昨今、モキュメンタリーテイストのホラーコンテンツが大きなブームを巻き起こしている。
雨穴氏の『変な家』の劇場版が異例のヒットを記録し、2025年8月には発行部数が70万部を突破した背筋氏の『近畿地方のある場所について』の劇場版の公開も控えている。
また、2024年7月に東京・銀座で開催された『行方不明展』は来場者数が約10万人を記録し 、デートスポットと化していた。同展示会の制作メンバーである、梨氏、株式会社闇、テレビ東京の大森時生氏による新たな展示会『恐怖心展』が2025年7月に実施されるのだが、弊誌でその記事を公開したところ、1.9万ものリポストが行われた。
- Ⓒ 2025「恐怖心展」実行委員会
- Ⓒ 2025「恐怖心展」実行委員会
これらのブームの背景にあるのは、ネット発のホラークリエイターの台頭だ。
雨穴氏はYouTube、背筋氏はカクヨム、梨氏はSCPでその頭角を現し、それがこれまでホラーに触れてこなかった層にまで届いているのだ。
そして今回取り上げるのは、そんなホラーブームの火付け役の一人である、皆口大地という人物である。

皆口氏は2018年にYouTubeでホラーエンターテイメント番組『ゾゾゾ』を立ち上げ、同チャンネルの登録者数を106万人まで成長させた。また、同氏は『フェイクドキュメンタリー「Q」』の立ち上げメンバーでもあり、テレビ東京の大森時生氏とともに、『TXQ FICTION』という地上波を使ったテレビ番組を展開中だ。
その第一弾である『イシナガキクエを探しています』では、番組中に表示された電話番号に実際に掛けることができ、番組スタッフとのやり取りが次回の放送で使用されるなど、テレビ発のモキュメンタリーとして大きな注目を集めた。
『TXQ FICTION』はその後、第二弾として『飯沼一家に謝罪します』を放送し、そして現在は第三弾である『魔法少女山田』がテレビ東京とYouTubeにて公開されている。
このシリーズが秀逸なのは、フィクションであることを明言することにより、“エンターテインメントとして安心して乗っかることができる空気感”をテレビを通して作ったことである。
しかしその空気感は、実は皆口氏が2018年の『ゾゾゾ』から培ってきたものであることは、あまり知られていないかもしれない。

そういった背景と、新たな時代のエンターテインメントの形を探るため、大森氏をお招きし、皆口氏のインタビューを実施することとなった。
インターネットの普及によってフィクションが以前よりも身近になった現代において、彼らはどのようなホラーエンターテインメントを展開していくのだろうか。
聞き手/TAITAI(第四境界)
編集/クリモトコウダイ
カメラマン/佐々木秀二
『ゾゾゾ』は当初「食べログ」の心霊スポット版だった
──皆口さんのはっきりとした経歴がなかなか見当たらなかったのですが、いわゆる「テレビ業界の人間」というわけではないんですかね。
皆口氏:
テレビどころか、映像業界の人間でもなくて。もともとはWebデザインの人間です。
──そうなると、いわゆるホラー系の作家とも違う文脈ということですよね。
皆口氏:
そうですね。単なるファンなので(笑)。
──(笑)。
大森氏:
たとえば梨さんとか、そういうクリエイターともルーツが全く違うところが、皆口さんの面白いところかと思いますね。ネット怪談とかも違っていて、どちらかというとテレビ番組のほうにルーツがある感じですよね。
皆口氏:
そうですね。都市伝説とか、それこそFlashが全盛期の頃に『赤い部屋』とか、そういうのは人並みに興味があって、触ってました。
影響という意味で一番大きいのは、自分の場合はやっぱりテレビで。『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ系列)や『USO!?ジャパン』(TBS系列) が流行っていたころの世代なんですが、あの頃って特番も含めて心霊番組が結構あったじゃないですか。
テンション的には、あの頃のギラギラした心霊番組を真似ているんだと思います。
──そこから『ゾゾゾ』はどのように企画されたんですか?
