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まるでオープンワールドを現実世界で楽しめるような没入型体験イベント『どこか奇妙な職業体験ー虎ノ門ヒルズ清掃員ー』レポート

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離婚の危機にある夫婦や、不穏な殺人事件の犯人探しまで、さまざまな人間模様が折り重なる

「これから、アナタたちは47階へ行ってもらうから」
と、エレベーターのボタンを押す女性。

エレベーターが動き出すと、ほどなくして鼓膜が圧迫される感覚を覚える。
どうやら本当に47階へ向かっているようだ。

ちなみにこの女性は黒薔薇さんという名前で、もちろんトワイライトクリーニングの従業員である。名前とは真逆の真っ赤なワンピースが印象に残る。
男性アイドルグループPrismixのファンで、今夜、この虎ノ門ヒルズで彼らのワンマンライブがあるとか、色々と教えてくれる。

オープンワールドを現実世界で楽しめるような没入型体験イベント『どこか奇妙な職業体験ー虎ノ門ヒルズ清掃員ー』レポ_019

そんな会話をしているあいだも、エレベーターには本物の清掃員らしき人やら、首からネームプレートをぶら下げた、虎ノ門ヒルズの一般の従業員さんやらが、どんどん乗り込んでくる。

そういったなか、黒薔薇さんはペラペラと喋り続けている。
普通にいたら、まあまあイラっとしそうな口調なのだが、エレベーターに乗っている他の人は素知らぬ顔のように見える。奇妙だ……。

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黒腹さんがマスクを取ると、その下にはなにやら文字が。先ほど飲んだ薬の効果で、参加者にだけ言霊が見えているらしい

……いや、待てよ。

この人たちは本物の従業員さんのように見えるけど、さっきの散り鳥さんや“先輩”のように、一般人に紛れ込んだ役者さんかもしれないぞ?
そんなことを悶々と考えていると、これがイベントだという自覚が、少しずつはがされていくような奇妙な感覚を覚える。

そして、かろうじて残っていた希薄な現実感は、47階に到着し扉が開いた瞬間、完全に消え去ってしまった。

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47階の壁には、なにやら文章の書かれた大量の紙が、参加者を導くように張られている。黒薔薇さんによると、これらは500〜1000枚にも及ぶ大量の“想い出”の数々だそうだ。

しかも、こんな異様な光景をよそに、一緒にエレベーターを降りた他の人たちは普通に歩いているのだ。いやいやいや、ちょっと待って、これはどこまでが現実で、どこからが演出なんだ!?

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筆者にとって現実と異世界の境界線は完全に藪の中だ。
ここは本当に虎ノ門ヒルズなのか?

イベントが奇想天外すぎて、虎ノ門ヒルズの45階に実家みたいな安心を感じる怪異

この先では、真っ暗な部屋でライトを頼りに壁の言霊を消したり──

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言霊を書いた本人が消したい文字のみが消える仕掛け。ゴミからその想いを予測する

大量の離婚届をぶちまける、ドジっ子の林 益彦さんに再会したり──

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あなたが離婚届を書いた林益彦さん?

佐川まもるさんから想い出の話を聞いたり──

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佐川まもるさんの引率で、従業員用の階段を抜けて45階へと降りる

さまざまな奇妙な出会いを経て、参加者一行は45階の「TOKYO NODE」から、一般客エリアへと帰還した。

このとき、まるで異世界から現実へ引き戻されるような不思議な感触がした。

本来であれば虎ノ門ヒルズの45階は十分に非日常な光景のはずなのに、奇想天外すぎる47階の展開を見た後では、感覚が麻痺して妙な実家感を感じてしまったのだ。
まさか、虎ノ門ヒルズに対して“実家み”を感じる日がくるとは……。

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開放感溢れる45階のアライバルホール。虎ノ門周辺を一望できる絶景スポットだ

この後もさまざまなゴミを回収し、それらに秘められた記憶に触れながら、物語は佳境へと進んでいく。

さまざまな場面で印象的に登場した“赤色”が意味するものとは──
離婚の危機にある林夫妻はどうなってしまうのか──
随所で散見されるトレーディングカードは、誰が何の目的で作ったものなのか──

さすがにイベントの核心部分なので、全部ネタバレするのは野暮だろう。
本稿ではちょっとだけ、写真でハイライトをお伝えしちゃおう。

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違和感満載の監視モニター。よく見ると血まみれの人が倒れていた……
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ロッカーのなかには血痕のようなものが付着した凶器が。どうしてこんな所に……?
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あの人、こっちをひたすらガン見してくる……。怖すぎるからスルーしたいけど、やっぱり関係者なのだろうか
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謎のイノシシを発見。本イベントのシナリオを担当した日向夏先生のペットだそうだ
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イベント中は随所で「どんな汚れも、きれいに!」とポーズを決める。恥ずかしいと思ったら負けだ
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ついに林のり子さんに遭遇した参加者は大喜び。いや、参加していない人にはピンと来ないだろうけど、イベント的には渦中の人である

ほら、写真を見たって全く予測できないでしょ(笑)。
このイベントは、つまりそういう内容なのです。

クリアもなければ成功も失敗もない。オープンワールドゲームみたいな自由さで散歩するイベント

今回イベントを通して筆者が面白いと感じたのは、営業中の虎ノ門ヒルズの表と裏を、ガイドなしで行ったり来たりする自由度の高さだ。まさにクリアを目的としないオープンワールドゲームを、現実でプレイしているような感覚があった。

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普通のイベントなら、運営チームが参加者を隔離したうえで、進行状況を逐次制御したくなりそうだが、なぜそうしなかったのだろうか?

