韓国最大のゲームショウG-STAR 2025が、11月13日~16日に釜山で開催された。
今年はNCSOFTがメインスポンサーを務めており、前例のない規模のブースを展開している。しかもこのなかに、200名近くが座れる巨大な映画館まで建設してしまったのだ。こんなの東京ゲームショウでも見たことない!


NCSOFTはG-STAR 2025の開幕直後にここで発表会を行い、HorizonのIPを用いたMMORPG『Horizon Steel Frontiers』(※関連記事)や、日本のKADOKAWAとも協業する『リミットゼロ ブレイカーズ』など5タイトルの最新映像を中心に紹介した。
これらのタイトルに共通しているのは“グローバル展開”である。
NCSOFTは1997年の創業以来、長らく韓国市場をメインターゲットに据えていたが、今後はこれまで以上にグローバル展開に注力する。そのメッセージを大々的に打ち出すべく、G-STARのメインスポンサーに就き、これほどまでのブースを展開したのだ。
そんなNCSOFTが、今回のG-STARで最も強くアピールしていたのが、11月19日にいよいよ韓国と台湾で正式サービスを迎える新作MMORPG、『AION2』である。
AION2が初公開されたのは2018年で、その当時はスマートフォン専用のMMORPGとして設計されていた。だが、2021年に開発体制が丸ごと仕切り直され、新たなコンセプトで再始動している。
そのコンセプトとは、いまや常識となって久しい「スマホに最適化され、オートバトルで誰でも楽しめるライトなもの」とは真逆の、「PCならではの手動操作の醍醐味を追求した、徹底的にコアなゲーム体験」という、にわかに信じがたいものだった。
取材・文/kawasaki
ノンターゲット&移動詠唱によるアクション性が高いバトル
AION2のバトルは、MMORPGでありながら、アクションゲームと言い表すほうが適切なくらい密度の濃いものとなっている。その新たなバトルの根幹となっているのが、「ノンターゲット形式」と「スキルの移動詠唱」の2システムである。
多くのMMORPGでは、マウスクリックを行って敵をターゲットするが、AION2はそれとは別に、画面中央の照準(レティクル)が捕らえている敵を自動でターゲットする、「アクションモード」を搭載している。加えて、従来は立ち止まって詠唱していた大半のスキル/呪文が、移動しながらでも可能なのだ。
ソード ウイングを例に挙げると、ダッシュしながらハルバードをブン回し、まるで竜巻と化しながら狙った雑魚敵を次々と蹴散らす、といった芸当が可能だ。あるいは紙装甲のスペル ウイングのようなクラスでも、常に敵との距離を置きながら呪文を詠唱し続けられる。
敵が大技を繰り出す前の予備動作で数秒間立ち止まったら、こちらは攻撃の手を休めることなく、すかさず後ろに回り込んでバックアタックによる大ダメージを与えられる。ボスモンスターとの戦闘中に雑魚敵がなだれ込んでくるような局面でも、カメラワークを少し動かしてターゲットを切り替え、手早く迎撃できる。
これらの体験は、前作AIONどころかMMORPGジャンル全体を含めても珍しく、ゲームプレイの開始直後は戸惑ってしまった。しかし、それは斬新であることの裏返しでもある。直感的かつ最小限の操作で楽しめ、またバトルギミックにおいても無限の広がりを感じさせられるシステムだ。
ひとつひとつの所作から“品”が感じられる豊かなモーション
AION2のグラフィックスは本当にスゴい。
これは、単純に絵がキレイというレベルの話をしているのではない。AION2のゲームエンジンはUnreal Engine 5を採用しており、同エンジンのタイトルなら絵がキレイなのは当たり前だ。べつに驚きもしない。
そうではなく、キャラのひとつひとつの挙動が、じつに細やかなのだ。しかも、どのような動きをさせても、モーションの切り替わりもスムーズである。
このすごさをテキストで伝えるのは非常に困難なのだが……。
これまでのMMORPGだと、待機状態から移動や攻撃などの別動作を行うときは、モーションが「急に」切り替わっていた。しかしAION2は、急ではなく、2つのモーションが「自然につながっている」のだ。
たとえばスキルA→スキルBと繰り出すと、最初から2スキルが一連のコンボとしてモーションが設計されているように見える。それどころか移動や攻撃だけなく、ジャンプや飛行などのすべての動作、さらには敵味方すべてのキャラクターにも適用されているのだ。
だから、どのような操作を行っても、画面内のキャラはとてもスタイリッシュに見える。
今回の取材中、後ろで見ていたエヌシージャパンのスタッフさんが「やっぱり川崎さんは上手いですね!」と感嘆していたのだが、実際にはひっきりなしに移動しながら、深く考えずにスキルボタンをバシバシと連打していただけである。上手いどころか、内心では「ヤバい、このままだと指がつる!」と焦っていた。
