イマージョンではなく「イロージョン」──ARGの本質は“新しい物語表現”
平氏:
「第四境界ってなんなんですか?」と質問された時に僕らが頑張って説明するのは、「イマーシブとは違う」という部分です。
みんなやっぱり、「イマーシブ」とARG、第四境界の区別が未だについていない、あるいは区別をしていない。そんなことが多い中で、「イマーシブじゃなくてイロージョン」と説明するわけです。その違いについて、もう少し説明していただいてもいいですか。
藤澤氏:
あまりにも説明が面倒だと、「謎解きゲームですか」と聞かれてつい「まあそうです」と答えてしまう時もあるんですけれど(笑)、やっぱり本質的には謎解きゲームとは違うんです。
もともと『ドラゴンクエスト』を作っていた僕が、なぜ今ARGに携わっているのかというと──やっぱり「まだ世の中にない新しい物語表現を生み出したい」という思いが一番強かったからなんです。その結果として、今この第四境界、ARGという場所に辿り着いているわけです。
僕は、一度たりとも「謎解きゲームを作った」と思ったことはありません。「新しい物語表現の開拓・追求」をしていると思っているんです。だから「ARGってなんなんですか」と言われると、本当にこれしかないのですが──「新しい物語表現です」と答えます。
僕の中では、第四境界はどこまで行っても「物語を表現する手法」なんですね。
平氏:
その中の手法の一つとして、「謎がある」ことが一人称性や自分事性を高めるギミックとして非常に有効なんですね。だから、結果として謎解き的なものになりやすいというだけで、謎解きとは違うものも企画としてはいっぱいあります。
藤澤氏:
そうですね。物語を届ける以上、頭を使ってもらったり、自分事のように悩んでもらったり悲しんでもらったりするのは、やっぱりセットになります。ですから、どうしても作品には謎解き的な要素が含まれることが多いですね。
第四境界もこの間、3月31日で丸2周年を迎えました。今は3年目で、まさにいろんなものを作っているフェーズに入っています。この2年で20作品ぐらい作ったので、ものすごい量産をしているチームだとは思いますね。
作品によっては、既存の虚構に近い作品もあれば、極めて現実に寄せている作品もあります。第四境界作品と言っても、同じことをやっているわけではないんです。さっき言った「虚実軸」で説明すると、「グラデーションのどこに置かれているか」が作品によって違う、ということになりますね。
「同じことを2回やらない」──藤澤氏が第四境界に課した「呪い」
平氏:
今回、いろいろとややこしいことを語ってきましたが、一方で「なんか面白そうだからやってみよう」という軽さも第四境界のいいところです。そこも大事にしたいなと、プロデューサーとしては思っております。
藤澤氏:
これは本当に思うところがありますね。
第四境界というチームは、基本的には「同じことを決して2回やらない」と決めています。まれに続編のようなものを作ることはありますが、極めて例外的です。僕はよく、これを自分たちにかけた「呪い」だと言っています。
一番わかりやすい例で言うと、先ほどの『人の財布』に続く僕たちの代表作で『かがみの特殊少年更生施設』という作品があります。最近では「ウェブ探索型ARG」と言われるものですね。
どういう体験だったのかというと──ただの健全で平和なウェブサイトだと思ったら、よく調べていくと表向きの顔とは違った新しい物語が見えてくる、という手法です。
先ほど、「今、多くの人がARGを作るようになっている」と言いましたが、彼らはこの「ウェブ探索型」で作っている方が多い。そうなってくると、僕たちももう1回作りたいという思いはありながらも「もうやらない」と決めている。
「いいじゃん、やったって」とたまに思う時もあるんですけど──第四境界って今、本当に大勢の人に応援されているチームで、それは「いつも新しいことをやって驚かしてくれる」というところに対する「信頼感」があるからなんじゃないかなと思っているんです。
だから、そこは裏切りたくないなと思っている。プロデューサー側の意見はさっきありましたが、ディレクター側の意見としては、こんなふうに考えていますね。
体験は一過性。だからエンタメは「常に新しくあるべき」
平氏:
単純にビジネスとして考えると、完全新作やオリジナルよりは、有名なものの続編のほうが売れていたりしますし、広めやすいというのもあるんです。
でも一方で、僕らが作っているのはエンターテインメントです。これは藤澤さんともよく話すんですけれど、エンターテインメントというか「体験」って、「一過性」じゃないですか。
どんなにすごい体験でも、2回目になるともう味が半減してしまう。だからやっぱり常に新しくあるべきだと思います。「毎回それでなくてはならない」というところまで突き詰めてしまうとちょっと苦しいけれど、基本的にはそうあるべきなのかなと思います。
