かつて『龍が如く3』に、“神田強”というキャラクターがいた。
同作の主人公・桐生一馬と敵対するヤクザの組長のひとり。同作をプレイしたことのある人なら分かってくれると思うのだが、コイツについてひとことで言うなら、「どうしようもないチンピラ」だ。
女性を暴行し、意味もなく部下をビンタ、気に入らないことがあれば他人の部屋の家具をぶっ壊す。ラブホテルのプールから禿げあがった頭を浮かべ、桐生一馬に不意打ちをする姿は“海坊主”にしか見えなかった。
すごい(?)のは本当に裏も表も何もなくただ単純にクズであることで、悪人なんだけど実は悲しい過去を引きずって……みたいな話が一切ない。冠婚葬祭とかには絶対呼びたくないタイプ。シンプルカスなのだ。
あまりのどうしようもなさから、最後は信頼していた部下にも裏切られてしまう。誰からも好かれる余地のない人物……というのが、筆者が当時『龍が如く3』を遊んでいた時の印象だった。
なのに、その外伝である『龍が如く3外伝 Dark Ties』を遊んでみたら、なんだかコイツのことをちょっと好きになってしまった。
たぶん人間性とかは変わってない。香り立つカスオーラがぷんぷんしている。やたらいかついし、謎に半裸ジャケットなセンスもイカれてるし、近寄らないほうがいいタイプの人間であることは間違いない。それなのに妙に愛おしい感じもしてしまう。
今回は本作『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』を先行プレイした中で新たな一面が見えてしまった、神田強という男について紹介しようと思う。
一緒にプリクラ撮ってくれるアニキ、何度呼び出しても嫌な顔一つしないアニキ。カラオケも真面目にホメてくれるアニキ
あらためて『龍が如く3外伝 Dark Ties』は、『龍が如く3』に登場する人気キャラ・峯義孝を主人公に、彼が極道の世界へと足を踏み入れていく過程を描く外伝作品だ。『龍が如く3』自体のリメイク作と共に『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』として、今年2月に発売予定のタイトルだ。
本編では主人公である桐生一馬の前に立ちはだかる“あの峯”が、なぜ、どんな理由でヤクザの道を選んだのか。その過程を補完してくれる物語になっている。
神田強は、そんな峯をヤクザの世界に引き入れた人物であり、ヤクザ世界における彼の「兄貴分」にあたるキャラクターだ。だが「兄貴分」といっても、その関係は対等でなければ親密とも言い難いものだった。
仲がいいから、信頼しているから一緒に行動しているというのではなく、あくまで“利害の一致”のために隣にいるだけのドライな関係……というのがゲームをプレイしていた時の印象だ。まあ正直半裸にジャケット姿の海坊主にしっとりした感情を抱けというのが難しいとは思う。
思う。思って、思っていたのだが……
ア、アニキーッ!!
い、一緒にプリクラ撮ってくれるんですか!?ポーズまでキメてくれるんですか!?Best Friendsなんですか!?!?
