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“日本マーダーミステリー作家協会”が発足、最初の活動は「契約書を平準化したものに整えたい」。権利管理が煩雑で口約束の契約も──だからこそ設立に動いた共同代表が語る「協会発足への想い」

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「マーダーミステリー作家協会」設立の経緯

──どのような組織なのかはわかりました。気になったこととしては、なぜこのタイミングで「マーダーミステリー作家協会」を設立し、なぜしゃみずいさんが会長を務めることになったのでしょうか。

しゃみずい氏:
数ヶ月前、日本におけるマーダーミステリーブームの立役者である川口さんのX(Twitter)のポストがきっかけです。

そのポストは「現在、日本のマーダーミステリー作品に関する作家と、店舗や企業との契約が体系化されておらず少々いびつな状態になってしまっている」というものでした。

──たしかに私自身もびっくりするほど簡素なものを見たことがあります。

しゃみずい氏:
そこに私が「マーダーミステリーの市場規模では営利事業としてそういった活動をすることはまだ難しいので、作家間でそういった互助連携を行うような協会があればいいですよね」とポストをしたんです。

そうしたところ、ダイレクトメッセージをはじめディスコードやラインなどで「それならしゃみずいさんがやってくださいよ!」っていう声が、たくさん届きまして……(笑)。

その中で、協会共同代表を務める檜木田正史さんや、東京のマーダーミステリー店舗「JOLDEENO」のジョルさん、マーダーミステリー制作集団「東大マーダーミステリー」のかるらさんがいるライングループが作られていて、「一緒にやりましょうよ!」と。

「日本マーダーミステリー作家協会」共同代表インタビュー:最初の活動は「契約書を平準化したものに整えたい」

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──突然の事態ですね(笑)。

しゃみずい氏:
私の発言に対して厳しいご指摘もいただいたのですが、「やってください」ではなく「一緒にやりましょう」と言ってくれたことはすごく嬉しかったです。同時に、「作家の皆さんはそういった繋がりを求めているんだ」ということを強く感じました。

じつは、私自身、組織の設計や運営も好きで、本業でも互助会のような組織を作り、15年ほど役員を務めているんです。そこでの、知見も活かせると思い決意を固めました。

──そうして集まったのがこのメンバーと。

しゃみずい氏:
はい。自分で言うのもなんですが、そうそうたるメンバーに集まっていただいたと思います。20名を越える運営委員ひとりひとりが、会の運営に積極的にかかわってくれています。

──協会の方針についてはこのメンバーで話し合ってきめていくということでしょうか。

しゃみずい氏:
もっとも大きな意思決定機関は、一般会員を含めた「総会」になっています。ただ、運営委員の方々が中心となって進める「運営委員会」もあり、スピード感をもって動けるように組織を設計しています。事業推進の組織として「運営委員会」と、そして迅速な意思決定の組織として「役員会」を設け、事業に邁進してまいります。

さらに、一般会員の方がやりたいことを発信する場として、「運営委員会」の中に「部会」というのも作って、一般会員の方も参加するだけでなく一緒に能動的に参加できるような組織にしていきたいと考えています。

「日本マーダーミステリー作家協会」共同代表インタビュー:最初の活動は「契約書を平準化したものに整えたい」

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──……この「監査」という役職はいったい?

しゃみずい氏:
監査役は、その名の通り役員を監査し、問題があったら解任する役職です。難しい判断を行う立場ではありますが、信頼のおける方に「いざというときはしゃみずいを切ってください!」とお願いして就いてもらっています

──しゃみずいさんや他役員による組織の私物化への防止策ということですね(笑)。

しゃみずい氏:
おっしゃる通りです(笑)。あらためて強調させていただきたいのは、本協会はマーダーミステリー作家である協会員を主とした組織だという点です。組織設計の際にも特定の会員が協会やマーダーミステリーを私物化することはできないように注意しています。

共同代表を務める檜木田さんが、「日本ゲームシナリオライター協会」の常任理事を務めていることもあり、組織設計についてはしっかり確かなものが作られつつあります。また、もうひとりの共同代表を務める九尾さんは、デザイナーとしての知見をお持ちで、弊会への導線となるフライヤーやサイト構築において、会のメッセージをしっかりと発信してもらいました。

将来的にはマダミスをプレイする料金が下がる可能性も

──ここまでは協会発足における作家への影響についてお聞きしてきたわけですが、実際にマーダーミステリーをプレイするお客さんにどのような影響があるのでしょうか?

しゃみずい氏:
正直に申し上げると、すぐに効果が表れる直接的なメリットはありません。ただ、長い目で見ていただければ間接的なメリットが出てくると考えています。

──間接的なメリットとはどのような?

しゃみずい氏:
繰り返しになってしまいますが、協会として契約関係の平準化を進めリーガルチェックまで済んだ契約書のテンプレートを公開することができれば、作家や店舗がこれまでかけていたコストを低下させることに繋がります。それにより、これまでと同じボリュームの作品でも、料金が下がることがあるはずです。

加えて、契約関係のリサーチは非常に手間がかかります。これまでは、それが障壁になってお店との契約に至らなかったクリエイターさんが、これからは参入する可能性もある。そうすればまだ見ぬ作家さんや作品との出会いにも繋がりますよね。

そして協会という「場」があることで、作家同士の繋がりが生まれ、ノウハウの共有が起こり、皆さんにお届けする作品そのものの品質も上がります。これに関しては、すぐではないにしても必ず向上するという自信があります。

「日本マーダーミステリー作家協会」共同代表インタビュー:最初の活動は「契約書を平準化したものに整えたい」

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──長期的により面白い作品がより安く遊べるかもしれないと。というと、今回の発足した協会について、作品を遊ぶプレイヤーにとって関わりはとくにないわけでしょうか。

