「不思議のダンジョン」の絶妙なゲームバランスは、たった一枚のエクセルから生み出されている!? スパイク・チュンソフト中村光一氏と長畑成一郎氏が語るゲームの「編集」

「不思議のダンジョン」の絶妙なゲームバランスは、たった一枚のエクセルから生み出されている!? スパイク・チュンソフト中村光一氏と長畑成一郎氏が語るゲームの「編集」

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ローグの翻訳における謎

――ただ、面白いことに、これだけ世界観を受け入れやすくするために、徹底的に工夫している一方で、『ローグ』の基幹となるシステムについては、ほとんどいじっていないですよね。

中村氏:
 ここまでお話ししてきたように、当時のローグ系のシステムに付け足したことは多いんですよ。一方で、ローグ系のシステムから『トルネコ』にするにあたって捨てたものは……大きなものではダンジョン内のお店くらいじゃないですか。

長畑氏:
 それは世界観の問題でしたからね。『シレン』はダンジョン内のお店から泥棒ができますが、さすがに「世界一の武器商人が泥棒しちゃいかんでしょ」という話になったんです(笑)。

中村氏:
 ただ、『ドラクエ』の世界観をかぶせて『ローグ』が圧倒的に受け入れやすくなった分、その裏返しとして、レベルが戻ってしまう不思議のダンジョンなのだという説明が必要になった面はありますね。

――そもそも実は『ローグ』って、アーケードゲームのように、単にゲームオーバーになったら一からダンジョンをやり直すだけなんですよね。

中村氏:
 『ドラクエ』はストーリーの中で表現する以上、ダンジョンがいくつも登場してくるので、プレイヤーの体験は「毎回ゼロからやり直す」という行為になってしまうんです。実際、堀井さんから「これは、ゲームが苦手な人にはあまりに厳しい」というアドバイスをいただきました。そこで取り入れたのが、トルネコが道具を持ち帰ってお店を大きくしていくという、育成ゲームの要素です。
 ちなみに、他にも堀井さんからは「最初は素手じゃなくて、何でもいいから武器を持たせるのが大事なんだ」みたいな、大変に含蓄のある言葉なども沢山いただいて、ゲームに活かしましたね。

――ただ、やっぱり分かりにくさは残ってしまいますよね。

長畑氏:
 ームを説明しやすくなった面はありますよ。「死んだら何もなくなるRPGなんです」「えっ、そんなに酷いゲームがあるの?」となるんです(笑)。

一同:
 (笑)

――確かに、あまりにショッキングなので「とりあえず話を聞かなきゃ」と思いますよね。

長畑氏:
 当時からそこは中途半端にオブラートに包まずに、「レベルは1からです。アイテムも消えます」と、もうスッパリと誤解なく打ち出していこう、という雰囲気でしたね。

中村氏:
 それに、当時の僕たちが考えた『ローグ』の面白さというのは、何回も遊べることだったんですね。ダンジョンやアイテムの配置も毎回違うし、最初に拾うアイテムが何かもわからない。でも、スキルと戦略が自分の中に育っていけば、どんどん楽しみが広がっていく。レベルを残してしまうことは、その面白さを邪魔してしまうから、やっぱり取り入れられませんでした。

――色々と面白くする工夫をしてきたけれども、それも全ては『ローグ』にお二人が感じられた面白さをプレイヤーに届けることにあったのだ、と。でも、これだけの熱意と工夫があっても、社内では厳しい目にさらされていたというのは悲哀がありますよね(笑)。

長畑氏:
 アイテムがなくなるわ、レベルが1に戻るわというゲームデザインに対する抵抗感は実に大きかったですよ。それまでゲームについてアツく語っていたスタッフたちが、徐々に「いや、他の仕事で忙しいんで……」なんて言い出すようになったのを覚えています(笑)。最後の方には、「これ、本当に面白いのか?」という空気になっていましたね……
 まあ、その時点でも僕は面白さには自信があったのですが、売れるかどうかという点では胃が痛かったのは間違いないです、はい。

――中村さんはどうだったんですか?

