衝撃と困惑をもたらした『ハンドレッドライン 1&2』の発表。「2周目から分岐する、という狂ったボリューム感を伝えたかった」
──話題を変えますが、『ハンドレッドライン2』の発表には本当に驚きました。「もともと『1&2』パックだったってどういうこと?」と驚かせる発想にビックリしたのですが、この仕掛けに関してお聞かせください。
小高氏:
先ほど話したように、いきなり物語が分岐しても感情移入がないわけです。感情移入がないから、当然ifストーリーの妄想もしませんし、できないわけです。プレイしていて「アイツいなくなっちゃったけど、いたほうがよかったな」と思わせるには、ある程度の思い入れが必要なので周回プレイできる形にしたんです。
そこで、どうせだったら『1』と『2』ぐらいのボリュームにしたらおもしろいんじゃないかと思って『1&2』になったと。ただ、制作中盤ぐらいのときに「これを作り切るのは、ものすごくたいへんだぞ」と若干冷静になりました(笑)。
「すぐに資金を回収したい」と日和って「プロローグのような形で安価に販売する」というパターンも一瞬だけ検討したのですが、それはやめました。
──紆余曲折あり、現在の形、現在のボリュームになったわけですね。
小高氏:
周回プレイが当たり前で、1周目が終わったら2周目が始まり、そこから分岐するという果てしなさが狂っているなと。その圧倒的なボリューム感がウリの部分ではあるけれど、プレイした人に驚きを感じてほしかったので、この点を宣伝できないのはもったいないと考えたんですね。
指摘いただいたように「どういうこと?」とよくわからなかったり、勘違いされるかもしれませんが、それでいいのかなと(笑)。勘違いする人は買っていない人だから、それならいいかなと思っていたんですけど、買った方も意外と勘違いしていたみたいで(笑)。
稲生氏:
友人から「『ハンドレッドライン』ってもう『2』が出るの?」と連絡が届いて、「もう出てるよ。やっただろお前」と返事をしました(笑)。
──(笑)。
小高氏:
話のネタになればいいし、嘘を言っているわけでもないので。まあ、炎上商法ですね(笑)。本当にヘイトが生まれるやつじゃないですし。
稲生氏:
困惑している人たち用に、ユーザーさんの有志がパワーポイントでわかりやすい説明資料を作っているのも拝見しました。
──自治が完璧ですね(笑)。公式からはネタばらしというか、具体的な説明はされないのですか?
稲生氏:
説明しすぎても……と思うところもありまして。
公式からお伝えしたいのは、『1&2』用の新たなメインビジュアルを小松崎さん描き下ろしで用意しました、ということですね。最初のメインビジュアルにはいなかったキャラクターで構成していただいていて、アニプレックスオンラインとAmazonで発売しています。
Nintendo Switchのパッケージ版としてスリーブ付きバージョンも用意したのですが、これが誤解を生んでいる根源かもしれません(笑)。ただ、とても素敵なビジュアルですのでぜひ手に取ってください。
また、アニプレックスオンラインでは『[新バンドル版(100×100円版)]』という商品もありまして、アクリルブロックと缶バッジがセットになっていますので、コレクターズアイテムとしてぜひご購入していただければ。
──でも混乱は一部だけで、いまはユーザーの反響も落ち着いていますよね?
稲生氏:
そうですね。ただ、この記事が出るとまた混乱を生むかもしれません(笑)。
──(笑)。では、そうならないように、何も知らない方に対して『1』&『2』を改めて説明していただけますか?
小高氏:
ものすごく簡単に言うと、『ハンドレッドライン』は『ハンドレッドライン1&2』という作品でした、ということです。もともと『ハンドレッドライン1』と『ハンドレッドライン2』が2本内包されていたものが1作品として発売されていた、ということですね。
映画を観にいって観終わったときに「じつは続編があります。このあと、このまま上映します」といったイメージといいますか。1枚のチケットで映画を観にいって映画1本だと思ったいたら、そのまま続編がすぐ流れるというか。
稲生氏:
エンドロールで終わったと思ったら、そこからもう1回続きます。しかも、これまでの枝分かれの物語が全部入っています、というものですね。
──なるほど、とてもわかりやすい説明をありがとうございます。小高さんには会うたびにお伝えしていますが、「100個のエンディングを作ろうと企画する」のと、「実際に100個のエンディングを作りました」はまったく違うことじゃないですか。実現するまでの難度がすさまじく高いわけで、作り切れたこと自体がすごいというか、狂気的だと思っているのですが、成し遂げた原動力には何があったのでしょうか?
