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一生に一度しか遊べないゲームを、一生忘れない空間で──360度没入のマダミス新店舗『マダミスシアターMyMy』をレポート

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マーダーミステリー(通称:マダミス)という遊びを知っているだろうか。

電ファミニコゲーマーの読者であれば「ボードゲーム」「テーブルトークRPG」「人狼ゲーム」といった遊びはなじみ深いと思う。マダミスはそのどれとも似ていて、どれとも違うジャンルのエンターテインメントだ。

マダミスでは、参加者全員がそれぞれ「登場人物」のキャラクターシートを手渡され、謎を推理していく。参加者は探偵でも傍観者でもなく、物語の「中の人」として動く。

ゲームを通じた大きな目標──多くの場合は犯人捜し──は存在する。だが、推理が外れて犯人がわからなかったとしても、「あのシーンでのあいつの演技がヤバかった」「あの推理は鋭かった」「あそこの嘘は全然見抜けなかった」といった体験そのものを楽しめる。
結果だけでなく、経過も味わえるゲームだ。

マダミスはオンラインでもオフラインでもプレイできる。ただ、従来のオフライン店舗には少しだけ「壁」があった。
雑居ビルの4、5階、エレベーターなし。遊びとしての面白さは折り紙付きなのに、空間が「すでにやっている人の場所」に見えてしまう。マダミスを知らない友人を誘っても、その入口でひるんでしまうのだ。

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──そんな問題意識から生まれた店舗が、4月3日にグランドオープンを迎えた「マダミスシアターMyMy(マイマイ)」である。

「マダミスシアターMyMy」は、体験型エンターテインメント企業・株式会社Sallyとマダミスクリエイターチーム・週末倶楽部が共同で立ち上げたレーベル「Le Tsubo(ルツボ)」が運営する、360度没入空間のマダミス専門店舗だ。

今回、筆者は株式会社SallyのCEO・平石英太郎氏と店長の藤本ふらんく氏に話を聞きつつ、実際にプレイヤーとしてシナリオを体験した。マダミスの未経験者でも分かるように本稿でレポートしよう。

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左から『マダミスシアターMyMy』店長の藤本ふらんく氏、SallyのCEO・平石英太郎氏

取材・文/咲文でんこ
編集/kawasaki

そもそも「マダミス」ってなんだ?

まずはマダミスの基本から振り返りたい。。
プレイするシナリオによって若干異なるのだが、大まかな流れはこうだ。

各プレイヤーが自分のキャラクターの背景・動機・秘密が書かれた資料を読み込む。その後、テーブルを囲んだ参加者同士で会話し、情報を集め、推理を深めていく。そして最終的に、「犯人は誰か」を投票で決める。

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各プレイヤーが資料を読み込み、そのキャラクターを演じる

マダミスには多くのゲームと決定的に異なる特徴がある。
「プレイするシナリオは、一生に一度しかプレイできない。」

理由はシンプルで、シナリオの犯人やトリック、真相を知ってしまえば、そのシナリオは2度と楽しめないからだ。マダミスには「初見の感動」しかない。だからこそ、最初の体験の質がすべてを左右するのだ。

TRPGとの違いで言えば、TRPGはGMが世界を即興で作り続ける自由度が魅力だが、マダミスは用意されたシナリオの中でキャラクターとしてどう動くかがカギになる。台本なしのアドリブという点は共通しているが、「物語が最初から終わりまで設計されている」のがマダミスの特徴だ。

人狼ゲームとの違いはもっとわかりやすいかもしれない。人狼も「役職を持った参加者が議論で犯人(人狼)を探す」という構造は似ている。しかし、決定的な違いが二つある。

1つ目は「情報の非対称性」だ。
人狼では「村人」「人狼」「占い師」など役職は決まっているが、キャラクターとしての背景や動機はない。マダミスでは「被害者と因縁のある元恋人」「遺産目当ての親族」など、一人ひとりに固有の物語と秘密が設定されており、議論の中でその「人格」を演じることになる。

人狼が陣営の論理で動くゲームなら、マダミスは個々のキャラクターの感情で動くゲームだ。

2つ目は「何度でも遊べるか否か」だ。
人狼は同じメンバーで何度でも繰り返せる。マダミスは先述の通り、シナリオの真相を知った瞬間に「その物語」は終わる。この一回性が、プレイ中の真剣さと、終わった後の余韻の深さを生んでいる。

では、誰がどんな場所で遊ぶのか。その幅は意外と広い。
オンラインでもプレイできるし、オフラインでもプレイできる。プレイヤーも友人グループ、職場の同僚、あるいは見知らぬ人同士ということもある。

