いま読まれている記事

ビデオゲームの物語が東野圭吾の小説に勝つためには?──100種類のエンディングがある異例のADV『ハンドレッドライン』は何を目指し、何を成し遂げたかったのか?【小高氏&稲生氏インタビュー】

article-thumbnail-260427h

1

2

3

4

近年、アドベンチャーゲームの動向に目を向けると、『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』『都市伝説解体センター』のように、比較的短時間でサクッと遊べるタイトルが評価を得ているように感じる。

その真逆と言えるのが、トゥーキョーゲームスとアニプレックスが世に送り出した『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』(以下、『ハンドレッドライン』)ではないだろうか。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_001
(画像は『ハンドレッドライン』公式サイトより)

100日間×100ルートという狂気的なボリューム。バッドエンドがひとつもない前代未聞の100エンディング。テキスト量は脅威の600万字超え。

前述したように、近年評価されているタイトルとはまさに真逆な構造でありながら、Steamレビューでは「非常に好評」のステータスを獲得し、海外レビューサイトmetacriticでは平均スコア85/100を記録(記事執筆時点)。流行に乗らず評価を得ている『ハンドレッドライン』は、とても特異なタイトルであると言えるだろう。

作品と同じように、本作のディレクション&シナリオを務めたトゥーキョーゲームスの小高和剛氏も、一風変わった雰囲気を漂わせる人物である。

中国SNS最大手「微博(ウェイボー)」において、「2025年もっとも影響力があったインフルエンサー」に選ばれるなど、メディア露出の多い人物なのだが、取材時はどこか飄々としており、なかなか本心を話さないように感じるのだ。

だからこそ疑問が浮かぶ。『ハンドレッドライン』で小高氏が目指したものとはなんだったのだろうか? と。

その疑問に回答いただくべく、電ファミニコゲーマーは小高氏にインタビュー取材を打診。プロデューサーを務めるアニプレックスの稲生舜太郎氏にも同席いただき、発売からの1年を振り返っていただくとともに、『ハンドレッドライン』で「何を成し遂げたかったのか」を聞いた。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_002
写真右から小高和剛氏、稲生舜太郎氏。

取材・文/豊田恵吾
撮影/永山 亘


小高氏が中国でバズり、インフルエンサーとして受賞するなど『ハンドレッドライン』発売からの怒涛の1年を振り返る

──本日はよろしくお願いします。『ハンドレッドライン』発売から1周年となりましたが、振り返っての感想はいかがですか?

小高和剛氏(以下、小高氏):
イベントを行なったりいろいろなところに行ったりするうちに、あっという間に過ぎた1年でした。反響を気にするヒマもなくひたすらに走り続けたような感じです。トゥーキョーゲームスの中には反響を気にしていたり、SNSをチェックしているスタッフもいるので、そういったスタッフのほうが僕よりユーザーさんの反応には詳しいかもしれません。

──『ハンドレッドライン』は、発売日から持続的に盛り上がり続けていた印象があります。

小高氏:
エンディングの数が尋常じゃないので、長時間プレイしてくれたユーザーも多いと思います。また、評判を聞いて遅れてプレイしてくれる方もかなりいらっしゃいました。盛り上がりはやはり発売直後がピークになるように意識していましたが、継続して話題にしてくれているファンも多いと思います。

稲生舜太郎氏(以下、稲生氏):
僕も本当にあっという間の1年でした。リリースしてからプロモーションとして海外にも行ったりしましたが、売上の観点で言うとやはり初動がガッと動いて、以降は継続した販売戦略が必要だと感じています。アニプレックスとしてはとにかくライセンスをしっかり回していくとか、IPをどんどん広げていく方法が何かないというのを模索し続けた1年だったと思っています。

1年を通してさまざまなトライをしたり、考えて行動に移せたことはすごく幸せだったと思います。あとはお客さんがこちらの動きに対してリアクションをしっかりとしてくれたので、それもありがたかったと改めて感じています。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_003

──海外は何ヵ国ぐらい回られたのですか。

稲生氏:
中国の何都市かに行っています。小高さんが中国でバズっていたこともあって、各地からご招待をいただいたんですね。そこに僕もいっしょについていくという形もありました。

小高氏:
ラッキーでしたね。基本的に呼ばれて行っているので、あまりコストをかけずに宣伝できましたから。

──中国で小高さん人気がバズったタイミングは、『ハンドレッドライン』発売前でしたよね?