皆口氏:
『ゾゾゾ』は、元々はホラーのポータルサイトを作るっていうプロジェクトだったんです。「食べログ」の心霊スポット版みたいな。
そんな話をしていたのは、YouTubeの『ゾゾゾ』が始まる1,2年前とかですかね。当時ベンチャー企業に勤めていて、「皆口君のやりたい事業、新事業ない?」と言われたんですよ。自分自身はベンチャーの気質が全くなかったので、「やりたいことないです」というのが本音だったんですが、でもそんなことを言ったら怒られそうじゃないですか。
だから「自分が楽しくできる仕事って何だろうなぁ」って考えた時に、ホラーが好きだったので、「心霊スポットリストみたいなの作るのとか、いいと思うんですよね」と返事をしたんです。それでサイト名をなんとなく『ゾゾゾ』にしました。
──ポータルサイトから映像モノになっていったのは、どういった経緯だったんでしょうか。
皆口氏:
心霊スポットってそもそも存在していなかったり、取り壊されちゃったりしていることが多いんですね。だからネット上の情報ばかり集めてもあまり価値がないので、自分の足で調査をしないといけないと思っていたんです。
でもそうなると、出ていくお金のほうが多くなっちゃうし、大変さが勝ってしまう。そこで「もっと楽しめる方法ないかな」と考えたときに、「じゃあその過程を番組にしたら、もっと楽しくリストが増えていくんじゃないか」となり、『ゾゾゾ』を番組にしたらいいんじゃないかと考えるようになりました。
──『ゾゾゾ』って、いわゆるネット怪談の文脈と比べると、いい意味でライトというか、キャッチーなところがあると思っていて。そのキャッチ-さがどこから来ているのか非常に興味があります。
大森氏:
僕が観てる感じだと、『ゾゾゾ』にしろ『フェイクドキュメンタリーQ』にしろ、いわゆるオールドメディアと呼ばれるものがモチーフとして出てくるじゃないですか。なので、やっぱテレビ的とオカルトが組み合わさった時代があって、その影響が大きいと思いますね。
皆口氏:
そこの影響はすごく受けていますね。その頃の心霊番組はギラギラしてて、自分はそんな時代に育ったんですが、大人になったらそういう番組がポカーンとなくなっていたんですよ。
それこそ心霊モノのメインストリームがレンタルDVDとかになって、テレビの心霊モノはほとんど絶滅状態でした。
──たしかにかなりニッチなほうに行っちゃいましたよね。
皆口氏:
そうですね、好きな人向けというか。
大森氏:
おそらく皆口さんは、そこを異常に掘り下げた時期が長いんですよね?
皆口氏:
そうですね。『ほんとにあった!呪いのビデオ』に始まり、いろんな心霊ドキュメンタリーを追いましたね。
だから先ほど話に出てきたネット怪談とかは、実はよくわかっていなくて。
大森氏:
例えば『くねくね』とかですね。
皆口氏:
そういうものはあまり通ってないかもです。2ちゃんねるの「やばい場所見つけたんだけど」みたいなスレッドは読んだことがあるんですけど、長文の文章って読むのが苦手で。
──心霊番組にハマっていったのは、元々ホラーが好きだったから、とかですか?
皆口氏:
基本的には怖がりなんですが、テレビで心霊番組を観ていた時って、本当に怯えながら観ていたんですよ。そのゾクゾク感をずっと追い求めてハマっていったという感じでしょうか。
またあのゾクゾク感が味わえると思って心霊DVDを観て回っていたんですが、『ほん呪』以外はそこまでではなくて。それで怖いもの見たさでいろんなものを観ていきました。
もっと怖いのがあるはずだ、みたいな。渇望してるんです。
一同:
(笑)。
──追い求めた結果、理想のゾクゾク感はあったんですか?
皆口氏:
結果としてはあまりなかったですね。
ただ、感動するくらい出来のいい作品は沢山ありました。「うわぁなんで観ちゃったんだろうこれ、こわぁ」って夜眠れなくなるみたいな。
けれど、理想のゾクゾクを追い求めることはまだ諦めてはいません。
「やらせ」と言われようとも『ゾゾゾ』は編集する
──そういった想いが表現に繋がっていくと思うんですが、構成やフォーマットはどのように作られていったんですか?
皆口氏:
『ゾゾゾ』を構想していたときって、王道の心霊モノはもうやり尽くしちゃった空気がある一方で、「もう生き残っている王道の心霊モノってなくない?」みたいな微妙な空気感だったんですよ。
『リング』や『貞子』はもうお腹いっぱいだよね? だからもっとグロテスクにしよう、もっと激しくしよう、もっと要素を足そう、となっていったんです。その結果、悪い意味で重たいというか、胃もたれしちゃうようなホラーが増えてしまって。でもそういうのは王道ではないですし、ホラーファンとしてはモヤモヤを感じたりもしていて。
だから『ゾゾゾ』は、ホラー好きとして「みんなが観たいのはこういうのでしょ?」ということをすごく意識しましたね。
──そこにはある種の使命感もあったりしたんですか?
