1999年1月21日、ニンテンドウ 64のタイトルとして『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』が産声をあげた。
当時の対戦格闘ゲームブームの中にありつつ、この通称『スマブラ』は“対戦アクションゲーム”としてそれらと一線を画し、以来、ニンテンドー ゲームキューブ、Wii、ニンテンドー3DS&Wii Uと、任天堂のハードの歩みとともにその目玉として新作が作られ、世界中のファンに愛されてきた。
そして2018年12月7日、それまでのファイターを“全員参戦”させた、およそ20年の進化の集大成と呼べる最新作、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』がNintendo Switchで発売となった。
2018年の現在、『スマブラ』がおもしろいということは、ゲーム好きならだいたい誰もが知っていることだ。ただ、いまやそれは当たり前のことになりすぎて、「どうして『スマブラ』はおもしろいのか?」をあらためて考える試みはあまり多くはない。
だが、ひとつひとつに制作意図が込められた膨大な数のキャラクターと、かつてない数の作品群を取りまとめ、世界中のファンを喜ばせるおもしろいゲームを作るには、ちょっとやそっとの知識や努力では到底成り立たないことは想像がつくだろう。
この『スマブラ』をイチから企画し、構築したのは、ゲームデザイナーの桜井政博氏だ。桜井氏のすごさはどこから来ているのか。
それを紐解くことは、取りも直さず、『スマブラ』の、その最新作のすごさに繋がるはずだ。
桜井氏自身はこの20年のあいだに、さまざまな場所でこと細かにゲーム制作のノウハウや考えかたなどを語っているが、今回は『スマブラSP』発売を間近に控えたタイミングで桜井氏のもとに足を運び、初代『スマブラ』から最新作につながる着想の経緯や、諸要素の作りかた、ふだんの仕事のありかたまでをあらためて伺い、『スマブラ』シリーズの根底にある考えを探ろうと試みた。
『スマブラ』はなぜおもしろいのか? みんなが『スマブラ』を「すごい」と言うけど何がすごいのか? ということを、桜井氏の答えを通じて感じ取っていただければ幸いだ。そして研ぎ澄まされた理念やそこに至る経緯を理路整然と語る桜井氏の、静かなるクレイジーっぷりにご注目いただきたい。
聞き手/TAITAI、奥村キスコ
文/奥村キスコ、小山太輔
カメラ/増田竜二
差し合いとアドリブ性
──今回の取材では、『スマブラ』シリーズの進化の背後にあるお考えなどを伺えればと思います。それを紐解くために、まずは1作目の『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』のことから訊ねさせてください。
この、初代『スマブラ』が作られた1990年代、世の中は対戦格闘ゲームの全盛期でもありましたが、桜井さんはそこに閉塞感のようなものを感じていたそうですね?
桜井政博氏(以下、桜井氏):
はい。『スマブラ』を企画するうえで、対戦格闘ゲームに対するアンチテーゼのようなものは、やっぱりあるにはあったんです。とはいえ格闘ゲームが、ものすごく楽しいジャンルであるということは、ハッキリと言えますよね。
何しろわたしは、“ゲームとは駆け引きだ”と日ごろから言っているくらいで。その駆け引きの塊である格闘ゲームは、やっぱりおもしろいんです。
ただ、『ストリートファイターII』(1991年)が大ヒットして、その後『ザ・キング・オブ・ファイターズ』や『鉄拳』(ともに1994年)など、いろいろな作品が出てきたわけですけれど、その後、だんだん指で覚えることが多くなってきたのも確かでした。
勝負がいわゆる“差し合い”ではなくなるような……。
──駆け引きだけではなく、コマンド入力がうまい人が優位に立ちやすくなってしまったと。
桜井氏:
ジャンプをして対戦相手に一発当てて、決まったコンボをなるべく正確に当てる遊びというのは、ゲーム本来の遊びや楽しさとは、ちょっと違ってくるんじゃないかなと。“反射神経でうまく避けて、攻撃を当てられた人がエライ”ということはわかるのですけどね。
──“格闘ゲーム”と括られる以上は、どうしてもゲーム性は似通ってきますね。
桜井氏:
『スマブラ』の最初のコンセプトとしてけっこう大事なものに、“アドリブ性”があります。つまり、そのときの状況を判断し、より有効な立ち回りを行う遊び、ということですね。
すり抜け床【※】を駆使して相手との間合いをはかったり、画面からフレームアウトしたらミスになったりという、上下空間を含めた位置取りの遊びがあります。また、ダメージの蓄積率に応じて状況がどんどん変化し、同じ攻撃を当てても、相手のふっとびかたがまるで異なることにより、位置が激しく変わり、つねに状況を考える必要性が生まれます。
──『スマブラ』は、勝ち負けに至るプロセスが豊富で、そこにランダムの要素も加わるから、最後の最後まで勝敗の行方がわからないところがおもしろいのだと思います。あの“いい意味での曖昧さ”は、どういう考えのもとにあるんですか?
