“次世代「東方」ファン”
そんな言葉が脳裏を駆け巡るほど、「LostWord LIVE 2026」の客席は衝撃的だった。それだけ今の「東方」ファンには若年層が多い。
エンタメが氾濫し、錯綜するこの大コンテンツ時代ともいえる昨今。
老若男女に愛されるIPはいつだって強く、令和のこの時代であっても変わらない原則だろう。世代を超えて根強く支持され続けるということは、日々流行が入れ替わる潮流からは外れている。
つまり、「確かな地位」を築いていることにほかならない。
意外なことに「東方Project(以下、『東方』)」は、サブカルチャーのいち領域にとどまらず、世代をつなぐ共通言語になりつつあるのかもしれない。
それを直接目にして確信したのが、今年5月16日(土)にKT Zepp Yokohamaで開かれた『東方LostWord』の音楽ライブ「LostWord LIVE 2026」なのだ。
スマホゲーム『東方LostWord』を遊んでいる若年層から、「東方」に触れ続けている往年のコアファン……そして、ファミリー層すらも本ライブイベントを形作った主要なユーザー層となっていた。
公演の幕間に挟まれたMCでは、なんと親子チケット(本稿ではファミリー席と表記)もしっかり完売していたことが明かされている。本稿では、期間を遡ることになるが、5月16日に開催された「LostWord LIVE 2026」の様子をレポートしていく。
世代を超えて響く「東方」の楽曲。前半パートから熱量マシマシ
ライブ公演のトップバッターを務めたのは「岸田教団&THE明星ロケッツ」。
「緋色のDance」から始まったステージで、会場の熱量をいっきに引き込んでいく。「U.N.オーエンは彼女なのか?」「ラクトガール」に続き、『東方LostWord』のMVプロジェクトから生まれた「月と十六夜」を、ボーカル・ichigoによる歌唱にて披露。
ゲームやMVを通して聴いてきた楽曲の数々が、パフォーマンスとして形づくられていく。
当時、筆者の席は会場の最後方に位置していたが、そこからは親子で参観するファミリー席がちょうど見渡せる。楽曲にあわせて懸命に腕を上げ、ペンライトを振るう子どもたちの様子が、微笑ましくもなんとも不思議である。アレは明らかに“ライブ慣れ”している。
思わずカメラを手にしたまま「マジかよ」と、カルチャーショックを受ける自分がいた。
若年層にまで「東方」というコンテンツが浸透している理由は何なのだろうか。きっと、YouTubeを中心に普及している「ゆっくり動画」が目に触れやすいからに違いない、とつい勝手な推測を膨らませてしまう。
続いて登場したのは東方楽曲のユーロビートアレンジで知られる「A-One」。
ボーカルのRuteとあきが、手にしたタオル、あるいはフラッグを大胆に振り回しながら疾走感あふれるアレンジとともに、会場の熱量をまとめあげていく。
しかし、Ruteのステージ登場演出がやたらカッコイイ。
セトリが進むほど客席からも腕が上がり、さらにはアーティストの歌声に観客のコールが重なる。「Scream out!」では、ただ受け身で楽曲を聴くのではなく、ファンも自らタオルをブン回して、パフォーマンスの一部になるかのような一体感があった。
ライブはまだ開始して間もないはずだが、その熱気を帯びた場内は2つの意味で“アツい”。まだ5月とは思えないほどの熱気だった。
「Alstroemeria Records」のステージでは、nomico、Mei Ayakura、misatoの3名のボーカリストが出演。
「Bad Apple!! feat. nomico」は、イントロからオーディエンスを強く引きつけていた。長年聴き続けてきたファンも、インターネットや動画を通して後から知った世代も、お馴染みの楽曲に反応している様子が伝わってくる。
ライブでは、長年親しまれてきた東方アレンジと、ゲームを起点に制作された楽曲が同じ熱量で等しく迎えられる。昔からの名曲は決まって盛り上がるものだが、それはファンによって聞き継がれてきたからこそ成し得た、楽曲にとっての到達点だ。
筆者はシリーズに明るいとは言えないが、音楽だけじゃなく、二次創作が日夜供給され続ける「東方」のコンテンツ力と、その源泉を垣間見た気がしてならない。
思い返せば、世代を超えて「東方」の楽曲で繋がれる文化は、なかなかインパクトのある話だ。原曲にクリエイターの個性を乗せた掛け算によって、アレンジが生み出され、公認二次創作作品『東方LostWord』から、新たな描き下ろし楽曲が生まれてゆく。
いまやインディーゲームにすら影響を与え続けるこのサブカルチャーが絶える姿は、到底想像に及ばない。
ライブ前半を締めた「石鹸屋」は、激しいバンドサウンドによって客席の熱をさらに押し上げた。
『グランドサマナーズ』と『東方LostWord』のコラボのために描き下ろされた「アマカケル」を披露し、大きな盛り上がりを見せる。続く「ってゐ! 〜えいえんてゐVer〜 」では、おなじみのフレーズに合わせた声と拳が会場を満たした。さらに、『東方LostWord』関連曲の「Ms.Spark」「タタエロスト」も披露した。
演奏者と観客が互いに“東方熱”をぶつけ合う、ライブならではの力強さがKT Zepp Yokohamaを満たしている。
そんな前半パートが終わって休憩時間に入ると、ファミリー席にいた女児が「石鹸屋、やっぱり盛り上がるね〜!」と興奮した様子で家族に切り出していたことが今でも忘れられない。
東方アレンジの”幅”を見せつけた後半パート。アンコールでは原作者もステージに登場!