皆口氏:
そうかもしれませんね。例えば女の子とかを心霊スポットに連れて行ってキャーキャー言わせるのってある種のお決まりだと思うんですけど、ずっと昔はそうじゃなかった。それこそ稲川淳二さんが心霊スポットに行って怖いことを言うみたいな。そういうシンプルな構造だったと思うんですが、そういう心霊番組はテレビから消えてしまい、ソフト化もされないから再放送の機会を待つしかない。
もしかしたらこのままなくなってしまうかもしれない……だったら自分がつくらなきゃいけないんだ……そういう感覚はありましたね。
そういう意味では「自分が観たいから」というのが一番大きかったですね。だから周りの人がどう思うかは、自分の中では二の次なんです。
──そういわれてみると、いわゆるマスに対してアプローチできるテレビの心霊番組がなくなり、先鋭化されたDVDコンテンツしかない時代が訪れたときに、改めて初心者に向けてみるというのは、たしかに“空白”だったんだなと思いました。
ただ一方で、王道は王道で戦いにくい部分もあるなと思っていて。そこは勝ち筋を感じていたんですか?
皆口氏:
ホラーに関しては、そこら辺の人には負けないくらい好きなので、そういう意味で“刺さる”とは思いましたね。なんか「こういうホラー面白いよね」みたいな。そういう自信はありましたね。
──それでいうと、『ゾゾゾ』って本物感や説得力のある情報がメインではありつつも、しっかりとエンタメ感があるじゃないですか。そこのバランス感が素晴らしいなと思っていまして。
皆口氏:
これは『ゾゾゾ』を始めるときに制作メンバーにも言ったことなんですが、心霊やオカルトって、稚拙に扱われて馬鹿にされがちだし、絶対に叩かれる存在なんですね。「やらせにきまっている」「幽霊なんかいないのに、こいつらバカじゃん」って。
でもそこで自分たちがブレてしまうと、心霊番組としてすごく弱くなってしまう。だから、何と言われても気にしない心とブレない強度が必要だと思っています。
その前提の上で意識していることが、自分たちは心霊スポットに遊びに行っているのではなく、エンターテインメントを作りに行っているんだ、と。だから作品を作るという観点から、エンタメの部分はもちろん盛ります。でも登場する心霊スポットは本物なので、そこの“本当”の部分は凄く大切にしているんです。
本当とエンタメのバランスはこの辺の考え方から来ていると思います。
──『ゾゾゾ』が凄いなと思うのは、ネットメディアであるYouTubeで、マスメディアであるテレビの手法を取り入れて成功していることなんです。
昨今、ホラーとかフェイクドキュメンタリー的なものが、SNSやYouTubeを始めとしたネットで流行っているのは、個人発信できるメディアだからこその実在性やリアリティが関係していると思っていて、その雰囲気をテレビで出すことは難しいじゃないですか。
『ゾゾゾ』はそういう意味でいい所どりをしているといいますか。
皆口氏:
POVっぽいけど、POVじゃないみたいな感じですよね。
大森氏:
それはすごく思いますね。だからさっきのインターネット的な文脈でいうと、不気味さや個人が撮った感じを出す場合は、画角とかにこだわり過ぎないほうが、絶対に良いじゃないですか。
でも『ゾゾゾ』は「エンターテインメントとして作品を作ってるから」という意識が強いんだと思っていて。だからこそ、POV的な不気味さよりも、最終的に一番それが面白く見える画角であったり、それを引き出すために登場人物をリアルな人間ではなく、ある種のキャラクターとして演出している。
これがすごい面白いし、YouTubeで逆にそれをやるっていうのがある種の発明だったと思っています。
──その辺りは、どこから意識的になっていったんですか? 個人的には、第1回のころはまだそこを感じなくて、徐々にそれが強まって行ったのかなと感じていまして。皆口さんにとってターニングポイントだったり、狙いを聞いてみたいと思っていました。
皆口氏:
『ゾゾゾ』のコンセプトって、最初からそんなに実は変わってなくて。たぶん最初のほうにエンタメ的な演出を感じないのは、自分がただ単に、技術がなかった感じですね(笑)。
一同:
(笑)。
皆口氏:
でもターニングポイントで言うと、『SIREN(サイレン)羽生蛇村の岳集落・廃村に潜入スペシャル』ですかね。
大森氏:
ああ、はいはい。
皆口氏:
二手に分かれて片方が消えるというハプニングが発生したんですが、これワンカットではやってないんですよ。
でもそうなると、編集でなんだってできるわけじゃないですか。でもワンカットにはしなかった。それはなぜかというと、“本物”であることを証明するために、テンポ感を落としたくなかったんです。
