ゲーム好きを自認する人のなかで、ゲームフリークの名前を知らないという人はいないだろう。『マリオ』や『ゼルダ』と並ぶ任天堂の看板シリーズ『ポケットモンスター』シリーズの開発元だ。
だが、そんなゲームフリークがまったく新しいゲームを作っている。8月4日にリリース予定の『Beast of Reincarnation』(以下、「ビースト・オブ・リンカネーション」)だ。
本作は主人公の少女エマと、相棒の犬・クゥの「ひとりと一匹」が、はるか未来の終末世界を冒険するアクションRPG。2025年に発表された際には、それまでのゲームフリークのイメージを大きく覆すフォトリアル調のビジュアルが注目を集めた。
とはいえ、本作は単なる「ビジュアルがリッチなアクションゲーム」ではない。
注目したいのが、本作が目指す「ひとりと一匹」の体験を生み出すための重要な存在である主人公の相棒、犬のクゥの存在だ。
現実では当たり前のことながら、犬はしゃべらない。
そして本作においては、しゃべらない存在と同じ冒険をするという体験こそが重要なのだという。それは、「ゲームだからこそ描ける関係性」を目指したからであり、その姿勢はこれまで同社が積み上げてきた歴史にも通じるものだろう。
今回、電ファミでは本作の開発ディレクターである古島康太氏にインタビューを実施。「ひとりと一匹」の頼もしさや寂しさという感覚を描くため、徹底した逆算思考のロジックで世界を積み上げてきたという、古島氏のお話を伺ってきた。
取材・執筆/恵那
発表1年でウィッシュリストは120万件。世界が反応したゲームフリークの新しい挑戦
──本日はよろしくお願いします。さっそくですが、本作『ビースト・オブ・リンカネーション』、かなり反響がよかったと伺っているのですが、実際のところはいかがだったのでしょうか?
古島氏:
ありがたいことにグローバルでけっこう反響がありまして、今ウィッシュリスト数が全プラットフォームで120万を突破しています。
──すごいですね!これ、初報が2025年の6月でしたから、まだようやく1年くらいですよね。もうそんなにウィッシュリストに追加されているんですね。
古島氏:
そうですね。ちょうど1年くらいです。
──多くの方から注目を集めているわけですが、率直にどのあたりのポイントが興味を引いたのだとお考えでしょうか?
古島氏:
やっぱりいちばんは、ゲームフリークの新しい挑戦というところかと思います。
最初にビジュアルだけを見ると、どこの国のスタジオが作ったのかわからないようなタイトルですが「ゲームフリークが作った」という点は大きかったんだなと思っています。
──ビジュアルの話が出たので、ぜひそこを掘り下げさせてください。本作は日本という舞台や「輪廻」というキーワードもそうなのですが、今回プレイしてみて、繁茂するフィールドの植生に、東洋的というか東アジアっぽい雰囲気を感じました。こうした世界観は、最初からイメージされていたのですか。
古島氏:
そうですね。世界観を決める前にコンセプトは決めていたんですけど。
「この世界を旅することで、相棒の頼もしさと寂しさを体験できる」というコンセプトがあったんです。そのためには過酷な世界がよくて、じゃあ過酷な世界って何だろうと考えたときに、世界は滅んでるほうがいいなと。
──世界は滅んでる方がいい(笑)
古島氏:
そうなんです(笑)。その中で絆を育むほうがいいだろうなと思っていました。そこでぱっと直感的に浮かんだのが、人工物や文明的なものが朽ちていて、逆に植物が生い茂っているという世界でした。
そうした世界になるのが自然だなと考えたんですね。植物をテーマにするっていうのは、だいぶ考えましたね。
──植物っていうのは、滅んだ文明との対比になる「生」のイメージなんですね。
古島氏:
そうです。植物そのものにも、「輪廻」のテーマがあるなと。芽生えて、開花して、種を落として、また芽が出てくる。そうした植物そのものが持っているサイクルについても考えましたね。
「滅びた世界」のイメージを、ロジックでひも解き、重ねてゆく
──着目のされ方が独特だなと感じますね。世界観についてですが、何か影響を受けた作品などはあったんでしょうか?
