↑↑↑この写真、何に見えるだろうか。
正解は「キートップ」だ。
パソコン用のキーボードにたくさん並んでいる、あの指先サイズの品である。
そのキートップに小さなフィギュアがちょこんと乗っており、来場客の若い女の子たちがネイルアートでも選ぶかのように、熱心に品定めをしている。彼女たちが眼差しを向けているのはコスメでもアクセサリーでもなく、キーボードのパーツだ。
続いて、こちらはガンダムのキートップである。見てのとおり、もはやガンプラそのものだ。サイズは1/144程度で作りも精巧。しかもどちらかというとHGではなくRG寄り。
言うまでもなくキーボードとしての実用性は皆無に等しいが、そんなことは問題ではないらしい。
驚くべきは、こうしたブースが2~30社も並び、どこもかしこも異様な盛り上がりを見せているのだ。いったい、上海の地で何が起きているのか?
取材・文/kawasaki
キーボードの祭典「ZFX」を運営するzFrontierとは
これら妙ちくりん(失礼!)なキートップが所狭しと並ぶ「ZFX」は、zFrontierが2025年11月22日~23日に中国・上海で開催したイベントである。アジア最大級のゲーム展示会の「WePlay Expo」(※電ファミ関連記事)と併開催され、会場面積の約4分の1を占める規模を誇っていた。
主催のzFrontierは、中国のハイエンドなデジタルホビーカルチャーを牽引する、多角的なプラットフォームだ。オンラインフォーラムを軸としたコミュニティ運営から、製品レビュー、さらには海外製品のグループバイ【※】の取りまとめや中国メーカーの海外進出支援まで、その活動は驚くほど多岐にわたる。
ざっくり言えば、エヴァンジェリスト【※】としての役割と、中立かつ熱狂的なユーザーコミュニティが融合したような組織である。これほど全方位的に影響力を持つデジタルホビーの組織は、日本では見たことがない。
※グループバイ: 欲しい人を募って一定数以上の注文をまとめ、一括発注することで製造や輸入を実現する仕組み
※エヴァンジェリスト:伝道師の意で、技術やサービスの価値を、実演や講演などを通じて世に広める役割。開発者とユーザーの橋渡しを担うポジションでもある
現在、彼らが扱うジャンルの中で最も勢いがあるのがカスタムキーボードで、今回の展示は単なるガジェット紹介ではなく、文化としての発信を意図したものである。
こうしたzFrontierの姿勢は、WePlayを運営するCiGA(中国インディーゲーム連盟)の理念とも深く共鳴している。CiGAもまた、大規模なイベントでありながらインディー魂を重んじ、商業主義よりも文化的普及を目的とする組織だからだ。
成長著しい中国市場の熱量が、こうした気概ある組織を育て、互いの尖ったマインドが共鳴した結果、今回の巨大なコラボレーションが実現したというわけだ。
深遠なるカスタムキーボードの世界
筆者は職業柄、キーボードに対しては割とこだわりがあり、自宅では東プレのREALFORCE、ノートPCはLenovoのThinkPadを長年愛用している(後者のキーボードについては近年思うところもあるが)。
そんな筆者にとっても、ZFXに出展されていたカスタムキーボードの数々は驚きの連続で、その最たる例が冒頭で紹介したキーキャップである。
中国の多くのキーボードメーカーの間では、それぞれのパーツの規格がある程度共通化されているという。キーキャップに関しても、スイッチのてっぺんが「+」の形状をしていれば、基本的に取り替え放題だそうだ。
そういった背景もあるため、キーキャップ交換はもっとも手軽かつ人気が高いカスタマイズとなっている。カラバリや素材違いは当たり前で、会場内では人気のゲーム・マンガ・アニメと正式にコラボした製品も多数見かけた。
小さなジオラマや宝石のように飾ったキーキャップは、もちろん「使うため」ではなく「飾るため」にある。これらは「アーティザン(工芸品)キーキャップ」と呼ばれており、数万円に達するものもあるそうだ。
ZFXの会場内ではキーキャップ以外にも、摩訶不思議なカスタマイズパーツが多数見られたので、写真多めで紹介していこう。
ケース内にぎっしり詰まっているのはキャンディではない。キースイッチだ。
キーボードにこだわりのある人なら、Cherry MXの「赤軸」や「青軸」といったキースイッチを聞いたことがあるはずだが、そのバリエーションを極限まで広げたようなモノだ。色、素材、バネの重さ、音、押し心地などが細かく違うらしい。
キーボードの内部に敷くクッションや、基盤も交換できる。
たとえばクッションは素材や厚みによって、キーを叩いたときの「底打ち感」や静音性が大きく変わるという。まぁこれくらいなら、まだ実用性のあるカスタマイズとして理解できなくもない、という人もいるだろう。
フレーム(外枠)もカスタマイズ対象だ。
たとえば素材をアルミからスチールに変えると、全体の重量のほか、打鍵音の響きも“硬く”なるという。さらに、この方向を極限まで突き詰め、フレーム内に鉄板を埋め込み総重量が5kg超えの代物もあった。……筋トレでもするのだろうか?
