『キングダム』に登場する武将達にみるリーダー像
──以前、シブサワさんは別のインタビューで「戦国武将は経営者と似ている」とおっしゃっていました。『キングダム』には多くの個性的な将軍が登場しますが、経営者(リーダー)の視点で共感するキャラクターはいますか?
シブサワ氏:
個人的には、王翦(おうせん)にはシンパシーを感じますね。
原氏:
おお、王翦ですか。それはどのあたりに共感されたんですか?
シブサワ氏:
いやぁ、作中で、王翦と息子である王賁(おうほん)とのエピソードがあるじゃないですか。息子である王賁に対しても、甘やかさずに「結果を出さなければ認めない」という態度を貫く。あれは親子の情がないわけではなく、組織の長としての「厳しさ」の表れだと感じていて。
あれを読んだときにですね。ああ、私と一緒だ! と思ったんです。つまり、親目線で言うと、「見てないようで、ちゃんと見てる」というか。
原氏:
あー、そういうことですか。なるほど。
シブサワ氏:
非常に共感しますし、理にかなっています。
ビジネスの世界も戦国の世と同じで、結果を出さなければ組織は生き残れません。
情に流されて能力のない者を高い地位につければ、組織全体が崩壊し、結局は多くの従業員(兵士)を路頭に迷わせることになる。「実力者が上に上がるべきだ」という鉄則は、いつの時代も変わらないんですね。
──武将の話で言うと、キングダムを代表する武将といえば、やっぱり王騎(おうき)があげられると思うんですけど、彼の魅力やリーダーシップって、ものすごく独特じゃないですか。あの魅力ってなんだと思われますか?
原氏:
王騎って、あくまで“現場のリーダー”ではあると思うんです。政のような、“経営者”ではない。
──でも作中では、秦王である政より“大きく見える”描かれ方も多かったじゃないですか。
原氏:
それはたぶん、目線が違うからだと思うんですよね。
王騎って、現場のリーダーでありながら、目線は国王と同じかそれ以上なんですよ。秦という国どころか、中華全体を見通してるところがあって。
シブサワ氏:
そうなんですよね。だから、例えば政が「中華統一だ!」みたいな無茶を言うんだけど、
王騎はその意図なり意味を全部“分かってる”んですよ。
彼のすごさは、今のポジションのひとつふたつ上の視座を持っているところです。彼は単なる将軍ではなく、常に「国家」や「天下」という大きな枠組みを、物事を俯瞰で考えている。
ビジネスにしても、係長なら課長の、部長なら社長の視点で物事を考えられる人が伸びていきますよね。視座を高めることは、成長への一番の近道でもあるんです。
生涯現役ゲーマーとしてのシブサワ・コウのすごみ
──話題を少し「現在」に戻しましょう。シブサワさんは御年75歳を超えられてなお、現役のハードコアゲーマーとして知られています。最近はどんなゲームを遊ばれているんですか?
シブサワ氏:
んー、最近ですか? 最近だと『Ghost of Yōtei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)』はかなりやり込みましたね。前作の『ツシマ』も素晴らしかったですが、今作も風景の美しさと、探索の没入感が素晴らしい。だいたい100時間くらいは遊んだかな。
あとは、フランスのスタジオが作ったRPG『Clair Obscur: Expedition 33』。あれも斬新なターン制バトルで、刺激を受けました。あ、集英社さんと言えば、『都市伝説解体センター』も遊びましたね。
原氏:
ええっ!? そんな最新の大型タイトルまでチェックされているんですか? 会長業もおありなのに、いつ遊んでるんですか?
シブサワ氏:
朝起きて2~3時間、夜寝る前にも2時間。だいたい1日5時間は確保していますね(笑)。ゲームは私の人生そのものですから、遊ばないと調子が出ないんですよ。
ただ、なんかこれを言うと宣伝っぽくなっちゃうんですけれど、最近一番ハマっているのは、実はスマホゲームの『キングダム 覇道』なんです。
原氏:
いやぁ、嬉しいですね。ありがとうございます!