桜井氏:
一般的な格闘ゲームが比較的“野球”に近いとするならば、『スマブラ』は“サッカー”に近いですね。野球には段取りが必要で、打者を進塁させないといけません。一塁、二塁、三塁と進めていって……、つまり「対戦相手の体力を落として最後に勝つ」みたいな感じ。それに対してサッカーは、いつどこからゴールが入るかわからないんですよね。ものすごいロングシュートが決まる場合もあるし、段取りを組み立てる場合だって、当然ある。
世の中の格闘ゲームがコンボを重視するようになったあたりから、わりとキャラクターの体力が多くなっていくんですよね。要するに、たくさん殴られても倒れないという。
……海外の人には、『バーチャファイター』のような格闘ゲームは合わないという方もいらっしゃるようで。
──そうなんですか? なぜでしょう。
桜井氏:
あのゲームはワザ一発でも体力がゴッソリ減りますよね? それがなんだか損をした気になるんですって。わたしはそういう逆転性は好みですけど。
そういう、コンボとそれに釣り合った高い体力設定などによって、ますます難しくなっていくということを、格闘ゲームが山ほど出てきた時代に感じていたんですよね。実際、初心者がやろうとしたとき、一生懸命やっているつもりだけど、なかなか相手が倒れてくれないのはけっこうストレスですよね? 『スマブラ』がそういうところから転換していけたのは、わりとよかったのではないかと思っています。
──とすると、『スマブラ』のルールを考えるうえで根本にあったのは、まず“落下”だったんですか? 体力がまるまる残っていても、一発でミスになるような。
桜井氏:
そうですね。“ふっとび”というよりも、“復帰できなければ負ける”ということでした。いや、実際にはふっとぶわけですけれども(笑)。
──はい。しのぎを削るもどかしさの後に、それはもう気持ちよくふっとびます(笑)。
桜井氏:
『スマブラ』はシリーズの後のほうになればなるほど、画面の端でやられることが多くなっていると思うんですね。ふっとんで、復帰するまでもなく横の画面外でKOされるという。昔はもうちょっと、“がんばっても復帰できない距離まで飛んで行ったから落ちる”というような感じだったんですけど……。
今回、『スマブラSP』ではそれを少し戻しています。距離が届かず復帰できないことも多くありますね。ただ、対戦相手がもがいてもがいて、ポロッと落ちてやられるよりは、やっぱりすっとんでいってボコーン! となったほうが、楽しいっちゃあ楽しいんですよね。いまのバランスは攻防と爽快感のさじ加減だと思ってもらえれば。
──格闘ゲームが持つおもしろさを分解して再構築したのが『スマブラ』だということですが、どう分解して、どこを再構築したのでしょう?