藤澤氏:
そうですよね。僕は長年『ドラクエ』のチームにいたじゃないですか。だから、ずーっと『ドラクエ』のディレクターをやっていた視点から見ると──1990年代の後半ぐらいから2010年ぐらいまでの15年間ぐらいは「新しい発明や挑戦が世の中に通じづらい時代だった」って、思うんですよ。
でも今はそうじゃない。皆さんが手にしているテクノロジーは毎日進化するし、環境がずっと変わっていく。それに伴って、世の中が「新しいことやってるやつ」を応援してくれている時代が来たんじゃないかな、というふうに思うんですね。
そして、インディーゲームというものは今や、こういうイベントになるぐらい多くの人に受け入れられている。これも、時代が変わったことのひとつの証明なのかなと思っていて。
そういう時代だからこそ、僕らが「発明する」ということを諦めないでこれからもやっていこうと思うし、アイデアがある限り、その「発明の先にあるびっくり」を作り続けていけたらいいなって思っています。
平氏:
エンターテインメントは一過性のもので、常に新しいものが求められると、みんな頭ではわかっているんです。ではなぜそれができないのかというと、半分以上はやっぱり「お金がかかるから大変だ」とか、金銭的な理由が大きい。
それに対して、ゲームに対しても、インディーゲームみたいなものが盛り上がることによって、「挑戦のしやすさ」とか「発明することに踏み切れる環境」みたいなものがいろんな形で整ってきて、ここまで大きくなっています。
いろいろ議論もありますけれど、これが生成AIなどによって、より「小さく、鋭く作る」ことが求められて発展していくのかなと。第四境界もこれに遅れないように、負けないように頑張らないといけないのかなと、個人的には思っております。
藤澤氏:
(Tシャツを観客に見せながら)今日ちょっと着てきたんですけれど、これ、第四境界の新作Tシャツなんです。じつは第四境界のアパレル、よく売れてくれます。
これはなぜなのかというと、もちろん第四境界の作品に対する愛情もあると思うんです。でも、それ以上に、僕たちの「挑戦する姿勢」や「発明する姿勢」に対して、第四境界というものを「箱推し」してくれているところがあるのかなと思っています。ですから、今後も頑張っていきたいと思っております。
平氏:
そろそろ時間ですけれど──今回藤澤さんはこのBitSummitにご自身で作られているインディーゲームの出展を兼ねて来られています。最後に、そもそもなぜ藤澤さんがインディーゲームを作っているのですか、という話を聞いて終われればと思います。
藤澤氏:
ありがとうございます。『Pain Pain Go Away!』というタイピングゲームなので、お時間ある方は触ってもらえたらと思います。
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第四境界を作っているチームって、若いんですよ。若いからこそ「いろんなことを経験してほしい」という思いがあります。
うちは小さな会社なので、そんな大きいゲームは作れない。だから、インディーゲームからちょっとずつやっていこう、と考えました。その成長していく過程の第一歩がこのゲームだと思っているんです。割とよくできたんじゃないかと満足している作品なので、ぜひ遊んでいただければと思います。よろしくお願いいたします。(了)
藤澤氏が6年間ARGに携わってきた末に体系化した「虚実軸」という新概念。それは、“物語と体験の境目”を説明する尺度であった。
そして、その尺度を「どこまで自分ごとに近づけられるか」という挑戦が藤澤氏の率いる第四境界なのだ。ARGというジャンルの裾野を広げたブランドは2026年3月で2周年を迎え、これまでに発表した作品群は約20を数える。
BitSummit PUNCHでは最新作である『人のゲームカセット』もお披露目され、今後も注目が集まることが予想されるが、藤澤氏は現時点での「現実」への到達度は「50%」であるという。さらに、その時点で「ARGの限界がこの辺なのではないか」という発言もあった──これは、ARGの先鋒を走り続けてきたクリエイターの言葉として、率直に印象的だった。
しかしその一方で、「体験」を生み出すARGというジャンルは確実に広がりを見せている。その波を感じているからこそ、藤澤氏は現実と虚構が入り混じった体験が「次なるファンタジーの潮流」として次々と生まれてくるのではないかという予感を語ったのだろう。
果たして、第四境界は我々に「50%の先」を見せてくれるのか。それが、「いつも新しいことをやって人々を驚かせる」彼らの次なる挑戦と呼べるのかもしれない。



