『ドラッグオンドラグーン』や『NieR:Automata』など、独特な世界設定とストーリーテリングを特徴とする数多くのアクションRPGを世に送り出したヨコオタロウ氏。
そんなヨコオ氏の活動範囲はゲームだけに留まらず、舞台劇との関係性も深い。2014年に上演された『ヨルハ Ver.1.0』を皮切りに、10作を超える公演で原作や脚本を担当している。
そんなヨコオ氏が原作と脚本を担当した舞台シリーズ『爆剣』の最新作『爆剣 -新選組疑剣斬-』が、2025年12月4日から8日まで東京・渋谷のCBGKシブゲキ!!にて上演中だ。
本公演では、新選組が生きた1860年代を舞台に、近藤勇、土方歳三、沖田総司を中心とした物語が描かれる。
特定の時代を舞台にしつつ、別時代の人物も入り乱れるのも『爆剣』シリーズの特徴だ。これまでのシリーズでは、平安、江戸、大正、現代など、その公演ごとに様々な時代へと焦点が当てられてきた。
今回は新選組が中心だが、過去に『爆劔~源平最終決戦~』で活躍した安倍晴明、源頼朝、源義経、弁慶も登場する。そしてシリーズを通した狂言回しとして、観客に語りかける説明役を担うヤツメこと鬼一法眼が同様の役回りを演じる。
もちろん、各公演はシリーズ作を知らずとも楽しめるようになっているが、とりわけ今回は題材が「新選組」という限定的な存在なので、よりひとつの劇として没入しやすくなっている。本記事では、公演に先駆けた前日ゲネプロの模様をお届けしていく。
能力バトル、ループもの、活劇……さまざまな要素が混在したオリジナル演劇シリーズ
『爆剣』は、近年の漫画やデジタルゲーム的な文脈の演出のもとで、歴史上の人物が活躍する演劇シリーズだが、特定の原作があるわけではない。
そのため、いわゆる2.5次元の劇に見えながらも、特定のIPに関係しないという意味では、ミュージカルを含む2.5次元の劇ではなく、ヨコオ氏による完全オリジナルの演劇シリーズとなっている。
とはいえ、演出上は古典劇よりも近年の活劇要素が色濃く、ゲームクリエイターとして活動してきたというヨコオ氏の経歴も影響してか、今回の『爆剣 -新選組疑剣斬-』でも、投影映像と合わせた剣技の発動やバトル中の時間巻き戻しといった、デジタルゲーム的な演出が際立っていた。


本作が取り上げるのは、幕末に結成され、数多くの作品のモチーフともなり、いまなおファンの多い武装組織「新選組」だ。歴史上、新選組は鳥羽・伏見の戦いで半壊したが、本作では「自身を含めた隊士たちが何度も死んでは結成当初に戻っている」と副長の土方歳三が気付くところから物語が展開していく。
物語のテーマにおいても、輪廻転生、因果の重なり、時空間のループ性といった、ヨコオ氏が『NieR』シリーズなどで描いてきた要素が頻出するため、氏の作品に触れたことのある方ならばおもわずニヤリとしてしまう内容は少なくないだろう。
一例として、ヨコオ氏が手掛けスマホ向けゲームとして過去に展開された『NieR Re[in]carnation』は、タイトルのリィンカーネーションが輪廻転生という語義を表している。共通した象徴が数多く登場する本作は、ヨコオ氏というクリエイターの半生を追いかけるファンにとって、総括のような作品だと感じられるかもしれない。


しかし『爆剣』シリーズは、ヨコオ氏がゲームで描いてきたものとは明確に異なる表現が中心となっている。それは活劇としての人間ドラマ、それに付随した情動や感情、生の荒々しさや肉体の生々しさだ。
とくに今作はそれが顕著で、物語の中心人物である新選組局長の近藤勇は、土方歳三の木剣による一撃を弾き返すほどの肉体を誇っている。そして、そのような肉体の近藤勇が持つ人間味のある優しさ、正義感、信念が物語を動かし、人々に影響を与えていく。