桜井氏:
たとえば、相手に攻撃を当てた瞬間にヒットストップ(攻撃した手応えを強く押し出すために、瞬間的にアクションが止まる仕様)がかかるというのは、かかっていないゲームよりおもしろく感じますよね? ヒット音も気持ちいいほうがよくて、「メコッ」とか「ペコッ」だと気持ち悪いですよね? ……ゲームとしての駆け引きはもちろんですが、そういう生理的な部分も含めて、当時の格闘ゲームにはいろいろヒントになるところがいっぱいありました。
『スマブラ』は攻撃発生フレームやヒットストップの感じから、比較的格闘ゲームに近いところもあります。でも、蓄積ダメージやコマンドなど、格闘ゲームの常識にはないことも折り込んでいます。
わたしは何かをマネして持ってきているのでもなく、「なぜそれがおもしろいのか?」、「なぜ手応え感を得られるのか?」などと、ひとつひとつ意味を考えながら対戦アクションゲームを作ったわけです。
「こうすれば同じようなおもしろさが出るね」とか、「こうすれば異質な楽しさになるんじゃないか」というふうに再構築し、そのうえで『スマブラ』にしかできないことを足して、オリジナルにしていったんです。
──あくまでアクションゲームとして、生理的な部分まで掘り下げて積み上げていったということですね。
アナログスティックから生まれたはじき入力
──生理的な部分ということでは、ジャンプひとつとっても大切に考えられていると思います。
桜井氏:
ジャンプについては……。わたしが初代『スマブラ』の企画を立てたときの特徴に、“アナログスティックを初めて使った”ということが挙げられます。
──ニンテンドウ 64は、アナログ入力が可能な“3Dスティック”を最初に導入した家庭用ゲーム機でした。ああ懐かしい。
桜井氏:
“サンディースティック”というだけあって、「時代は3Dだね」と言われていたんですが、「じゃあこのデバイスを有効に使うにはどうすればいいのか」ということが課題としてあるわけです。そのときに、「スティックを倒したとき、倒した深度や倒し切るまでの速さが検出できる」ことに気がついたんですね。
それまでの十字キーは0と1しかないデジタル入力だったわけですから、ダッシュしたいときには2回同じ方向にチョンチョンと押すのが一般的でした。それがアナログスティックだったら倒した深度や速さが計測できるので、パッと素早く倒すことと、ゆっくり倒すことに、ぜんぜん違う意味が与えられるんですよ。
──なるほど。
桜井氏:
同じ十字キーでの操作なのに、重たく感じるキャラクターと軽く感じるキャラクターがいる。明らかに指に感じる力が変わってくることがありますよね? アナログスティックでの操作は、そういう“画面から受ける感触”みたいなものを、少なくともいままでの十字キーよりも深く制御することができるんじゃないかと考えたんです。
そこで生まれたのが“はじき入力”です。パッと素早く倒すと同時にボタンを押すとか、素早く倒した方向に素早く動くというのは非常に生理的に納得のあるものだと思うんですね。すり抜け床をアナログスティックで抜けるということも、当時は珍しい操作だったと思います。じつは、当初の企画段階ではスティックだけでジャンプをする仕様で、ジャンプボタンというものはなかったんですよね。ですが、けっきょく足すことにしました。
──確かに、いろいろなゲームに触れていると、ジャンプはボタンでしたくなる傾向があります。
桜井氏:
それまでのゲームに慣れている人はそうなるんです。
覚えている方は覚えていると思いますが、『スマブラ』は発売当初、いろいろな誤解を受けたゲームでした。つまり、それまでの格闘ゲームとは異質なものだったから、すごく嫌われたというか……。そこに込めた意図や遊びがメディアなどに理解されないまま、製品として市場に出たタイトルでした。でも、遊んでくれたユーザーの皆さんの、「おもしろい」という口コミや評価によって復活できたタイトルだと私は思っているんです。
それまでにない異質な遊びは、手に取ってくれるはずのユーザーにブレーキをかけたり、嫌悪感を与えることも多いんですよね。このうえジャンプボタンがなかったら、さらにそれが増えていたと思います。
──生理的なものに加え、間口の広さを求めて、仕様が決まっていったんですね。
