株式会社夕暮れによる没入型体験イベント『どこか奇妙な職業体験─虎ノ門ヒルズ清掃員─』が、10月18日と19日に東京・虎ノ門ヒルズにて行われた。

これは、会場となる⻁ノ門ヒルズ内を自由に散策し、清掃員の仕事を疑似体験するというもの。清掃員となった参加者は、各所に落とされたゴミを拾うことで、その背後に隠された物語に巻き込まれていくという寸法だ。

参加者は「どんな汚れも、きれいに!」を合言葉に、虎ノ門ヒルズを巡りながら、散らばるゴミを収集。そしてゴミに残された「怨念」や「迷い」を清掃するという、都会の中心でユニークな“非日常”を体験ができるイベントである。
それではエプロンを着用して、現実と虚構が混ざり合う異世界感たっぷりの職業体験を始めていきましょう。
参加者は自由行動? 好きなペースで見て回れるあまりにも自由なゴミ清掃員体験
「最近、虎ノ門ヒルズで奇妙なゴミが見つかるんです。
誰かのメッセージのようなもの、夜な夜なゴミを拾い集める大きな男を見た、なんて声も。どうか虎ノ門ヒルズを綺麗にしてください──」
虎ノ門ヒルズからこんな依頼が舞い込んだという。
依頼を受けたトワイライトクリーニングは、普通のゴミだけではなく目に見えない「怨念」や「迷い」「幽霊」などを取り除く、架空の清掃会社だ。

参加者は、拾ったゴミに秘められた背景を想像しながら、どうすればゴミにまつわる“想い”が浄化できるのかを考えるのだそう。
今回案内してくれたお姉さんは「とりあえず行けばわかる」と、ユルい説明をしてくれた。なるほどよくわからんけど、なんとなく不安でいっぱいだ。
ゴミを掃除したら、人差し指と親指を広げて下に向け「どんな汚れも」の合言葉とともに、それをビシッとあごにくっつけて「きれいに!」という、妙に軽いノリの決め台詞をやるらしい。
……この職業体験は、子持ちのおっさんである筆者にも容赦がないようだ。

ひとしきりの説明が終わると、お姉さんは「ここから先は、みなさんの心の赴くまま、自由に進んでください。一緒に行動する必要もありません。いってらっしゃーい^^」と送り出してくれた。
そんなわけで、筆者を含む参加者たちは、虎ノ門ヒルズのT-MARKETという、お洒落なカフェや雑貨店が立ち並ぶショッピング街に放り出された。

行き先はゴミが教えてくれる
ここはイベントに関係ない、一般客も往来する商業エリアである。
「自由に」って言われたけど、あまりにも自由過ぎる……。
そもそも、どこに行けばいいのかすら説明がない。参加者たちは一般客に紛れてフラフラと彷徨うしかないのだ。
だが、イベントに参加しているという意識があるからか、この右も左もわからない状況が、なんとなくオープンワールドゲームの開始直後を想起し、ワクワクさせられる。

そんなことを考えながら探索していると、チリひとつ落ちていない虎ノ門ヒルズなのに、ゴミがめっちゃ落ちている一帯を発見。これは明らかにおかしいぞ。
くしゃくしゃにされた紙や、壊れたブローチの破片、手作り感満載のトレーディングカードなど、さまざまなゴミがある。なかでも怪しすぎるのは、林 益彦さんという人が書きかけている離婚届だ。
しかも離婚届はグニャグニャした線で書かれていて、同じものが数枚ある。なんなのこれ……?



「あのー、ひょっとして、“職業体験”の人たちですか?」
突然、同じエプロンを付けた人に声を掛けられる。
「私、トワイライトクリーニングの散り鳥すぐると申します」。
ちょ、誰っ(笑)。

散り鳥さんによると、最近の虎ノ門ヒルズ内では同様のゴミが増えているそうで、とりあえず参加者たちは、ゴミを拾い集めて袋に収集する。
確かに、これは清掃員だなあ。

続いて筆者は、散り鳥さんに促されて“先輩”と呼ばれる人物を探すことに。
「その辺にいる」そうだ。
ほどなく先輩を発見すると、一般客が往来する虎ノ門ヒルズの喧噪を離れ、一般客が入れない別エリアへと案内された。
「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉の先は薄暗い。
これまでの現実的な清掃員体験が一転し、何かが少しずつズレ始める……。
虎ノ門ヒルズの表と裏を行ったり来たり
扉の先を進むと、円卓が置かれた奇妙な場所にたどり着いた。
不気味な音楽が流れていて、T-MARKETの華やかさが恋しくなるような、不穏な雰囲気に包まれている。

そこには巾井直次郎と名乗る人物がいて、これまで集めたゴミについて解説してくれた。
聞くところによると、たとえば先ほど回収した離婚届は、“持ち主の迷い”によって増殖するタイプのゴミとのことだ。

さらに巾井さんは、参加者がもっと入念な掃除をするために、薬を飲むことを促してきた。これを飲むことで、常人には見えない隠された文字や言霊が見えるようになるそうだ。
巾井さんと別れた参加者は、今度は、清掃員が使うという虎ノ門ヒルズの業務用エレベーターへと向かう。
関係者以外立ち入り禁止のエリアに入れる特別感にワクワクする筆者。
そして、20〜30人は乗れそうな巨大エレベーターの扉が開くと、そこには真っ赤なドレスに例のエプロンを着けた女性がいた……。