学校へ行こう!『ファーミングシミュレーター』をプレイしに!
電ファミ編集部ではときどき変なイベント(?)に出向いたりするのですが、今回我々がお邪魔したのがこちら、東京都立農産高等学校です。
昭和23年創立、東京東部地区唯一の農業高校で、農業をはじめ様々な分野で活躍する未来のスペシャリストを育成しているという学校です。
なぜ? とみなさん思ったかもしれないのですが、筆者が一番そう思ってます。なぜ?
それはですね、こちらの学校に『ファーミングシミュレーター 25』がやってくるからです。
もちろん、授業で使います。

「授業でファーシミュを使う!?」というとなんだかすごいことが起こった感じなのですが、実は本作、ガチ農家の方々が集まる農業イベントに出展したりとかもしてるので、今さら農業高校くらいでは驚きません。むしろ収まるべきところに収まった趣すらあります。
というのも、本作『ファーミングシミュレーター 25』「超」がつくレベルでリアル志向な農業シミュレーションゲーム。
どれくらいリアルなのかというと、まず農地や農機(トラクターとか)を買うところからスタートするくらいリアル。作物の種だけではなく農機具や肥料を揃え、トラクターで畑を耕し種を播種、時期がくれば収穫。場合によっては加工して出荷まで。なんだこれ労働か?
そんなわけで、今回は『ファーミングシミュレーター』学園編です。農業の未来を覗いてきました。
執筆/恵那
これ思ったより本気(マジ)のやつだったな
みなさん「農業」はお好きでしょうか?
好きとか嫌いとか聞かれても困る、という感じじゃないかと思います。私もそうです。
大事だってことは分かる。よくは知らない。「食料自給率の低下がー」とか「担い手不足がー」なんて言われてもいまいちピンとこない。
とりあえず季節にあわせた種を撒いて、適度に水をあげとけばいいんじゃないの?
もちろんそんなわけはありません。
リアル世界には病気もあれば害虫もあり、肥料やら農機具やらをどうするという問題もある。
リアル農家の方、もしくは電ファミ的には『天穂のサクナヒメ』※とか遊んだ方はご存知かもしれませんが、我々にとって身近な「お米」だって育てるのは簡単じゃない。採算がとれるようにするのはもっと難しい(らしい)。
※『天穂のサクナヒメ』
えーでるわいすが開発した和風アクションゲーム。なぜかものすごく本格的なお米作りができる。農林水産省の公式サイトにある「お米の作り方」のQ&Aがゲームの攻略に役立つ、として話題になった。実は今回取材している農研機構さんがアニメ制作に協力している。
かの天空の王女さまも「人間は土から離れては生きられない」、と申してはおりますが、とはいえ現代人は土に触っている時間よりも液晶タブレットに触ってる時間のほうが1000倍長い。
でも、ご安心ください。液晶画面の中で農業を学べちゃう方法があるんです!
そう、『ファーミングシミュレーター 25』ならね。
すげ〜〜。
これ『ファーミングシミュレーター』ですよね? なんか自動車教習所とかで見たことあるんですけど。
ちなみにこちらのセット、『ファーミングシミュレーター 25』本体(6578円)+HORI製の専用コントローラー(5万4980円)+Tobii社製のアイトラッカー(約300USドル弱)+モニター(約30万円)。めっちゃ豪華。
モニターは大きさもさることながら、通常の平板なものではなく、左右が緩やかなカーブを描いているため、これで『ファーシミュ』をプレイすると、より農機の運転席に座っているような感じに。
あとすごいのが、段ボールの上に貼り付けられてるアイトラッカーで、プレイヤーの視線を感知してゲームの視界が上下左右に振れるという優れモノ。
しかもこれ、ゲームを改造しているとか特殊な仕様を加えているわけではなく、全部『ファーシミュ』にもともと備わっている機能なので、機材さえ揃えればみなさんのご自宅でも再現できちゃいます。
生徒さんたちにプレイして貰う前に、校長先生も自ら試運転。
普通に楽しそうだし遊んでいるようにしか見えないかもしれませんが、もちろんただ遊んでいるわけではなく大事なチェック作業です。
ちなみにこれらの機材は、今回の授業を担当される農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)の後藤一寿先生が用意されたもの。
『ファーミングシミュレーター25』を見て「これは革新的なものだ!」と惚れ込み、ドイツで開発元のGIANTS Softwareの方に会ってミーティングまでしたらしい。行動力の塊すぎる。
これだけ聞くと「ゲーム好きのおじさま……?」みたいに感じるかもしれませんが、農業経済学の博士号に加えてイギリスのMBA(経営学の修士号)までお持ちのガチ博士の方です。
このへんから、「なんかとんでもないとこに取材に来ちゃったな」という気がしてきました。ちなみに会場になった教室には、この研究を共同で実施している東京農業大学の大久保研治教授もいらっしゃいました。
高校生が『ファーシミュ』を遊んでるところを眺めるだけの取材だと思ってたら、これ本気(マジ)研究だったな。