桜井氏:
いずれにせよ、いろいろな操作がケアされるに越したことはないですので。後のシリーズではRスティックによるスマッシュ攻撃なども足していますし。そのようなケアをすることに対して、わたしは後ろ向きであるというわけではないです。むしろ、そのほうがおもしろいなら、複雑になりすぎない範囲でならやったほうがいいと思っています。
──ゲームの仕組みやルールももちろんですが、触ってシンプルに気持ちいいか、動かしてシンプルに楽しいかという部分が、桜井さんの価値観の中でも相当大きなウエイトを占めているように思えます。
桜井氏:
“何かを感じられるかどうか”というのは大きいのでしょうね。同じ操作でも、「これはこうだからおもしろいんだ」とか「こうだからイヤな感じを受けるんだ」とか。わたしは日々多くのゲームを研究することで、そういうことを経験として蓄積しているわけです。
──あの整理された大量のゲーム群【※】は、そこに活きているわけですね。
※大量のゲーム群
電ファミで過去に取材した桜井氏所有のゲーム群を指す。こちらの記事から確認できる。
ゲーム開発者・桜井政博氏の驚きのゲーム収納術とは?──数千本のソフトの内容は体験として記憶に残っている
『スマブラ』の原型、『格闘ゲーム竜王』の話
──『スマブラ』の原型について、もう少し掘り下げさせてください。
桜井さんがかつてハル研究所に在籍していたころ、「ニンテンドウ 64向けにゲームを作ろう」となったときに、候補がふたつあったそうですね。
桜井氏:
ああ、ロボットのアドベンチャーゲームと、『スマブラ』の元となる『格闘ゲーム竜王』ですね。
──いちおう読者の皆さんに説明しますと、『格闘ゲーム竜王』というのは、デッサン人形のようなポリゴンキャラクターが、地形効果と蓄積ダメージの影響の下にふっとばし合う、最大4人で同時対戦できるアクションゲームのプロトタイプです。
要するに、これから制作しようというゲームのイメージを明解に人に伝えるために作られたものなんですね。なぜ「竜王」なのかは、ハル研究所が当時の山梨県・竜王町にあったから。その『竜王』が今日の『スマブラ』の原型になるわけですよね。
桜井氏:
そうです。
──『竜王』は、ほぼそのままのルールで任天堂キャラクターを取り入れ、『スマブラ』として世に出ることになるわけですが、完成までに変えた部分はなかったんですか?
桜井氏:
必殺ワザがつきましたね。必殺ワザを実装するのと、任天堂キャラクターを入れるのとでは、任天堂キャラクターを入れるほうが先でした。
──では、キャラクターありきで必殺ワザがついたということですね。
桜井氏:
いちおうそうです。あくまで『竜王』は人型のモデルがそのまま戦うというものでしたから。でも、蓄積ダメージや空中ジャンプ、すり抜け床やはじき入力や画面外にぶつかってドゴーンとやられる……みたいなものは、その時点でみんな揃っていたんですよ。
任天堂のキャラクターを使うことを決めた時点で、マリオだったら「ファイアボールを撃っていいだろう」とか、「スーパージャンプパンチはするだろう」というふうに、ある程度必殺ワザを決めているところもあります。
ただ、キャラクターによって闘いに適した間合いを変えないと、単純に近づいて攻撃するだけのゲームになると思い、チャージショットみたいなものを入れることは、企画段階から考えていました。だからその時点で、『バーチャファイター』や『鉄拳』みたいな個性ではなかったんですね。
──アイテムが導入されたのも、『竜王』の後ですか?
桜井氏:
そうです。というか、『竜王』はあくまでプロトタイプなので、そこまで作る労力はさすがになかったですよ。あの当時、ほかに手の空いているスタッフがいないなかで、岩田さん(岩田聡氏。当時はハル研究所で桜井氏の上司。のちに任天堂社長となった)とわたしとサウンド担当の3人しかおらず、よくまあ作れたなと思います。岩田さんがプログラムをして、わたしが企画とモデリングとモーション、仕様などを作って……。
当時初めてのCGツールでしたしね。でも、そこでモーションを自分で作ったことが、将来的にいろいろな指示をする際に役立つことになりましたし、勘どころなどもよくわかりました。
──プロトタイプは、ほかの企画でもよく作るんですか?