しゃみずい氏:
いえ、本協会を賛助してくださる個人または団体であれば、賛助会員としてご参加いただけます。イラストレーターやBGM制作、DTPなどのデザイン関係といった創作をされている方も、店舗さんやメーカーさんなども入っていただけます。

──賛助会員と会員の違いはどのような点でしょうか。

しゃみずい氏:
まだ検討中の部分もありますが、確定しているのは賛助会員は議決権を持っていないという点です。あくまでも作家主体の協会なので意思決定に参加できないのですが、内部の様子を知ってコンテンツに触れたり、クリエイターの皆さんと出会ったり話したりできる立場をイメージしています。

ただ、契約関係の決定を行う際に賛助会員になっている店舗の皆さんにご意見をいただくことはありますし、イラストやBGMについてもマーダーミステリーを彩る大事な要素だと考えているので、ご意見などをいただければ集約し、協会として行えることがあるか模索したいと考えています。 

「日本マーダーミステリー作家協会」共同代表インタビュー:最初の活動は「契約書を平準化したものに整えたい」

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10月31日より正会員の入会受付を開始

──最後に将来のことについて伺えればと思います。今後どのようなことを目標にするか。また、どのような価値を提供できるか教えていただけますか。

しゃみずい氏:
これは私の理想になってしまうのですが、会員費としていただく金額については、実益だけでなく投資としての側面も見出していただけると嬉しいと考えています。

見返りではなく、作家同士が交流できる「場」が将来にわたって機能することに値付けをしてほしいという想いがあります。

──現時点で加入されている方はそういう捉え方をされていると思いますが、これから入る方がどのように考えるかは未知数なところがありますよね。

しゃみずい氏:
はい。ただ、どんな組合や協会でも、きっと趣旨の一部に、今私が言った理想論的な部分が必ずあると思うんです。人がそこに集まるから、言えることが増える、できることが増えていく。

だから、必ず回り回って皆さんのためになるので、よければ加わってください。そういった趣旨がどこの会にもきっとあるし、本会にもその部分はもちろんあります。なのでそこを見込んで入ってほしいと思っています。

先に述べた通り、現在はまだ人格のない社団等という団体で、イメージとしてはマンションの管理組合や地域の自治会に近い集まりです。だからまだできないことも多いのですが、今後賛同してくださる方がたくさん集まれば、社団法人化を目指したいと考えています。

──社団法人化ができると、活動内容はどのように変わっていくのでしょう。

しゃみずい氏:
社団法人化がもし成立すれば、できることのスケールが広がります。 例えば「交流」「共有」「連携」「向上」という4つの柱にしても、これまでは作家同士や作家と店舗という規模だったのが、社団法人化すると行政と連携することができるようになります。

果てない夢ですが、将来的にマーダーミステリー作家を専業で行う人が出てきたとして、その人が入る組合保険がないときにサポートができれば、その人の将来や生活の安心も担うことができるかもしれない。

今はまだ大ボラのような話ですが。社団法人化が本当にできて、作家の生活を支え しっかりと稼いで作品を作り続けてもらうという、生活の基盤の一部を担えるようになれば、いよいよこういう会を作った甲斐があったと思えるはずです。

──「日本ゲームシナリオライター協会」の個人正会員の方は文芸美術国民健康保険組合に加入できるようになっています、あながち大ボラというわけでもないかもしれませんね。

しゃみずい氏:
正直なところ、マーダーミステリー業界全体に向けて本協会がどんなメリットとして機能するのか、まだわからないことがたくさんあります。ただ社団法人化という手段を取ることで、できることをさらに拡大させ、作家を支えていければと考えています。

契約関係を整理することで長期的に見た際にコストが低下するなど、金銭的なメリットも将来的には働いてくるはずですし、作家が集まる場があって、切磋琢磨をして、互いの意見を束ねて世間に発信できれば、さらに良い作品をたくさん作っていく土壌になるということは確かです。

金銭的なメリットや契約の平準化も大事なのですが、やはり現に作家が集まって交流し、連携し、共有し、そして向上できる。こういう場があることがきっと遊ぶ皆さんにも、そして市場にも プラスとして働くと信じています

──ありがとうございます。最後にこの協会に入りたい人はどうすればいいですか?

しゃみずい氏:
2024年の10月31日より会員募集を開始しております。ご参加いただいた皆さんに充実したコンテンツと、活動の場をご提示できるように、運営をしていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。

「日本マーダーミステリー作家協会」共同代表インタビュー:最初の活動は「契約書を平準化したものに整えたい」

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話を聞いていて感じたのは「マーダーミステリー」をただのブームではなく、文化として根付かせたいという強い意気込みだった。

まだまだ課題や決めることは多いとのことだが、組織設計の緻密さなどからは決して熱量や勢いに任せた同好会ではなく、組織として運営することへの本気さも伺えた。

「日本マーダーミステリー作家協会」の公式サイトも公開されている。興味の湧いたクリエイターの皆さんは、公式X(旧Twitter)アカウントとあわせてチェックしてみてほしい。

クリエイターの方でなくとも、「もしかしたら将来的によりよい作品をより安い金額で遊べる」ようになるかもしれない。「マーダーミステリー」というジャンルを好きな方、応援したい方も、ちらっと覗くだけ覗いてみてはいかがだろう

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ライター
日本で唯一のマダミス評論家としてマーダーミステリー黎明期から活動し、noteやSNSで業界動向や作品レビューを投稿している。 「anan」やボードゲーム専門誌のマダミス特集に寄稿、マダミーティングなどのイベントで評論家として登壇。 プレイしたマダミス作品数は数百本で、市販されているパッケージ作品をすべて所有している。
Twitter:@nyarl6161
サブデスク
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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