中村氏:
 私は『ローグ』というゲームの面白さを確信して作り始めたので、自信は持っていましたよ。もちろん、なかなかこの面白さにピンと来ない人たちに、どう届けるべきかは考えていましたが。

――結果的には、お客さんにはお二人の感じていた『ローグ』の面白さは伝わったわけですよね。

中村氏:
 でも、ずいぶんとグラフィックのコストは掛かってしまいましたけどね。「あれ、こんなはずじゃなかったぞ」みたいな(苦笑)。

長畑氏:
 ちょっと当初の想定とは違っていましたね(笑)。
 ダンジョンのグラフィックを作りこむのは当然考えていたのですが、やっぱり地上のグラフィックもしっかりと作りたいし、そこにトルネコの家が大きくなる要素まで入れると、今度はシナリオも必要になるわけです。そうやって面白さを詰め込んでいると、どんどんコストが跳ね上がっていくんです。

中村氏:
 それに、実は『トルネコの大冒険』が出るまで、『ドラクエ』のモンスターのグラフィックは正面の一枚絵だけで、後ろ姿がなかったんです。動きのイメージも、テキストメッセージから想像してプレイヤーが補っていました。だから、公式に描くのはこのゲームが初めてで、堀井さんや鳥山さんにだいぶ確認をしました。

長畑氏:
 普通のRPGの立ち絵では見えない部分を、しっかり8方向の動きから作りこまねばならないんです。『ローグ』は「@」のようなアスキー文字がただそのまま動いていくだけなので、ついコストが掛からない気がしてしまったというだけだったんですね(笑)。

――ただ、『不思議のダンジョン』の良いところって、そういう普段は想像力で補っていた部分が、グラフィックで見えるところにもあると思うんです。やっぱり、プレイヤーとしては嬉しいですよね。

エクセルシートでデータ管理!?

――『トルネコの大冒険』の誕生秘話をひと通りお伺いしたところで、お二人に今日は「不思議のダンジョン」シリーズのゲームデザインをお伺いしてみたいんです。実はこの「ゲームの企画書」のテーマの一つが、日本のゲームクリエイターに日本の開発者ならではのゲームデザインを聞いていくことなんですよ。

中村氏:
 なるほど……。これは思いつきくらいに聞いてほしいのですが、海外のゲームがリアリティを大事にしているのに対して、日本人は記号的な表現が得意だなという印象は持っていますね。マンガやアニメにも言えることかもしれないですが。

――まさにそういうお話を伺いたいのですが、改まって聞くと皆さん、「なんとなくがんばって調整して作っているだけだからなあ」という返答になってしまうのも事実でして……(笑)。

長畑氏:
 でも、「なんとなく」というのは、私もそうですよ。

 例えば、『不思議のダンジョン』って、アイテムやモンスターのデータをエクセルで管理しているのですが、私はそのデータ表を見ればどういうゲームになるか、ある程度まで判断がつくのです。でも、それって「何となく」としか言いようがないんですね……

中村氏:
 それ、ウチでも長畑さんにしか出来ないんだよね(苦笑)。だって、何千列もある表ですからね。

――えっと……。まずエクセルで管理されているのに驚くのですが(笑)、それはともかく何だか凄いことを聞いた気がしておりまして、詳しくお伺いさせていただけますでしょうか。

長畑氏:
 いやいや、大したことじゃないんです。
 ただ、ゲーム開発というのは、なかなか時間がないものなんですよ。そこで、ウチにはエクセルに「こういうアイテムやモンスターが出る」という基本になる表ありまして、それを数字をいじったりして、並べ換えていくんです。そうすると、大体こういうゲームになるんじゃないかと頭のなかで分かるので、あとはゴリゴリと納期に向けて作っていくんです。

――……表を見るだけで分かるものなんですか?

中村氏:
 だから、それは長畑さんだけです(笑)!

長畑氏:
 (苦笑)

 うーん、でも数字があって、大体これくらいの確率があると表に書かれているわけで、なぜわからないのかと僕は周囲に聞きたいくらいなんです。「説明しろ」と言われても困るという話で……。まあ、もちろん完成形まで完璧に見通せることはなくて、調整の作業はもちろん大事ですから、そこは勘違いしないでいただければと思いますが。

――それは、あるときに開眼したんですか? それとも最初からですか?

長畑氏:
 初からそうだったと思いますよ。特に最初の方は、データ量が少ないじゃないですか。増えてくると徐々に大変にはなってきたのですが、『風来のシレン2 鬼襲来!シレン城!』(Nintendo 642000年)くらいのあたりで、データ量が多いことに頭が慣れてきたんです。それで、「まだ行ける! まだ行ける!」という感じでデータを増やすのに対応してきました。

――『シレン』って、一つでもピースが間違っていたら成立しないゲームで、トータルの完成度が他のゲーム以上に問われるはずなんです。なので……繰り返し聞いてしまって恐縮なのですが、「なぜこのゲームで、それができるの?」という謎がありまして。