だから、テロップに起こすような会話でもないような場面は切っていって、たとえ「やらせだ」と言われてもいいから、テンポ感を大事にしたかった。
たぶんそこが、「本物っぽく撮ろう」ではなく、「作品としてアウトプットしよう」と意識するターニングポイントになったんだと思います。「あ、自分はこっちを選ぶんだ」って。
──その方針を取ることに、特に葛藤はなかったのでしょうか。
皆口氏:
なかったですね。これは一個人の意見ですけど、編集をしないっていうことが作品としての“正義”だとは思わないので。
だって「これ、本物の幽霊が映ってるから見て」って1時間半の動画が送られてきたらしんどいじゃないですか。人に見てもらうのなら、見やすく編集してよって思うんです。
──それはメディアの人間としてよくわかります。
皆口氏:
ただ、メンバーはめちゃくちゃ悔しがってましたね。自分は覚悟の上でしたけど、やっぱり「カットしてるからやらせ」と言われてしまうので。
ただ、そういった声やメンバーの気持ちもあって、『SIREN』の回はノーカット編集と未公開シーンを加えたディレクターズカット版を出したりはしましたね。
当時は10分程度の尺に収めようという意識があったので、長いカットは切ったりしていたんですが、最近は空気感や視聴者のリテラシーも変わって、30分くらいだったら観てもらえるかな、という感覚ではあります。
大森氏:
皆口さん的には、「やらせ」「やらせじゃない」という議論よりも、「面白い」かどうかを何よりも重んじていますよね。
皆口氏:
そうですね、まさに。
大森氏:
そこは一緒に番組を作る中でかなり感じていて。僕の「ここはジリジリ見せたい」「ここはこういう風にやりたい」ということに対して、皆口さんは「ここはスパッと行っちゃったほうが面白い」と言われることがあって、「あ、たしかに」と思うことがかなりありました。
これ、いろんなホラーやフェイクドキュメンタリーで起こりがちな問題だと思うんですけど、リアルの追求って、実は作り手のエゴでしかなくて。「ここは残ってたほうがリアル」だとか「ここがないと整合性が」って、実際気にしているのは作り手側だけだったりするんですよね。
それでいうと、脚本/監督の寺内康太郎さんと出来上がった映像をチェックしていた時に、「これは、リアリティをすごく気にする5人くらいは満足するかもしれないけど、代わりに100人の面白さを損なうカットだ」という話があって。
いまお話を伺って、その精神性は『ゾゾゾ』から来ていたんだなとすごく感じましたね。
──そういった精神性がYouTubeのチャンネルから生まれたのが興味深いのですが、当時から今までを振り返って、YouTubeという場所についてはどう思われていますか?
皆口氏:
それこそ最初はブルーオーシャンすぎて……ゾゾゾの登録者数も20人とかでしたね。
それで当時、落合(陽平氏。『ゾゾゾ』管理会社の代表にして番組のメインパーソナリティ)に言われたのは、「心霊スポットにばっか行ってる気持ち悪いチャンネル、誰が登録するの?」って。
一同:
(笑)。
皆口氏:
最初は本当にそんな感じで、YouTubeで心霊動画を観るっていう文化があまりありませんでした。
もちろん心霊系のチャンネルはいくつかありましたが、それこそPOVというか、映像垂れ流しの動画が多かったように思えます。
そこから『ゾゾゾ』がある程度大きくなって、『ゾゾゾ』みたいなチャンネルが1つのカテゴリーになっていった感覚はありました。
──テロップがあって、編集されていて、みたいな。
皆口氏:
そうです。結果的に、そういうチャンネルが伸びていったんです。
また、YouTubeを取り巻く環境も変わっていって、「YouTubeで作品を観る」という文化がある程度定着したように思えます。
というのも、テレビのリモコンにYouTubeのボタンが付いたじゃないですか。あれによって「YouTubeはPCやスマホで観るもの」から「テレビでも観ていいもの」に変わっていったんだと思っていて。
それによって「作品を観れる場所」としての定着が進み、『ゾゾゾ』のようなチャンネルの居心地がよくなっていきましたね。
──では視聴者層も、YouTubeの流れの中で変わっていったりしたんでしょうか。
皆口氏:
いえ、そこは変わっていないイメージですね。
自分は「ホラー大好きっ子クラブ」って言ってるんですけど、自分と同じ心霊番組が好きな30代~40代の男女がメインですね。
──若い方はあまり観られていないんですか?
