“めっちゃ可愛くて、ちょっとブキミ”なエミルさんのアートを5つのテーマで表現。なんと「ここでしか聞けない」音楽も楽しめる
──エミルさんのアートをゲーム内で表現するにあたり、どういった部分を重視されたのでしょうか?
川氏:
エミルさんからコンセプトアートをいただいており、それがベースになっています。あくまでも僕らの感覚となりますが、エミルさんの絵はいくつかパターンがあってカテゴリーに分けられると感じたんですね。「この絵はこのエリアに」とか、「このカテゴリーは別のエリアに」など、アートをベストな場所に落とし込むことを強く意識しました。
──色味や質感という点ではいかがでしょうか?
川氏:
雰囲気としてはメルト、「溶けてる感じ」をいかに表現できるかに注力しました。
──先ほどお話がありましたが、「溶ける」という表現は3Dで描くうえでの難しさがありますよね。どういった点を意識したのでしょうか。
川氏:
そこは密にお話をさせていただいて、「こういう表現がいいよね」と細かく詰めていきました。エミルさんの絵は、ある意味で少し不気味なところもあるので、そういう要素も入れていったんです。
Ryotaさん:
アートを見ていただいてわかるとおり、エミルはめっちゃかわいい絵を描くんですよ。僕も初めは「エミルはキラキラしたアートを作る人なんだな」と思っていました。
でも、ある日スタジオに行ったら、彼が地下のさらに地下、めちゃくちゃ暗いところで制作をしていて。「こんな場所で? ヤバいじゃん、ここ」と思っていたら、DVDがずらーって並んでて、よく見ると全部ホラー映画なんですよ(笑)。「こんな人がこんなキラキラしている絵を描くんだ」と。そのギャップもなんかうれしくなっちゃって「やっぱり、こいつとんでもないやつじゃん!」と思いました(笑)。
そのあとに彼のアートを見たら、少し見え方が変わったんです。かわいいんだけど「あれ? 目が不気味じゃない?」とか、じつは少し怖い要素が入っているんです。だから大揮くんにも「キラキラしているだけじゃなくて、エミルの作品にはいろんな面があるんだよ」としっかりと伝えて。エリアごとにダークなところやキラキラしているところが違うので、そういったギャップも楽しんでもらえると思います。
──エリアの詳細をぜひ教えてください。
川氏:
エミルさんのアートを、5つにカテゴライズしてテーマごとに制作しています。
Ryotaさん:
見どころはやっぱり、エミルのデザインした場所で練習ができるってことですね。それプラス音楽。この島のためだけに作った曲なんです。ゲームを遊ばないとこの曲は聴けなくて、いまのところ配信をする予定もありません。
音楽にハマる人もいるだろうし、この世界観にハマる人もいるだろうし、人によって感じ方が違うのかなと。僕的には、両方絶対に楽しめると思っています。また、あくまでも練習場ですからゲームがうまくならないと話にならないわけで、大揮くんには「CPUの強さだけはめちゃくちゃこだわってほしい」ということはしっかりと伝えました。
そもそも練習場として成り立っていなくて「ぜんぜん練習にならないじゃん」と言われるのがいちばん嫌だったんです。Alcheもこだわって作ってくれたので、めちゃくちゃ練習にもなるし、実戦でよくある「意味がわからないところから撃たれた」というシチュエーションもちゃんとあって、腕が磨けるようになっています。
川氏:
世界観で言うと、エミルさんの絵は特徴的な色使いが多いので、その再現を強く意識しました。(ゲームをモニターの画面に映しながら)いまお見せしているエリアは明るい色が多いのですが、別のエリアではダークな色合いになっていたり、エリアごとにそれぞれの世界観が伝わるように、ということを色味も含めて熟考して組み立てています。
──いま実機で島を見せていただきましたが、予想をはるかに超える出来栄えで驚きました。
Ryotaさん:
今年に入ってから、ずっとこのことしか考えていないぐらい、本気の練習場を作りたいという気持ちがありました。僕らのチームはもちろんですが、Alche側もモチベーションがぐーっと上がってくれて、みんなで本気になりすぎてこういう結果になったんだと思います(笑)。
制作の後半では「えっ? こんな表現ができたの!?」と僕らがビックリするくらいで。テストプレイもずっとしていたのですが、どんどんアップデートされて「みんな大丈夫? 寝てる?」と思いながらプレイを続けていました(笑)。
色味の話をすると、エミルのアートって単に「色」を再現するだけでも難しいんです。たとえば「紫」という色でも、いろんな色を足しているのでただの紫じゃないんです。そこを表現するのに「よくある紫色にしました」という感じで作ってしまうと、エミルのアートじゃなくなっちゃうんです。
さっき大揮くんが言ってくれていたように、色味も重視してくれているのが島を訪れた瞬間にパッと見てわかるんです。エミル本人も「すごくない? 色味をちゃんと理解してくれている」と言っていたので。