長畑氏:
 いや、ですから秘密も何も……(苦笑)。

中村氏:
 うーん、これはもう長畑さんの凄さだと思うんですよ。

長畑氏:
 ちろん100%隅々までわかるというわけではありませんよ。私は、別に計算が得意な人間ではないんです。
 ただ、並んだ数字を見れば、そうですね……78割ぐらいで、ダンジョンの難易度やどこにアイテムを置くべきかが何となく分かるわけです。そこで、ゲーム開発をする前にひな形になるエクセル表を僕が仕上げて、それを調整していくわけですね。

――……ほむ。

中村氏:
 まあ、そういう感じですから、長畑さんに何かがあったら、もう『不思議のダンジョン』は作れないんですよ(笑)。

一同:
 (笑)

長畑氏:
 いや、いや! 買いかぶりすぎですよ。やってないと時間がかかるだけです。れにすぎません。

中村氏:
 まあ、100倍くらいかかりそうですけどね(笑)。これついては、本当に凄すぎるんです。

――長畑さんのこういう能力って、他の場所でも使われていたりするんですか?

中村氏:
 長畑大学時代から、競馬が好きなんですよ。確か、自分が始めてからのG1レースのゴール前は全部記憶にあるという話があったよね?

長畑氏:
 いや、いや、さすがにそれは昔の話ですよ。当時は、どの馬が勝ったかだとか、その勝ち方だとかを覚えていましたが、それは特に凄いことではないです(笑)。

乱数の調整について

――もはや、日本のゲームデザインの謎というよりも、単に長畑さんの脳の謎のほうにみんな注目し始めているので、もう少し理論的な話題をしましょう(笑)。例えば、以前にインタビューした『桃鉄』のさくまあきらさんが、人間の確率計算を野球の打率のアナロジーを使って、かなり細かめに出しているという話をされていたんです。まさに、このゲームもそういう部分が重要だと思うんです。

長畑氏:
 ああ、そういう話で言えば、このゲームを開発していると、実は人間の感覚がいかに実際の確率とリニアに対応していないかを痛感しますね。

 例えば、「10%で起こる」という数学的な確率と、「このアイテムって10%くらいの確率で出るよね」という体感での確率は違うんです。これは場合によってバラバラなのですが、5%にするとそう思ってもらえるときもあれば、15%にしてやっとそう思ってもらえる場合もあるんです。

――体感値としての10%を設計するためには、本当に10%にするのではなくて、少しズラすのが大事になってくる、ということですか。

長畑氏:
 具体的な作業で言うと、「10%くらいでイベントが出る感じを出したいな」と思ったときに、そのままの数字では物足りないと感じれば、徐々に上げていくわけです。
 ここで面白いのが、例えば15%にしても19%にしても特に変化が起きていないように感じるのに、20%にした瞬間に「あ、出方が変わったぞ」となることがあるんですね。どうも人間の確率に対する感覚というのは、階段状に作られているように思えますね。その辺の感覚値は、長年の経験で他の人よりもだいぶ溜まっている気がします。

中村氏:
 たぶん、大抵の人は10%という数字を、10回に1回起きることだと理解してしまうんです。
 でも、数学上の10%というのは、違うでしょう。例えば、5回目で出たあとに、何十回も出ない状態が続いて最後にドンドンドンと出てきたとしても、確率的には10%で正しいというのはあるじゃないですか。でも、人間の感覚は、それを10%とは受け入れがたいんですね。

長畑氏:
 ええ。ですから例えば、「5回目までで起こらない確率が半分」というくらいの感じで作ると、上手く10%に感じられたりするわけですよ。
 この辺の人間の確率をどう捉えるかは、色々なコツがあるんです。例えば、仮にある武器の命中率に85%と90%の差をつけたとしますよね。これは、単に5%しか差をつけていないのですが、プレイヤーは大変に大きな差を感じてしまうんです。それってすごく不思議に思えますが、逆にこれを「命中しない確率」だと思ってみて欲しいんです。

――あっ、10%と15%で、1.5倍になる。これは、かなり大きな違いですね。

長畑氏:
 そうなんです。そして、このタイプのゲームで記憶に残るのは、上手く行かなかったときなんですよ。こういう人の感覚に対する理解は必要だと思いますね。

――それは、テスターさんの意見などから判断して調整されているんですか?