マダミスは作品ごとに人数が異なり(4人〜8人程度が多い)、前述の通り1度プレイしたシナリオはもう遊べない。そのため「誰かを誘って参加する」文化が自然と生まれる。

平石氏はこう語る。「気がついたら友達が300人できちゃうんですよ。今日はこのメンバー、明日はこのメンバーって感じで、どんどん人を誘ったり誘われたりがカジュアルに起きるんです。」

平石氏によると、日本にマダミスが上陸したのは2018年ごろ。以来、現在は国内に約50店舗が存在する。オンラインプラットフォームのUZU(同社運営)ではシナリオ作家が脱サラして生計を立てるほど市場が育ってきた。

中国では3万店舗を超えるほどのマーケットに成長しており、アジア全体でも「体験型エンタメ」の中核を担いつつあるという。

しかし平石氏は、日本のマダミス市場についてこう分析する。「なんとなくじんわり浸透したぐらいの頃で、爆発力はそんなにない状態。今はTRPGの1ジャンルになるのか、物語のジャンルになれるのかの間にいる感じです。」

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今回の取材では店長の藤本ふらんく氏がGMを務め、短めのオリジナルシナリオをプレイした

「何もないからどこにでもなれる」360度の没入空間

筆者のマダミス経験はオンラインセッションのみで、店舗型のプレイは今回が初めてだった。他の内覧会参加者たちとともに、プレイヤーとしてシナリオを体験した。

フロアに足を踏み入れた瞬間から、驚きが続いた。あらゆる場所にが配置されているのだ。
これは「これから役に入り込む」という感覚を演出するための設計で、舞台袖で最後に姿を確認する役者の視点を体験者に与えるコンセプトだという。

セッションルームは2室(シアター1・シアター2)。テーブル中央からはプロジェクションマッピングが投射され、各プレイヤーの役名や「相談フェーズ」「調査フェーズ」といった進行状況が直感的に表示される。ゲームに不慣れな参加者でも、流れに乗ってプレイできる設計だ。

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テーブル中央にプロジェクションマッピングが投射される

特筆すべきは音響だ。
採用されているのは8.1chサラウンドシステム(下4ch・上4ch・ウーファー1)。プレイ中、右側からガラスが割れる音が、左側から誰かが動く気配が聞こえてくる。思わず音のした方向に視線が向く、という体験が何度もあった。

オンラインでは絶対に体験できない、「音に方向がある」という感覚が、没入感を段違いに引き上げていた。

このシステムを手がけたのは、元チームラボのメンバーと小劇場音響のプロが組んだチームだ。さらに楽曲は、スマブラSP(大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL)のメインテーマ「命の灯火」の作編曲でも知られるノイジークロークによるオリジナル書き下ろしだという。

音響と並んで印象的だったのが、の演出だ。安定した照明に加え、プレイヤーにピンスポットライトが当たる。まさに演劇の舞台に立っているような感覚だ。

藤本店長は、このスポットライトについてこう語った。「人生でスポットライトを浴びる瞬間って、ほぼないじゃないですか。でも、マーダーミステリーをプレイしているあいだは、自分が輝ける瞬間だと思うんですよ。」

そしてもうひとつ、印象的だった設計思想がある。「この空間には何もない」ということだ。360度を黒いカーテンが囲み、余計な視覚情報はすべてカットされている。

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360度、黒いカーテンで囲まれており余計な情報は一切入ってこない

平石氏は没入感の本質をこう語る。「没入感って、パッと考えると全面LEDとかセットとかを想像すると思うんですけど、そうではないと思っています。没入感は内的なもので、音と光で自分の想像する世界に入り込める場所を作りたかったんです。」

藤本店長もこう続ける。「ここって何もないんですよ。何もないからどこにでもなれる。小説に『絶世の美女』と書いてあったら、読む人それぞれが違う顔を想像するじゃないですか。そういう、見えないものを見てもらうための空間です。」

実際、プレイ中は「入口がどんなだったか」を思い出そうとしなければ思い出せないほど、セッションに引き込まれた。想像以上の没入感だった。

1/50の投資でも店はできるのに、なぜこだわったのか

マダミス店舗は、1部屋とプリントアウトがあれば開業できるという。平石氏によれば「MyMyにかけた1/50の投資でも、店舗は作れる」という。
つまりMyMyでは、マダミス業界の標準をはるかに超えた設備投資を行っている。それはなぜか。