これは交換用のバックパネルだ。
「バックパネルを交換してどうするんだ? キーボードを裏返して鑑賞するのか?」というツッコミは、野暮というものだろう。
そのほかにも、小さな液晶ディスプレイを接続してCPUの温度やGIFアニメなどを表示させたり、キーボードの枠を逸脱した追加機能をモジュール形式で着脱させたりと、実用性にはいささか疑問が残るカスタマイズも少なくない。
なかには版元からの正式な許諾を得てはいない代物もあったのかもしれないが、個人的にはそれすらもZFXが持つ同人的な熱量というか、カオスなお祭り感に拍車をかけていた印象で、眺めていてとても楽しかった。
これらのカスタマイズの多くは、いわば“痛車”のようなもので、実用性云々ではなく浪漫の世界なのだろう。
もともと中国人は派手好きが多いという。彼らにとってキーボードも、単なる入力デバイスではなく、自分の個性を表現するためのデスクトップ・オブジェとしての価値をも見いだしているのだと思われる。
世界を席巻しつつある磁気スイッチ+ラピッドトリガー
さて、今回のZFXには、カスタムキーボードとは別にもうひとつ、重大なトピックがあった。その中心にあるのが「磁気スイッチ」(別名:ホールエフェクト・スイッチ)である。
磁気スイッチは、磁力の変化を検知して入力を判別する仕組みのキースイッチである。非接触型のため摩耗がなく耐久性に優れ、チャタリング(誤入力)も起きにくい。そして、アクチュエーションポイント(キーが反応する深さ)を0.1mm単位で自在に設定できるという、従来のメカニカルスイッチでは不可能だった高機能を備えている。
この技術はずっと前から存在していたが、これまでは高価であることや、そこまでのハイスペックを求める層が限られていたことから、磁気スイッチは知る人ぞ知る存在に留まっていた。
その状況を一変させたのが、磁気スイッチのポテンシャルを最大限に引き出した付加機能「ラピッドトリガー」の登場である。
これは、キーが「わずかでも戻った」瞬間に、入力を即座にリセットするというもの。
たとえばFPSのゲームプレイ中は、移動キーから指を離した瞬間にピタッと止まれるため、精度の高い射撃のために必要なストッピングが、簡単かつ高速に行えるようになる。
2023年に、中国人の『VALORANT』のプロゲーマーが、ラピッドトリガーを搭載したWooting社のキーボードで圧倒的なパフォーマンスを見せつけたことで、磁気スイッチの名は一気に世界へ轟いた。
そして、この成功を追う形で、中国のキーボードメーカーがこぞって磁気スイッチ式のキーボード開発に参入したのだ。
それから数年が経った今回のZFXには、磁気スイッチを搭載したキーボードの新製品が大量に出展されていた。ZFXの主催者に聞いたところによると、その数は、従来のメカニカルスイッチ式のキーボードを上回っていたという。