ちゃんと「農業」の授業が始まってしまった
そもそも今回の授業の発端になった「農研機構」さん、食にも農にもそんなに興味のない筆者みたいな人間にとってはあんまり馴染みのないところかと思いますが、簡単に言えば農業に関する技術研究を行っている国立の研究機関。
有名どころで言えば、「シャインマスカット」やリンゴの「ふじ」といった品種を生み出したのも、この農研機構さんです。
ということで……

現役の農業経済学博士の方による『ファーミングシミュレーター』の授業が始まりました。どういうことでしょうか。
が、思っていたよりちゃんと農業の授業が始まりました。無学で失礼なライターで本当にすいません。
まずは今回『ファーミングシミュレーター』をプレイしてもらう理由からしっかり説明する、というわけですね。
ざっくりとお話の内容をまとめると、現在の農業は、大きく6つの課題を抱えているらしい。
①担い手の減少 :農業を辞めてしまう人が多い
②輸入作物の増加 :海外からの安い農作物が多い
③所得の減少 :農業だけではそんなに儲からない
④気象変動のリスク:台風や大雪など自然災害が増えている
⑤技術継承の断絶 :ベテラン農家の知識や技術が消えてしまう
⑥耕作放棄地の増加:誰も耕していない農地が増えている
これに対して農研機構が進めているのが、いわゆる「スマート農業」と呼ばれる、農業分野でIT技術を活用していくこと。AIによってトラクターや田植機を自動運転で働かせたり、スマホで水管理ができるシステムなどの研究開発などを行っているらしい。
『ファーミングシミュレーター』の活用もその一環です。費用や農地の問題などでなかなか触る機械が少ないトラクターなどの農機を動かしたり……というだけではなく、季節ごとにどんな作物を植えればいいのか、またどんな作物がどのくらい収益性があるのか、といった農業の「経営」についても遊びながら学んでいける、ということに着目されているとのこと。

現実世界の機械や田畑を、仮想世界にそっくりそのまま再現することで、現実では何度も繰り返すことが難しい「農業」を手軽に練習・研究できるようにする「デジタルツイン」という考え方を推進しているらしいです。
なんだかものすごく勉強になる。
授業なんだから当たり前といえば当たり前ではあるのですが、『ファーミングシミュレーター』について話しているのだと思うとなんだか妙な感じです。
おまえ、そんなにすごいやつだったのか……!
自動車(トラクター)教習所、始まる
そんなこんなで実際に生徒さんたちが『ファーミングシミュレーター 25』プレイ。
今回はクボタのトラクターにでっかい機械(名称不詳。筆者の農業知識に期待しないで)をつけて畑を耕したり、イセキのコンバインで稲刈りをやってみることに。
楽しそう。
自動車教習所でシミュレーターを動かしたことのある方は分かると思いますが、あんな感じです。もしくはゲーセンのレースゲームとか『戦場の絆』※とか。ペダルを踏んでハンドルやレバーを操作、畑の中に入ったら機械を稼働させてごうんごうんと耕していく。
※『機動戦士ガンダム 戦場の絆』
かつてゲームセンターなどに置いてあった、リアルなコックピットの中でガンダムを操作できるゲーム。とても楽しい。
ペダルの踏み具合によって速度を調整したり、アイトラッカーが視線を感知して画面がくるくるうごいたり、なかなか難しそう。特にぐるっと車両をUターンさせる操作が大変そうでした。
生徒さんたちに応援されながら先生も運転に挑戦してみたり、休み時間にもみんながあつまってワイワイしながら運転したり。「すごい!」「リアル!」「首が回る!」(?)などなど、いろんな歓声が飛び交っていて、見ているこっちも面白かったです。

一見すると遊んでるだけ……というか遊んでるだけではあるのですが、遊びであるからこそ勉強になる、ということらしい。学校の先生にお話を伺ったところでは、授業の中でも実際に農機を運転する、という機会はそれほど多くないのだそう。
個人的に印象に残ったのが、生徒さんが無茶な運転をしてトラクターを崖下に落っことしてしまったとき、後藤先生が「こういう体験も現実では危ないけど、ゲームの中でなら安全に学んでおける」とおっしゃっていたことです。なるほどね〜〜。
なんやかんやで、2コマ、約1時間半ほどで授業は終了。授業後には生徒さんたちからのアンケートを回収していました。
後藤先生は今回のような授業を通して生徒さんたちに実際にゲームを触ってもらい、その生の声をデータとして収集・分析することで、『ファーミングシミュレーター』の教育効果について実証しようと考えておられるのだとか。
授業後に、実際に今回の体験に参加した先生や、指導された後藤先生からのお話も少しだけ伺ってきたので、こちらもあわせてご紹介します。
授業後インタビュー:「デジタルツイン」としての『ファーミングシミュレーター』
──本日はありがとうございます。私個人としてもすごく面白い授業でした。
さっそく先生にお伺いしたいのですが、今回実際に生徒さんたちが『ファーミングシミュレーター』を触っている姿を見て、いかがでしたか?
