『ファイナルファンタジーXI』(以下、FFXI)は、2002年に正式サービスを開始した、24年もの歴史を持つMMORPGである。
その長い歴史のなかに、「モバイル版」が開発されていた時期があった。
残念なことにプロジェクトは頓挫したのだが、もしあれが実現していたら──海外発のPay to Winの波に侵食されない、日本独自のスマホ向けMMOの市場が醸成されていたかもしれない。
筆者は今でもたまに、そんな世界線を妄想する。
──あれから、約11年。
当時とはまったく違った形で、FFXIの冒険がスマホでも遊べるようになった。
ダンジョンRPG『Wizardry Variants Daphne』(以下、ダフネ)で現在開催中の、FFXIとのコラボイベント「闇深き幻想の城」である。
「なんでFFXIなの?」
多くの人が驚き、そして戸惑ったのではなかろうか。
このコラボは、いったい何を意味しているのか。
偶然(?)、両作を深く識っている筆者が、しばらく実際にプレイしたうえで解説しよう。
文/kawasaki
※この記事にはコラボイベントのネタバレが多少含まれています
「闇の王」の憎悪が、ダフネの世界に染み出す
今でこそ当たり前となっているが、FFXIはMMORPGのジャンルに「濃密なストーリー」を本格的に持ち込んだ作品である。
拡張データディスクが出るたびに新たな長編ストーリーが展開され、そこでドラマを繰り広げる主要キャラたちの姿は、いまもプレイヤーたちの脳裏に刻まれている。

今回のコラボでは、そのヴァナ・ディールの住民たちがダフネの世界にやってくる。
いったいなぜか。
発端は、ひとつの城である。
FFXIにおける闇の王の居城・ズヴァール城。
その影響を受けたダンジョン「北穿の幽霊城」が、ダフネの世界に突如あらわれたのだ。
さらに闇の王の憎悪は城の出現にとどまらず、ダフネの一部住民──とある領主の一家を蝕んでいく。そのお家騒動を調査すべくダンジョンへ赴く。こういう流れだ。
そして、闇の王の憎悪に対抗すべく、ザイド・プリッシュ・イロハの3名の冒険者が力を貸すことになる。この3名こそが、今回ダフネにプレイアブルキャラとして冒険に加わる面々だ。
彼らがFFXIでいかに生き抜いたのか。それだけで記事を何本か書けるくらいのネタがあるのだが、本稿では思いっきり割愛し、FFXI未経験者でも分かるようにスクショ1枚+キャプションで紹介しよう。

ガルカの暗黒騎士。FFXI無印のミッション(2002年)では、闇の王の正体と、自らの種族・ガルカに課せられた宿命を追い続け、要所で主人公を導いた。
その寡黙な格好良さに惚れてガルカを選んだプレイヤーは最大MPの少なさに、暗黒騎士を選んだプレイヤーはパーティー勧誘の少なさに、それぞれ心が折れかけた。業を背負うとは、そういうことである。

拡張データディスク第2弾『プロマシアの呪縛』(2004年)における物語の中心人物。「タブナジアの忌み子」と呼ばれ、ある呪いによって少女の姿のまま歳を重ねており、口より先に拳が出るタイプ。
実装当初のプロマシアミッションは絶望的に難しく、筆者のまったり派のフレンド数十名がこれを機にFFXIから去った。プリッシュに罪はない。

FFXIストーリーの集大成と謳われた『ヴァナ・ディールの星唄』(2015年)のメインヒロイン。滅びゆく未来のヴァナ・ディールから時を遡ってやってきた若きサムライで、冒険者を「師匠」と慕う。
星唄の発表時は最終章と謳われており、これでFFXIが終わってしまうのかという絶望感が広がっていた。その空気のなかで登場した彼女は「終わり」ではなく、「希望」を運んできたキャラクターだった。
北穿の幽霊城には、闇の王やズヴァール城とともに、この3名以外のヴァナ・ディールの住民たちも姿を見せる。そして彼らもまた、闇の王の憎悪に汚染されていく。
それに立ち向かう術は──FFXIのミッションがそうであったように──「希望」である。
彼らがどのような人物だったのか、こちらも紹介しよう。FFXIプレイヤーなら、ひとりひとりにさまざまな思い出があるはずだ。

FFXI無印のミッションの重要人物。海賊の娘を自称する快活な女性で、闇の王をめぐる事件の裏側を単身で追い、要所で主人公の前に現れては手がかりを残していく。
出会いはいつも一方的で、こちらが名前を呼ぶ間もなく去っていく。そして彼女が去った後には、決まって次の目的地だけが残されている。ヴァナ・ディールの冒険者は皆、あの背中を追いかけて世界の果てまで走らされた。