平石氏はその理由を率直に語った。
「友達を誘って連れてきても『あ、ここか……』って顔をされることがあった」と平石氏は振り返る。初めての人がワクワクしたまま帰れる空間を作るために、MyMyは標準をはるかに超えた投資を選んだ。

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さらにUZU(同社が運営するオンラインマダミスプラットフォーム)のデータが、この確信を後押しした。単位人口あたりのマダミス店舗数とUZUユーザー数には強い相関があり、オフラインの拠点が地域のマダミス文化を育てることが数値で示されていたのだ。

平石氏は上海のマダミス店舗も視察し、多くを学んだという。
GMが会場から姿を消し、外部から音響・照明をコントロールすることで「自分の発言に合わせて演出が変わる」という体験を作っていた先進的な事例があった一方、壁一面に印刷された世界観の壁紙が3年で劣化してしまうという教訓も得た。MyMyの「何もない黒い空間」という設計は、こうしたリサーチの産物でもある。

平石氏はMyMyをこう位置付ける。「テラスハウスのようなリアリティーショーで、メンバー同士がちょっとオシャレな場所に行くシーンがあるじゃないですか。あのポジションにMyMyが入っていければフェーズが変わると思っています。推理ゲームっぽくしたくないし、頭のいい人がやる遊びのイメージも出したくない。『7人グループで、2段も3段も仲良くなりたいならあそこに行こうか』という場所にしたいんです。」

仲のいい友達を、自信を持って連れてこられる場所に

そのイメージが示す通り、MyMyが想定するメインターゲットはマダミスのヘビーユーザーではない。「マダミスをある程度知っている人が、まだ体験していない友人を誘う場所」として設計されている。

藤本店長はこう話す。「例えば、友達にオススメのRPGを聞かれたら、自分の中のベストオブRPGを勧めたいじゃないですか。それと一緒で、マダミスを一緒に遊ぼうってなった時に、『行けば絶対面白いから』って思ってもらえる場所を作るのが今の仕事だと思っています。」

平石氏もこう続ける。「『この人とマダミスを継続して遊びたい』と思って連れていった店のシナリオが微妙だった時、自分の信用も失われるんですよ。だからMyMyはシナリオも空間も、自分のメンツが確実に立つ場所にしたいんです。隠れ居酒屋みたいに『こんなところ知ってんの?』ってなる場所というイメージですね。」

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そのためMyMyでは、作品ラインナップについても妥協しない方針を打ち出している。外部からの作品導入は厳選し、公演される作品はすべて品質を担保するという。

また、「一生に一度しかプレイできない」という体験を記録として残す「シネマティックログ」というサービスも用意されている。プレイの様子を録画し、後から振り返れるパッケージだ。
オンラインではDiscordのボットで自動録音が当たり前のように行われているが、オフラインでは初の試みに近いという。

このサービスは、平石氏自身のあるマダミス体験から着想を得ている。「互いのセリフが刺さりすぎて、参加者全員が号泣しながら終わった回があったんです。でも、そんな稀有な体験をしても、後から振り返れないのがすごくもったいない。記録を残すというニーズがあると思ったんです。」

MyMyが目指す未来はマダミスを「文化」にすること

MyMyはフラッグシップ店舗としての位置づけである。ここを起点に、商業施設内への出店、路面店展開など、オフラインでの展開を広げていきたいと平石氏は語る。

一方で平石氏は、「自分たちだけが儲かる」ことへの執着がないとも強調した。「MyMyが儲かることを発信していくことで、日本のマダミス店舗の基準が上がるといいなと思っています。いろんな場所がちゃんと投資した店舗を作るための呼び水になりたい。そうなれば、この遊びが文化になるために必要な店舗が日本中に増えていくと思うんです。」

藤本店長が目指すものは、もっとシンプルだった。「自分の一番仲のいい友達を、自信を持って連れてこられる場所にしたい。それだけです。」

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今回、実際にプレイヤーとして体験した筆者が最も印象に残ったのは、「初対面の人と、こんなに深く話せるんだ」という驚きだった。演じる役を持つというだけで、普段では絶対に出ないテンションで、知らない誰かと深く話せてしまうのだ。

マダミスは一生に一度しか遊べない。
だからこそ、その一度を迎える空間が問われる。
MyMyはその問いに、正面から答えた店舗だ。

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ライター
ドリームキャスト版の『ファンタシースターオンライン』に出会い人生が変わる。以来、数々のオンラインゲームやメタバースを含む仮想空間で20年以上の生活をしており、インターネット上のコミュニティに関心が高い。
Twitter:@denpa_is_crazy/

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