小高氏:
1年半ぐらい前のWePlayのタイミングでWeiboのアカウントを作って、年明けぐらいから急にガッと増え始めたという感じです。『ハンドレッドライン』発売前後に頻繁にSNSを更新したのですが、そのぐらいのタイミングで一気にバズりました。おかげさまで、夏ぐらいからいろいろなイベントに呼ばれるようになったんです。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_004
(画像はKazutaka kodaka/小高和剛@kazkodakaX公式アカウントより)

──中国のファンでとくに印象的だったリアクションや反響はありましたか?

小高氏:
大きく盛り上がるポイントは日本と同じでしたね。ただ、中国や北米の方のほうが積極的に声をかけてきたり、コスプレする方が多かったり、アクティブに楽しんでるな、という感じがありました。

稲生氏:
日本と海外のファンで大きな差はないと思っていますが、より積極的に発信してくれるのは海外のファンが多い印象はあります。あとは、クリエイターに対して積極的に近くに来てくれるのは中国のファンですね。

英語圏の方はゲームに対しての言及が多いような印象です。問い合わせやカスタマーサービスに届く内容を見ても、ゲームの中身に対しての意見ですとか、フィードバック、感想などを伝えてくれる方が多いです。

直接意見をぶつけてくるという意味では、日本のファンはおとなしめかなと思います。ただ、SNS上でのつぶやきやファンアートの投稿などを見ると、開発者に向けて何かリアクションを取るのではなく、自分たちの関係の中、友好関係のあいだでコミュニケーションを積極的に取っているという印象があります。SNSの楽しみ方、方向性の違いみたいなものがあるのかもしれないですね。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_005

──プロモーションはアニプレックスさんが手がけていますが、海外に向けて意識された施策はありますか?

稲生氏:
中国発のレッドノート(小紅書)というSNSがあるんですけど、去年の8月にレッドノート主催のイベントがあったのでそちらに出展しました。イベントはクリエイター軸になっていて、ファンと近い距離でトークセッションを行い、盛り上がることができました。

もちろん作品のプロモーションやキャラクターをプッシュする展示などもあるのですが、同じくらい重要なコンテンツとして「小高さんが来ます!」という点を推して(笑)。当日はとんでもなく暑かったんですけど、ものすごい人数が集まってくれたんです。

国内ではポストローンチとしてやれることがそこまで多くはなかったので、発売1周年を記念して実施した「1周年記念学生祭(クラスフェスティバル)」はかなり力を入れて企画しました。

小高氏:
発売後にクリエイターがいて、ユーザーをお呼びして、といったイベントって日本ではあまりないですよね。海外だとAnime ExpoやComic Con、JAPAN Expoなどのほか、僕らが行った中国のイベントもそうですけど、発売後にユーザーを集めて行うイベントが盛んです。

東京ゲームショウはショウケースだし、国内だとユーザーとの距離が近いイベントがないんですよね。海外のイベントに呼ばれて行くと、コスプレしてきてくれるユーザーがすごく多いのですが、国内だとクリエイター側がコスプレを見る機会もなくて。

「『ハンドレッドライン』のイベントがあるからみんなでコスプレして行こうぜ!」みたいな、そういった発売後のユーザーサービスとか、ファンサービス込みのイベントって日本国内だとやはり少ないなあと。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_006
(画像はKazutaka kodaka/小高和剛@kazkodakaX公式アカウントより)

稲生氏:
もう少しライトに発信したり交流したりできる場を、今後作れるタイミングがあればいいなと思っています。

一周目で感情移入させたキャラを、二周目で“切らせる”。キャラへの思い入れによって、離脱の選択もより味わい深く

──『ハンドレッドライン』は、推しキャラを作るとよりおもしろさが跳ね上がるという魅力を内包してるタイトルだと思うんです。キャラクターの受け取られ方について、どう感じていらっしゃいますか?

小高氏:
選択肢によって離脱するメンバーが変わったりするので、1周目でまずキャラに思い入れを付けさせて、2周目で「誰を切るか?」という選択をさせていくゲームシステムにしているんですね。ゲーム開始から10分ぐらいでいきなり「どのキャラを切りますか?」と言われてもあまり感情移入できないですから(笑)。ある程度プレイを続けてキャラクターに感情移入していただいたあとに、泣く泣く「誰を切るのか」と選ばせたいと思っていたタイトルだったので。

ですので、もちろん「私はこのキャラが好き」、「僕はこのキャラ」となるように意識して作っています。その中でやはり蒼月衛人がいちばん人気ですが、『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』で狛枝凪斗を書いていたときや『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』(以下、『ダンガンロンパV3』で王馬小吉を描いていたときと感覚としては近くて、「このキャラの人気が出ればいける」と思っていました。結果、蒼月はやはり人気が出たので、思った通りというか、よかったなと。

