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ビデオゲームの物語が東野圭吾の小説に勝つためには?──100種類のエンディングがある異例のADV『ハンドレッドライン』は何を目指し、何を成し遂げたかったのか?【小高氏&稲生氏インタビュー】

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「ルーツがはっきりとわかっちゃうと底が知れてしまう」語り過ぎないからこそ、トリックスターの魅力は光る

──本作には15人のキャラクターが登場しますが、個々の役割も含めたうえでキャラを考えていくのですか?

小高氏:
360度、いろいろな側面から考えています。たとえば、『ハンドレッドライン』の場合はバトル時の性能という面もあるわけです。銀崎は虐められっ子で自虐が多いから「ロボットに乗せてかっこよくしよう」とか。15人のバラバラさ加減、15人として見たときのまとまり、そしてひとりずつのキャラの掘り下げ。さまざまな面から考えてキャラを生み出しています。

うちのスタッフたちも最初は驚いていたんですが、シナリオを書くときもキャラシートは作らないんです。「書いたもの、書いてあるものがすべて」と定めて、ほかのライターたちにも書いてもらっています。ただ、「こういうエピソードがあるんだったら、こういうバックボーンを追加しよう」といったことも多々出てくるので、そこから変えちゃうことも少なくはないんですが。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_010

──小高さんは、海外メディアからの取材を受けた際、「トリックスター的な存在が物語にドラマや軋轢を生み出す」と語られていました。本作の蒼月衛人のように、トリックスターを生み出すにあたり、どのような個性を重視しているのでしょうか?

小高氏:
キャラクターのバックボーンがわかりすぎないほうが怖いと思っています。『ダークナイト』のジョーカーが「何でこの化粧をしているのか」っていうのが毎回変わっているような不気味さ。さっきはこう言ったのに、つぎは違うことを言う。「何が本当かわからないのが怖い」と思っているんです。

『ダンガンロンパ』で言うと江ノ島盾子。「何であんな性格になっているのか」という説明はしませんし、ゲーム中に少しだけ垣間見えたとしても、それが本当かどうかはわからない。王馬小吉も同様ですね。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_011
(画像は『ダンガンロンパ1&2 Reload』公式サイトより)

ただ、本作の蒼月は「こういうことがあって」というバックボーンをはっきりと言っているので、これまでのトリックスターと同じ作り方はしていません。気をつけているのは、彼らの中に正義があるというか、「これがポリシーだ」、「これが考えかたの軸だ」みたいなところを絶対にブレないようにする。「彼らが本気でそう思っている」というところはとても重視しています。

そこがブレていると、かき回されたときに変な気持ちになるというか、「何にかき回されてるんだろう?」となる。「何でそんな信念を持ってるんだろう?」、「でもあいつの中では、確かにそれを信じ込んでいるんだな」というほうが怖いんですよね。

ある意味、ちょっとカルト的な何かにハマっている人というか、何を言っても話が通じない人のほうが怖いので、そういうところは大事にはしています。フィクションが強すぎちゃうと怖さがなくなってしまいますが、とはいえルーツがはっきりとわかっちゃうと底が知れてしまうんですね。

──ちなみに、とくに手応えを感じたキャラクターを挙げるとすると?

小高氏:
個人的に思い入れがあるのは、過去作品になりますが『ダンガンロンパV3』の王馬小吉ですかね。王馬は「本当なのか嘘なのかよくわからない」ことを言っているのですが、『ダンガンロンパV3』が「嘘」をテーマとしていたからこそ生み出せたキャラクターでした。

同じく蒼月も『ハンドレッドライン』でなければ入れられなかったキャラクターです。人間嫌いな人って『ダンガンロンパ』にいたら終わってしまうというか、ルールを無視して全員皆殺しにしてお話が終わっちゃうから入れられないんです。ゲームシステムやゲームのテーマに絡んだうえでトリックスターができるキャラクターは印象深く残りますね。

発売日発表の2日前に「3か月の発売延期」を決定。クリエイティブのためなら年度を越すことも辞さない執念が高めた完成度

──開発時、アニプレックスさんから『ハンドレッドライン』のキャラクターに対して要望はあったのですか?