そして、これらひとつひとつのモーションの所作からは“品”が感じられる。
この流麗で優雅な動きが、本作のプレイヤーキャラが人間ではなく、神の祝福を受けて昇華したディーヴァという設定に、このうえなくマッチしているのだ。
「DLSS 4」の効果は圧倒的。思わずハイスペックPCが欲しくなる
これらのグラフィックス効果は、NVIDIAのAIを活用したアップスケーリング技術「DLSS 4(Deep Learning Super Sampling 4)」の恩恵による部分が大きいという。これは簡単に説明すると、既存のフレーム間にAIで予測・生成したものを大量に挿入し、モーションを滑らかするというものだ。
この技術こそが、PCならではの手動操作の醍醐味を追求するAION2のアクション体験を支える原動力となっている。
近年のハイスペックなスマホのなかには、120Hzのリフレッシュレートに対応しているものもあり、一度触れて元の環境に戻れないと感じている人は多いだろう。AION2におけるDLSS 4の効果は、それどころの騒ぎじゃない。少なくともMMORPGのコアプレイヤーが触れれば、1分も経たずに「何かが決定的に違う」と気付くはず。
ちなみに筆者の個人的な趣向は、どちらかというとグラフィックスは二の次で、「スペックに余裕があるなら、んなことより1体でも多くのキャラを表示させてくれ」と考えるようなMMORPG過激派である。そんな筆者が、AION2ではキャラが普通に動くモーションや、ロングヘアーの髪やスカートといった衣装、翼の羽先などの“先端”の揺らぎなどを、まったく飽きずに見続けられる。
そして、もっと意のままにキャラを操り、華麗なバトルを繰り広げ、そして空の果てを目指し飛んでいきたくなる。
今後AION2の日本展開が決定した暁には、DLSS 4に対応したGPUを搭載する推奨パソコンや、120FPS&4Kのディスプレイがバカ売れするだろう。
ガチャやオートバトルは無し。時代に逆行し手動操作を追求
ノンターゲット形式やスキルの移動詠唱が可能なバトル。
普通にキャラを動かすだけで楽しいと感じさせるグラフィックス。
これらを言い換えると、AION2はプレイヤー自身の手動操作による面白さを重視している。
そのいっぽうでAION2は、スマホにも対応していながら、オートバトルを採用していない。
またビジネスモデルに関しても、基本プレイ無料がベースで、利便性の向上を目的としたサブスクリプションが主なものとなっている。ガチャや能力値向上のゲーム内アイテムは販売せず、要するにPay to Winではない。
MMORPGは「スマホでも楽しめるお手軽操作のゲーム内容」、「課金を突っ込んでキャラを強化する」が常識となって久しいが、AION2はそれらに逆行しているのだ。

NCSOFTのスマホ向けMMORPGは、その収益規模を聞けば誰もが横転するほどの巨額の利益を長年出し続けている。そんなゲームメーカーの次期主力タイトルで、このような選択をするのは、人によっては理解に苦しむかもしれない。並大抵の覚悟では踏み出せない一歩だろう。
そして、NCSOFTがAION2を並大抵の覚悟で作っていないのは明らかだ。
しかも、その本気度を実証するかのように、今回のG-STARのメインスポンサーとして過去最大のブースを展開し、グローバルに向けて高らかに宣言しているのだ。
この「選択」がユーザーにどのように受け入れられるのかは、正直なところ予測不能だ。
前作AIONが登場した17年前とは違い、現在は娯楽が世の中にあふれかえっている。そのなかで、AION2が目指すような硬派なMMORPGは、若い世代のゲーマーの多くにとっては「未知の体験」だろう。そういった人に向けて魅力を伝えるのも、間違いなく一筋縄ではいくまい。
しかし、昔ながらのPC向けのMMORPGに傾倒した者として、またオートバトル一辺倒やPay to Winという近年の風潮を残念に思っていた一人としては、NCSOFTの掲げる「コアなゲーム体験への回帰」という挑戦に、どうしようもなくワクワクさせられるのだ。
最後に、G-STAR会場で撮影した、試遊版のミッションのクリア動画を紹介しよう。ただし、この動画では録画時のフレームレートを120ではなく60に設定するという痛恨のミスをしているので、視聴時は脳内DLSSで補完していただければ幸いだ。
ちなみに動画内の音声はAION2の公式サントラの収録曲を使用しているのだが、これはかなりオススメ(※YouTubeへのリンク)。とくに前作AIONの経験者は、冒頭10秒だけでもいいから聴いてほしい……!