『プロマシアの呪縛』の重要人物で、プリッシュとは幼馴染にあたる歌姫。争いを好まない心優しい性格で、その歌はプロマシアミッションの物語全体を貫く鍵となっている。
筆者にとってプロマシアはつらい思い出の塊だが、あの長い長いミッションの果てに、ウルミアの歌声とともに迎えたエンディングだけは別格である。あの歌を、去っていったフレンドたちにも聴かせたかった。

『プロマシアの呪縛』に登場する、東方の島国・ひんがしの国から来たサムライ。世界の危機を告げる凶兆を追って単身ヴァナ・ディールに渡り、プリッシュたちと行動を共にすることになる。
いつかFFXIのアップデートで、テンゼンの故郷である「ひんがしの国」の街並みを直接目にする日がくるのだろうか。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
リンク、NM、そして「終身刑」──FFXIの再現が細かすぎる
ひとくちにコラボイベントといっても色々あるが、今回は「キャラやダンジョンをFFXIから借りてきた」レベルではない。ダンジョンRPGであるダフネ上に、別ジャンルであるFFXIのMMO的な各種システム・設定を詰め込んでいるのだ。
これが、もうやたらと細かい。細かすぎる。
たとえば、MMORPGの「リンク」の概念を、ダンジョンRPGのダフネに落とし込んでいる。複数の敵がアクティブ(ミニマップ上で赤色)になった状態で戦闘を開始すると、援軍が登場する仕組みで、これが結構痛い。
そのほかにもかなりの工夫が感じられ、元ネタ(FFXI)を知っている人ほど微笑ましく映ること請け合いだ。
不定期で出現するNM(ノートリアスモンスター)はダンジョン移動中の画面で視認できる。遠目のシルエットに思わず胸が高鳴るのはFFXIで骨の髄まで刻まれた条件反射だ
右画像は「派遣」から戻ったパーティの活動記録。どうやら他のパーティが発生させたトレインに巻き込まれたらしい。こんな理不尽なMPKまで再現しなくていい
それらの再現システムの最たるものといえるのが最強クラスの武器シリーズ「レリック」だ。
本家FFXIのレリックは、その比類なき性能と、鍛える手間の途方もなさで知られている。レリック以降もミシック、エンピリアンといった同格の武器シリーズ(総称してRME武器)が続々と実装され、それらの終わりなき素材集めは、プレイヤー間で「終身刑」と呼ばれていたほどだ。
ダフネのレリックも、「短剣・片手剣・両手剣・両手刀・両手杖・弓・盾」のベース武器を獲得し、素材を集めて鍛えていくという、本家と同様の手順を踏むことになる。
とすると気になるのは、今回のコラボにおける「刑期」である。
結論からいうと、「意外となんとかなる」と思えるバランスだ。しかも、この記事を見てダフネを始めるようなFFXIプレイヤーでも、コツさえ押さえればじゅうぶんに完成が見込める。

他社IPとのコラボが事実上の解禁
今回のコラボがダフネ本編に与えた影響として大きいのは、他社IPとのコラボが事実上解禁になったことだ。
どういうことか。ダフネの未経験者向けに、順を追って説明したい。
本作の主人公は、時間を巻き戻す「逆転の右手」なる能力を持っている。この能力を駆使して冒険を繰り広げるのだが、「仲間」もそのうちのひとつだ。
設定的には、冒険者の「遺骨」に対して逆転の右手を使い、彼らが生きていた頃へ時間を逆流させることで仲間にしている。
つまりダフネに登場する冒険者は、世界観的には一度死亡している。
個人的にはこの設定があるため、どんなに悪態をつくようなキャラも、そこはかとなく儚さのようなものを感じて実にグッと来るのだが……それはさておき。
この設定故に、ダフネでは他社IPとのコラボは絶望的というのが、ファンの間では定説となっていた。だって、「まず、御社のキャラに一度死んでもらいます」なんて話を、コラボ相手が許諾するわけがない。
そもそもFFXIの主要キャラは、死亡ではなく「戦闘不能」という扱いである。この一線があるからこそ、「遺骨から蘇らせる」ダフネ式とは相容れなかったのだ
それに対し、今回のコラボはどうやったのか。
転移魔法が記録された「朽ちた巻物」を新たに登場させ、それを逆転させてFFXIの冒険者を召喚するという、飛び道具的な解決策を提示してきたのだ。
骨にはしない。誰も死んでいない。その手があったか。
これがアリなら、ダフネの他社IPとのコラボは事実上解禁になったといっていい。
歴戦のWizardryファンなら共感してもらえるだろう。このゲームは、想像を楽しむ部分も大きい。だからもう、妄想が止まらない。
『ベルセルク』も『ダンジョン飯』も『ロードス島戦記』も『葬送のフリーレン』も、もう「ありえない話」ではない。そして『隣り合わせの灰と青春』──スカルダやサラたちが戦闘後に主人公の肩をポンと叩き、共に酒場で祝杯を上げる姿が、目に浮かぶようになったのだ。