稲生氏:
こちらからは何もお願いはしていません。クリエイティブの部分は小高さんを信じて、すべてお任せしています。「これは誰かに怒られるかも」といったファクトチェック的なときにだけ、「ここだけ少し変えていいですか?」というご相談をさせていただきました。そこに我々の意思を介在させてということはなく、予算に関係した相談や「追加してでもよくしましょう」といったお話をするぐらいでしたね。

──『ハンドレッドライン』は、トゥーキョーゲームスとアニプレックスさんとの取り組みがガチッとハマったからこそ生み出せたタイトルという印象があります。

小高氏:
アニプレさんとじゃなければ、できていなかったかもしれませんね。かかるお金とクリエイティブをどこまで伸ばすかという意味でもドンピシャなところでできたなと。……そういえば発売日発表の……2日前でしたっけ?

稲生氏:
2日前ですね(笑)。

──ん? なんの話ですか?

小高氏:
発表の2日前に発売日を延期しようという話が出たんです(笑)。初報時は「2025年初頭」発売予定だったのですが、そのつぎの発表で「1月X日発売」とアナウンスする予定だったんですね。そのアナウンス2日前に「発売日を伸ばそう」と(笑)。

よくはないですが、足りないところは「デイワンパッチでぶち込むか」みたいな対応もいまだったらできますよね。でも、やはりちゃんと作り込みたかったんです。発表の2日前に発売日延期の決定をしたんでしたっけ?

稲生氏:
そうですね。1月発売予定を4月に変更しました。夜中に小高さんと電話して、「明後日発表ですけど、3ヵ月延期していいですか」って。

小高氏:
結果として、その判断をして大正解でした。

──アニプレックス側からのお願いだったのですか?

稲生氏:
僕が「本当のところを教えてください」といろいろなところに電話をしたんですね。僕から連絡すると皆さん「がんばります! できます!」とおっしゃるんですが、声のトーンなどからいろいろと察しまして……。3月は期末ですから、会社としては当然「予定どおり期内で出してほしい」という話が出てくるわけですが、それはクリエイティブには関係ないと判断しました。

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──会社員でその判断ができて、かつ社内の承認を得られる人は、なかなかいないと思います。

小高氏:
僕もほかのいろいろな会社さんとお話して、「デイワンパッチでぶち込むしかないかな」となかば諦めていたのですが、稲生さんがそう言ってくれて。……まあ、発売日を伸ばしてもけっきょくデイワンパッチはあてたのですが(笑)。

ただ、同じデイワンパッチでも、ある程度万全の状態で出さないとダメなんですね。「なんとかいけるかもしれない」というデイワンパッチでうまくいった試しはないというか。

稲生氏:
延期した3ヵ月があったおかげで、バトルを作り直すことができました。また、本作の難易度はバトル体験を楽しめる「HUNDRED LINE」と、物語をフォーカスして楽しむ「SAFETY」の2種類があるのですが、この「SAFETY」を入れたのも延期した3ヵ月のあいだです。

──さらっとすごいことをおっしゃいましたね(笑)。

小高氏:
「やりたかったけど間に合わないから削るしかない」と思っていたところが入れられたんですね。発売が3ヵ月伸びたから足せたのではなくて、もともと入れる予定だったものが入れられたといいますか。

稲生氏:
「関わった以上はよくしたい」という思いを優先して動いたので、結果的に事後の社内報告になってしまったのですが、さすがに青ざめましたね(笑)。でも「小高さんには延期すると言っちゃったし発売日を延ばそう」と決めて……。

