから激しく楽しく、『eFootball™︎』が提供するそのピッチのうえでサッカーをプレイしていただいている皆さん、本当にありがとうございます。今後もさらに進化して、「皆様の眠る時間と働く時間とのバランスをつねに危うくするゲーム」として『eFootball™︎』は存在し続けたいと思っています(笑)。引き続きプレイ、そして応援をよろしくお願いします!