「意外と人気が出るかも……」と期待していた銀崎晶馬は、けっきょく期待ほど人気が出なかったり(笑)。ベスト5には入るけど1番には選ばない……みたいなことかもしれないですけどね。飴宮怠美は「特定の層から人気が出るだろうな」と予想していたらやはりそうなりましたし、意外性みたいなのはなかったんじゃないかな。思い通りになったという感じです。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_007

──SIREIはどうでしたか。

小高氏:
SIREIは役回り的に、真相解明編をやるとけっこうイヤな奴になるというか、みんなを戦争に駆り立ててる張本人ではありますからね。そういうところでヘイトは出るかなとは思っていました。モノクマ【※1】とか死に神ちゃん【※2】みたいなマスコット的なかわいさにはならないだろうなと。そこも思った通りというか狙い通りですね。

※1 モノクマ……『ダンガンロンパ』シリーズに登場する看板キャラクター。「コロシアイ生活」の首謀者。正中線を境に体の色が白黒に分かれたクマの形をした動くぬいぐるみ。

※2 死に神ちゃん……『超探偵事件簿 レインコード』に登場するキャラクター。普段は人魂の形で、女性の人型の姿にもなる。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_008

稲生氏:
僕も蒼月は人気が出そうだと思っていて……。ただ、当初は予想以上に人気が出たなと感じていました。主人公である澄野拓海が、それと同じくらいに人気が出るとは思っていなかったので、これはすごくいいなと。

主人公って意外と人気が出にくいんですよね。そんな中で、『ハンドレッドライン』では主人公がちゃんと人気になっているというのはすばらしいことだと感じています。

僕個人としては銀崎がけっこう好きで、いろいろなところで「銀崎が好きだ」と話をしているんです(笑)。かわいいし、おもしろいやつだとは思ってるんですけど、ちょっとムカつく顔をしているじゃないですか(笑)。腹が立たざるを得ないというか、逆にそこがかわいいんですけど。でも、登場キャラクターのラインナップを見て「ビジュアルで誰を選ぶか?」と言われたら、なかなか銀崎は選びにくいとも思いました(笑)。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏インタビュー:『ハンドレッドライン』で目指したものとは?_009

小高氏:
ただ、美男美女で全部揃えちゃうとそれはそれで違うゲームに見えちゃうところもあるのかなと。そういう意味でいうと、銀崎は特防隊というパッケージを担ううえで必要な人材ではあると思います。小松崎(小松崎類氏:『ハンドレッドライン』キャラクターデザイナー)っぽい感じではありますし。

稲生氏:
体格差もかなりありますよね。小高さんがすごいと思うのは、いろいろなルックスのキャラクターがいる中で、ゲームをプレイするとどのキャラもすごく好きになるということ。15人もいれば「こいつ嫌い」というキャラが出てきてもおかしくないのですが、「ここがいいんだよな、コイツは」と、それぞれの魅力が違う。バランスの取り方がとてもうまいんですよね。「ウザいけど嫌いにならないギリギリのライン」というバランス感覚が唯一無二だと思っています。

小高氏:
そこは意識して気をつけています。「そこまでやるとちょっとやりすぎ」という微妙な匙加減が自分の中にあるんです。『ダンガンロンパ』のときからそうですけど、嫌われないように作ろうという意識を持っています。それでもあえて「嫌われてもいいかな」と思ったときは、『ダンガンロンパV3』の入間美兎のように「あいつは嫌いにさせよう。それが個性になるはずだ」と振り切ったり。

──その考え方は、いままでに小高さんが触れてきたエンタメ作品などから、身につけていったものなのでしょうか? それともご自身のリアルの人間関係を参考にされているのでしょうか?

小高氏:
リアルはまったく参考にしていないですね(笑)。いちユーザーとして、いち読者としての意見や感じ方が大きいと思います。明らかに敵の立場のキャラクターであれば、嫌なやつを作っちゃえばいいんですけど、『ダンガンロンパ』も『ハンドレッドライン』も嫌なやつを作る理由がないといえばないんです。『ハンドレッドライン』の場合は、敵といえども「どちらが正義かわからない」というところもテーマのひとつとしていますからね。明らかな悪にはしたくないですし、嫌われないギリギリの線を守ろうと考えてキャラを作っていきました。

1

2

3

4

副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。元ファミ通.com編集長。1990年代からゲームメディアに所属しており、これまで500人以上のゲーム開発者、業界関係者、著名人インタビューを手がける。1970年代後半からアーケード、PC、コンシューマーゲームにのめり込み、『ウィザードリィ』のワイヤーフレームで深淵を覗き、現在に至る。
Twitter:@Famitsu_Toyoda

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