古島氏:
自分は『ブレードランナー』がすごく好きで、その影響はあったと思います。
──『ブレードランナー』というと、退廃的な未来というイメージはありますが、植物の世界というイメージとは少し遠そうな気もします。
古島氏:
世界が滅びる、というのがどういうことなのか。それをちゃんと考察しておきたかったんです。世界のイメージを感覚で作る一方で、それを実現するための手段や見せ方は、ロジカルである必要があるなと。
たとえば『ブレードランナー』の映画では、冒頭から巨大な構造物が出てくるんですけど、そういうものが出てくる世界なら、巨大企業とかが牛耳ってないとそうはならないだろうなと思います。
それで巨大企業が牛耳る世界なら貧富の差とかも出てくるわけで、都市の低層部に住んでいるのは、経済的にも厳しい立場の人たちなんだろうし、そういう高低差みたいなものも出てきます。最初にイメージした感覚を出すためには、そうした因果関係をひとつずつひも解いていく必要がありました。
──過去のインタビューでも、「感覚」を表現するために、ロジックを積み上げていったというようなお話をされていましたよね。
古島氏:
そうです。必ずすべてに前後関係があって、これより前にこれがあるから、この後のものが必然的に決まっていく、というふうにしています。
──さきほどの植物についてのお話に少し戻るのですが、これも「輪廻」のイメージから逆算されて積み上げられていったわけですね。
古島氏:
自分は植物のタイムラプス【※】とかをよく見ているんですが、すごいんですよ。植物というと、「止まってる」っていう感覚が強い方が多いと思うんですけど、実はすごく動いてるものなんです。
じゃあ植物が支配する世界なんだったら、植物が大きく動く様子をみせたらおもしろいんじゃないか、そうしたものを表現したかったという面もあります。そもそも自分は植物を育てるのも好きで、自分でカボチャとか育ててるんですよ。
※タイムラプス
一定間隔で撮影した写真をつなぎ、長時間の変化を短時間で見せる映像手法。植物の成長などによく使われる。
──カボチャですか!?ご自宅で?
古島氏:はい(笑)。カボチャって実はすごく難しくて、ちゃんと受粉しないと実らないんですよ。なので、一度も成功したことないんですよ。ベランダで結構いろんなのを育てていて、今もバジルとか育ててます(笑)。
──ゲームを作りながらベランダ家庭菜園まで(笑)。
必然性を積み重ねることで、コンセプトはブレなくなる
──本作は立ち上げから6年以上開発が続いてきたと伺っているんですが、長く開発が続いていると、最初のコンセプトからずれるようなこともあるのではないかと思います。実際、なにか初期の案と変わったところなどはないのでしょうか?
古島氏:
もともとのコンセプトはかなり簡単に出てきたものだったんですが、実はそこから変わっていないんですよ。ただ、それを最良の形で実現する手法は模索する必要があって、さまざまな試作はしましたね。
いちばん最初からロジックが必ず繋がっていたわけではないのですが、自分の中でも言葉遊びとかをしながら「これは完全に繋がるな」という必然性にまで持っていくんです。そうするともうブレることはないので、そこまで行けば、あとは割とスムーズに仕上げていくことができました。
──「言葉遊びをしながら」というのはどういうことなのでしょうか?
古島氏:
「これがあるということは、こうでなくてはならない」ということをすごく考えるんです。たとえば本作には相棒として「犬」が登場しますが、その理由も単に「犬が好きだから」だけで決めるのでは、必然にはなっていないわけです。
今回の相棒は、命令もしなきゃいけないし、ちゃんと知能を持ってシチュエーションを理解して、助けてくれなきゃいけない。そういう条件を考えたときに、一番最適で直感性のあるものは何だろう、という順序でロジックを重ねていったんです。
──なるほど、これもロジックで組み立てていくということなんですね。
古島氏:
そうですね。