桜井氏:
場合によります。ハル研はプロトタイプをほとんどの作品で制作するところでしたね。だけど、自分のゲームでプロトタイプを作ったことはそんなになく、『新・光神話 パルテナの鏡』(以下、『新・パルテナ』)のときにPCで作ったくらいです。これは主としてスタッフに情報を共有したり、マネジメントの話などをしやすくするためのものでしたね。
──え、そこなんですか!? ふつうは頭で考えたおもしろさを実際に確認するために作りそうなものですが、そうではないんですね……。
桜井氏:
そうです。考えてみたら、最初の『カービィ』からそういった、スタッフに伝えるための工夫をしていましたね。ドットを描いて、動かしたものをビデオに撮って……とか。企画を考えるだけなら非常に簡単ですが、それを人に伝えるのが、やっぱりすごく難しいので。
──企画を非常に簡単と言う桜井さんに震えます(笑)。
やめられないテンポにするために
──『スマブラ』をワイワイと遊んでいると、後になっても思い出すようなドラマが生まれたり、勝っても負けても楽しいと思える駆け引きの手応えが得られたりなどします。そうした楽しさを『スマブラ』が持てるという確信は、作っているあいだのどこで得られたんですか?
桜井氏:
うーん、それはもう作る前に、「できる」と思っていました。少なくとも、すでに『竜王』のときには手応えを感じていましたし。
意外ですけど、ゲームをしていて自分が「ワハハ」と笑う瞬間って、やられたときだったりするんですよね(笑)。ずっと緊張しながらやっていて、その緊張が解けた瞬間がおもしろいという。
──格闘ゲームとはそこが真逆ですね。
桜井氏:
だから “KO”と派手に表示されるのはいいとして、相手が力尽きて痛々しく倒れるよりは、むしろそこをバカバカしいほど派手にしたほうがいいと思っているんですよね。たとえば、「ボコーン!」と爆発しちゃうとか(笑)。
──それはまさしく『スマブラ』ですね(笑)。
桜井氏:
やられた結果がネガティブな方向ではなくて、ポジティブな方向に向かう。演出だけじゃなく、「バカバカしいやられかたをした」というようなことも込みで、総合的に楽しい。緊張が解けた瞬間にワハハと笑ってすぐにつぎに行く、というのがベストかなあと思うんです。
それでいうと、今回の『スマブラSP』では、勝利ファンファーレを一部短く作り変えています。そうすることで、いままでより試合結果表示を短くしているんです。
──よりサクサクとつぎに挑めるようにするために?
桜井氏:
はい。1位の誰々がエライという試合結果は、それはそれで大事だけど、とりあえず置いておいて、「つぎ、つぎ!」と、ボタンを押して先に進めることが大事だと思います。だから今回そういうところもちょっとテコ入れをしました。その結果、尺に収まらなかったので、勝ち台詞が短くなったファイターもけっこういるんですね。たとえば、Wii Fitトレーナーとかリトル・マックとか(笑)。
──(笑)。確かにリトル・マック【※】は、どれもちょっと長めでした。
桜井氏:
それぞれのキャラクターの権利者さんに「これで納得していただければ」と説明をしながら、時間を短縮させているんですね。……そういうものも『スマブラ』のサジ加減のひとつかなと。
──テンポは大事ですね。いいテンポにハマると、いつまでも遊んでしまいます。
桜井氏:
テンポという点では、『スマブラSP』では試合時間のデフォルトが2分半になったりもしています。初代『スマブラ』のスピード感だと3分でいいんですよね。それが『スマブラDX』ではゲームスピードに合わせて2分になった。それを『スマブラX』のときも引き継いでしまったんですね。だけど『スマブラX』はゲームのテンポ感が少し違うんです。本当はもっと長くするべきでした。
──『スマブラX』のゲームスピードは、『スマブラDX』よりもゆったりめでした。