平柳伸幸校長(以下、平柳校長):
私自身もやってみましたが、本当に「擬似体験」ができると感じました。実機を体験する前の導入として、非常に教育効果が高いものだと実感しています。
──そもそもの話なのですが、どうして『ファーミングシミュレーター』を使った授業をやってみようとお考えになったのでしょうか?
平柳校長:
新聞記事でこの『ファーミングシミュレーター』を使ったイベントの記事を読んだことですね。「これならふだん難しいことを擬似体験できるのでは」と思い、検証をお願いしたのがきっかけです。
本校の園芸デザイン科に通う生徒の中には、将来、農業の担い手になりたいという希望を持っている方もいます。ただ、都心の学校ということもあり、農場が狭いのがネックです。トラクターなどの大型農機を実際に実習で扱うのが技術的に難しい面がありました。
──確かに、現実ではできないことがデジタルの中でなら体験できる、というのがゲームの強みですね。
後藤先生にもお話をお伺いしたいのですが、まずは改めて「農研機構」というものがどういったものなのか、読者の方に向けて簡単にご説明いただけますでしょうか。
後藤一寿先生(以下、後藤先生):
農研機構は、日本の農業や食べものについて研究している国の研究機関です。そのはじまりは1893年(明治26年)にできた「農事試験場」で、今年(2026年)で133年の歴史があります。
簡単に言えば、日本の農業技術や品種を開発しているところですね。シャインマスカットやリンゴの「ふじ」などの品種開発が有名ですが、最近はデジタルと農業の融合についても力を入れています。
──「農業」についての研究機関がデジタル分野にまで取り組まれている、というのは個人的にすごく驚きでした。
後藤先生:
最近ではAI研究を盛んにやるチームを作ったりもしていますね。少し前には「農業版」ChatGPTみたいなものを作ってリリースしました。農業に関連する質問をすると、それに答えてくれる、というものですね。
研究範囲は広くて、畜産や食品の研究から、農業機械やロボティクス研究をしているグループまで、いろいろなことに取り組んでいます。いわゆる「研究者集団」というよりは少し尖った人が多いので、読者の皆さんの中にも、農研機構に関心のある方がいれば、ぜひ就職を検討してみていただきたいです(笑)。
──当たり前ではあるのですが、「農業」に対して真摯に向き合われている研究機関ですよね。それがどうして、『ファーミングシミュレーター』を研究に取り入れようと考えたのでしょうか?
後藤先生:
『ファーミングシミュレーター』との出会いは、2017年頃、私がオランダに駐在していた時です。ヨーロッパでの大型農機展示会(SIMAパリやアグリテクニカなど)に行った際、その会場で子供たちが『ファーミングシミュレーター 17』を夢中でプレイしているところに出くわしたんです。
すぐ後ろに本物の巨大なトラクターが並んでいる会場で、それを実際に動かす体験ができる。この光景に大きな衝撃を受けました。そうしたら最新作では日本製の田植機やコンバイン、そして「水田」まで導入されていて、しかもその機械ってうち(農研機構)が開発に関わっているものだったりするわけです。
「これは日本の農業研究や教育に活かせるな」と思うようになりました。

──そうか、日本の農業機械であれば、農研機構さんもなんらかの形で関わっていますよね!
