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「カチャ」「ポン」と “片手で” 取り付けられる「Access コントローラー」がすごい! パッケージの開けやすさからセットアップにいたるまで、障がいを持つプレイヤーに向けて細やかに設計されていた

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多くの人に楽しいゲームプレイを体験してもらいたい

一通り「Access コントローラー」に関する説明や体験が終わった後で、開発に携わってきたソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 1課の池ノ谷 優一郎氏とグローバル商品企画部 2課の堀越朝氏にお話をお伺いした。

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──コントローラーのアクセシビリティに取り掛かることになったきっかけを教えてください。

池ノ谷 優一氏(以下、池ノ谷氏)
 「DualSense」を使うことが難しいという声は聞いていたので、使いやすいコントローラーについて長年考え続けてきました。試行錯誤の末に今回この形にたどりつき、「Access コントローラー」を出すことができました。

堀越朝氏(以下、堀越氏)
 アクセシビリティに関しては、PS5の前のPS4の時代から取り組みを進めておりました。文字の読み上げ機能などは、2015年頃から開発に取り組んでおります。多くのお客様に最新のゲーム体験をお楽しみいただけるように視覚聴覚に障がいのある方向けの機能というのは今後もサポートしてきていきたいと思っております。

 とはいえ、コントローラーというデバイスへの取り組みというのは今回が初めてですので、簡単なことではありませんでした。しかし、こういった商品を出していくことによって、多くの方が楽しいゲームプレイを体験していただけることを私たちとしては願っております。

──非常にユニークなデバイスですが、外見やデザインなどこのようなスタイルが生まれることになった経緯を教えていただけますか?

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池ノ谷氏
 今回は、カスタマイズをすごく重要視しています。三脚に取り付けることができるなど、どのような向きで使ってもデザインとしてまとまりがあるところも目標のひとつとして目指しました。円形を基調としたデザインということで、あまり見たことがないような形にたどり着いていると思います。

──開発中に最も苦労した点を教えていただけますか?

池ノ谷氏
 今回SIEとしては初めてのアクセシビリティコントローラーというところで、「皆さんが使いやすいコントローラー」というところから構想がスタートしています。

 パッケージに関しても、非常にこだわって苦労した部分です。“片手で開けられる”ことを一番の目的として開発し、一連の流れで全て開けることが可能になりました。

 しかし開発している私たちは健常者ということもあり、なかなか気づけないこともありました。たくさんのユーザーテストの中で皆様からのフィードバックをいただき、ひとつひとつ課題を取り除いていきながら、こちらの形になっています。

 ハードウェアに関してはカスタマイズできるところをアピールしていますが、簡単に取り外したり取り付けられたりする両方のバランスを取るのが非常に難しく、設計としてもこだわった部分です。「だれでも簡単に取り外してカチャッと取り付ける」「スティックも磁石でポンと取り付けられる」など、こうした部分も設計としてこだわって作りました。

堀越氏
 ソフトウェアは、皆様にもボタンマッピングの設定を体験してもらいましたが、あの画面は特に苦労したところのひとつです。インターフェースひとつ取っても、左右上下に移動するという操作感は非常に煩わしいものです。また、障がいのあるプレイヤーの方々が実際に初めて使い始める商品でもあるので、けっこう迷われる方が多くいました。

 設定画面は、プロトタイプから含めると相当な回数のブラッシュアップと細かい改善を多く取り入れています。こちらが、ソフトウェアで最も苦労した点かもしれません。

──従来のアダプティブコントローラーが、本体とサードパーティ製のスイッチやスティックをつなぐハブ的な位置づけであったのに対し、「Access コントローラー」自体にもそうした役割をもちつつ、しっかりとそのコントローラーとして作られているような印象を受けました。

池ノ谷氏
 「Access コントローラー」ひとつで、環境に合わせて活用していただける。同梱されているものだけで買ってすぐにゲームをプレイできる。そういった世界になってほしくて設計および開発をしています。そこがそのほかのアクセシビリティコントローラーと大きく違うところです。

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──「Access コントローラー」はどのようなプレイヤーに活用してもらいたいですか?

池ノ谷氏
 まずは、コントローラーを使うことが難しくてPS5のゲームを諦めていた方にぜひ使っていただきたいと思っております。そして「ゲームが楽しい」と思っていただけたら、私たちとしては嬉しいですね。

堀越氏
 具体的な事例でいうと、先ほどユーザーテストを日本国内でも実施したと言いましたが、そのテストに参加してくれた方のひとりがお子さんでした。そのお子さんは、「DualSense」が重すぎて今までPlayStationでゲームを遊ぶことができなかったそうです。

 そこで「Access コントローラー」を2週間ほどお渡ししたら、最終的に両手で「Access コントローラー」を使ってゲームを遊ぶことができたそうです。さらに、「すごく楽しかった」と感謝の手紙まで書いてくれました。じつはユーザーリサーチチームのメンバーは、日本語を話すことはできるものの外国籍の方なんですが、彼らに向けて英語で手紙を書いてくれたんです。これは、私たちにとって非常に嬉しかったことですし、そうした様子をきっとご家族の方も見て、嬉しく思われたと信じています。

──プロファイルの共有などの情報を発信されていくご予定はございますか?