──企業どうしのゲーム開発ですと、気持ちだったり熱量で反応してくれることって、あまりありませんからね。
Ryotaさん:
僕は本当に自分が作りたいゲームを作って、誰かひとりでも楽しんでくれたらうれしいという、熱量だけでやっていました。日が経つごとに、みんなの熱量がどんどん高くなっていって……。いっしょに作れたのは、すごくうれしかったです。
楽曲を収録するためのアーティストも、Ryotaさん自らオファー。「各地のライブハウスを巡って、『いいな』と思った人に声をかけた」
──(実機の曲を聴いて)ボーカル曲もあるんですね。
Ryotaさん:
楽曲はトータルで11曲あるんですが、3曲は歌手に歌ってもらっています。ひとりはSennaRin【※】。もうひとりは星熊南巫【※】。3人目は、Stand Atlantic【※】というオーストラリアのバンドです。
3人ともすごく個性のあるシンガーで、僕が個人的にめちゃくちゃ好きなんですよね。修也くんが仕上げてくれた曲をずっと聴いていたら、「あ、絶対にこの子たちに歌ってほしい」、「何かしらのきっかけを僕が与えることができたら」と思ったんです。そういった経緯で3人にお願いしたところ、快諾してくれて実現しました。
※SennaRin(センナリン)……YouTubeで公開したカバー動画がきっかけで有名になった女性シンガー。2022年メジャーデビュー。アニメ『BLEACH 千年血戦篇 』のエンディングテーマや『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』の挿入歌などを担当している。
※星熊南巫(ホシクマミナミ)……2025年まで我儘ラキアというアイドルグループで活動し、メインボーカルとしてグループの音楽的中核を担う。現在はソロアーティストとして活動中で、Zepp Shinjuku等でのワンマンツアーを成功させている。また、ソロプロジェクト「DEATHNYANN」では『フォートナイト』のロビーミュージックも手がけている。
※Stand Atlantic……2012年から活動を続ける、シドニー出身のバンドグループ。2019年、2025年のONE OK ROCKの北米ツアーへの帯同、2026年のオーストラリアツアーへの帯同もしている。
──全11曲とのことでしたが、ジャンルはバラけているのでしょうか?
Ryotaさん:
ポップな曲だったりヒップホップだったり、ゲーム音楽っぽい曲だったり、バラバラです。修也くんがこの3~4年で大量に曲を作ってくれていたんです。
そのときはゲームで使うというのはもちろんわかっていなかったんですが、何かしらプロジェクトを動かすつもりだったので、当時から「曲だけは大量に作っておいてね」と伝えて、毎日曲を作ってもらっていたんです。その中からとくに「これはいい」と思った11曲を収録しています。
川氏:
ちなみに、ゲーム中でも曲が選べるようになっています。
Ryotaさん:
曲のレコーディングも、才能あるミュージシャンの子たちにやってもらっています。この1年半、小さなところも含めて各地のライブハウスをかなり見にいっていて、「いいな」と思ったプレイヤーの子たちに声をかけていたんです。「このゲームのために、叩いて、弾いてほしい」と。
──ええ!? ご自身で各地を回られて、しかも声がけまでしていたんですか?
Ryotaさん:
バンドがけっこう忙しかったんですけど、休みの日はひたすらライブハウスで演奏を聴いていました。すばらしいミュージシャンがライブハウスにたくさんいることを知っていたというか、アンダーグラウンドの中にも本当にうまい子たちが大勢いるんです。その子たちのプレイを記憶していて、最終的に今回のレコーディング前に「この子でいきたい」と決めて。
──行動力がすごすぎです。全国津々浦々、ライブハウスを自分の足で回って、しかもスカウトするというのは……。なかなかできる方はいないと思います。
Ryotaさん:
直接聴くことで、すごいプレイヤーとか、がんばってきたというのがわかるんですよね。「これだけの練習をしてきたんだな」というのが音を通して伝わってくるというか。「その努力が世の中の人たちに伝わってほしい」という気持ちが、僕はすごく強いんです。
──そういう方々は「ここで全部出し切ってやる」といった気持ちでレコーディングに臨まれていると思うので、熱量とか衝動がすごいですよね。その重みがあるからこそ、高いクオリティに仕上がっていらっしゃるんだろうと、いまのお話を聞いてて思いました。
Ryotaさん:
実際、レコーディングの日も、僕が「つぎはこのパターンで」と言っても、毎回それを超えるようなすばらしいパフォーマンスを見せてくれました。たとえば、デビューしているバンドのレコーディングだと、ある程度決まっているものを弾くわけですよね。バンドとして完成している曲というか。
でも、彼らはそのときに感じたもので手や指が勝手に動く。なのでレコーディングをしていてすごく楽しかったです。ゲームをプレイしながら、これらの音楽も真剣に聴いていただけるとうれしいです。
