プレイヤーが物語の登場人物になりきり、会話や証拠を通じて事件の犯人を探す推理ゲーム「マーダーミステリー」。本場中国での市場規模は3000億円を誇るとも言われる。日本でも2019年ごろから流行りはじめ、現在では知る人ぞ知る人気ジャンルとなっている。
オンライン上でボイスチャットを利用して遊ぶ作品や、パッケージ作品やアプリなど触れる手段もさまざま。マーダーミステリーを遊べる店舗は、東京近郊だけで20店舗以上存在する。
ドラマ化やアニメ化もされ、順調に市場規模を拡大している「マーダーミステリー」であるが、同時に作家同士のつながりが希薄になってきている。
そんな中、10月6日に「日本マーダーミステリー作家協会」なる組織の発足が発表された。
この組織は、“マーダーミステリー作家の「場に」なりたい”をスローガンとし、将来的にはマーダーミステリー作家の地位向上に繋がる活動を目指しているという。
そして、その最初の活動として「契約書を平準化したものに整えたい」と、共同代表を務めるしゃみずい氏は語った。
まだまだニッチながらも熱量の高いプレイヤーが集うマダミス界隈において、この協会ができることでどのような影響があるのか。また、なぜこのタイミングで発足されたのか。そもそもどのような活動を行う組織なのか。
今回、電ファミニコゲーマーでは、「日本マーダーミステリー作家協会」の共同代表を務めるしゃみずい氏へインタビューを実施。日本のマーダーミステリー市場が抱える課題から、マーダーミステリー作家の地位向上を目指した将来の展望などを語ってもらった。
マダミス作家の地位向上に繋がる活動をしていきたい
──このたび「日本マーダーミステリー作家協会」を設立されたとのことですが、まずはこの協会がどのような組織なのか教えていただけないでしょうか。
しゃみずい氏:
私たちが目指しているのは、マーダーミステリー作家が集まって交流し知見や技術を共有する「場」を作ることです。
近年、日本のマーダーミステリー市場は急速に拡大して、ユーザーもクリエイターの数も大変多くなっています。作り方も遊び方も多様になり裾野が広がったことは喜ばしいのですが、クリエイター同士の繋がりが希薄になっていると感じていました。
協会を介して作家たちが集まる「場」ができれば、いろいろなことが実現できると思うんです。創作のノウハウを共有できれば今後よりよい作品が生まれる土壌になります。連携することで活動が広がるきっかけになるかもしれません。そして、将来的にはマダミス作家の地位向上に繋がるような活動をしていきたいと考えております。
──マーダーミステリー作家同士がお互いに助け合う互助会というイメージでしょうか。具体的にはどのような活動を予定されているのでしょう。
しゃみずい氏:
今回の「日本マーダーミステリー作家協会」設立に際して、私が一番最初に考えたことが、「契約書を平準化したものに整えたい」ことでした。
今の日本のマーダーミステリー作家、作品に対しての契約は、作品ごとに違うケース、店舗ごとに違うケース、なかには口約束だったりと、契約内容がバラバラで権利の管理が煩雑になってしまってるんです。マーダーミステリー市場が大きくなっていることもあり、契約についてのトラブルも増えています。
平準化した契約書があればトラブルに発展するケースは減ります。作家さんのためになりますし、平準化した契約書のテンプレートを使うことで店舗にとっても、士業の方に依頼して契約書を作成する必要がなくなりコスト削減にも繋がるはずです。
──契約まわりに詳しくない方もいらっしゃるため、助かる方は少なくないと思います。
しゃみずい氏:
それに、私個人が作成した契約書と、「日本マーダーミステリー作家協会」として公認した契約書があった場合、内容が全く同じでも及ぼす影響力は異なりますよね。
協会で公認した契約書の内容は会員である作家の総意であり、それを守りたいと考えていると契約先に胸を張って言える内容です。そういった説得力が対等な契約を交わす材料になることで作家の地位を向上させることに繋がると考えています。
──では直近の活動目標としては協会公認の契約書を制定するということですね。
しゃみずい氏:
そうですね。ほかにも、現在すでに協会に加入しているメンバーが、表では言えない、作家同士だからこそ明かせる創作のノウハウについてまとめた記事を公開する準備を進めています。
自身の作品の制作手法やテクニックなどディープな部分まで共有します。いわば手品の種をアーカイブ化するわけです。