何の説明もなく、なぜか呼び出せてしまう神田。颯爽と現れ、背景を選び、ポーズを決め、何枚も撮れる神田。撮るたびに何度呼び出しても嫌な顔一つせずに来てくれる神田。面白すぎて何度も呼び出していたら、プリ帳が兄貴との思い出でいっぱいになってしまった。峯はなんで神田を呼ぼうと思ったんだよ。
何度も言うが、筆者の知る限り、神田はカスである。尋常一様のカスではなく、救いがたいカスだ。情緒イカレポンチだし、たぶんハムスターくらいの知性しかないし、好きになれる要素は1ミリもない。
いや、プリクラ自体はなにも今作が初めてじゃないし、内心では正直、「『龍が如く』なんだから、そういうトンチキプレイスポットもあるでしょ」と思っていた。思っていたけど、よりにもよって神田強なのかよ。キャバ嬢とかならまだ分かるけどさあ……。
そんな、いっしょにプリクラまで撮ってくれる神田の兄貴なので、もちろんカラオケにも来てくれる。
思ったよりノリノリだな……。
神田のことだし、携帯でも見ながら適当に聞き流すぐらいじゃないのかと思っていたら、想像以上に真面目に合いの手を入れてくれる。峯の歌唱に被らないように気を使ってくれつつ、時々背後で「ええなあ」「魂こもっとる!」みたいな声が聞こえてくるの、正直面白すぎる。しっかり聞いてくれてるじゃん。
「なかなか上手いやないか」と言われると、困ったことにちょっと嬉しくなってしまう。
これまで「ただのチンピラ」だと思っていた相手だけに、急にこんなふうに距離を詰められると、感情が迷子になってしまう。だめだね……。
『龍が如く3』の峯って、常に神田の言動を一歩引いた位置から観察していて、そこに情や信頼が介在しているようには見えなかった。その前提を知っているぶん、街中で並んで歩き、何気ない時間を共有する場面が、妙に歪んで見えてくる。というか落ち着かなすぎる。
もしかして、あの神田にも、ちゃんとアニキをやろうとしていた時期もあったのではないか。そんな考えが、頭をよぎってしまった——。
クズだけど、ちょっとだけイイところもあったのかも。クズだけど……
もちろん本作は神田とカラオケにいったりプリクラを撮ったりするだけのゲームではない。あれらはあくまでオマケ的なお楽しみ要素だ。
だからといって神田はオマケ的にしか絡まないのかというと、そんなことはない。峯の話なんだから当然と言えば当然だが、神田はメインストーリー以外でもめっちゃ出てくる。その中のひとつが「神田カリスマプロジェクト」だ。
要するにこれ、街の人たちにどうしようもないクズとしか思われていない神田の評判を、少しでも良くするために峯が奔走する、というサブクエスト的なもの。
神室町で発生しているさまざまなトラブルなどが「善行クエスト」や「カタギレスキュー」といったミッションになり、それをクリアしてその手柄を神田に着せることで、ちょっとずつ神田の評判が上がっていくという仕組みだ。

達成可能なミッションは誰かのお願いを聞いたり、いかつい人たちをシバきあげたりとさまざま。
「なぜ自分がこんなアホみたいなことを……?」という疑問こそ湧き上がるものの、小さなトラブル解決などにもちゃんと報酬があり、こなしていくうちに「なんだかんだ神田って部下のことしっかり見てるのかも」という気もしてくる。
さらにこの神田カリスマプロジェクト、ランクを上げていくことで峯と神田の関係を描く日常のドラマも覗くことができたりする。
たとえば初回にカリスマランクを上げた際には、日々神田のために粉骨砕身している峯をねぎらうため、おすすめのソープ《大欲情》に連れてきてくれる。いくらなんでもチョイスがカス過ぎる。
峯、めちゃくちゃ嫌そう。(それはそう)
付き合わないと機嫌が悪くなりそうだし、一応行くか……というテンションでやっては来るものの、到着するやいきなり帰りたそうにしている。かわいそう。
ここに限らず、峯は神田とのやり取りでは直接反論したりすることは少ないものの、心の中でツッコミを入れていることが多く、涼しい顔で結構ひどいこともたくさん考えている。といっても実際にはなんだかんだ言って神田に付き合っているし、別にピリピリしているわけでもない。なんだか妙な雰囲気だ。

『龍3』では、神田は始終誰かに怒鳴り散らし、周囲を威圧する印象しか残っていなかったし、峯はそんな神田を冷ややかな目で見ていたという印象だったので、こんな風にふたりが会話することもあるんだなと思うと、ちょっと新鮮だ。
もしかして神田もイイ兄貴分なのかもという気も、してくるような気がしないこともない。ゲイン・ロス効果※かもしれない。
そしてそんな2人なので、修学旅行中の中学生みたいな会話もしちゃう。
※最初にマイナスな評価を持っておくと、あとから受けたプラスの印象がより強く意識されてしまう心理現象のこと。ヤンキーが野良猫を拾うアレ
海坊主が急に乙女みたいな反応するなよ怖いだろ。
不覚にも神田にちょっと「可愛いな」と思ってしまった自分が怖い。
峯はすっとぼけた選択肢を選んでも顔色ひとつ変えずに滔々と嘘みたいな(というか100%嘘しかない)セリフを話し出すので、ついつい面白くなってアホな選択肢を選んでしまうのだが、「お前がこんな反応するのかよ……!」しか詰まっていなくてプレイしながら爆笑していた。
このあとのやり取りで特に気になったのが、「俺がホンマに人助けしたら、またなんか違う感覚になるのんかのう」と言い出したこと。あの神田が、あの神田が!
