経済産業省が始めた大型コンテンツ支援策「IP360(正式名称:コンテンツ産業成長投資支援事業)」。
この取り組みは、日本のアニメ、漫画、ゲーム、音楽、映像などのコンテンツ産業を、国内向けから「世界市場で収益を生み出す構造(輸出産業)」へと転換し、2033年までに海外売上高20兆円を目指すという、国家目標を背景に立ち上がったプロジェクトである。
日本の次の成長産業として、コンテンツ産業に注目が集まるのは、いちファンとして、また同じ業界に属する人間としては嬉しい限り。
これはぜひ前向きに進めていってもらいたいっ!などと思うわけだが、その第一回公募の結果が発表されるや否や、ネット上で物議を醸す事態となったのは、記憶に新しいだろう。
なかでも、とりわけ大きな火種になったのが「DeNAのスマホゲームに15億円」という報道だった。
「資金力のある大企業になぜ公金を入れるのか」という批判が噴出し、経産省がXで説明するなどの対応を行う事態に。「DeNAに15億円」という言葉が、制度全体の是非を語る記号のように独り歩きした。
ネットで争点になったのは大企業への支援だけではない。
採択企業の顔ぶれ、分野ごとの偏り、大企業ではなくてインディクリエイターこそ支援すべき!といった意見など、さまざまな議論にも発展していったわけだが、そうした一方で、実際のところ「IP360」がどういうものだったか?について、その内訳や詳細についての議論は少ないようにも思う。
そこで今回は、公開された資料を基に、その採択された内訳や傾向などを数値と共に分析。そして、そこから読み取れる情報を整理してまとめてみた。
IP360は、実際には何を選び、それはどういうものだったのか?
申請1,709件・採択162件を9つのメニューと分野別に分解してみると、物議を醸した数字の奥から、また少し違う構造が見えてきた。
文/TAITAI
※本記事の元となっている資料の調査&作成は、補助金申請のサポート事業を行っているミラレソ株式会社さまにご協力頂いています。
採択率はわずか9.5%──ただし、“制度の失敗”ではない
というわけで、まずは全体の数字から押さえたい。
IP360第1回は、全9メニュー合計で1,709件の申請に対して、採択162件──採択率にして9.5%だった。
この数値は、一般的な補助金制度と比較すると、非常に少ない数値。要するに採択されるのが難しい補助金であったということが言える。
比較対象を並べてみると、その異質さがよく分かる。
小規模事業者持続化補助金(第18回)が47.5%。デジタル化・AI導入補助金(2026年1次)が46.3%。ものづくり補助金(21次)が34.1%。中小企業向けの主要な補助金は、概ね3件に1件から2件に1件は通る世界である。
つまり、IP360の9.5%は、その1/4〜1/5に相当する。かなりの狭き門であったことが伺えるわけだ。
なかでも、IP360の中で最も申請が殺到したメニュー1「創風」(スタートアップ・個人向け、補助上限1千万円)は、819件の申請に対して採択34件──その採択率は実に4.2%と、主要補助金の約1/10という水準だ。
ただ、念のため付け加えると、これは「制度が失敗した」という話ではない。
むしろ逆で、IP360の前身にあたる「JLOX(コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金)」から予算が3倍以上に拡大したにもかかわらず、申請の伸びがそれを上回った。1,709件という申請数は、この制度の認知が業界の隅々まで行き渡ったことの裏返しでもある。
今回の取り組みは、政府側の予想を超えて、より大きな注目を集めていた──この採択率は、そう読むべき数字だと思う。
30億円の枠は35.7%、1千万円の枠は4.2%──逆転のカラクリは「競争密度」
IP360が非常に競争の激しい補助金だったのは間違いないのだが、その内枠を分解してみると、また違った構図が見えてくる。
というのも、一般的な補助金では、「金額が大きいほど難関になる」ものが多い。実際、小規模向けの持続化補助金が47.5%で、上限5億円の成長加速化補助金が16.3%と、金額と採択率はきれいに反比例する。
ところがIP360では、これが逆に見える。
全9メニューを補助上限と採択率で並べると、以下のようになる。
30億円の枠が35.7%で通り、1千万円の枠が4.2%しか通らない。上限2億円のメニュー7では58.3%──2件に1件以上が通る計算だ。
誤解してほしくないのは、これは「大きい枠のほうが審査が甘い」という意味ではない、ということだ。
カラクリは「競争密度」にある。
メニュー7は4社以上の共同出展が要件。メニュー5は流通プラットフォームの運営実績が事実上の前提。メニュー3には法人としての実績要件と製作費の下限がある。
つまり大きい枠ほど、そもそも「申請できる事業者」が限られている。土俵に上がれる者が少ないから、結果として採択率が高く出る。
一方のメニュー1「創風」には、参入要件がない。誰でも出せる。だから819件が殺到し、4.2%という数字になったわけだ。
個人や小規模チームも挑戦しやすいメニュー1「創風」と、企画開発を支援するメニュー2「新規IP企画」。このふたつを合わせると、申請は1,236件。全申請の約72%が、IPを新しく生み出す入口の2枠に集中したのである。
コンテンツ産業は、常に新しい挑戦が求められる分野なわけだし、もしIP360の次の取り組みがあるならば、ここはもう少し厚くしてもよいメニューだったと言えよう。
ゲームは全分野最多の43エントリー。それでも「大手ばかり」ではなかった
では、アニメ、ゲーム、音楽などの各分野ごとではどうだったのか?
駆け足で見ていこう。
公表された採択者一覧を分野別に延べ集計すると、ゲーム関連は43エントリーで全分野最多だった。
内訳では、メニュー1「創風」が15エントリーともっとも多い。大規模作品製作、開発プラットフォーム、ローカライズにも、それぞれ7エントリーが並んだ。インディーから大手、作品制作から開発基盤、海外展開まで、幅広く採択が出ている。
公表された採択者一覧では、創風のゲーム採択15エントリーのうち8件が、法人名ではなく個人名で掲載されている。大型枠では大手企業が目立つ一方、入口の枠では小規模な作り手も採択されている。制度全体を「大手だけの支援」と括るのも、実態とは少し違うわけだ。