小高氏:
商品的な話をすると、ライトに体験できるゲームがどんどん増えていくなかで、ライトでいい作品ができたとしても、それが売れるかはある程度、運頼みになっちゃうんですよ。ライトであるがゆえにお客さんに魅力を伝えることが難しかったり。運よく売れているものもあれば、おもしろいけど売れていないものもあるわけです。
特徴として、トガっているものがあったほうが新規IPとしては勝負しやすい。作り手としてはシンプルに「そんなこと、誰もやろうと思わない」とか、「それができたらすごい」といった、いたずら心みたいなものが原動力ですね。そのひとつが「100個エンドがあったらすごいだろうな」ということでした。
50とかだと中途半端じゃないですか。100という数字だとインパクトが生まれて、「前代未聞だな」という感じがする。いままでは基本的に僕の作品は自分でシナリオを書いていましたし、打越(打越鋼太郎)を筆頭にトゥーキョーゲームズにはほかにもライターがいるので、手分けをすることでそれぞれのカラーが出せるというよさもあります。もちろん、チームじゃなければできないボリュームの仕事でもありました。
打越と共作するにあたって、ふたりともシナリオを書くというのはこれまでなかったので、ふたりの作風が成立させられる形でもありましたからね。
──それは、「100個のエンドを見てくれる」というプレイヤーをある種、信用・信頼していたからこそ生み出せるものだったのでしょうか。
小高氏:
じつはそうは思っていないんです。100個のエンドをすべて見てほしいとも思っていないし、僕も「すべてのエンディングを見てください」とも言っていない。
僕が公言しているのは、オープンワールドのようにシナリオがどんどん広がっていくイメージ。たとえば、『デトロイト ビカム ヒューマン』は選択によって物語が分岐する内容ですが、あくまでも大きなシナリオの範囲内での分岐です。
目指したのはそこではなく、もっとぜんぜん違う展開になるような、無限に広がりがあるような作品を作りたかったんですね。プレイした方が「このエンドでいいかな」と思ったら、そこで『ハンドレッドライン』は終わり。それでいいんです。
ただ、ふと「あっちのルートをやってみようかな」とプレイしてみたら、予想していなかったまったく違う展開がある。購入してくれた人が、長い人生をかけて『ハンドレッドライン』と付き合ってくれたらいいな、という気持ちなんです。
アドベンチャーゲームはクリアしたら終わりと言われてしまうので、そうじゃなくて「終わらないアドベンチャーを作りたい」と思ったのがきっかけです。もちろん、真相解明編はプレイしてほしいとは思っていますが、そこに無理やり辿り着くようなガイドを用意することはしていません。真相解明編に辿り着かずに終わる人もいると思っています。
そういった意味では、打越はユーザーの熱意を信用しているのかもしれません。というのも、彼が書いたSF編はいろいろなルートを通らないと辿り着けないんです。そこを一生懸命作っていたので、ガッツリプレイしてくれる人がいることを想定していたのかなと。
──その考え方は「『ハンドレッドライン』を10年続くIPにしたい」ですとか、「ゲーム1本で終わらせるつもりはない」ですとか、そういった未来のビジョンがあったからこそなのでしょうか?
小高氏:
それもあと付けかもしれないですね。開発を終えた直後は「もうやりたくない」と思いましたし(笑)。なんだったら「もうゲーム作りはやりたくない」とまで思いましたから(笑)。
でも、作り終わったときに、いろいろな作家の個性が1本のゲームに入っている、強いポテンシャルがある作品だと改めて感じたんですね。そういう意味では、発売後に「もっと広げていきたい」という思いが出てきたんです。
制作中はとにかく「前代未聞のゲームにするぞ」ということだけを考えて作っていました。先のことを考えていたなら、もっと賢い作り方をしていたかもしれません。
舞台ではゲーム中にはない分岐も用意され、実に10公演が“別エンド”に。メディアミックスでも規格外なボリュームは据え置き
──「広がり」でいえば、アニプレックスさんと組んでいるタイトルですから、アニメ化は視野に入ってくるだろうなと勝手に思っていたのですが……。
稲生氏:
ありとあらゆるメディア展開を検討することは引き続きやっていきます。先日発表させていただいた、コミカライズと舞台化はその最初の1歩だと思っています。
『ハンドレッドライン』はいくらでも広げていける設計になっていますので、巨大なIPとして存在感を示していきたいですね。アニメ化ももちろんそうですし、とにかくいろいろな展開を考えて、ゲーム中にはなかったルートやエピソード、世界の秘密や物語をどんどん出していきたいです。
マンガを読んで舞台を観にいって「ゲームも気になったからやってみよう」と思ってくれたらいいなと。そういったつながりが生まれれば、アニメなのか実写なのかはわからないですが、映像化できる日がくるかもしれません。
『ハンドレッドライン』を巨大な存在にしていくべく、引き続き動いていきます。発売から1年でコミカライズと舞台化を展開できたことは、いい動き出しだと感じています。
──舞台映えしそうなので、楽しみにしています。
小高氏:
舞台がどうなるか、詳細はまだわからないですがアクションものを考えています。
稲生氏:
ゲーム中にはない分岐、エンドを新しく作りたいといままさに小高さんとお話しています。13公演のうち10公演が違うエンドになる予定です。
──え? また恐ろしいことを……。全部観ないといけないやつじゃないですか(笑)。
小高氏:
ぜひ、全公演を観てください(笑)。
──簡単に話されていますが、毎回違うということは、ゲネプロも10回やるわけですよね?
稲生氏:
場当たりは間違いなくするでしょうね。その回数分、役者さんは死んじゃうかも……。
小高さんから「全公演、違う話にしよう」というアイデアが出たんですよね。最初はみんなポカンとしてましたけど、でも『ハンドレッドライン』ってそういうことだよな、みたいな(笑)。
小高氏:
前人未到のイカれた「ふつうはやらないよ」みたいなことを考えてからのスタートになりますね(笑)。
──ふつうはやらないというか「それだけはやめてください」という内容ですよね(笑)。
稲生氏:
『ハンドレッドライン』はそういう無茶に果敢に挑戦していきたいですね。それだけでおもしろそうな気がしますから。
──でも、それっていまの時世に合ってると思うんですよね。SNSなどで感想を発信したときに、毎日違うことが流れてきたら「えっ」てなりますし、コミュニティの活動も活発になりますし。
小高氏:
「ほかと違うこと」というのは、エンタメに必要なところだと思っています。同じことをくり返してもしょうがないというか。『ハンドレッドライン』の場合はとくに顕著に、「ほかと違う」っていうところを追求しています。冷静になれば「そこが何の役に立っているんだ?」という意見もあるかもしれませんが、それが大事だと思うんです。
稲生氏:
僕自身、楽しみながら舞台の打ち合わせを進めています。皆さんにとってもおもしろい体験になると思いますので、楽しみにしていてください。