皆口氏:
アナリティクス上はそうですね。
どちらかというと良識のある大人が観てるイメージで、例えば心霊スポットに不法侵入してガラスを割る動画とかがあるわけじゃないですか。
『ゾゾゾ』がそれをやったら、もう100%炎上しますけど。
大森氏:
(笑)。
皆口氏:
世の中には、それを笑う層と、「いや、そんなことしちゃダメだよ」と思う層がいると思うんですが、そういう意味で“良識のある大人”が視聴者に多いように感じますね。
いま大切なのは、そのコンテンツに「乗っかれるかどうか」
──大森さんは今でこそ皆口さんと一緒にお仕事をされていますが、最初『ゾゾゾ』を観たときはどういった印象だったんでしょうか。
大森氏:
もともとホラーは好きだったんですが、実は心霊スポット系は通っていないんです。
それは、僕が中学生の時にテレビで心霊番組を観て「これ、ウソじゃん」と思ってしまったからでして、「こんなの子供騙しで観てらんない」となってしまったんです。
子供ながらにそういう「作り物すぎる」ことを認識してしまって、「同じ作り物ならホラー映画のほうが面白い」と、そっちのホラーにいってしまったんです。
それから大人になって『ゾゾゾ』を観た時に、「これ、めちゃめちゃ面白いぞ」と。これまでの話にもありましたが、インターネット的な「これは本当かも」と思わせる要素と、テレビ的な見やすい演出が絶妙に組み合わさった結果、「本物っぽい」というドキドキと、「怖い」という感情が、すごく噛み砕かれた形で提供されているところに、とてつもない魅力を感じたんです。
それだけではなく、ネット発のホラーですと、逆に「これは怖すぎて無理だ」というものも多くあったんですが、『ゾゾゾ』はその問題すらも解決していて。
──きっと逆転現象が起こっていて、テレビ的なものが持ってた「見やすさ」や「食べやすさ」がネットやDVDのコアなものによって、一度失われてしまって。それをホラーに取り戻したのが、もしかしたら『ゾゾゾ』なのかもしれませんね。
大森氏:
あと『ゾゾゾ』は「これ乗っかっても良いものだ」と思えるのが凄いなと思っていて。
──最近のネット発のコンテンツを観ていても、「乗っかれるかどうか」って大切ですよね。やらせだからもういらないとか、これはウソだからと突っぱねるんじゃなくて、その辺りがどうであろうと、いろいろ分かった上で「乗っかる」という楽しみ方があると思っていて。
大森氏:
それでいうと、僕が嫌っていた心霊番組は、「乗っかる」とかの前に、もうまず「乗ろう」と思えないみたいな。
皆口氏:
そうなったことが、心霊界隈が氷河期に突入した原因の一つだと思っています。そして『ほんとにあった!呪いのビデオ』と同じようなものが凄く量産されていった。
大森氏:
でも興味深いのは、『ゾゾゾ』にしろ、DVDのコアな作品にしろ、料理でいう“使っている素材”に大きな違いはないってことなんですよね。違うのは料理の仕方。
皆口氏:
そこは多分、フラストレーションがあったんでしょうね。先細りしていく心霊界隈に対して「もっとちゃんとしてくれよ」と思っていたので。
大森氏:
じゃあある種、作り始めたきっかけはフラストレーションでもあったんですか?
皆口氏:
あったのかもしれないですね(笑)。
──そういうフラストレーションもあって、いまや『ゾゾゾ』の平均再生数って200万とかになっているわけじゃないですか。ホラーでほかにそんなチャンネルありますか?という。
大森氏:
平均200万って、別にホラーとか取っ払っても、凄すぎる数字だと思うんですよね。単純に。
何が起こってるんだ、っていう。
皆口氏:
自分たちの作品作りのあり方に共感してくれる方が多いんだろうなと思ってて。それでいうと、『ゾゾゾ』のチャンネルにある動画は、全て扱い的に作品なんです。
例えば「お知らせ動画」とかは一切出さないので、「観なくてもいい動画」というのが存在しないんです。作ってる側としても、「絶対毎回面白いよ」といって出してるので、「だったら観といたほうがいいのかな」というのが伝わっているのかなと思います。
──例えばネットでバズるような見せ方とかは意識されているんですか?
