2025年11月23日~24日、中国・上海にて「WePlay Expo 2025」が開催された。
WePlay Expoは現在、アジアで最も勢いのあるゲームイベントの一つとして急速に規模を拡大し、周辺機器や多彩なホビーカルチャーをも飲み込む「ゲームカルチャーのテーマパーク」へと進化を遂げている。
会場内を構成するのは、単なる新作の試遊にとどまらない多種多様な熱狂だ。中国国内のみならず日本や欧米、東南アジアから厳選されたタイトルが集結し、開発者と来場者が垣根なく対話する「アジアのインディーゲームのハブ」として機能する一方で、会場の約4分の1をキーボードなどの周辺機器が占めるなど、ハードウェアに対するファンの並外れた熱量も凄まじい。
さらにステージイベントや物販、リアル剣術体験まで、ゲームを取り巻くあらゆる「遊び」が渾然一体となってぎっしりと詰め込まれているのだ。
世界でも類を見ない、この「希有なバランス」を持つ巨大イベントの正体とは何なのか。現地で目撃した圧倒的な熱狂と、そのユニークなイベント設計をレポートする。
取材・文/kawasaki
インディー魂を持ちクリエイターを支援する「Indie Play」
WePlay Expoの原型は、中国インディーゲーム連盟(CiGA / China Indie Game Alliance)が、優秀なインディーゲームを表彰する式典「Indie Play」の一環として、2015年に開催したイベントに遡る。
その後、CiGAはゲーム開発者コミュニティの支援と育成を目的に、2017年にイベントをより大規模なWePlay Expoへと発展させ、毎年開催を続けている。このような出自であるため、WePlay Expoには開発者魂というか、インディー魂が隅々まで行き渡っているのだ。
さらに近年はSteamを代表とするゲームのグローバル化が急速に進み、イベントとしての規模も年々拡大している。いまやインディーゲーム開発者にとって登竜門といえる存在で、アジア地域のインディーゲームビジネスのハブの役割をも担っているのだ。
ここまで話した内容に限っていえば、日本におけるBitSummitに近い内容といえるだろう。
WePlay Expoが本当に意味でスゴいのはここからだ。
開催地の中国・上海は、市場としての成長が著しく、『黒神話:悟空』のヒットに代表されるようにコンソールの人気も高いほか、さまざまなプラットフォームが急拡大している。しかもそれでいて、主催者CiGAの強いインディー魂が依然として失われていないのだ。
たとえば、多くの大規模ゲームショウにおける大手メーカーは途方もなく巨大なブースを構え、きらびやかなステージイベントや、キレイなコンパニオンを揃えて、来場客が新作タイトルにいかに興味を持ってもらうかに注力する。
そのてんWePlayでは、どんな大きなメーカーでも、それこそ任天堂のようなプラットフォームホルダーやAAA級のメーカーすら、出展ブースの面積に限っていえば中規模止まりだ。
WePlay Expoのブースには巨大なディスプレイは無いし、コンパニオンもいない。その代わりに開発者自身がいて、来場客にゲームの魅力を直接伝えたり、ナマのフィードバックを受けることを重視している。この作り手と受け手の垣根の低さが、イベントの暖かさや誠実さを保っている印象だ。
主催者のCiGAはWePlay Expoを「ゲームショウ」ではなく、「ゲームカルチャーを軸にした、超面白いテーマパーク」として設計しているという。ときには商業的成功よりも文化的な価値を優先しているほどで、多くの開発者や来場者が、WePlay Expoをビジネスというより、純粋な遊びや交流を楽しむ場として認識しているのだ。
成長する中国市場を背景に拡大。ゲームを超えたホビーカルチャー全般を取り込む多様性
上述のとおりWePlay Expoでは、どんなに巨大なメーカーでも極端に大きなブースを展開しない。だから会場内を歩いていると、新たな出会いが次から次へと訪れる。
興味を持った出展物にふらりと立ち寄り、試遊台でプレイをしていると、隣に来たスタッフがフレンドリーにゲームを紹介してくれる。しかもその相手が開発者当人だった、なんてことも。
これが東京ゲームショウだと、注目タイトルを試遊するために数時間待ちとかザラである。また、ChinaJoyは会場面積が東京ゲームショウの倍近くもあり、ホール間を移動するだけでヘトヘトになってしまう。
それも含めてかけがえのないイベントであることは重々承知しているが、WePlay Expoを見てしまうと、その体験の“質”の違いについて、思わず考えてしまう。
そしてWePlay Expoは、出展物の多様性もある。大手タイトル、新作タイトル、物販、インディー、周辺機器、業界向けセッション、そのほかゲームファンが楽しめる各種催しが、極端に広くはない会場内にギッシリと詰まっているのだ。
このようなWePlay Expoは、設立当初の純粋なインディーイベントの枠を超え、中国の若者文化全般を対象とした、ゲーム・サブカルの総合イベントへと進化しているのだ。
今回、その多様性を象徴していた出来事が、周辺機器コミュニティのzFrontierが主催する「ZFX 2025」(zFrontier Expo 2025)が併催されていたことだ。会場全体の約1/4がZFX 2025関連のブースで、パソコン用のカスタムキーボードがドン引きするほどの盛り上がりを見せていた。