宣伝チームにも「ごめん延期になったから、いろいろなところを調整して」と連絡し、各メディアさんにも改めて連絡をし直してもらいました。

──発売を延期するというのは制作費の問題もありますし、いまは明るくお話されていますけど本当にいろいろあったのだと察します。

小高氏:
そのタイミングでトゥーキョーゲームスの借金は決まっていたので、さらに発売日が延びると……という問題はたしかにありました。『ハンドレッドライン』はアニプレックスさんとの共同制作・出資なので。

正直にいえば、一瞬、迷いはありましたが「迷うべきところじゃない」と考えて「ええいっ!」と(笑)。細かく考えないようにしましたね。発売まで行けばなんとかなるって。

実際、1月に発売していたら、お客さんの反響も違ったものになっていたでしょうし、アワードの賞も獲れていないでしょうし、売上ももっと低かったかもしれない。

発売日を発表してからの延期のほうがダメージは大きいですし、いま振り返ると本当によかったと思っています。発売日決定は運命の分かれ道なんだなと思いました。

国内外で高い評価を受ける『ハンドレッドライン』。小高氏自身も「客観的に見て2025年に発売されたゲームのベスト5に入る」

──アメリカ ローリングストーン誌の”2025のベストゲーム”で7位に入っていたり、日本ゲーム大賞優秀賞を獲得するなど、賞レースでも評価を得ています。ユーザーはもちろん、メディアから評価されたことに関しての感想はいかがですか?

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(画像は【公式】HUNDRED LINE -最終防衛学園-(ハンドレッドライン)@hundred_line公式Xより)

小高氏:
僕は去年、話題になったゲームはほぼすべてプレイしています。その僕が客観的に見て『ハンドレッドライン』は確実に2025年に発売されたゲームの中でベスト5に入っていると思っています。
ほかのゲームと僕が比べるのはどうかなのかとも思いますけど、自分の評価ではベスト5には入っているタイトル。そういう意味では、『ハンドレッドライン』に賞を贈ってくれた方々は「ちゃんとゲームをプレイしているんだな」と(笑)。

──(笑)。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_014
(画像はRollingStone公式サイトより)

小高氏:
逆に『ハンドレッドライン』を選ばなかったアワードは、ゲームをプレイしていないのかな、と(笑)。「あ、このアワードはゲームを遊んでいないんだな」というのがわかりましたね。

──(爆笑)。

小高氏:
だからユーザー投票で選ばれた賞は本当にうれしかったです。

稲生氏:
ユーザー投票はソーシャルメディアの声が大きくなっている影響がありますよね。透明性が出てきたというか、世論が見えるというか。

小高氏:
でもユーザー投票って難しいんですよね。まだタイトルに気づいていない人もいるわけで。熱心なファンがいればいいのか、ということでもないといいますか。

──ローリングストーン誌はアメリカのメディアじゃないですか。ローカライズされているとはいえ、オリジナルは日本語のテキストアドベンチャーが、アメリカで評価されるというのは意義あることだと思うんです。

小高誌:
『ハンドレッドライン』に限らずですが、日本のゲームって欧米ではなかなか伝わらないケースが多いんですよね。とくに僕らが作るゲームはどちらかというとアニメ・マンガ寄りの表現ですし、ゴリゴリのコアゲーマーからすると「いや、それはちょっと……」と避けられてしまうことがある。

アワードにノミネートすらされていないケースもありますから。そんな中で、こうやってしっかりと評価してくれる人たちがいるのはありがたいですね。

稲生氏:
欧米でいえば、『ハンドレッドライン』はNintendo SwitchとSteamのみの発売というのがビハインドだったのかなと感じています。欧米の反響は「プレイステーション5版は? Xbox版は?」と聞かれることが多いんですね。いまのところまだ届いていない層が一定数いるような感覚はあります。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。元ファミ通.com編集長。1990年代からゲームメディアに所属しており、これまで500人以上のゲーム開発者、業界関係者、著名人インタビューを手がける。1970年代後半からアーケード、PC、コンシューマーゲームにのめり込み、『ウィザードリィ』のワイヤーフレームで深淵を覗き、現在に至る。
Twitter:@Famitsu_Toyoda

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