後藤先生:
そこで役員にこれをプレゼンしたんですが、それがなかなか大変で、「お前、これゲームじゃないか」と(笑)。説明に苦労したのですが、このゲームがいかに画期的なものであるかを丁寧に説明して、なんとか今こうやって研究としてやらせていただけることになりました。
──確かにゲームであることは間違いないですからね(笑)。
後藤先生:
そうなんです。オフィスにファーミングシミュレーターのセットも作って実際に研究しています。周りから見ると、副センター長が遊んでる!みたいにしか見えませんからね。確かにゲームなんだけど、これで研究してるんです!って(笑)。
──授業の中で、『ファーミングシミュレーター』を単なる農業機械のシミュレーターとしてではなく、農業経営のシミュレーションとしても使おうとされている、というのもすごく面白いと思いました。
後藤先生:
授業でもお話した「デジタルツイン」という考え方ですね。現実の農場や機械をゲーム内に再現し、そこでシミュレーションを行う、というものです。
現実の農家の方というのは、農業従事者であると同時に経営者でもあります。どんな作物を組み合わせるべきか、どんな時期にどんな作業をしたら収穫が増えるのか。経営を成り立たせるためには、考えるべきことがたくさんあり、絶えずそのための意思決定を迫られるわけです。
ですが、農業の現場でそれを「試す」ことができるのって、1年に1回だけなんですよ。たとえばお米なんかでもそうですよね。そして、その1回の決定を間違えてしまうと、収入がなくなってしまいます。
──失敗のリスクがすごく大きいわけですね。簡単にはリトライできないぶん、間違ってしまったときのダメージも大きい。
後藤先生:
そうです。ですがゲームの中なら、たとえば1週間の中でも1年分のサイクルを何度も試せます。現実世界で起こりうることを仮想空間の中で何回も擬似体験できるので、「農業経営のセンスを磨く」ためのトレーニングができるわけです。
「この時期だったらその作物じゃなくて、こっちの作物のほうが利益率は高いな」っていうことを、色々試せますから。人からのアドバイスも貰いやすいですしね。
──なるほど。『ファーミングシミュレーター』の活用方法にも、いろいろな可能性がありそうですね。
後藤先生:
僕が『ファーミングシミュレーター』に大きな可能性を感じた理由のひとつなのですが、これはゲームなので、いわゆるMODの機能を使って、自由に拡張することもできますよね。
──というと、農研機構さんの方でMODを作ってみるようなことも検討されているんですか?
後藤先生:
実はいま取り組んでいるものがありまして、システム会社さんと契約して、農研機構が持っている畑を再現したMODを作っているんです。その仮想空間の中なら、農研機構の技術は全部体験できますよ、という展示会場みたいなものを目指しています。
今まさに取り組んでいる先端の機械や技術みたいなものもMODとしてゲームに落としこんで、農研機構が作った技術や、シャインマスカットのような品種も実装する。そうやって日本中の、あるいは世界中の農家の皆さんが、新しい技術を自由に試せるようにしたい、というのが将来構想です。
──うわあ、すごく壮大なプロジェクトですね!
後藤先生:
教育の分野では、安全教育についても、より拡張することもできるのではないかと考えています。たとえば農機を操作するときに、間違った操作をすると確実に横転してしまうようなシチュエーションを再現してみる、といった具合ですね。
今日の授業でも崖から落っこちた生徒さんがいましたが、現実であれをやっちゃうと大事故ですからね。いざというときに失敗しないために、「こういう操作をすると転倒するな」、というのを事前に教える良い機会にもなるんじゃないかと思っています。
──MODの機能が遊びだけではなく「学び」の拡張にもなる、というのは目からウロコの視点でした。本日は貴重なお話をありがとうございました。
というわけで、『ファーミングシミュレーター 25』を活用した農業専門学校での特別授業についてのレポートでした。
「授業」とは言いながらやっぱりゲームを遊んでいるわけで、なんだか不思議な光景でした。「たかがゲーム」でありつつ、ゲームだからこそ気負わず遊びながら学べる、ということの利点が光っていたように思います。
ちなみにこの『ファーミングシミュレーター 25』、こうしている現在もどんどん要素の追加が進んでおり、つい先日の3月24日にも新たな農機などを収録した拡張パックVREDO Packがリリース。最新の技術などもゲーム内に取り込まれてきているようです。
新たにハリケーンや雹といった自然災害、作物被害を引き起こすイノシシといった脅威なども追加されています。日本的にはハリケーンではなく台風ですが、こうした自然災害なども日本で農業をする場合には避けて通れないもので、リアルなゲームプレイにさらなる厚みができそうです。
なお『ファーミングシミュレーター 25』はPCやPlayStation 5、Xbox Series X|S向けのソフトですが、Nintendo Switch /Nintendo Switch 2に向けては、『ファーミングシミュレーター 23: Nintendo Switch Edition』の後継作となる最新作、『Faming Simulator 26』が今年2026年の5月19日(パッケージ版は5月21日)に発売予定。
新たに導入された「チャレンジシステム」はゲームのガイド役にもなっており、「小麦を製粉所へ運び、パン工場でケーキを生産する」といった生産チェーン構築などにも挑戦できる。多彩なタスクへ挑戦しながら、自身の成長をより実感できる農業体験が楽しめるとのこと。
本作でも120種類を超える、実在の有名メーカー製の農機が登場。畑仕事から森林作業、家畜の世話まで、幅広いゲームプレイに対応しているということです。
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