終了後に、本イベントを手がけたクリエイターたちに話をうかがった。
対応していただいたのは、怪談作家の梨氏、イベントの総合演出・脚本を担当した きださおり氏、そして『薬屋のひとりごと』の著者としても知られる日向夏氏の3名。


──現実と演出の境界が曖昧で不思議な感覚のイベントでした。これは意図的なものですか?

きだ氏:
はい。私は、ビルなどの清掃員を観察するのが楽しくて、その感覚を参加者にも共有したかったんです。そこで、虎ノ門ヒルズの実際の営業活動と、イベントの物語がリンクして混じり合っていくと面白いなと思いました。

ですから、本物の掃除の方や業者さんたちが入ってくる様子なども、そのままイベントに取り入れています。

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イベントの最後では、今回の職業体験の報告書を作成する

梨氏:
テストプレイしている時など、普通に業者さんが入ってきたりして面白かったです(笑)。

今回、私は作家として参加していますが、どちらかというとオープンワールドゲームのサブクエストを作っている感覚に近かったと思いますね。

きだ氏:
物語の軸があって、その枝にクエストを埋め込んでもらう感覚は、オープンワールドゲームのストーリーと同じ造りかもしれませんね。

日向夏氏:
イベントの冒頭で、「これは展覧会のようなもので、クリアや成功・失敗はありません」と説明されますが、その自由さがいいですよね。自分のペースで楽しめますし。

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出口の脇にはさりげなくフォトスポットが。小道具の細部にまでロゴが付いていたり、こだわりがすごい

──クリアを目的としないのも、オープンワールドゲームっぽいですね。

きだ氏:
そうなんですよ。
「不思議なことが起こる職業体験をしながら、虎ノ門ヒルズという場所を散歩する」というのが、このイベントを最も的確に表しているかもしれません。

──それでは最後に、このイベントに興味を持った人へのメッセージをお願いします。

きだ氏:
私が過去に手がけたイベントで、「オープンワールドゲームをリアルに体験できた」という感想をいただいて、それってすごく素敵なことだなぁと思ったんです。ですので今回も、自分が清掃員の職業体験に参加した主人公となって、虎ノ門ヒルズのところどころで起こるイベントを、自分のペースで楽しんでくれたら嬉しいですね。

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道中でゲットした「TOKYO NODO CAFE」の割引券。手書き感が満載で冗談みたいだが、本当に使えるそうだ
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100分はまあまあの長丁場なので、最後にカフェで休憩するのもいい

また、虎ノ門ヒルズを管理する森ビルの担当者にも、なぜ“ビルの裏側”を舞台にしたイベントを開催したのかを聞いてみた。

──だって、大都市で「秘密の場所」といえば、ビルの裏側でしょう?

た、確かに。
あまりにも明快過ぎる回答を聞いて、このイベントの最中に感じた非日常感がどこから来るのか分かった気がした。
実は、目に見えている日常の裏側には、非日常の大平原が広がっているのかもしれない。

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本イベント『どこか奇妙な職業体験ー虎ノ門ヒルズ清掃員ー』は、10月18日と19日に一般講演が行われ、大好評を博したという。

そしてこの好評を受け、来年の1月31日以降に、再度イベントが行われることが急遽発表された。本稿を見て興味を持った人は、以下のイベント概要やトワイライトクリーニングの公式サイト、そしてXをチェックしつつ、続報に期待しよう。

チケット発売:2025年10月25日(土)12:00〜
販売URL:https://l-tike.com/twilight.co.jp/cleaning/
※上記のURLは2025年10月25日(土)12:00〜から開通します

実施日時:2026年1月31日(土)〜

場所:虎ノ門ヒルズ
https://maps.app.goo.gl/Tzbfqg2E2rTtf1jW7

チケット料金:¥3,900
※2025年12月31日までのご購入で早期特典あり

清掃体験人数:1人〜
※おひとりでも、お知り合い同士でも参加可能です

制限時間:なし

体験目安時間:約100分
※ご自身の進め方や歩くスピードによって異なりますが、目安としてこの程度を想定ください。



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ライター
フリーランス物書き。面白そうなことはとりあえずやってみる系ライター。趣味は子どもと遊ぶこと。子どもと一緒にゲームやって、ドーナツ食べて、バカみたいに笑うのが生きがい。コミュニティFM局「TOKYO854くるめラ」でパーソナリティーもしています。普段は塾講師。
Twitter:@Ashy256

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