長畑氏:
 どうもプレイヤーの感想で、際立ってアイテムが「出やすい」とか「出にくい」とかの感想が出てくるポイントがあるんです。それが我々の実際に入れている確率と、どうもズレているし、一方でなにか同じ傾向のズレ方をしているんですね。これがずっと続いてきたことが、こういう話を考えるきっかけになりました。

――そういう話でいうと、『不思議のダンジョン』では、よく「やけに食べ物がなかなか出ないぞ」とか「10階まで来たのに武器がまだ出ないじゃんか」という思いを抱くことがありますね。

長畑氏:
 まさにこういう話を逆に利用して数字をいじるときもありますよ。つまり、出やすいと感じないギリギリのところで確率を調整するんです(笑)。
 「すごく出るようになったぞ!」と感じるほどではないけど、「元々よりはちょっとは出やすい」というあたりの確率を狙うんですね。たった数%の違いだったりするわけですが、これが毎回違うプレイ感を出すのに効果的な場合があります。

――さくまあきらさんは、『桃鉄』を作る際に「野球の打率を参考にして、3割打者と27分の打者の差みたいな体感を参考に数値を入れている」とおっしゃられていたのですが、まさに数%の差が重要になったりするんですね。

長畑氏:
  実際のところ、テストプレイを1000回単位でやらせてみると、ある1%を境にプレイヤーの「当たりやすい」「外れやすい」の評価が切り替わることはザラです。例えば、これは大事なノウハウでもあるので記事では値は伏せていただきたいのですが、「◯◯」についての数字なんて、◯◯.◯%の確率の辺りに最適解があって、そこから少しでもズレたらプレイヤーから「多すぎる」「少なすぎる」と苦情が来はじめると分かっています。

――……そんな精度で調整しているのですか。

長畑氏:
 『シレン』の話でいうと、アイテムを投げて当たる確率と剣が命中する確率は、実際に設定された数字では数%しか違わないんです。でも、ゲームをプレイしていると剣はほぼ外さない安心感があるのに、アイテムを投げて外れることは多い気がするでしょう。

――まさに、さっきの「命中しない確率」の話ですね。剣に比べて矢は外れやすい、という印象でしたが、実際はそんなに数値上の差はない、と。

長畑氏:
 そうなんです。ゲームのデザインとしては、遠くから矢が当たりすぎてしまうと、近くで剣を振るう間もなく倒してしまうので、面白さに欠けてしまいます。だから外れやすくするんですが、そこで外し過ぎても面白くないし、ストレスになってしまう。そのときに必要なのが、「感覚的に外れやすいと感じる値」なんです。
 ちなみに、アイテムを投げて当たる確率を1000回単位で統計を取ると3回連続で外すことがわりと起こりうる値なんです。これが剣の方になると、それはまず外れることは計算上起きづらくなるんです。たった少しの差なんですけどね。

――確かに、3回連続外すというのは、相当に引きが悪く思えますね。

長畑氏:
 そう。で、そんなふうに3回連続で外れることが1日のうちに1回起きるだけでも、強く印象に残ってしまう。こういう部分をうまく調整しておくと、「肝心なときにアイテムや矢を使うのを避けてしまう」みたいな心理が生まれて、そこがゲームデザインの妙になったりするわけです。

――それによって、プレイヤーが消極的な行動を取るであろうという予測を、ゲームデザインの中に盛り込んでしまう、と。

長畑氏:
 そうです。
 例えば、「次のターンに殴られるとゲームオーバーという状況で、果たしてユーザーはアイテムを投げてくるのか」というのはゲームデザインを考える上で、かなり重要な問題です。でも、僕らはこの辺りのユーザー心理に対して感覚値を持っていますから、本当は使った方がよい場面でも、きっと「いやいや、絶対無理……」となってしまうんだろうな、と予測できるわけですね。

――聞きながら『ファイアーエムブレム』(※)を思い出していたのですが、あのゲームも98%の攻撃で外すことが結構ある印象なんですよね。

※『ファイアーエムブレム』
任天堂から発売されているシミュレーションロールプレイングゲーム (SRPG) 。各アイテムに命中率が記載されている。

長畑氏:
 ああ、そうですよね。こっちは確率の数値は公開していないのですが、一回の探険で剣を振る回数が1000回を超えることなんてザラですから、そこから体感値が生じてくるのだと思います。

――ちなみに、長畑さんは他のゲームをやっていても、そういう数値のトリック感が見えたりするものですか?

長畑氏:
 いやあ、ほとんど見えないですね(笑)。
 この辺の数値はゲームごとに最適な値が違うから、何か法則のようなものを見出すのは難しそうです。ただ、そういう工夫というのは、どんなゲームでも絶対にあるはずだと思います。

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