桜井氏:
そうですね。だから『スマブラSP』は、そういうところを考慮して2分半にしました。1分から3分のあいだは、30秒刻みで設定できるようにしています。
──なるほど。3分以降の1分単位に比べ、いちばん使いそうなあたりは手厚いんですね。
桜井氏:
とはいえ“チャージ切りふだ”【※】を使うと、また時間の感覚が変わってくるんですよ。チャージ切りふだは、これまでにあった変身系の切りふだをなくした理由のひとつですね。たとえば15秒変身していると、試合時間のうち大事な15秒をそのために費やしてしまうので。だから、切りふだの発動時間はどれも約5秒までということにしました。
それでも、チャージ切りふだが全員ぶん溜まると、その5秒を全員が使うわけだから、けっこう時間を食うことも多くなるんですけど(笑)。それはそれで、試合終了間際に切りふだが連発されるなど、メリハリが効いていておもしろいかなと思います。
──4人が入れ代わり立ち代わりチャージ切りふだを出しても、それで試合のリズムが壊れるわけでもないのが絶妙だと思います。
桜井氏:
8人でもできますけどね(笑)。まあ8人にもなると、さすがにバランスが崩れ気味と言いますか、自分がどこにいるのかわからなくなったりもしますけど(笑)。言ってみればサービスで入れているようなところもあるのですが、そういうメチャクチャを許す企画というのも、おもしろいといえば、おもしろいんですよね。
──チャージ切りふだとアイテムありのルールでの公式大会【※】も発表されていますね。こうした“ゆらぎ”の要素が、eスポーツが喧伝されているこの時代に入るのは、すごく意義があると思います。
桜井氏:
競技性を求められるeスポーツは、“厳密に遊ぶ”ということでいいと思うんです。たとえば『スマブラ』なら、ルールを固定するとか、なるべくランダム要素を廃するとかですね。だけど、「世の中がそういうゲームばっかりでもね」とは思いますので。
『スマブラ』は、パーティゲームとして遊べるというのが何よりなのではないかなと思います。逆に自分がそういう見かたを失ってしまったら終わりだと思います。
eスポーツ需要と言いますか、それぞれがトッププレイヤーを目指すような仕様というのは、対戦ゲームの理想形のひとつに挙げられるとは思います。でも、それでも『スマブラ』にはバカバカしいアイテムはいっぱい入れるし、風変わりなステージもいっぱい入れるし……。
──しかも『スマブラSP』に至っては、途中でステージがガラッと変わりますしね(笑)。
桜井氏:
ステージ遷移も、そのままの形でステージを大きく変えることはできないかと考えて、スタッフにがんばって入れてもらったシステムではあります。
──観戦していると、遷移によって試合の流れが変わっておもしろいんですよね。あの人が優勢だと思っていても、ステージの変化で急に「アレ?」となったり。
さらに見どころが増えました。
桜井氏:
番狂わせはどんどん起きてほしいと思うんです。
──それでいて、負けたほうも納得できるから不思議ですね。
桜井氏:
いやーそれは、ものすごく大きな大会のステージとかだったら悔しさ倍増でしょう(笑)。でも、基本的にはお家に集まってワイワイ遊ぶためのゲームなので。1回や2回の失敗には目くじら立てずに遊んでほしいなと思っています。
『スマブラ』が発明したもの
──チャージ切りふだにしても、ステージの遷移にしてもそうですが、『スマブラ』にはいつも発明があるんですよね。『スマブラ for 3DS / Wii U』で言えば “世界戦闘力”や“ホンキ度”【※】など。これらは過去に桜井さんがディレクションした作品でも使われている、画期的な発明だと思います。ああいったもの、たとえば世界戦闘力については、どういうプロセスを経て完成させたんですか?