──それはたしかに興味深いです。ただ、手品の種を明かしてしまうというのは発信する側のメリットが薄いようにも思われます。
しゃみずい氏:
たしかに手品の種を明かすような内容ですが、それを知ったからと言って、発信者の作風を丸ごとトレースできるわけではありませんよね。それでも憧れた作風や演出をご自身の作品に取り入れることや、作家の新規参入にも繋がるのではないかという想いもあります。
なにより、そうして共有した内容を基に議論することで作家全体のレベルが向上すれば、協会の目的達成にも一歩近づけると考えています。ありがたいことに皆さん非常に高いモチベーションで記事を書いてくださっています。記事のタイトルと概要はリストアップしているのですが、かなりの量になっています。
また、本当に少額ですが、記事を書いてくださった作家さんには必ず謝礼をお渡しするようにしています。
──なるほど。ちなみに、協会に入るための基準や条件というのはあるのでしょうか。
しゃみずい氏:
一作でいいので「マーダーミステリー作品」を実際に作ったことがある人。具体的に言うとゲームとしての根幹である「物語」と「ゲーム性」のいずれかに携わった方としています。
今回の趣旨として、私たちに賛同してくださるクリエイターの皆さんにできるだけ多く参加してほしいので、参加の敷居を上げすぎない意味でこのように設定しています。
現状、作品の権利関係を取り扱うことはしない
──その他の活動はいかがでしょうか。たとえば著作権など権利の管理なども行う予定はありますか?
しゃみずい氏:
現時点では考えていません。この協会は法人格を有していない状態なので、権利関係を取り扱う事は非常に高いハードルがあります。そのため今できる範囲で活動を進めることを優先しました。
そういう意味で、すでに発生している作家さんと店舗間の問題に介入することは法律上の観点からも実施は考えていません。ただ、これに関しては問題発生を予防するという視点から活動する予定です。
──と言いますと?
しゃみずい氏:
たとえば、将来協会で作成した契約書を使って実際に問題が起きたとします。そこでもやはり問題解決に直接介入することはできないのですが、契約書を作成した立場として作家さんと店舗の話し合いの場を作ることはできると考えています。
ちなみに、実際に協会として契約書のテンプレートを作成する際には、弁護士のリーガルチェックも行います。それによって作家と店舗、双方が安心して使用できるテンプレートになるのはもちろんですし、先に触れた通りコストの削減にも繋がるはずです。
──なるほど。会員費はこのような活動に使われるというイメージであっていますか?
しゃみずい氏:
はい。会員の出入りの管理、会員名簿の作成、支払いの管理など、作業自体は多岐にわたります。運営に携わり実際に作業をしてくださる方には、充分な金額とはなかなか言えない額ではありますがしっかりお支払いをしています。
先ほどお話した、協会メンバーのノウハウ記事についても、作家の方に書いていただいた原稿を協会として責任を持って編集まで行うので、組織の中にそれを専門とした「部会」が存在しています。
ですので、正直、会員費としていただいた金額は入る度にすぐ出ていくような状態になると思います。ただ、少しずつ運営資金を貯めていき、組織の拡大、発信力や実行力の強化を目指していきたいですね。
──ここまでお話を聞いていて感じたのは、将来的に協会に入らないことに不安を感じるクリエイターが出てくるのではないか。という点です。
しゃみずい氏:
じつは、私たちがこういう動き(協会発足)をしていることは、近しい作家さんにはすでにお伝えしていて、協会ができることに対しての不安の声も届いています。
本音を言えば、たくさんのマーダーミステリー作家にご参加いただきたいです。でも、加入を強制はしませんし、協会に入らないからといってマーダーミステリー作家として認められない、お店と契約してもらえないこともありませんのでご安心いただければと思います。
改めになりますが、協会の目的は権威を高めることではなく、あくまでも作家間での繋がりを持てる「場」を提供することです。
気軽に集まり話す場として互いに切磋琢磨することができますし、個別に契約を斡旋することはしませんが、作品を発表するとなった際にもサポートできるはずなので、協会の活動に賛同していただけるのであれば、ぜひ加わってほしいです。