シブサワ氏:
実は私、アカウントを2つ持っていましてね。1つは、いわゆる「廃課金」アカウント。最強クラスの軍団に所属して、サーバーのトップ争いをガチでやっています。
もう1つは、無課金で遊ぶアカウント。こちらは別のサーバーで、コツコツと育成を楽しんでいる。この2つの視点で遊ぶと、ゲームバランスの妙が見えてきて面白いんですよ。
一同:(驚愕)
──まさか、ゲーム内で一緒に城攻めをしている仲間の中に、シブサワ・コウ本人が混じっているとは、夢にも思わないでしょうね……。
シブサワ氏:
正体は絶対に明かしませんけどね(笑)。
『キングダム 覇道』を遊んでいて思うのは、原先生の描く「将軍」の気持ちがよく分かるということです。
城を攻めるタイミング、兵糧の管理、同盟国との連携。これらが上手くいった時の快感は、まさに王騎将軍が矛を振るう時の高揚感と同じなんじゃないかと。
原氏:
うわぁ、その感覚、とてもよく分かります。
『キングダム 覇道』については、僕も中堅くらいのグループで軍団長として遊んでいるんですけど、漫画へのフィードバックがあるんですよ。
特にシミュレーションゲームを遊ぶと、「準備」の重要さに気付かされる。
兵站(ロジスティクス)がいかに大事か。仲間との城攻め前の作戦立案など戦う前の根回しがいかに戦局を左右するか。
『キングダム』でも、鄴(ギョウ)攻めの編で兵糧問題を扱いましたが、ゲームを遊んでいるともっと深く、「貿易」や「経済」の話も描きたくなってくるんです。呂不韋と政の対決も経済論争でしたが、ああいう「戦わない戦い」の面白さは、ゲームを遊んでいると、すごく感じるんですよね。
シブサワ氏:
それはぜひ読みたいですね! 歴史というのは、戦争だけで動いているわけではありません。経済、文化、そして人々の生活。それらが複雑に絡み合って動いている。ゲームでも漫画でも、その「奥行き」を描けるかどうかが、作品の質を分ける気がします。
長く続けるということ
──『キングダム』は20周年、シブサワ・コウとしての活動は45周年。ひとつのことをこれだけ長く続けられる秘訣は何でしょうか?
シブサワ氏:
んー、「長く続いちゃった」というのが正直なところですね(笑)。
最初から45年やるぞ! なんて思っていなかった。「面白いゲームを作りたい」「もっとすごい技術を使いたい」と目の前のことに夢中になっていたら、いつの間にか時間が経っていた。
1981年に『川中島の合戦』というゲームを出して以来、ずっと走り続けてきましたが、ゲーム業界自体、この45年ですごく大きくなりまして、今や世界で市場規模31兆円とも言われる一大産業です。
でも不思議なもので、私自身は「面白いゲームを作りたい」「ゲームで遊ぶのが楽しい」という原点の気持ちは当時と何も変わっていないんですよ。ゲームを遊ぶのも未だに大好きですし、好きなことを仕事にしていたら気づいたら45年経っていた……というのが正直なところです。
──初心に返ることはありますか?
シブサワ氏:
私にとっての初心とは、「ゲームが好きだ」という単純な気持ちです。
社員が3000人になり、株主が3万人になり、背負う責任、使命感は巨大になりました。でも、ゲーム好きという初心は変わりません。
エンターテインメントに触れてエネルギーをもらう。それが私の健康法であり、経営の原動力ですね。
原氏:
僕も同じ感覚ですね。
本当に、連載がこんなに長く続くとは思っていなかったですよ。始める前は「10年ぐらいで完結できたら」なんて考えていたんですが、気づけばもう20年です。
正直、20周年という実感がまるでないといいますか、「あ、祝われてるんだ」程度の感覚で、相変わらず目の前の原稿に脇目も振らず向き合う毎日です。
実は、連載開始から1年ぐらいはアンケート順位が低迷していて、打ち切り候補になったこともあったんですよ(苦笑)。本当に首の皮一枚つながった状態で、生き延びてきた作品なんです。だからこそ絵に対する意識、最低ラインはだんだん高くなっていますね。
──へえ、打ち切りの危機もあったんですね。今の国民的人気からすると、考えられないですね。
原氏:
テレビで芸人さんたちが『キングダム』について語る番組が放映され、それまで読んだことはないけど『キングダム』を知った、という人がたくさん出てきた時に人気が出てきたなと感触を得ました。
──原先生にとっての、長く続ける秘訣のようなものはありますか?
