『夜廻』というゲームを知っているなら、『夜廻』というゲームが “怖い” と知っているなら、この問いを抱いたのではないだろうか。
あの『夜廻』シリーズを手掛けたクリエイターが、なぜ「田舎で農業をするゲーム」を作っているのかと。
郷愁あふれる田舎の村「彼ヶ津村」を舞台に、“表向き” は農場づくりのスローライフが楽しめる生活シミュレーションゲーム『ほの暮しの庭』。
ホラーゲームを作ってきたクリエイターが作る生活シミュレーションゲームだなんて、どう考えてもホラー要素が入るに決まっている。しかし、筆者はホラーが苦手である。
そんな筆者でもスローライフを満喫できるのだろうか?
そこで今回、メディア向けの試遊会に参加する機会をいただき、実際にゲームをプレイしてその答えを確かめてきた。先に結論を書いておくと、本作にはいわゆるジャンプスケア的な怖さはない。日常の些細な違和感が積み重なり、やがてプレイヤーが疑心暗鬼になるという心理的なホラーテイストの比重が大きい。そのため、ホラーが苦手な筆者でも思っていた以上に遊べてしまった。
また、短い時間ではあったが、本作の企画・ゲームデザインを務めた溝上侑氏と開発責任者の勝又美桜氏ら両名へのインタビューも行っている。あわせてご覧いただきたい。

ホラー要素より、“生活シミュレーション” がゲームの中心にあるらしい。……本当に?
「ホ、ホラーかぁ……」
苦手なジャンルを前に、緊張しながらゲームをスタートさせた筆者。かつて『バイオハザード』のゾンビにビビり倒して、プレイステーションの電源コンセントをぶっこ抜いたほろ苦い記憶がフラッシュバックする。

ほら、やっぱり暗いじゃん! 不気味じゃん! だってあの『夜廻』シリーズを手掛けたスタッフが作る新作だもん。そりゃあそうでしょう。
ところが、どうやら本作『ほの暮しの庭』はホラー要素より、“生活シミュレーション” がゲームの中心にあるタイトルらしい。……本当に?
それを裏付けるかのように、ホラーが苦手なプレイヤーでも遊べる「あんしん暮しモード」が搭載されている。このモードでは直接的なホラー表現が抑えられ、名実ともに「生活シミュレーション」としてスローライフを満喫できるというのだ。……本当に?
そこで半信半疑ながら「あんしん暮しモード」が適用されたセーブデータでゲームを遊んでみた。
えっ、明るい! 本当にスローライフゲーじゃん!
畑でせっせと農作物を育て、釣りに出かけたり、山奥で狩りをしたり。収穫物を村に納品して換金しつつ、その資金で農場をさらに広げていく伸び伸びとした日常暮らし。
その合間に道具を作ったり、家畜の世話をしたりと、やることは完全に生活シミュレーションのそれである。もちろん、村の住人たちと交流するのも楽しみのひとつだ。ひょっとして、お化けはほとんど出てこない……!?
本作は『夜廻』の開発チームが手掛けたといっても、ゲーム体験のすべてに恐怖が行き渡るような「ガチホラー」ではない。ただし、公開中のPVを見てもらえばわかる通り、深夜の村に魑魅魍魎が跋扈するというのは事実。
とはいえ、そうしたホラー要素が備わっていても、どちらかと言えば日常の些細な違和感が積み重なって不安へと変容し、やがてプレイヤーが疑心暗鬼になるという心理的なホラーテイストの比重が大きい。
そのうえでプレイヤーが「あんしん暮しモード」を適用すると、「ホラー」要素の大部分がさらにマスクされる。「生活シミュレーション」要素とのあいだに明確な境界線が生まれるようになるわけだ。
「あんしん暮しモード」では、彼ヶ津村が発する “闇の気配” をほんのり察しながら、お気楽にスローライフを続けている……という状況に等しい。言い方を変えれば「見て見ぬフリが許容されている状況」といったところなのだろうか。



そんな彼ヶ津村だが、作中ではいくつもの掟が存在している。本来はスローライフを続ける中で、物語や村の真実に迫り、掟そのものと相対することになるのだろうと思う。
しかし、この「あんしん暮しモード」はそもそも掟を破ることができない。
それがプレイヤーをホラーから遠ざけている大きな理由になりそうだが、逆に物語がどう展開されていくのかと、見せ方の観点はかなり気になる。残念ながら試遊時間の都合もあり、そのあたりを細かく検証するにはいたらなかった。
ちなみに、本作の農場要素はやたらと本格的。さすが「ホラー」より「生活シミュレーション」を前面に押し出すだけはあると思う。
農具で土を耕し種を巻き、水やりを続けて農作物を育てる。さらに家畜から卵や牛乳を採取しつつ、お世話になった家畜を売ってしまうといったことだってできる。集めた鉱石や木材等の自然資源を使えば、農業を円滑に進める便利な道具だって制作できるだろう。
限られた試遊時間ではあったが、生活シミュレーションゲームとしてのこだわりや手触り感は肌身で感じ取ることができた。「あんしん暮しモード」さえあれば、ホラーが苦手な筆者でも、不安ひとつ感じることなく農業に励めそうだ。だってぜんぜん怖くないから。
ちなみに、試遊会では怖いもの見たさに「あんしん暮しモード」を切った状態でのゲームプレイも体験している。冒頭でも書いたとおり、筆者のようにホラーが苦手でも思っていたよりは遊べそうだった。ただ勘違いしてほしくないのだが、まったく怖くないわけではない。
不気味な音響とともにバケモノがジリジリと迫ってくれば、そりゃあ怖いに決まっている。
掟を破ってまで外出した深夜の彼ヶ津村は、当然ひとっ子ひとりいないわけで、もはや妖怪の大運動会状態である。



今回は局所的な深夜の探索パートを体験する程度だったが、製品版ではどのように深夜時間の探索が絡むことになるのだろうか。
筆者としては、さっさと布団の中に帰りたいところだが、果たして村に跋扈する妖怪たちはすんなりと家に帰してくれるのか。否、意地でも布団の中に帰ってやる。
触りでのゲームプレイとなったが、村人たちの不穏な会話と深夜に出現する妖怪、そして何か “ワケあり” な主人公など、気になるところは盛りだくさん。謎の数々をにおわせる感じがミステリーやサスペンス的でもあり「気になるなぁ」と好奇心が煽られる作風であった。











