2018年12月7日にNintendo Switch向けタイトルとして発売された『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、『スマブラSP』)はかなりのヒットを記録している。アメリカでは発売から11日間で300万本の販売を達成し、イギリスでは初週のセールスチャートで1位を獲得したうえ『スマブラ』シリーズおよびNintendo Switch全タイトル中でもっともハイペースな売り上げ記録した。日本国内では記事執筆時点で260万本以上の売り上げを達成しており、これからもさらに伸びることだろう。
そして2019年1月21日、本作の原点となる『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』(以下、初代『スマブラ』)がニンテンドウ64で発売されてから20周年を迎える。
本日『大乱闘スマッシュブラザーズ』が20周年となりました!
— 桜井 政博 / Masahiro Sakurai (@Sora_Sakurai) January 21, 2019
20年ものあいだ、激しく楽しく遊ばれたのを、たくさん見てきました。いろんなお家、集まり、大会、同業者のオフィスなどでも。
もちろん制作は大変でしたが、とても幸せなことだと思います。
遊んでくれてありがとうございます。
マリオにポケモンにカービィ、はてはメーカーの枠を越えてソニックやパックマンやクラウドといったファイターまで参戦するようになった『スマブラ』という実に大規模なゲームシリーズ。今回はその原点を振り返り、どのように『スマブラSP』という究極ともいえる一作にたどり着いたのかを眺めていこう。
ライター/渡邉卓也
『スマブラ』の原点は『格闘ゲーム竜王』だった
初代『スマブラ』は最初から任天堂のキャラクターたちが戦うゲームとして企画されていたわけではなかった。プロトタイプは『格闘ゲーム竜王』という名前であり、当時HAL研究所に所属していた桜井政博氏が企画・仕様・デザイン・モデリング・モーションを担当、プログラムは同じくHAL研究所に所属していた岩田聡氏が行っており、あとはサウンドを担当するもうひとりの3人で制作を行っていたのだ。
開発コンセプトは、「ニンテンドウ64の3Dスティックを使った4人で遊べるゲームを作る」というもの。また、桜井氏は従来の2D格闘ゲームに対するアンチテーゼとなる作品を作るということも考えていたそうで、一部のプレイヤーだけが楽しめるものではなく、毎回遊ぶたびに楽しみが変化する4人対戦バトルロイヤルアクションを目指していたと語られている。
蓄積ダメージが画面上に表示されるところ、スティックをはじいて技を出すところ、ダメージが溜まると次第に吹っ飛びやすくなるところなど、プロトタイプの段階ですでにゲームシステムは確立していた。しかし、新規タイトルとして発売するにあたってひとつの課題が残っていたのだ。それは、ゲームに登場するキャラクターが魅力的でなければならないというものである。
そこで桜井氏は、このゲームに誰も真似できない価値を持たせ、かつ魅力あるキャラクターを用意する手段として「任天堂キャラクターがバトルロイヤルする」という方法を選択した。こうして初代『スマブラ』の方向性が決まり、とんでもないクロスオーバーが実現することになったのだ。
一度は宮本茂に断られ、発売前の評価も芳しくなかった『スマブラ』
しかし、方向性が決まってからも桜井氏たちの前に壁は立ちはだかった。許諾を得るため、岩田氏が任天堂の宮本茂氏に初代『スマブラ』の話をしたところ、NGを出されたという。単純にマリオのイメージが守られている必要があるのはもちろん、仮にとても良いものを出したとしても今後のマリオはそれを引き継がなければならない──。そう告げられたのだそうだ。
ただ岩田氏は、このことを桜井氏に伏せていた。そのままファイター4人が登場するプレゼン用テストVerの開発が行われ、実際に宮本氏がゲームに触れることになる。結果としては、宮本氏の懸念を吹き飛ばすほどの大成功。このふたりの絶妙な関係性もまた、初代『スマブラ』が世に出るための重要な要素だったといえるだろう。
大きな難関はひとつ越えたが、初代『スマブラ』はもうひとつ問題があった。本作は発売前の評価がそこまでよくなかったらしく、ものすごく否定的に捉えた人もいたという。理解される前の桜井氏はかなりナーバスになっていたそうで、ネズアナと呼ばれる糸井重里氏の事務所へ行って愚痴をこぼしていたと、ほぼ日刊イトイ新聞のインタビューで岩田氏が証言していた。