堀越氏
 「このゲームをプレイするのにどういうプロファイルがいいですか?」という質問を、テスターの皆様からもよくいただきました。とはいえ障がいの程度など人それぞれということもあり、私たちから発信することは難しいと考えております。

 ただ一方で、SNSやアクセシビティコミュニティの中でおそらく「Access コントローラー」が導入された後には、「僕はこういう障がいを持っていて、こういうプロファイルでゲームをしたらすごく良かった」というような情報が発信されるような世界になると思います。

 そうしたユーザー同士のコミュニケーションの中で、自分と同じ障がいを持つ人を見つけて、その方と一緒に作っていくというか、ブラッシュアップしていくといった世界になるといいなと思います。

──「Access コントローラー」を使うことで初めてPS5を遊ぶ方もいらっしゃると思いますが、そうした方々に向けてメッセージをお願いします。

堀越氏
 PlayStationは「PLAY HAS NO LIMITS」というコンセプトの元に、日々努力しております。そのひとつの成果として、今回の「Access コントローラー」という形で商品が実現に至りました。PlayStationのゲームを遊びたくてもコントローラーのせいでできないと思っていた方に、興味を持っていただければ幸いです。

「Access コントローラー」は通常の機能より時間を掛けて検証を行った

 今回登壇することはなかったが、ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 部長の若井宏美氏にも、この「Access コントローラー」を含む同社の狙いについてお話をお伺いした。

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──ソフトウェアにおけるアクセシビリティは、どのようなプロセスで作り上げていかれるのでしょうか。

若井宏美氏(以下、若井氏)
 通常の機能と比べてプロセスという面では特別変わったものを用いているわけではありません。通常の商品企画のプロセスとしてお客様のニーズや新しい技術、業界動向などを考慮しながら新しい商品や機能を企画しています。

 今回のアクセシビリティに関しては、特にアイデアや技術の検証を行うフェーズのことを社内ではPoC(Proof of Concept)という呼び方をしているのですが、このPoCのフェーズは時間をかけています。

 ユーザーテストの回数を多めに行ったり、検証が行えない場合はいろいろな専門家の方や知見のご意見を伺ったり、フィードバックをいただいたりを繰り返し、それらを使う方々にとって有益なものになっているか確認しているところも特徴的な部分といえます。

──特殊なスタイルのデバイスの性能を生かすために、ソフトウェア側でどのような考慮をされていますか?

若井氏
 ボタン割り当てなどプロファイルの設定は、いろいろな方々のニーズに応えるために、自由度が高い設定を実現しています。形としても全く新しく、なおかつ自由度が高い設定という組み合わせになると、どうしても「設定がわかりづらい」という状況に陥りがちです。

 そのため、今回はひとつひとつのステップを追って設定をしていくことによって、迷わずに設定していくといったフローを作ったところが、ソフトウェア側で工夫したところです。

 ゲームによって頻繁に使うボタンや操作というのは異なります。どうしてもひとつのプロファイル設定で全てのゲームを遊べるようにする万能な設定は難しいので、今回はPS5上に30個のプロファイルを保存できるようにしました。3つのプロファイル設定をコントローラー側に入れてプロファイルボタンを押せば簡単に変えられるようにしたところも工夫した点としてひとつ挙げられます。

──今後のアップデートで新しい機能が追加されていくというご予定はございますか?

若井氏
 今回の「Access コントローラー」に限らず、特にアクセシビリティ機能全般についてですが、やはり我々の目線で「こうすべき」ということをすごく詰め込んでいくというより、世の中に出してフィードバックを受け取り、足りない部分をサポートしていきたいと考えています。

──ファーストパーティのタイトルと「Access コントローラー」が連携していくということが、これからの作品においてはすごく重要になってくると思います。今後、ゲームスタジオとの連携は行われていくのでしょうか?

若井氏
 発表してから、PlayStation Studioのメンバーや、他のゲームパブリッシャーの方からも興味を持ってくださっているお声は聞こえています。我々としては、すごく密に連携するというよりは「どのゲームでも使えるコントローラーのひとつ」という位置づけで、「このコントローラーを使えばこういう遊びができる」みたいなものを発信していただけるようなことがあれは、ぜひともご協力していきたいと思います。

 我々ができることは、ゲームをプレイし始めるまでやコントローラーのサポートであって、本当の意味でのアクセシビリティでは、ゲーム内での設定がすごく大事です。そういう意味では、一緒に新しい使い方や間口を広げるところを一緒にやっていきたいなと考えています。

使い始めてすぐに適応できたのはコントローラーが優れているから

 最後に、障がい者をサポートする立場として活動している一般社団法人日本支援技術協会 理事/事務局長およびテクノツール 大阪営業所所長の田代洋章氏と、当事者でもあるePARA所属の畠山駿也氏にお話をお伺いした。

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──エンターテイメント界にアクセシビリティが広がることで社会に期待できることはありますか?