──いま楽曲を聴かせていただいて、個人的には90年代っぽい曲がすごく気に入りました。
Ryotaさん:
僕も修也くんも、90年代の楽曲やヒップホップが好きだし、あの当時ってキュンキュンした曲がいっぱいあるじゃないですか。僕はふだんはロックバンドとしてめっちゃ激しい曲をやっているんですが、家に帰ったときはディズニー系のかわいい曲とか、キュンキュンする曲を聴くことも多くて(笑)。
修也くんもそういった要素の曲をプライベートで聴くことが多く、そこの相性もあったんですよね。「あ、やっぱりその曲好きなんだ」みたいな(笑)。なので、今回の楽曲は、僕らふたりの好みでもあります。音楽をあまり聴かない人たちも、これを機に「音楽も楽しいよ」ってことを知ってもらいたいです。
『フォートナイト』のすばらしさのひとつは、無料でダウンロードできるところです。ダウンロードさえしてくれたら、今回僕らが収録した曲も無料で聴ける。僕の目的はお金儲けではないので、「お金を使わせてまでゲームをやってもらいたい」というのもなくて。
みんながお金を払わずにゲームが遊べて、無料ですばらしい楽曲が聴けて、無料でエミルのデザインも見ることができる。この「無料」で体験できるという点も自分の中ではすごく重要で、だから「『フォートナイト』で作りたい」という気持ちが強かったんです。
──このクオリティの高さですと「楽曲を配信してほしい」という意見が出てくると思います。
Ryotaさん:
マジっすか? でもそういってもらえるとうれしいです。僕も「ふだん聴きたい」と感じてもらえるようなものを作らないといけないと思っていたので。ただ、いまはゲームでしか聴けない状態なので、ひとまず毎日ログインして聴いてもらえればと。
アーティストの個性を余すところなく取り込んだ圧巻のステージ造形。マスコットキャラとして、かわいい「ポンケン」も登場
──しかし、何度見ても島のクオリティが高いですよね。曲線や柔らかさを描くのは、かなりたいへんだったのでは?
川氏:
モデリングするものもあれば、シミュレーション的に物理法則に従ってすこし垂れてくるのをそのまま使うといったこともやっています。たいへんなところではありましたが、なるべくエミルさんのアートにある「溶けている感じ」を表現したかったのと、キャラクターがその場所になじむことを意識して作りました。
Epic Games 河崎氏:
練習場でオリジナルのメッシュモデルを持ち込んでいるところはほとんどないので、それだけでも皆さんびっくりされるかなと。
Ryotaさん:
(実機画面を見ながら)ここは4人で並んで写真を撮るのに最適なスポットです。今回作った練習場はひとりプレイ用なんですけど、いずれ4人で入れるようになったらいいなと思っていて、4人が並んで写真が撮れるかわいいスポットを用意してあります。
川氏:
Gameover Glitch(ゲームオーバーグリッチ)というエリアでは、時空に裂け目ができていて、エミルさんの絵が侵食してる雰囲気を再現しているので、ここも見どころですね。
Ryotaさん:
(画面を指差して)エミルのエキシビションに行くと、この壁一面にアートが貼られている表現がすごく多くて、本人もめちゃくちゃこだわっているところなんです。「エミルといえばこれ」という印象というか。
その特徴をAlcheがしっかりとキャッチしてくれて、メインのところで使ってもらっています。仕上がりを見たエミル自身もすごくテンションが上がってくれて「めちゃくちゃいいじゃん」とよろこんでいました。なかなかこのデザインはキャッチできないので、Alcheのセンスには本当に助けられました。
川氏:
エミルさんの過去の展示会の内容をいろいろ確認させていただいて、ベストな場所に配置させていただきました。
Ryotaさん:
マジ最高です。
川氏:
メルトだけじゃなくてエミルさんにはいろいろな絵がありますので、ほかのエリアではビルや建物に侵食しているような表現なども取り入れています。また、エミルさんが手がけた「ポンケン」というキャラクターを3D化したエリアもあります。
Ryotaさん:
ポンケンは、エミルから「これ、いちばん最初に描いたんだよね」と見せてもらったアートにすでに描かれていたキャラクターなんです。これまであまり表に出していなかったので、エミルに「このキャラクターをゲームで使ってもいい?」と聞いたら、「むしろ大好きで思い入れのあるキャラクターだから、Ryotaが使ってくれるんだったら」と言ってくれて。
そういった経緯もあって、ポンケンはかなりフィーチャーしています。「このゲームといえばこれ!」というアイコンは何かしら欲しいと思っていたので、ポンケンを見れば「あの島のキャラクターでしょ」みたいなアイコンになってくれるんじゃないかなと。たぶん、訪れた方の印象に強く残ると思っています。
ほかにもAlcheが本当にエミルのすべてを使ってくれていて。エミルがいままでがんばってきたアートが全部このゲームに使われてるというか。