これに関しては、興味本位で関係者に話を聞いたらめちゃくちゃ面白かったので、別記事で詳しくレポートする予定だ。
コミュニティの熱狂が結晶化。とんでもない盛り上がりを見せる物販の背景
中国の熱心なファンは、もともと日本以上に、好きなIPに対するリスペクトが高く、それを表に出すことを躊躇しないという。そんな彼らがWePlayを訪れ、普段は目にかかれないクリエイターをステージイベントで見たり、場合によっては直接話したりするわけだ。嬉しくないわけがない。
来場客はただゲームを試遊するだけでなく、「このゲームをより良くしたい」という当事者意識を持って挑み、いっぽうの開発者にとっては価値のあるフィードバックを直接得られる。双方にとって冥利に尽きるイベントであろう。
そして、これらの要因が合わさった結果、ファンコミュニティの熱狂的な発露として、会場内の「物販」が異様なまでの盛り上がりを見せているのも、WePlay Expoの大きな特徴だ。
ガチャゲーが中国で人気なのはご存じかと思うが、中国のファンはコレクションアイテムへの消費意欲が高い。とりわけイベント限定品、海外限定品は高いレアリティを持ち、ファンとしての自己表現や、そのゲームコミュニティの一員であることを証明する品となるという。
WePlay Expoの物販は、単に商品を販売するだけでなく、熱心なファンが熱狂を表現し、コミュニティと深く交流するために機能しているのだ。それに呼応する形で、会場内の大半のブースではノベルティが配られ、場合によては長蛇の列が生まれるという現象につながっている。
この物販エリアは、オンラインコミュニティで熱狂を分かち合ってきたファン同士が初めてオフラインで集い、共通のグッズやノベルティを通して「同じ仲間であること」を確認し合う、一種の交流拠点でもある。購入するために長時間並ぶ行為すら、一種の「共有された試練」となり、グッズと同時にコミュニティの連帯感や達成感も持ち帰るのだ。
アジア地域の一大ハブへ。日本のゲームメーカーや開発者がWePlayに熱視線を送る理由
中国の若者世代にとって、日本のアニメ・ゲーム・コミック(ACG)は単なるエンタメを超えた、文化的なアイコンとしての地位を確立している。
たとえばWePlay Expoが開催される上海には、日本のIPにちなんだコラボショップや施設が多い。「ポケモンセンター上海」、「ガンダムベース上海」、「ちいかわフラッグシップストア上海」などはまだ分かる。なかには「新海誠作品CAFE」や、6階建てのビル全体がACG関連の店舗で構成された複合施設も存在するのだ。
こうした文化的背景は、もちろん日本のIPホルダーも意識している。これに着目した日本ゲームメーカーの出展や物販もWePlay Expoでは多く見られる。
実際に日本からWePlay Expoに出典した日本メーカーの人に話を聞く機会があったのだが、日本ゲームIPのオフィシャルグッズが中国で制作され、それが中国市場のみを対象とした限定販売がされていることもあるほどなのだとか。
WePlay Expoが日本のゲーム開発者を引きつけるのは、こうした商業的なポテンシャルだけではない。むしろクリエイターたちがこの場所に価値を感じるのは、主催者の「開発者目線」がもたらす濃密なコミュニティの存在であろう。
今年のステージイベントでは、吉田修平氏や日野晃博氏や伊藤賢治氏など、著名なクリエイター・業界関係者が登壇し、現地の熱心なファンとの交流や深いディスカッションを繰り広げていた。また、会期中は毎晩大規模なパーティーも連日開催されており、国境を越えて開発者同士が絆を深める、アジアにおけるクリエイティブの交差点としても機能していたのだ。
国境はあれどもゲームに国境はない。WePlayが持つ希有なバランスの魅力
筆者は今回がWePlay Expo初参加だったのだが、これだけの規模のイベントで主目的がゲームのPRではない、というのはけっこうな衝撃であった。インディゲームのクリエイティブな熱量と、ハイエンドホビーやサブカルの両方を備えた単一のイベントは、BitSummitやPAXなどとも違っており、たぶん世界中探しても他にないだろう。
そして何より、熱心なファンが集まり、ゲームへのリスペクトを炸裂させるコミュニティに触れるのは、とても心地よかった。会場内のそこらじゅうで見かける日本のゲームに対して、上海の人たちが惜しみなくリスペクトを表している姿にも感動した。
今後、WePlay Expoがどのように発展するのかも興味津々である。
現在の中国市場は大きく成長し続けており、来年の開催時はもっと拡大するだろう。CiGAのインディー魂を失わずに、ゲーム以外のアニメやコミックやノベル、そのほかのサブカルチャーを巻き込む展開も、じゅうぶんに考えられる。
国家情勢の難しさはあるにせよ、少なくともゲームに国境はないし、ゲームを楽しむファンの熱狂や本質もまた然りである。
個人的には、今回は取材という枠を超えてこのイベントの面白さを堪能してしまった。来年のWePlay Expo開催時には、プライベートで再びこの熱狂に飛び込み、ついでに上海観光も楽しもうかと割と本気で考えている。






