何度も言うようだが、神田はクズだ。これまで相当の悪行をやってきているし、なんなら仲間のヤクザたちにも嫌われている。天地がひっくり返っても改心とかしないタイプの悪人だ。
このセリフにしても、会心の兆しがあったり、人助けに価値を見出したりしたとかいうわけでもなく、ほんの少しだけ、自分の行動が周囲にどう映るのかを意識しただけのことだろう。
そんなどうしようもないクズだと知っているのに、ときどき「あれっ?」と自分の中の「神田観」が揺らいでしまい、どうにも憎めないヤツになってしまっているのを感じてしまうのだ。やはり『龍が如く』は、人情のゲーム、なのかもしれない。
一方、桐生一馬は“最高のパパ”に……
ひたすら神田の話、ひいては『龍が如く3外伝 Dark Ties』の話ばかりしてしまったのだが、同作は単体ではなく、『龍が如く 極3』とセットで1本になっているタイトルだ。もちろん筆者はそちらも試遊してきた。
こちらは『龍が如く3』のリメイクにあたる内容で、キャストさんの変更や琉球スタイルといった戦闘アクションの追加など、リメイク前と変わったところはいろいろあったのだが、一番印象に残ったのはアサガオでの生活がかなり濃くなっていたことだ。
アサガオというのは、主人公の桐生一馬が管理する児童養護施設のこと。前作で極道を引退した桐生は、そこで子どもたちの面倒をみている……というのが、『龍が如く3』のあらすじだった。
リメイク版である『極3』ではその要素が強化されており、子どもたちの宿題を見たり、料理や家庭菜園のお世話、お裁縫まで、さまざまな家事にミニゲームとして挑めるようになっている。
なかでも印象深かったのが裁縫のミニゲーム。一体どんなシステムでお裁縫をミニゲームに……?と思っていたら、まさかのレースゲームみたいな仕様。ライン取りを意識しながらミシン針を動かしていくゲームになっていた。
画面向こうに見える桐生ちゃんの真剣すぎる顔も笑えるのだが、「俺はチャコペンの魔術師」「Beautiful」「だだだだだだだ!」(音声ママ)など、ネジの外れたセンスの掛け声がところどころに入ってくるのもやたらと笑いのツボを刺激してくる。そして結構ムズい。
ミニゲームとして遊べる家事は、どれひとつ取っても特別な出来事ではないのだが、そのどれもが桐生一馬が子どもたちを守る「父親役」を真剣に務めようとしていることを感じさせるものだった。
こうしたお世話を積み重ねていくことで子どもたちとの絆も少しずつ深まり、それによって子どもたちから秘密の話を打ち明けられたりして、さまざまなエピソードが見られるようになるのだという。
またアサガオの自室では着替えも可能で、その種類が豊富だったのも地味に嬉しいポイントだった。沖縄と言えば定番の「海人」(うみんちゅ)Tシャツを初め、愉快なものから真面目なパパっぽいものまでいろいろ。
桐生を“極道”ではなく“保護者”として着せ替えられる感覚があって、見た目を変えるだけで、アサガオで過ごす時間の温度が少し変わるのが面白い。今回は最高のパパを目指したいという意気込みで「最高の父」Tシャツを着てみた。
まあただ、実際には常に完璧な父親でいられるというわけもない。小学生のさんすうを間違えたり、ミシン操作を間違えて雑巾を血まみれにしてしまったりと、失敗もしてしまう。大事なのは、完璧な父親であることではなく、完璧な父親であろうと努力を続けることなのだ。
ダメでもいいし、ダサくてもいい。それでも自分にメゲることなく、父親らしくあろうと努力を続けていきたい。子どもたちとの生活を通じて、そんなことを考えたりした――。
大事なのは、完璧な父親であることではなく、完璧な父親であろうと努力を続けることなのだ。






