ライブ後半は、「魂音泉」「TaNaBaTa」「COOL&CREATE」「豚乙女」がラストスパートに向けてボルテージを上げていく構成だ。
「魂音泉」が持ち込んできたのは、前半のロックサウンドとは異なるラップのグルーヴ感である。「揺蕩うLove」「少女錯綜中」「BE QUIET ROOM」と続け、複数のラッパー&ボーカリストがマイクを巧みにつないでいく。
人気曲「愛き夜道」では、らっぷびと、雨天決行、Kanata.Nに加えて、この楽曲のツインボーカルの1人である「豚乙女」のランコもゲストボーカルとして参加した。出演するアーティスト同士が同じ楽曲の中でコラボレーションすることは、こうした合同の音楽ライブならではの醍醐味だろう。しっかりノレるし、取材している筆者としても心地良いセトリだ。
「TaNaBaTa」は、「黄金航路」「濃すぎるの」「あいつはイカサマをしている」などを披露している。Gt&Voあにーの歌声とエモーショナルなメロディラインで、これまでとは全く異なる空気を会場に作り上げていた。
アーティストが変われば、客席の揺れ方や、腕の上がり方、さらにはコール&レスポンスのリアクションも変わるというもの。
また、鋭い光源をアーティストに当て、逆光が作り出すシルエットのコントラストを強調するライブ演出が、「TaNaBaTa」の音楽性と作家性を一層奥深いものにしていたように思う。「LostWord LIVE」初参加ということで、多くの来場者の興味を引いていたようだ。
会場の熱量、そして世界観を「東方」の音楽ライブに一撃で引き戻したのがビートまりお率いるサークル「COOL&CREATE」。
一曲目「チルノのパーフェクトさんすう学園(2025)」が始まると、おなじみの掛け声「バーカバーカ」が早くも客席から会場全体へとこだまする。スタミナを使い切る勢いで続く、怒涛の「バカ」レスポンスが大盛り上がりしていた。
「マツヨイナイトバグ (2021)」に続き「ラストワールド ~ LastWorld(2026)」を歌唱。途中に挟まれるMCでもビートまりおのテンションが止まらない。
さらに「インターネットサバイバー (2022)」で客席を沸かせた後、最後に待っていたのはお待ちかねの「Help me, ERINNNNNN!! (2024 ver.)」だ。“例のかけ声”とともに腕を振る動きがホール全体へと広がっていく。
「東方」をあまり知らない人でも「えーりん!」のかけ声を聞いたことがある人は多いのではないだろうか。繰り出されるレスポンスから、ニコニコ動画のコメント弾幕が脳裏に浮かんでくるようだ。助けてえーりん。
大トリを務めたのは「豚乙女」。ボーカルのランコ以外、ほとんどのメンバーが“動物”というユニークなスタイルで、「幻想のサテライト」「儚きもの人間」から「ギラギラGood day」へとつないだ。
その後も「叫べ」「虚無の糸」「春の雪」と、異なるテンポや感情を持つ楽曲を織り交ぜながら公演を終盤に導いていく。それにしても、白熊、うさぎ…メンバーの個性が凄い。
たとえユニークな装いでも、サークルとしての実力は疑う余地がない。ランコの力強い歌声がホールに響くたび、客席のファンも残された体力を使い切るように応えている。
締めとなる「囲い無き世は一期の月影」をパワフルに歌い上げ、全サークルの公演がこれにて終了した。
アンコールでは、「豚乙女」に加えて「石鹸屋」の秀三、スペシャルゲストのいとうかなこ、そして『東方Project』原作者・ZUN氏がステージに登場。『東方LostWord』のテーマ曲である「ロストワードクロニカル」を披露した。
ビール片手に上機嫌のZUN氏。アンコール楽曲では、ポンポンを片手に踊っている姿がファンの記憶に焼きついたことだろう。その様子はぜひとも公開中のライブ映像で直接目にしてほしいところだ。
筆者は今回が「LostWord LIVE」はもちろん、「東方」の音楽ライブ自体が初参加だ。
だが、ニコニコ動画や深夜アニメなど、平成時代のオタク向けサブカルチャーと近い距離感で学生時代を過ごしていたこともあり、身の回りに「東方」が好きな友人が多かった。
知らぬ間に聞かされていた「東方」楽曲の数々が、記憶の底からよみがえる。「この曲、知っているぞ!」とリアクションせずにはいられない場面が少なからずあり、各サークルのアレンジ楽曲を純粋に楽しめている自分には正直驚きを隠せないでいる。
本ライブでファミリー席が完売していた事実も、本当に意外なことだった。次世代「東方」ファンが育つ土壌がいつの間にか出来上がっていたという証左だろう。
二次創作の自由度が高いために、「東方」コンテンツを生み出すクリエイターの熱量が絶えないのか。それとも普遍的な魅力を備えたキャラクターの存在がとりわけ強いのか。むしろ、それら全部が当てはまる気もする。
次世代ファンにバトンを渡しやすい文化を見ていると、「東方」というコンテンツはこれからも世代を超えて受け継がれていくのだと思う。
ライブ映像公開を記念したゲーム内連動企画も実施!
ライブ映像の公開にあわせて、『東方LostWord』ではゲーム内連動企画も展開されている。
ゲーム内では、MVに関わったアーティストやイラストレーターなどが手がける特別な「MVアンソロジー絵札」が順次登場。ライブで披露された楽曲やMVの世界観を、描き下ろしイラストで楽しめる内容となっている。





