原氏:
んー、変化を恐れないことでしょうか。初心は変わらず持ち続け、そこに肉付けしていくような形です。
『キングダム』は歴史が題材だけど、今の人に向けて現代物の意識で描いています。
世界情勢だったり、読者の周りに漂っている気配だったりを作品に落とし込んで描いて、記憶に残るものとして数字を出していきたいですね。
──最後におふたりの「今後の野望」をお聞かせください。
シブサワ氏:
私はもう、現場の開発は若い人たちに任せて、エグゼクティブ・プロデューサーとして口だけ出す立場ですが(笑)。
やはり、コーエーテクモという会社を、世界一のエンターテインメント企業にしたいですね。そして個人的には、この世とお別れするまでゲームを遊び続けたい。あと、『キングダム』の結末を見届けるまでは死ねませんから、原先生、健康には気を付けて頑張ってくださいね。
原氏:
頑張ります!
僕の野望は、とにかく『キングダム』をしっかりと面白い形で描き切ること。これに尽きます。
あと5国、滅ぼさなければなりません。中華統一という結末は決まっていますが、そこに至る景色がどうなるのか、僕自身もまだ見ていないんです。それを読者の皆さんと一緒に目撃したい。
そして連載が終わったら……シブサワさんみたいに、1年くらいゲーム漬けの生活を送りたいですね(笑)。
──どうもありがとうございました!(了)
今回の対談では、おふたりの「創作の源泉」を垣間見ることができたように思う。
『信長の野望』『三國志』において、初期の頃は自ら武将の能力値を設定していたというシブサワ氏。「呂布は当然100として、関羽は98か97か。張飛との差はどうするか……」。そんな「1の差」に武将への想いを込め、数値に人格を宿らせるという発明は、『キングダム』のおまけページにも受け継がれていた。
一方の『キングダム』は、作者の原氏が「まったく設計通りに進んでいない」と苦笑するほど、キャラクターたちが自由自在に躍動するライブ感が魅力だ。構想では死ぬはずだった糸凌を最後の最後で「生かしたい」と感じたり、人気キャラクターの王騎が想定以上に強くなって倒すのが大変になったり……。原氏は、キャラクターが作者の予想を超えていく制作の裏側を生き生きと語ってくれた。
中でも印象的だったのは、歴史を描く醍醐味としておふたりが揃って口にした、史料には残らない「余白」の面白さだ。
『キングダム』における「函谷関の戦い」は、史書にある「不抜(抜けなかった)」というたった1行の記述から想像を膨らませ、壮大な人間ドラマを生み出した。まさに、歴史という広大な遊び場を存分に活用している証左と言えるだろう。
対談の中で提示された「歴史の『結果』は決まっていても、『過程』には無限の可能性がある」という言葉。これは作り手側のロマンであると同時に、彼らの作品を通して歴史に触れる我々にとっても、深く納得できる面白さの本質に違いない。
冒頭でも触れた通り、2026年は両氏にとって大きな節目となるアニバーサリーイヤーだ。
45年と20年という長きにわたる歩みを振り返り、「最初から長く続けるつもりはなかった」と口を揃えた両氏。その言葉の裏には、日々繰り返される果てしない戦いの軌跡がある。
「面白いゲームを作りたい」という一心で走り続けてきたシブサワ氏と、「首の皮一枚つながった状態で生き延びてきた」と連載初期の苦労を明かした原氏。第一線で作品を作り続けるプレッシャーや葛藤は計り知れないが、朗らかな表情で過去を振り返るおふたりの姿には、確かな“歴史の重み”が宿っていた。
歴史のロマンに魅せられ、純粋にエンターテインメントを愛し続けること。その真っすぐな情熱を持ち続けることこそが、長く愛される作品を生み出す最大の秘訣なのだろう。
「コーエーテクモという会社を、世界一のエンターテインメント企業にしたい」
「とにかく『キングダム』をしっかりと面白い形で描き切る」
群雄割拠のエンタメ界を最前線で戦い続ける、おふたりのこれからの歩みにさらなる期待が高まる。