桜井氏:
まず、世界戦闘力がどんなものなのかご説明します。
ランキングで1位を獲るというのはたいへんツラい作業だと思うんですね。みんなで険しい山登りをしているようなもの。5位より4位のほうがエライし、4位より1位のほうがエライ。ということは、5位の人というのは、最大にまで達したという喜びは感じられにくいわけですよね。
頂点に達する人が非常に限られているなか、『スマブラ』はゲームの規模が大きいので、いちばん下は何十万位、何百万位になってしまうという。たとえば「あなたのランキングは10万何位です」と言われても、ピンときませんよね? 全体から見たら相当高い位置にいるのにも関わらず、上位にいる充足感は感じられにくいという従来のランキングに、わたしはとても大きな問題があると感じていました。
そこで「世界戦闘力」です。世界戦闘力は、“自分のスコアが世界の何人を上回ったか”を表す数値です。
“自分が何々より上”ということを感じられ、数値がまるで力のように増えていくようなものであれば、“力を持った”という実感が持てます。しかも、全体のユーザー数が増えたら、自分の力も増える可能性もあってさらに楽しい。ということで、“逆引きランキング”を設定したというのがそもそものお話です。
──どうやってそこでランキングをひっくり返そうと思いつくんですか? 桜井さんは昔から、初心者も、うまい人もそうでない人も、いっしょの土俵で遊ばせるのが難しいということで、難易度のありかたをつねに考え、ホンキ度を生み出すに至ったそうですが、逆引きランキングも同じように昔から打開策を考えていたのでしょうか。
桜井氏:
いえ、どちらも長年考えていたわけではありません。ほかの企画の考えかたと同じで、問題点があり、それを解決するための方法を考えるという、非常にロジカルなプロセスの中で生まれたものでしかないです。
それに、ひとつの問題について何ヵ月も考えることってないですよね? その場その場で考えていくものじゃないかと。わたしがいろいろなゲームを日々よく研究しているのは、長く試行錯誤しないための引き出しを作るためでもありますから。
──それにしても、一度に複数の問題を解決する妙案を思いつくわけですが、何をどんなふうに参考にしたらそうなれるんでしょう?
桜井氏:
うーん。参考になるものって何かありますかね? 世界戦闘力という名前に限っては、『ドラゴンボール』に比較的近いですけどね(笑)。
──かつて任天堂さんのサイトのコンテンツ、“社長が訊く”で、『スマブラ』は、学校の友だちどうしといった小さなコミュニティーで遊ぶのがそもそもの姿だというお話をされていて……。
桜井氏:
ああ、『スマブラX』でオンライン対戦をやるにあたっての話ですね。
──そうですそうです。身近なコミュニティーではいちばん強いが、オンラインに繋いだ瞬間に「あなたは世界で10万位です」みたいに言われてしまう。
そうすると、それまでの楽しさに水を差してしまうから、ランキングを入れない選択もされていました。
桜井氏:
そうですね。いろいろなゲームにランキングはあったと思いますが、少なくとも『スマブラX』からはすでに“山の頂点を目指す”という考えかたはやめることを前提にしていましたので。……マッチングの都合で、内部的にはランクづけがあったのかもしれませんけど。
そこで“ランキングを明示するなら逆引きに限る”と考えて『スマブラ for 3DS / Wii U』で世界戦闘力を実装したのですが、ホームランコンテストのようなひとり用の競技のみに採用して、あえてオンライン対戦の戦績には非対応にしていました。
けっきょく“勝つのが強い”となってしまうと、『スマブラ』のおもしろみから少し外れてしまうんですよね。
『スマブラ』って、オンラインと相性の悪いところがいっぱいあると思いますし。だけど『スマブラSP』で世界戦闘力をオンライン対戦の戦績ランキングとしてなんとか実装しようとした意図というのは、やっぱり、棲み分けをしたかったからなんですよね。
とくに“VIP部屋”については、上級者の囲い込みが狙いとしてあります。
──いいですよね、あれ。自分はあんまりうまくないので、一生あの部屋は開かれないのかなと思っていますけど(笑)。
桜井氏:
そんな感じの力の抜けかたでいいと思います(笑)。
──逆に自分が本当に強いと思っている人たちが自発的に集まる場所ですからね。上級者はそこで健闘しているだけで誇りに思える部分があるわけですし。