これまでヨコオ氏の作品では、生々しさの薄い観念的な美のキャラクターたちが、物事の儚さ、世界の壊れやすさ、造物主と被造物の関係性などを表してきた。
一言で言ってしまえば「あんまりご飯食べてなさそうな人が辛い目に遭う(あるいは構造的に食べられない、または人間ではない)」作品が多かった。しかし『爆剣』シリーズは、それらと真っ向から対立する傾向が強く表れている。
とはいえ、もちろんゲームファンが思い描くであろう、ヨコオ氏らしい人物造形も多い。とくに土方歳三と沖田総司が、それぞれ個別の象徴を扱うかのように描かれている。
今作は主人公の概念が薄く、バディものと言えるような進行で近藤勇と土方歳三の物語が展開され、その二人を支えるようにして沖田総司をはじめとした新選組の活動が広がっていく。
近藤勇がヨコオ氏の過去作にあまり見られない人物像である一方で、土方歳三には『ドラッグオンドラグーン』シリーズ的な悲劇的命運、とくに『ドラッグ オン ドラグーン3』で描かれたような極限の激情や殺意が色濃く反映されていた。
新選組の結成時には、近藤勇と近しい素朴な人物像だったが、劇中の輪廻転生に触れたことで、歴史上で鬼の副長と呼ばれたように苛烈な人格へと変わってしまう。
史実で呼ばれていたかはともかく、これは「なぜ鬼の副長と呼ばれたのか?」という歴史解釈への疑問に対して、ヨコオ氏がフィクショナルな要素で応じ、歴史物のファンへ向けてヨコオ氏なりの回答を示してみせた形だ。
これは過去にヨコオ氏が手掛けてきた作品群でもある種“お馴染み”の傾向で、作品によっては、キャラクターやナレーションがプレイヤーに語りかけることも少なくない。
直接観客に作用したり語りかけたりといったキャラクター造形は、演劇というジャンルの手法においては狂言回しと呼ばれることもある。本作ではその役割が鬼一法眼に集積されているが、「キャラクターが、自身のキャラクター性自体を意識し、表現してみせる」という自己言及的な構造は各人物に分散して配置されているようだ。

一番隊組長の沖田総司は、病弱、色白、美貌の天才剣士といった特徴が後世の解釈で繰り返し描かれてきた。そして本公演でも、それらの特徴は受け継がれているが、「なぜ病弱な天才剣士だったのか?」という疑問には、土方歳三の場合と同様に、ヨコオ氏独自の回答が用意されている。

儚い色白の強い剣士という、まさに『NieR』シリーズのキャラクター群と通じた人物像の沖田総司。本公演の核心においても、『NieR』的な要素を象徴する人物として、物語に関わっていく。
ヨコオ氏による新たな表現に加えて、これまでの象徴も散りばめられた本公演。演劇ファンのみならず、ヨコオ氏のゲームファンも要チェックだ。
視覚的な見どころも満載。ヨコオ氏の遊び心が詰まった新機軸エンターテインメント
本作は、ヨコオ氏の作家性を味わうだけではなく、視覚的にもしっかりと楽しめる活劇に仕上がっていた。物語の展開に連動した大胆な照明演出、漫画のように場面ごとに浮き上がる文字の投影映像、演者による圧巻の殺陣など、3時間以上に及ぶ公演のどこを取っても飽きない構成になっている。
今作はミュージカルパートが一切なく、その代わりにアクション重視。外連味たっぷりの陰陽術や剣技から、ピストル、スナイドル銃(ライフル)、コルトM1874ガトリングガン、果ては筋肉まで、あらゆる攻撃手段が総動員されている。
それもそのはず、死んでは時間が戻るというループ性が物語の主軸にあるため、死んだ回数だけ武器や死因が多様化していく、というゲーム的な構造が活劇としてのビジュアル的な面白さと見事に噛み合っていた。





ヨコオ氏の最新の脳内を覗けると言っても過言ではない本公演。『爆剣』シリーズを知らずとも、単体で楽しめる新選組の活劇になっているので、気になる方はぜひCBGKシブゲキ!!に足を運んでみてほしい。
また公式の発表によると、12月7日公演分に関しては昼公演、夜公演ともにニコニコ生放送にて視聴することができるそうなので、遠方におられる方や当日予定があるという方は、こちらもチェックしてみてはいかがだろうか。
12月7日の2公演はニコニコ生放送で、生配信も実施!
— 爆剣 -新選組疑剣斬-【舞台 爆剣】 (@BAKUKEN_ST) November 22, 2025
観てから行くか、観ないで行くか、後から観るか!!!#爆剣 https://t.co/TliftW5tdE
こちらの料金は1公演の視聴チケットが5500円(税込)、2公演を通しで見ることのできるフルチケットが6000円(税込)となっている。タイムシフト視聴は2026年の1月31日23時59分まで可能だ。