皆口氏:
そこは全然ですね。あくまでも、自分が「やりたい」を作っているので、流行りとかトレンドは取り入れていないです。
大森氏:
これが普通のチャンネルですと、YouTubeショートやTikTokが数百万再生されたり、X上でバズったりして、それが本体のチャンネルや動画に流入していくわけじゃないですか。
それが『ゾゾゾ』は本体が一番伸びていて、視聴者もそこに目が行っているのが凄くもあり、うらやましいなと思います。
──それでいうと、ひとつ思い当たるのは「期待値が高い」って話なんですよ。本当にシンプルなんですけど、「見に行かなきゃ」っていう期待値。
例えばXで例えると、あるポストに動画URLがあって、それが100万インプレッション行っていますと。でもそこからURLをクリックするのは1%みたいな世界観なので、1万人しか見に来ないんですね。ところが『ゾゾゾ』は、10万インプレッションでも5万人が見に来るみたいな。
そこまでロイヤリティが高い理由はずっと気になっています。
皆口氏:
その辺は実感ないんですが。ただ、たとえば心霊スポットの所有者さんが『ゾゾゾ』観てくださっていて、撮影許可くれたりとかっていう現象は起こっているので、そういう意味ではロイヤリティは高いのかもしれませんね。
大森氏:
それでいうと、グッズとかもすごい売れてるわけじゃないですか。
大森氏:
ロイヤリティが高いってそういうことだと思っていて、そのコンテンツを愛してるからこそ、「グッズが欲しい」となるわけじゃないですか。
なんか面白いことをちょこちょこやってて、切り抜きを「ああ、バズってるから観よう」ということの積み重ねじゃ、「グッズを買う」とか「イベントに行く」には繋がらない気がしていて。
グッズが売れるとか、周りが優しかったり、協力的だったりするのは、ロイヤリティが高い証明の一つだと思いますね。
──お話を伺っていると、『ゾゾゾ』はめちゃくちゃ順調に伸びているように感じるのですが、逆に「ゾゾゾ」って、何かピンチみたいなことはあったんですか?
皆口氏:
う~ん……あ、これは本邦初公開なんですが……。
大森氏:
本邦初公開!
皆口氏:
スタッフの内田という者が、本当に取り憑かれた…みたいな感じで「辞めたい」と言い出したことがありまして。
大森氏:
おお……。
皆口氏:
いやなんか、「急に蛇口から水が出てくる」とか。
一同:
(笑)。
大森氏:
結構ベタなことが(笑)。
皆口氏:
そう(笑)。とはいえ、じゃあ一回落ち着くまで抜ける?みたいな。
それが丁度ファーストシーズンが終わった後だったんですけど、なんかメンタルが復活したのか「俺やっぱ頑張れるわ」みたいなこと言って、セカンドシーズンでは復帰していました。
大森氏:
(笑)。
皆口氏:
これ言うと演出的に聞こえてしまうかもしれないんですが、メンバーも怯えるくらいには結構ガチな撮影をしてるんですよ。
だからメンバーが不安になるっていうのは、ちょいちょいありますね。
──撮影場所などはちゃんと下調べをしたりすると思うんですが、これは危険だからやめておこう、みたいなことはあったりするんですか?
皆口氏:
いくつもありますね。たとえば昨年あった話でいうと、廃墟みたいなアパートに、UberEatsが届き続けるみたいなネタがあったんですよ。
それはUberEatsの配達員からの投稿だったんですが、実際に見に行ったら、本当に誰もいないアパートのドアの前に、UberEatsの袋が山のようになっていて。
それはたぶん、誰かがお金を払って注文していると思うんですけど、袋の数的に住所の登録ミスって可能性はない量だったので、誰かが、あるいは何かが、意図的に「やってる」わけですよ。
──今風な話で気になりますね。
皆口氏:
それで管理会社に取材依頼の連絡をしたところ、既に潰れていて。これは「お?」てなるじゃないですか。そこから詳しく調べていくと、所有者の方は生きていて、連絡先も分かったんですね。
それで電話したら、「あんたたちでしょ!」ってめちゃくちゃキレられて(笑)。
なんだったら、投稿してくれたUberEatsの配達員を警察に通報するから連絡先教えろとか、とにかくすごいうわーって怒られて。それで取材を中止した……とかはありますね。
一同:
(笑)。
大森氏:
別の意味で危険なやつだった(笑)。
──そういうタレコミは結構あるんですか?
皆口氏:
1日日1~2通くらいの頻度で来ます。
大森氏:
じゃあ結果的に、ポータルサイトになったってことですね(笑)。