田代洋章氏(以下、田代氏)
 手足が自由に動かないという個人が抱える問題を補助するハードウェアやソフトウェアがあるだけでは、車椅子を準備しただけの状態と同じです。車椅子があったからといって、何かの活動に参加できるわけではありません。

 環境を含めたゲームのアクセシビリティが一般的になるということは、同じ土俵の上でプレイして競い合うことができるようになるわけです。障がい者向けのフィールドでプレイするのではなく、同じフィールドでプレイできるようになることが重要だと思います。そういった考えや環境整備が今後の教育とか就労に広がっていくことを私としては期待しています。

──「Access コントローラー」にはどのような違いや特徴がありますか?

田代氏
 「Access コントローラー」は、インターフェース的な製品ではなく、本体そのものがアクセシブルな設計になっているということがとても特徴的だなと思います。

──「Access コントローラー」に触れてみたインプレッションを教えていただけますか?

畠山駿也氏(以下、畠山氏)
 「Access コントローラー」を初めて触ったときの印象としては、僕自身はあまり指の力が強くないということもあり、ボタンをうまく押せるかどうか心配でした。しかし、こちらには様々なスイッチが用意されています。僕の指は、押す力はあまりないのですが、指を縮める動作はできます。

 「カーブボタンキャップ」が使えたことで、外部入力装置だけにボタン操作を頼ることなく、元々備わっているボタンを使ってゲームを楽しめることができるということが、非常に嬉しく思ったポイントです。それがひとつ叶うだけで、様々なボタンを割り当ててゲームをそのままできます。最初にコントローラーを情報発表で見た時よりも、触ってみてできる範囲が広がったなと実感しました

──「Access コントローラー」について感じた、従来のアクセシビリティのコントローラーと異なる点、また共通する点があれば、教えてください。

畠山氏
 従来のアクセシビリティのコントローラーでは、外部入力装置を使って自分の実現したい操作方法や位置を決める必要がありました。しかし、このコントローラーは元々スティックが付いており、ボタンもあり、位置を自分でカスタマイズすることができます。

 例えば固定具を使って顎でスティックを操作したり、足で操作したりといったこともできると思います。これまでアクセシブルなデバイスを使ったことがない人が、最初に手にしやすいものだなと思います

──近年、ビデオゲームのアクセシビリティが国内でも多くの注目を集めるようになったと思います。これまでバリアフリーのeスポーツを推進してきた畑山さんにとって、この状況をどのように感じていますか?

畠山氏
 僕の場合は格闘ゲームが好きですが、新しいタイトルが出るとシステムやキャラクターが全て変わってしまうということがあります。前作でひとつのキャラクターしか使うことができないと、「次回作でキャラクターがいなかったらどうなるんだろう?」と不安に思ったこともありました。

 でも『ストリートファイター6』の場合は、全部のキャラクターで「モダン操作」といわれるカジュアルにゲーム操作ができるものが用意されています。僕はひとつのキャラしか使えないと思っていましたが、今は全部のキャラクターを触ることができる権利をもっています。それだけで非常に嬉しいことだなと思っています。「操作が簡単になる」という中には、元々できないと諦めてしまっていたことができるようになるなど、それ以外にもいろいろな要素がたくさんあります。

──「Access コントローラー」の操作に慣れるのに7日から10日くらいかかるといわれています。実際に初めて使われて、自分が思うように操れるようになるまでどれくらいかかりましたか?

畠山氏
 おそらく僕は特殊なタイプで、元々自分で工夫してデバイスを環境に合わせることをやってきたということもありますが、インターフェースの設定方法などは、非常に簡単に覚えることができました。基本となる「モダン設定」を作ってしまえば、他のゲームにも応用して調整することができます。

 僕はコントローラーセッティングで、時間がかかったり難しさを感じたりしたことはなかったですね。今日この会場に来て、『ストリートファイト6』をこのコントローラーで初めてプレイしましたが、すごく簡単に適応することができました。これは、コントローラーが優れているからだなと思います。

──「Access コントローラー」で初めてゲームを遊びたいと思っている人たちに向けてメッセージをお願いします!

畠山氏
 「Access コントローラー」は、今までアクセシブルなコントローラーを使ったことがない方であったり、支援者の人であったりしても、最初にゲームをプレイするためのデバイスとして非常に優れていると思います。ゲームを通した交流など、これまでできなかった体験をしていきましょう。

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ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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