とはいえ、このゲームが世に出ていくにつれて高く評価されたことはもう誰もが知っているだろう。任天堂のキャラクターがタイトルの垣根を越えて集結、必殺ワザを出すのもボタンと方向入力だけというシンプルさ、遊ぶたびに違う展開になる奥深い対戦アクション……。1999年のゲーマーにとって、これは虜になる一作だったわけだ。
ディレクターである桜井氏がいてこその『スマブラ』
こうして初代『スマブラ』は発売され、その後も長くシリーズが続くことになった。このシリーズにおいて重要なのはやはり、ディレクターである桜井政博氏のこだわりだろう。特に関連作品に対するリスペクトは目を見張るものがある。
もちろん、ファイターたちの各攻撃や必殺ワザも原作を意識したものになっているし、アシストフィギュアの攻撃方法も元の作品の雰囲気がきちんと引き継がれているわけだが、筆者が特に驚いたのは「スピリッツバトル」だ。『スマブラSP』ではスピリッツというものが存在しており、ファイターとして参戦したりアシストフィギュアとして登場しているもののみならず、その他のいろいろなキャラクターも出てくる。さらにそれらスピリッツと戦うスピリッツバトルになると、原作要素を再現したバトルを楽しめる。
「Dr.ワイリー」であればメタル化したロックマンが8体登場(『ロックマン』シリーズ定番の8ボスを表現)し、最後に白衣つながりでドクターマリオが登場する。『ヨッシーアイランド』の「つぼおばけ」であれば、巨大化したつぼおばけ本体がWii Fit トレーナーで再現され、お供のヘイホーは緑色のメタナイトで表現されており、原作を知っていると思わず爆笑してしまう状況になっているのだ。
また、『スマブラSP』発売前に実施されたイベント「Nintendo Live 2018」でスピリッツバトルを紹介した時のエピソードも印象深い。桜井氏はランダムで登場したスピリッツに対して細かなエピソードまで丁寧に紹介しており、それぞれの作品をきちんと理解していることがあらためてわかるのだ。
スピリッツの候補は企画スタッフが案を出しているそうだが、それでもこの膨大な情報量を正確に、かつ原作へのリスペクトを忘れずに監修できるのは、あらゆるゲームの研究を欠かさない桜井氏くらいのものであろう。そして、その敬意の念は20年前も今も変わりなく、だからこそここまで大規模なクロスオーバーという異例のシリーズが続いたのではないか。
なお、どのように『スマブラSP』が作り上げられたのか、そして桜井氏がどれほどゲームの研究を行っているかについての詳細は電ファミニコゲーマーに関連インタビュー記事が掲載されているので、ぜひチェックしてほしい。
ゲーム開発者・桜井政博氏の驚きのゲーム収納術とは?──数千本のソフトの内容は体験として記憶に残っている
【ゲームの企画書】 どうして『スマブラ』はおもしろいのか? 最新作『スマブラSP』の制作風景からゲームデザイナー桜井政博氏の頭の中に迫る
そして『スマブラ』は20歳になる
もはや『スマブラ』シリーズは世界で認められた大ヒット作品だ。シリーズ全体を累計すると全世界で約4600万本の売上を記録【※】しており、歴史に名を残すタイトルのひとつとなったといえるだろう。
※ニンテンドウ64『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』555万本、ゲームキューブ『大乱闘スマッシュブラザーズDX』741万本、Wii『大乱闘スマッシュブラザーズX』1329万本、ニンテンドー3DS『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS』935万本、Wii U『大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U』534万本となる。N64・GCの売り上げはNeoGAFのデータを、Wii・3DS・Wii Uの売り上げは任天堂の公式データを参照。Nintendo Switch版は現在も売れ続けているが、ひとまず2018年12月20日に日本経済新聞で報道された500万本という数値で計算を行っている。
ファルコンパンチという『スマブラ』オリジナルのワザもすっかりキャプテン・ファルコンの代名詞となったし、『星のカービィ』シリーズには「スマブラ」という逆輸入のコピー能力まで登場している。『スマブラ』を真似たであろうゲームもいろいろ存在し、ほかのゲームに大きな影響を与える立場になったのだ。
2019年1月21日は、そんな『スマブラ』が発売されてから20周年という節目を迎える記念すべき日だ。そのことを改めて確認しつつ大乱闘を遊んでみると、このゲームのすごさをより感じることができるかもしれない。